
執筆者:辻 光明
クリニックスタッフ定着率を上げる賃金設計【2026】

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定着率は採用後ではなく採用条件で決まる
結論として、クリニックスタッフの定着率は入職後のフォローだけでなく、採用時の条件設計でかなり決まります。給与、勤務時間、業務範囲、昇給、評価、休みやすさが求人票と実態でずれていると、早期離職の原因になります。
紹介会社経由で採用できても、半年以内に退職すれば紹介料、教育時間、再募集の手間が重なります。返戻金があっても、院内の負担や患者対応の混乱までは戻りません。2026年の採用難では、「採る力」だけでなく「続けてもらう条件」を先に作る必要があります。
| 離職要因 | 採用前にできる対策 | 数字で見る項目 |
|---|---|---|
| 給与不満 | 賃金表と昇給条件を作る | 基本給、手当、賞与 |
| 業務ギャップ | 求人票に担当業務を書く | 教育時間、残業 |
| 人間関係 | 面接評価と入職後面談 | 面談回数、退職時期 |
| 勤務条件 | シフト・休憩・土曜勤務を明示 | 時間単価、欠員コスト |
早期離職につながる賃金ギャップ
結論として、早期離職の背景には、提示給与と実際の負担のギャップがあります。給与水準が低いことだけでなく、「聞いていた業務より重い」「昇給の見通しがない」「既存スタッフと差がある」といった不公平感が問題になります。
看護師では、採血、点滴、検査補助、在庫管理、患者説明などの範囲が曖昧だと不満が出やすくなります。医療事務では、受付だけと思っていたのに電話、会計、レセプト補助まで広がるケースがあります。これらは求人票の段階で整理できます。
給与を上げる場合も、全員一律か、役割別か、資格別かを決める必要があります。新規採用者だけ高くすると、既存スタッフの離職リスクが上がります。採用と定着を分けず、院内全体の賃金表で確認してください。
昇給と賞与のルールを見える化する
結論として、定着率を高めるには、入職時の給与よりも入職後の見通しを説明できることが重要です。小規模クリニックでも、昇給と賞与の考え方を簡単な表にしておくと、スタッフが将来をイメージしやすくなります。
Step 1: 役割を分ける
一般スタッフ、リーダー、教育担当、在庫管理担当、レセプト責任者など、役割を分けます。
Step 2: 評価項目を決める
患者対応、業務習得、ミス対応、報連相、シフト協力、後輩指導など、評価できる項目を決めます。
Step 3: 給与・賞与とつなげる
評価が良いと何が変わるのかを明確にします。基本給、職務手当、賞与、昇給時期のどれに反映するかを決めます。
賞与を業績連動にする場合は、過度な期待を持たせないよう「目安」として説明します。景品表示法上も、成果や待遇を誤認させる表現は避けるべきです。
面談・評価・社労士連携の役割
結論として、定着支援は税理士法人だけで完結しません。税理士法人は人件費と月次損益を確認し、社労士は雇用契約、就業規則、社会保険、労務手続きを確認します。役割を分けることで、院長が一人で抱え込む状態を避けられます。
入職後は、30日、90日、6か月、1年で面談を行うと早期離職の兆候を拾いやすくなります。面談では給与だけでなく、業務量、教育状況、人間関係、勤務時間を確認します。記録を残すことで、次の採用条件の改善にも使えます。
辻総合会計グループでは、採用後の給与改定や賞与原資を月次試算に反映します。離職率改善を保証するものではありませんが、採用費が何か月で回収できるか、既存スタッフの給与改定余地があるかを見える化できます。
定着率を採用コストとして見る
結論として、定着率は人事の指標であると同時に、採用コストの指標です。1名採用するたびに紹介料や媒体費がかかり、教育担当者の時間も使います。早期離職が続くと、利益だけでなく院内の空気も悪くなります。
採用コストを比較するときは、採用単価だけでなく、1年後に残っている人数で見ると実態に近くなります。たとえば2名採用して1名が半年で退職した場合、1名あたりの実質採用費は上がります。採用前に「定着前提の賃金設計」を行う意味はここにあります。
院内で確認する実務チェックリスト
結論として、クリニックスタッフ定着率を上げる賃金設計を検討するときは、記事を読んで終わりにせず、院内の数字と運用に落とす必要があります。採用は人の問題に見えますが、実際には給与、社会保険、賞与、教育時間、診療体制、既存スタッフの納得感が同時に動きます。
