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採用・労務支援コラム
作成日:2026.02.08
安田 駆流

執筆者:安田 駆流

103万円の壁178万円でクリニック採用は変わる?|税理士が解説

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103万円の壁178万円でクリニック採用は変わる?|税理士が解説

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結論:178万円に上がると「所得税の壁」は薄くなるが、採用の主戦場は社会保険(106・130)に移ります

「103万円の壁→178万円」に引き上がると、所得税がかからない年収ライン(課税最低限)が上がり、パート・アルバイトの就業調整は緩みやすくなります。一方で、クリニックの現場で人手不足のボトルネックになりやすいのは、むしろ社会保険(106万円・130万円)の壁です。院長としては、「税の壁が動くならシフトを増やせる層は誰か」「社保の壁で止まる層にどう提案するか」を分けて設計するのが採用戦略の核心になります。


そもそも「103万円の壁」とは:基礎控除+給与所得控除で決まる

いわゆる「年収の壁」は複数ありますが、103万円は主に「所得税がかからない年収ライン」を指します。給与収入しかない前提で、概念的には次の式で理解すると整理がつきます。

  • 所得税の課税最低限(目安)= 基礎控除 + 給与所得控除(最低額)

過去に「103万円」と言われていたのは、基礎控除48万円+給与所得控除55万円(最低額)=103万円、という構造でした(制度の数字が一人歩きしがちですが、土台は控除の足し算です)。

ここがポイント
「103万円」は扶養のラインとして語られることもありますが、実務では「本人の所得税」「配偶者控除等」「住民税」「社会保険」が絡みます。採用面談では、何の壁を気にしているのか(税か社保か、世帯要件か本人要件か)を最初に切り分けるとミスマッチが減ります。

178万円に引き上げられると何が変わる?(2026年版の考え方)

「178万円」は課税最低限の議論として理解するのが安全

「178万円」という数字が出ると、現場では「178まで働ける」と単純化されがちです。しかし実務上は、課税最低限がいくらになるか=基礎控除と給与所得控除(最低額)がどう設計されるか、で決まります。

ここで重要なのは、院長側の採用設計として「もし課税最低限が178万円まで上がった場合、働き控えの中心がどこへ移るか」を見立てることです。結論はシンプルで、所得税の壁が上がるほど、就業調整の中心は社会保険の壁に移ります。

クリニックの採用現場で起きやすい変化

  • 「103万円で止めたい」層の一部が、年末に抑える必要性を感じにくくなり、シフト増を受け入れやすくなる
  • 一方で「106万円(週20時間等)を超えると社保で手取りが減るのが怖い」層は残りやすい
  • 医療事務・受付など、繁忙期のスポット増員が必要な職種では、年末の就業調整が緩む恩恵が出やすい
  • 看護助手・クラークなど時間数で戦力化する職種は、むしろ社保ラインで止まると穴が埋まりにくい

比較表:103→(中間案)→178になったときの「院長の見立て」

※以下は「所得税の課税最低限」という観点での比較です。実際の可処分所得は住民税・社会保険料・世帯状況で変わります。

横にスクロールできます
観点103万円(従来イメージ)160万円(例:控除拡大後の一つの目安)178万円(仮に引上げられた場合)
就業調整の主因所得税が怖い(年末調整前に抑える)所得税は抑えやすいが、社保が残る所得税はさらに薄れる。社保が主戦場
クリニックの採用影響年末に欠勤・シフト減が増えやすい年末欠勤がやや緩む可能性年末欠勤はより減る可能性。だが社保回避は続く
面談での説明ポイント「所得税」中心の説明になりがち税と社保の両方を説明する必要社保の説明がほぼ必須(税は補足へ)
院長側の対策年末の勤務設計・応援体制繁忙期増員はしやすいが、週20h設計が重要週20h前後・130付近の設計と処遇提案が最重要

就業調整はどう変わる?クリニックのパート層を3分類して考える

採用・定着の観点では、応募者を「壁の種類」で分けるのが最も実務的です。

A:所得税の壁を気にする層(年末だけ抑えたい)

  • 178万円方向に課税最低限が上がるほど、調整圧は下がりやすい層
  • シフト増提案が通りやすい(ただし他の壁がない前提)

院長側は「年末の突発欠勤リスク」が下がる可能性を織り込んで、繁忙月(インフル期・健診期)の増枠を作りやすくなります。

B:社会保険(106万円相当)を気にする層(週20時間が怖い)

厚労省は、短時間労働者の社会保険適用に関する要件見直し(いわゆる「106万円の壁」として意識される月額8.8万円要件の撤廃等)を説明しています。制度が動くほど、ここを理由にした就業調整は変化します。

