
執筆者:安田 駆流
小規模クリニックの採用基準の作り方|院長の感覚を面接シートに変える

結論:小規模クリニックの採用基準は「院長の感覚」を職務場面に分解して作る
小規模クリニックでは、院長や事務長の「この人は合いそう」「受付で感じがよさそう」という感覚で採用判断が進みやすくなります。感覚自体が悪いわけではありませんが、そのままでは面接官が変わったときに基準が揺れ、入社後に「思っていた仕事と違う」というミスマッチが起きやすくなります。
採用基準は、まず職種別の業務を分け、患者対応、確認行動、報連相、繁忙時対応、学習姿勢、定着条件を面接質問と採用記録へ変換して作ります。適性検査を使う場合も、合否を自動で決めるのではなく、院長の感覚を面接シートで確認する材料にします。
| 院長の感覚 | 採用基準に直すと | 面接で確認すること |
|---|---|---|
| 感じがよい | 患者対応で説明、確認、引き継ぎができる | 不安な相手へどう説明したか |
| 仕事が早そう | 繁忙時に優先順位を決められる | 複数業務が重なった時の対応 |
| まじめそう | 確認行動と報連相を続けられる | 分からないことをどう相談したか |
| 長く働いてくれそう | 勤務条件と業務範囲の期待値が合う | 続けやすい条件、合わない条件 |
| 院内に合いそう | 医師、看護師、受付との連携ができる | 他職種と連携した経験 |
厚生労働省は、公正な採用選考について、応募者の基本的人権を尊重し、適性・能力に基づく基準で行うことを示しています。小規模クリニックでも、印象だけで判断するのではなく、職務に関係する基準を明確にします。
まず採用する職種を分ける
小規模クリニックの採用基準は、全職種共通で作ると曖昧になります。看護師、医療事務、受付、検査補助、管理職候補では、確認すべき場面が違います。最初に職種別基準を分けることで、院長の感覚を面接で確認できる項目に変換します。
| 職種 | 主な業務 | 採用基準で見ること |
|---|---|---|
| 看護師 | 患者対応、処置前確認、医師への報告 | 安全確認、報連相、優先順位 |
| 医療事務 | 受付、保険証確認、会計、電話 | 正確性、説明、学習姿勢 |
| 受付 | 来院対応、待ち時間説明、予約変更 | 対人対応、確認、引き継ぎ |
| 検査補助 | 案内、準備、結果受け渡し補助 | 手順理解、確認、患者対応 |
| リーダー候補 | シフト、教育、院内調整 | 判断、共有、改善提案 |
まず「今回採用する人に任せたい仕事」を3つに絞ります。ここが決まれば、面接質問も適性検査の読み方も作りやすくなります。
院長の感覚を6つの基準に分ける
「合いそう」という感覚は、6つの基準に分解できます。小規模クリニックでは、人柄だけでなく、患者対応、確認行動、報連相、繁忙時対応、学習姿勢、定着条件の6つで見ます。
| 基準 | 見る場面 | 面接質問例 |
|---|---|---|
| 患者対応 | 不安、急ぎ、クレーム一次対応 | 相手が不安そうな時、どう説明しましたか |
| 確認行動 | 保険証、会計、処置前、予約 | ミスを防ぐために必ず確認していたことはありますか |
| 報連相 | 医師、看護師、受付、事務長への共有 | 判断に迷った時、誰に何を相談しましたか |
| 繁忙時対応 | 受付、電話、会計、診察準備が重なる | 複数の依頼が重なった時、どう優先順位を決めましたか |
| 学習姿勢 | 医療用語、院内ルール、電子カルテ | 新しい業務を覚える時、何をしていましたか |
| 定着条件 | 勤務時間、役割期待、教育体制 | 長く続けやすい職場条件は何ですか |
この6つを面接シートの見出しにすると、印象だけの面接から、職務場面を確認する面接へ変わります。
面接シートは点数より確認メモを重視する
採用基準を作るとき、点数化だけを先に作ると、なぜその点数なのかが残りません。小規模クリニックでは、点数よりも確認メモを残す方が運用しやすいです。
| 項目 | 評価メモに残すこと | 避けたい記録 |
|---|---|---|
| 患者対応 | どのような相手に、どう説明したか | 明るい、感じがよい |
| 確認行動 | 何を、どの順番で確認したか | まじめそう |
| 報連相 | 誰に、何を、どのタイミングで共有したか | チームに合いそう |
| 繁忙時対応 | 何を優先し、どこで相談したか | 忙しくても大丈夫そう |
| 定着条件 | 勤務条件と期待役割にズレがないか | 長く働きそう |
採用記録は、あとで読み返した時に「職務に関係する何を確認したのか」が分かる形にします。
適性検査を使う場合の読み方
適性検査は、採用基準を補助する道具です。結果をそのまま採否に使うのではなく、面接で確認する質問に変換します。
| 検査結果で気になる傾向 | 面接で確認する質問 | 採用後フォロー |
|---|---|---|
