
執筆者:安田 駆流
クリニック採用で社労士と税理士をどう使い分けるか【2026】

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記事で扱った制度や実務上の確認点を、個別の状況に合わせて整理します。
社労士と税理士の役割は重ならない
結論として、クリニック採用では社労士と税理士を競合させるのではなく、役割を分けて使うべきです。社労士は雇用契約、社会保険、労働保険、就業規則などを確認し、税理士は採用費、人件費、月次損益、資金繰り、税務影響を確認します。
院長が一人で採用を進めると、求人票、給与条件、雇用契約、社保、賞与、採用費がバラバラになりがちです。採用前に数字を確認し、採用決定後に労務手続きを確認する流れを作ると、後戻りが減ります。
| 領域 | 主に確認する専門家 | 具体例 |
|---|---|---|
| 採用予算 | 税理士 | 給与、社保、賞与、紹介料、月次損益 |
| 雇用契約 | 社労士 | 労働条件通知、雇用契約書、就業規則 |
| 社会保険 | 社労士 | 加入要件、手続き、扶養確認 |
| 給与体系 | 税理士・社労士 | 賃金表、手当、残業単価、賞与 |
採用前に税理士が見るべき数字
結論として、採用前に税理士が見るべきなのは「その人を採っても資金繰りが回るか」です。給与だけでなく、法定福利費、賞与、交通費、採用費、教育時間を含めて見ます。
看護師1名、医療事務1名を採るだけでも、年間人件費は大きく動きます。紹介会社を使う場合は一時費用も発生します。ベースアップ評価料や最低賃金の影響がある場合、既存スタッフの賃金改定も同時に見る必要があります。
税理士法人 辻総合会計グループでは、クリニック顧問先400社の相談経験を踏まえ、採用予定と月次損益を結びます。候補者紹介ではなく、採用条件と資金計画の整合を見る支援です。
採用決定後に社労士が見るべき手続き
結論として、採用が決まった後は、社労士が雇用契約、労働条件通知、社会保険、労働保険の確認を担います。給与条件を決めた後に手続きで問題が出ると、入職直前に混乱します。
雇用契約書では、雇用期間、試用期間、就業場所、業務内容、勤務時間、休憩、休日、賃金、退職に関する事項を確認します。パートの場合は、週所定労働時間や社会保険の加入要件も重要です。
社労士と税理士が連携していないと、給与表では問題ないのに雇用契約上の表現が曖昧、または社保加入後の人件費が月次試算に反映されていない、といったずれが起きます。
窓口を分けない運用設計
結論として、院長の負担を減らすには、専門家の役割は分けても、院内の窓口は一本化する運用が有効です。誰が何を確認するかをリスト化し、採用前、内定時、入職時、入職後に分けます。
Step 1: 採用前
税理士が採用予算、求人票の給与条件、既存スタッフとの均衡を確認します。
Step 2: 内定前
社労士が雇用契約や労働条件通知の論点を確認します。必要に応じて条件提示前に修正します。
Step 3: 入職時
社会保険、労働保険、給与計算、勤怠管理の流れを確認します。
Step 4: 入職後
30日、90日、6か月で、給与、勤務時間、教育状況、定着状況を確認します。
採用コスト診断とのつながり
結論として、社労士と税理士の連携は、採用コスト診断の精度を上げます。税理士だけでは労務手続きの細部を判断できず、社労士だけでは月次損益や資金繰り全体を見にくいからです。
採用前に両者の役割を決めておけば、紹介会社を使う場合も、自社採用を進める場合も、条件設計がぶれにくくなります。職業紹介に当たる候補者あっせんは行わず、あくまで採用条件と手続きの整理に徹することが安全です。
院内で確認する実務チェックリスト
結論として、クリニック採用で社労士と税理士をどう使い分けるかを検討するときは、記事を読んで終わりにせず、院内の数字と運用に落とす必要があります。採用は人の問題に見えますが、実際には給与、社会保険、賞与、教育時間、診療体制、既存スタッフの納得感が同時に動きます。
まず、直近12か月の採用費を集計します。紹介会社手数料、求人媒体費、求人票作成、面接対応、入職後の教育時間を分けます。金額が見えないものは、院長、主任、事務長が使った時間を時給換算の目安で置きます。正確な原価計算でなくても、採用の重さを把握するには十分です。
