
執筆者:辻 勝
会長税理士
診療報酬2026の財源配分は病院へ?クリニック影響|税理士が解説

結論:2026改定は「病院重視のメリハリ」議論が強いが、単純な移譲ではない
2026年(令和8年度)診療報酬改定で、支払側(保険者・経済団体等)から「外来・調剤の適正化で生み出した原資を、急性期・高度急性期の病院に重点配分すべき」という主張が明確に出ています。
一方で、改定は「どこかを下げて、どこかを上げる」だけで決まるものではなく、改定率(全体の増減)、賃上げ・物価対応の配分ルール、医療提供体制改革(地域医療構想等)とセットで調整されます。
したがって開業医としては、「病院へ財源が移るか」よりも、外来の評価の組み替え(慢性疾患管理、頻回受診、検査・投薬、医療DX要件など)が収益構造に直撃する点を先に押さえるのが実務的です。
「クリニック→病院への財源移譲」とは何を指す議論か
財源移譲は「改定の原資」をどう作り、どこへ配るかの話
診療報酬は、全体の改定率が先に政治・予算過程で決まり、その枠の中で中医協が配点(点数配分)を詰めます。
「財源移譲」という表現は、主に次のような設計を想定して使われます。
- 外来・調剤で「適正化(ムダの削減)」を進め、点数を抑制(または要件を厳格化)する
- 捻出した分を、急性期・高度急性期、救急、基幹病院機能、病棟の人員配置等に上乗せする
- 併せて医療DX・ICT連携を前提に、生産性向上を促す
支払側の主張は「病院機能重視」と「外来・薬局の合理化」をセットで出している
支払側の意見では、病院機能(救急・全身麻酔手術等)をより重視した体系へ見直し、物価・賃金影響を受けやすい急性期等へ「財源を重点配分するべき」といった方向性が示されています。
同時に、外来受診の抑制、残薬対策、門前薬局・敷地内薬局の合理化など、クリニック・薬局側の「適正化」を原資の出所として位置づける議論が読み取れます。
実現する可能性:起こり得る3シナリオと見分け方
「支払側が提言しているから必ず実現する」とも、「診療側が反対するから起きない」とも言い切れません。現場の読み方としては、次の3シナリオで整理すると判断が早くなります。
| シナリオ | 何が起きるか(配分の方向) | クリニックへの主な影響 | 見分ける材料 |
|---|---|---|---|
| A:強いシフト | 外来・調剤の適正化が広く入り、急性期・救急・病院機能に重点配分 | 生活習慣病・慢性疾患管理、頻回受診、検査・投薬の運用が厳格化。要件未達は実入りが下がる | 支払側意見が点数に直結、外来・調剤に「包括」「要件強化」「回数制限」などが増える |
| B:限定的シフト | 病院側の上乗せはあるが、外来は大幅カットではなく「整理・メリハリ」中心 | 一律減より「取れる所は取れる」。医療DX・地域連携の要件対応が差になる | 基本方針で賃上げ・物価対応を重視しつつ、外来はターゲット型の見直し |
| C:シフト弱い | 全体引上げ・補助的措置が中心で、配分変更は小さい | 影響は小さいが、DX要件・データ提出等の運用負担は残る | 改定率が厚め、配分論点が病院・外来より「横断(賃上げ、物価、DX)」に寄る |
ポイントは、外来が「一律に下がる」よりも、要件・対象患者像・算定頻度の再設計として効いてくることが多い点です。税務・経営的には「患者数×単価」の単価部分が、病名や算定設計で変動しやすくなります。
クリニック(開業医)が受けやすい影響の論点
外来の「頻回」「短時間」「同質」への目線が強まる
支払側は、外来受診の抑制や効率化を繰り返し論点にしており、今後は「同じ内容の受診が短い間隔で繰り返される」「定型的な算定が積み上がる」領域が狙われやすいと考えられます。
結果として、予約設計、電話・オンライン対応、検査のタイミング、再診間隔の根拠づけなど、医療の質と効率の両立が説明できる運用が必要になります。
調剤(薬局)への合理化が外来にも跳ね返る
門前薬局・敷地内薬局の合理化、残薬対策が強化されると、処方日数、服薬フォロー、トレーシングレポートの活用などが実務に影響します。
薬局側の評価変更は、クリニック側の処方設計や患者説明の手間に直結するため、看護師・事務との役割分担(薬歴確認・残薬確認のフロー)を整えないと、結果的に回転率が落ちます。
病院側の「機能評価強化」は紹介・逆紹介の運用を変える