  • 「税がどうであれ、社保で手取りが減るのが嫌」という動機が強い
  • 178万円になっても、この層の行動は大きくは変わらない(むしろ社保説明がより重要)

C:130万円を気にする層(扶養の範囲・社保の扶養が怖い)

  • 世帯側の設計(配偶者の働き方、被保険者側の条件)も絡む
  • クリニック側が「本人だけ見ても答えが出ない」ケースが多い

この層に対しては、「扶養を外れるなら手取りがどう変わるか」を給与設計・勤務設計とセットで提示しないと、採用が決まりにくくなります。


クリニックシフト崩壊リスク診断 スタッフ体制を確認

クリニック院長の採用戦略:178万円を見据えた実務設計(医療事務・受付向け)

ここからが実務です。採用を増やすよりも「就業調整の理由を潰す」方が費用対効果が高い場面が多々あります。

Step 1: 面談シートで何の壁かを特定する

  • 「年収はいくらまでにしたいですか?」ではなく
  • 「所得税が心配ですか?社会保険が心配ですか?扶養の範囲が心配ですか?」と壁の種類を確認します

Step 2: シフト設計を2つのゾーンで用意する

  • 週20時間未満(社保ラインを意識する層向け)
  • 週20時間以上(戦力化する層向け)

医療事務は月末月初に偏りやすいため、週単位の時間数だけでなく、月の繁閑で平均化できるかも合わせて設計します。

Step 3: 「扶養を外れても損しない」提案を用意する

  • 時給だけでなく、交通費、資格手当、繁忙手当、評価昇給など、実質手取りの納得感を作る
  • 社保加入層には、将来給付(厚生年金)や傷病手当金等のメリットも、簡潔に説明する(押し付けは逆効果)

Step 4: 年末の欠勤リスクを前提に応援枠を固定化する

「年収の壁・支援強化パッケージ」のように、制度側も働き控え対策を進めています。院内としては、制度変更に期待しすぎず、年末・繁忙期の応援枠(短期・単発)を固定化しておくと運用が安定します。


注意点:178万円だけ見て制度を単純化しない

  • 「税がかからない=手取りが最大」ではありません(社保・住民税・世帯状況が絡みます)
  • 106・130の壁は、本人の年収だけでなく、勤務時間や事業所規模、扶養判定の扱い等が絡みます
  • クリニックはシフトの繁閑が激しいため、月次・年次の見込みで調整が起きます
ここがポイント
採用面談で制度の正解を一発で提示しようとすると失敗します。現場で必要なのは、(1) どの壁を気にしているか、(2) クリニックが提示できる勤務ゾーンは何か、(3) 扶養を外れるなら処遇をどう組むか、の3点を短時間で合意することです。

よくある質問

Q: 178万円まで働けるなら、医療事務パートのシフトは単純に増やして大丈夫ですか?
所得税の観点では調整が緩む可能性がありますが、実際の就業調整は社会保険(週20時間相当や扶養の扱い)で起きるケースが多いです。まず「税が不安なのか、社保が不安なのか」を切り分け、週20時間未満ゾーンと週20時間以上ゾーンの2本立てで提案するのが安全です。
Q: 106万円の壁が動くと、クリニック(医療機関)のパート採用はどう影響しますか?
月額要件の撤廃等により、106万円を目安にした働き控えの形が変わり得ます。結果として「週20時間」という時間要件の説明がより重要になります。シフト設計の段階で、週20時間を跨ぐ働き方にするのか、跨がないのかを明確にし、処遇(時給・手当・評価)とセットで提示すると採用が安定します。
Q: 年末に急にシフトを減らしたいと言われます。院長としてどう対応すべき?
就業調整の理由を特定し、代替策を用意するのが現実的です。所得税が理由なら年間見込みで早めに調整、社保が理由なら週20時間未満の枠を用意、扶養が理由なら世帯の状況を踏まえた処遇提案(手当・時給・繁忙手当等)で納得感を作る、という設計が有効です。

まとめ

  • 103万円の壁は「基礎控除+給与所得控除」の足し算で生まれる所得税の課税最低限のイメージ
  • 178万円方向に上がるほど、所得税による就業調整は緩みやすいが、採用の主戦場は社会保険(106・130)に移る
  • クリニック採用は「税の壁」「社保の壁」「扶養の壁」を分けて説明し、勤務ゾーンを2本立てにするのが実務的
  • 医療事務・受付は繁閑差が大きいため、週単位だけでなく月次・年次見込みで調整設計する
  • 年末欠勤リスクはゼロにならない前提で、応援枠(短期・単発)を固定化すると運用が安定する

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