| 慎重さが低い | 確認漏れを防ぐために何をしていましたか | チェックリストと相談先を決める |
| 対人負荷が高い | 不安や怒りがある相手にどう対応しましたか | 受付・電話の引き継ぎルールを決める |
| 変化が苦手 | 急な予定変更にどう対応しましたか | 例外対応の相談基準を作る |
| 自己主張が弱い | 判断に迷った時、誰へどう相談しましたか | 相談してよいタイミングを明文化する |
| 学習に時間がかかる | 新しい業務をどう覚えましたか | 30日間の教育項目に分ける |
適性検査の結果は、院長の感覚を裏付けるものではなく、面接で確認する論点を増やすものとして使います。
小規模クリニック向けの面接シート例
面接シートは、1枚で運用できる形にします。すべての質問を聞く必要はありませんが、職種に合わせて3から5問を選びます。
| 見る基準 | 質問 | メモ欄 |
|---|---|---|
| 患者対応 | 不安そうな患者さんやお客様に説明した経験はありますか | 事実、工夫、相手の反応 |
| 確認行動 | ミスを防ぐために続けていた確認はありますか | 手順、頻度、相談先 |
| 報連相 | 判断に迷った時、誰に何を伝えましたか | 共有相手、内容、タイミング |
| 繁忙時対応 | 複数業務が重なった時、どう優先順位を決めましたか | 優先基準、相談、引き継ぎ |
| 学習姿勢 | 新しい仕事を覚える時、最初に何をしましたか | メモ、質問、復習 |
| 定着条件 | 続けやすい職場条件と、続けにくい条件は何ですか | 勤務条件、役割期待、教育 |
「はい・いいえ」で終わる質問ではなく、過去の具体的な行動を聞きます。
入社後30日フォローまで決める
採用基準は、採用したら終わりではありません。面接で見えた不安点は、入社後30日のフォロー項目にします。
| 期間 | 確認すること | 例 |
|---|---|---|
| 初日 | 相談先と禁止事項 | 個人情報、会計、処置前確認 |
| 1週目 | 業務の流れ | 受付、電話、申し送り、診察前後 |
| 2週目 | 繁忙時対応 | どこで手が止まったか、誰へ相談したか |
| 3週目 | 学習状況 | 覚える量、分かりにくい手順 |
| 30日 | 期待値のズレ | 業務範囲、勤務条件、教育体制 |
採用前の基準と入社後フォローがつながると、早期離職の兆候に早く気づけます。
辻総合会計グループで支援できること
辻総合会計グループでは、クリニック採用を人事だけの問題としてではなく、人件費、教育負担、診療体制、受付オペレーション、定着コストまで含めて整理します。採用基準を作る場合も、面接シート、採用記録、入社後30日フォローを、院内の実務に合わせて設計することが重要です。
公正採用と個人情報の注意点
厚生労働省は、採用選考では応募者の適性・能力に基づく採用基準を明確にすること、応募書類や面接で就職差別につながるおそれのある事項を含めないことを示しています。家庭環境、思想信条、病歴など、職務遂行と関係しない事項を採用基準にしない運用が必要です。
個人情報保護委員会は、個人情報の取扱いについて事業者が守るべき考え方をガイドラインで示しています。適性検査や面接メモを扱う場合は、閲覧者、保存場所、保存期間、削除方針を決めます。
FAQ
Q: 小規模クリニックでも採用基準は必要ですか?
Q: 院長の感覚は使わない方がよいですか?
Q: 適性検査の結果で採否を決めてよいですか?
Q: 医療事務と看護師で同じ採用基準にしてよいですか?
Q: 面接で聞いてはいけないことはありますか?
参考資料
- 厚生労働省「公正な採用選考の基本」 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/basic.html
- 厚生労働省「事業主の皆様へ 採用選考の具体的な方法」 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/methods.html
- 厚生労働省「公正な採用選考に関するよくある質問」 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/question.html
- 厚生労働省「採用・選考時のルール」 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/saiyou_senkou_rule.html
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
- 個人情報保護委員会「要配慮個人情報とは」 https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq4-q011
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