まず、直近12か月の採用費を集計します。紹介会社手数料、求人媒体費、求人票作成、面接対応、入職後の教育時間を分けます。金額が見えないものは、院長、主任、事務長が使った時間を時給換算の目安で置きます。正確な原価計算でなくても、採用の重さを把握するには十分です。
次に、職種別の給与表を作ります。看護師、准看護師、医療事務、受付、リーダー職を分け、基本給、時給、資格手当、職務手当、賞与、昇給時期を並べます。新規採用者だけを高くするのか、既存スタッフも改定するのかを同時に見ないと、採用後の不公平感が残ります。
3つ目に、求人票の原本を一つにします。ハローワーク、民間媒体、自院サイト、紹介会社向けに別々の条件を書くと、更新漏れが起きます。給与、勤務時間、業務範囲、試用期間、休日、社会保険の条件は、一つの原本から展開する運用にしてください。
4つ目に、入職後90日までのフォローを決めます。初月に教えること、2か月目に任せること、3か月目に評価することを決めるだけで、教育担当者の負担が見えます。採用時点でここまで決まっていない場合、応募者の能力以前に院内の受け入れ設計が不足している可能性があります。
税理士法人 辻総合会計グループでは、これらの確認を採用コスト診断として整理します。候補者紹介、応募者対応、面接代行、媒体運用代行は行わず、採用条件、賃金設計、月次損益、ベースアップ評価料や社労士連携との整合を確認します。
| チェック項目 | 確認する資料 | 未整備の場合のリスク |
|---|---|---|
| 採用費 | 紹介料、媒体費、面接時間 | 採用単価が把握できない |
| 賃金表 | 基本給、手当、賞与 | 既存スタッフとの不公平感 |
| 求人票原本 | 業務、時間、給与 | 媒体ごとの条件ずれ |
| 90日フォロー | 教育計画、評価メモ | 早期離職と教育疲れ |
税務・労務・採用を分けて考えない
結論として、採用の失敗は「応募が来ない」だけではありません。採用できた後に人件費が増えすぎる、既存スタッフが不満を持つ、社保や雇用契約の確認が遅れる、教育担当者が疲弊する、といった形でも表れます。だからこそ、税務・労務・採用を同じ表で見ます。
税理士が見るべきなのは、採用した場合の月次利益、資金繰り、賞与原資、紹介料の回収期間です。社労士が見るべきなのは、雇用契約、社会保険、労働時間、就業規則、試用期間です。媒体や紹介会社が見るべきなのは応募者との接点です。それぞれの役割を混ぜると、責任範囲が曖昧になります。
この記事で扱う内容は、採用成果を保証するものではありません。あくまで、クリニックが紹介会社に依存しすぎず、自院で説明できる採用条件を整えるための実務整理です。推測値や概算は目安として扱い、最終判断は個別の状況に応じて確認してください。
よくある質問
Q: 定着率を上げるには給与を上げるしかありませんか?
Q: 小規模クリニックでも人事評価は必要ですか?
Q: 税理士法人は定着支援で何をしますか?
まとめ
- 定着率は採用時の条件設計で大きく変わる
- 早期離職の背景には業務範囲と給与のギャップがある
- 昇給、賞与、評価の理由を見える化する
- 税理士法人と社労士の役割を分けて運用する
- 定着率は採用コストとして月次損益で見る
参照ソース
- 厚生労働省「職業紹介事業制度の概要」: https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/haken-shoukai01.html
- 厚生労働省「募集情報等提供と職業紹介の区分に関する基準」: https://www.mhlw.go.jp/stf/shoukaibosyuukubun.html
- 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/
- 厚生労働省「ベースアップ評価料関係」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
- 消費者庁「有利誤認表示」: https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/advantageous_misidentification/
この記事を書いた人

辻 光明
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