次に、職種別の給与表を作ります。看護師、准看護師、医療事務、受付、リーダー職を分け、基本給、時給、資格手当、職務手当、賞与、昇給時期を並べます。新規採用者だけを高くするのか、既存スタッフも改定するのかを同時に見ないと、採用後の不公平感が残ります。
3つ目に、求人票の原本を一つにします。ハローワーク、民間媒体、自院サイト、紹介会社向けに別々の条件を書くと、更新漏れが起きます。給与、勤務時間、業務範囲、試用期間、休日、社会保険の条件は、一つの原本から展開する運用にしてください。
4つ目に、入職後90日までのフォローを決めます。初月に教えること、2か月目に任せること、3か月目に評価することを決めるだけで、教育担当者の負担が見えます。採用時点でここまで決まっていない場合、応募者の能力以前に院内の受け入れ設計が不足している可能性があります。
税理士法人 辻総合会計グループでは、これらの確認を採用コスト診断として整理します。候補者紹介、応募者対応、面接代行、媒体運用代行は行わず、採用条件、賃金設計、月次損益、ベースアップ評価料や社労士連携との整合を確認します。
| チェック項目 | 確認する資料 | 未整備の場合のリスク |
|---|---|---|
| 採用費 | 紹介料、媒体費、面接時間 | 採用単価が把握できない |
| 賃金表 | 基本給、手当、賞与 | 既存スタッフとの不公平感 |
| 求人票原本 | 業務、時間、給与 | 媒体ごとの条件ずれ |
| 90日フォロー | 教育計画、評価メモ | 早期離職と教育疲れ |
税務・労務・採用を分けて考えない
結論として、採用の失敗は「応募が来ない」だけではありません。採用できた後に人件費が増えすぎる、既存スタッフが不満を持つ、社保や雇用契約の確認が遅れる、教育担当者が疲弊する、といった形でも表れます。だからこそ、税務・労務・採用を同じ表で見ます。
税理士が見るべきなのは、採用した場合の月次利益、資金繰り、賞与原資、紹介料の回収期間です。社労士が見るべきなのは、雇用契約、社会保険、労働時間、就業規則、試用期間です。媒体や紹介会社が見るべきなのは応募者との接点です。それぞれの役割を混ぜると、責任範囲が曖昧になります。
この記事で扱う内容は、採用成果を保証するものではありません。あくまで、クリニックが紹介会社に依存しすぎず、自院で説明できる採用条件を整えるための実務整理です。推測値や概算は目安として扱い、最終判断は個別の状況に応じて確認してください。
特にパート比率が高いクリニックでは、社会保険の加入判断、扶養範囲、賞与の有無、残業の扱いが採用条件に直結します。税理士側で人件費総額を確認し、社労士側で加入要件と手続きを確認することで、求人票に出す条件と入職後の実務をそろえやすくなります。
よくある質問
Q: 採用時は社労士と税理士のどちらに先に相談すべきですか?
Q: 税理士法人が雇用契約書を作れますか?
Q: 候補者紹介も依頼できますか?
まとめ
- 社労士は労務手続き、税理士は採用予算と月次損益を見る
- 採用前に給与、社保、賞与、紹介料を年額で確認する
- 採用決定後は雇用契約と社会保険の確認が必要
- 役割を分けても院内窓口は一本化すると進めやすい
- 採用支援は候補者紹介ではなく条件設計として行う
参照ソース
- 厚生労働省「職業紹介事業制度の概要」: https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/haken-shoukai01.html
- 厚生労働省「募集情報等提供と職業紹介の区分に関する基準」: https://www.mhlw.go.jp/stf/shoukaibosyuukubun.html
- 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/
- 厚生労働省「ベースアップ評価料関係」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
- 消費者庁「有利誤認表示」: https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/advantageous_misidentification/
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安田 駆流
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