病院機能が点数上で強く評価されるほど、地域連携・紹介率・逆紹介率等の運用が「病院の経営要件」として重くなり、クリニックにも協力が求められます。
紹介の質(情報量、検査データの整備、診療情報提供書の標準化)が問われ、医療DX(電子的共有等)も含めた体制整備が差になります。
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開業医が今からやるべき備え(経営・税務の実務)
改定が確定する前でも、準備できることはあります。特に「算定要件が厳格化したときに弱いところ」を先に潰すのが有効です。
Step 1: 収益を「算定項目×患者群」で棚卸しする
- 直近12か月のレセプトを、主要算定(管理料、検査、処方、加算)別に粗利感で分解
- 頻回受診・短間隔フォローが多い患者群、慢性疾患の管理設計を把握
- 影響を受けやすい項目を3つに絞る(全部は追わない)
Step 2: 要件強化に耐える診療プロセスへ組み替える
- 再診間隔の設計、検査の目的とタイミング、フォローの標準化
- 残薬確認・重複投薬のチェックフロー(受付→看護師→医師)を固定化
- 紹介状・検査データのテンプレ整備で、病院側が使える情報にする
Step 3: 人件費・物価対応は「賃上げ原資の見える化」で守る
2026改定は賃上げ・物価対応が大きなテーマです。
- 給与体系(基本給・手当・賞与)の設計を「保険診療収入の変動」に耐える形へ
- 税務上は、役員報酬・退職金・設備投資(減価償却)も含め、キャッシュフローで耐性を確認
- 物価高(医材・外注・光熱)の上振れを、月次でモニタリングする
よくある質問
Q: 2026改定で本当に「クリニックの点数が下がる」と決まったのですか?
A:
現時点(基本方針・各号意見の公表段階)では、「支払側が外来・調剤の適正化を原資に病院機能へ重点配分」といった方向性が示されていますが、個別点数は中医協で詰められます。結論は「一律に下がる」ではなく、要件強化・対象の見直しとして影響が出る可能性が高い、という理解が安全です。Q: クリニックが取れる対策で、最優先は何ですか?
A:
レセプトを「算定項目×患者群」で棚卸しし、影響を受けやすい項目を3つに絞ってプロセス改善することです。改定内容が出てから全対応するのは現実的ではありません。Q: 病院への配分が増えると、紹介先が変わりますか?
A:
変わる可能性があります。病院側の機能評価が強まるほど、紹介・逆紹介の運用が病院の経営課題になります。紹介状の質、検査データの整備、連携の作法を標準化しておくと、地域連携がスムーズになります。まとめ
- 2026改定では、支払側から「外来・調剤の適正化で原資を作り、急性期・高度急性期の病院へ重点配分」という議論が明確に出ている
- ただし単純な「クリニック→病院の移譲」ではなく、改定率・賃上げ/物価対応・提供体制改革とセットで決まる
- クリニックの実務影響は「一律減」より、外来の要件強化・算定頻度・対象患者像の再設計として出やすい
- 今からは、レセプト棚卸し→弱い算定のプロセス改善→賃上げ原資の見える化(税務・CF含む)の順で備えるのが合理的
参照ソース
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の基本方針(資料)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001610161.pdf
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定等に関する1号(支払側)の意見」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001623416.pdf
- 厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第635回)議事次第」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67045.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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