
執筆者:辻 勝
会長税理士
小児科開業ガイド2026年版|立地・設備・収益を税理士が解説

小児科クリニック開業とは、「需要(子どもの人口と動線)に合わせて、感染対策と回転率を両立する運営設計をつくること」です。問題になりやすいのは、立地の読み違いと、設備投資・人件費に対して患者数が立ち上がるまでの資金繰りです。本記事では、税理士として開業支援の現場でよく起きる論点を軸に、立地・設備・収益設計を一気通貫で整理します。
小児科開業の全体像と2026年の前提
小児科の収益構造は「外来回転×季節変動」
小児科は入院設備を持たない外来中心の形が多く、1日あたり患者数の積み上げが収益の柱になります。一方で冬季に需要が増え、春夏に落ちるなど季節変動が大きく、資金繰りとシフト設計が成功可否に直結します。
2026年の運営前提として「オンライン資格確認」を織り込む
新規指定の流れやオンライン資格確認導入に必要な手続きは、地方厚生(支)局の案内に沿って準備します。開業準備の工程にオンライン資格確認の導入手続きを組み込まないと、月初の診療開始設計に影響が出るため注意が必要です。
立地選定:診療圏調査と競合分析のポイント
診療圏は「人口」より「子育て動線」で見る
小児科は、単純な人口密度よりも「通園・通学」「駅・バス」「大型スーパー」「小児科受診のついで動線」が重要です。診療圏調査では、以下の仮説を立てて現地で検証します。
- 平日午前:未就学児(保育園前後の時間帯)
- 平日夕方:就学児(学校後)
- 土曜:共働き世帯の集中
- 予防接種・健診:予約の取りやすさが選好に直結
競合は「小児科の数」ではなく「提供価値の重なり」で見る
競合は小児科だけでなく、総合診療・内科系が小児を診るエリアでは実質競合になります。差別化は医療の質だけでなく、予約導線、待合の設計、隔離動線、スタッフ体制が効きます。
| 立地タイプ | 向いている戦略 | 注意点 |
|---|---|---|
| 住宅街ロードサイド | かかりつけ需要・予防接種を積み上げ | 駐車場コスト、広告・認知に時間がかかる |
| 駅前・商業エリア | 初速の患者数確保、夕方需要を取りやすい | 賃料が高く、待合の狭さが課題になりやすい |
| 医療モール | 相互送客・認知獲得 | モール規約、診療時間の制約、競合密度 |
小児科クリニックの必要設備と開業費用の考え方
必須設備は「診療」より「感染対策・運用」に寄る
小児科で最初に効くのは、高額機器よりも運用の詰めです。たとえば以下は投資対効果が出やすい項目です。
- 予防接種・健診を回す予約システム(枠設計が要)
- 受付〜会計の滞留を減らす電子カルテ・レセコン連携
- 発熱患者の隔離スペース(導線分離)
- ワクチン保管(温度管理)と在庫管理
初期費用は「内装」「IT」「運転資金」の三分割で設計する
開業費用は医療機器だけでなく、内装・サイン・IT・採用費・広告費、そして開業後数か月の運転資金まで含めて資金計画を組む必要があります。特に小児科は立ち上がり期に予約枠を厚く取る一方で人件費が先行しやすく、運転資金の確保が失敗回避の核心です。
収益設計:患者数・単価・損益分岐点の作り方
収益は「外来の回転」と「予防接種・健診の予約設計」で決まる
小児科では、急性疾患の外来に加え、予防接種・健診の枠設計が安定収益のベースになります。ポイントは次の2つです。
- 外来枠:待ち時間を減らし回転率を上げる(院内滞留を最小化)
- 予約枠:予防接種・健診を“診療の合間”ではなく独立して設計する
損益分岐点は「固定費÷粗利率」ではなく「時間当たり処理能力」で確認する
小児科の損益分岐点は、家賃・人件費・リース料といった固定費に対し、1時間あたり何人を診る必要があるかで把握すると意思決定が速くなります。
- 午前:未就学児中心で時間が読みにくい
- 夕方:就学児で回転を取りやすい
- 土曜:集中しやすいがスタッフ負荷が高い
当法人の支援事例では、黒字化の鍵は「患者数そのもの」より、診療時間帯別の回転設計と、繁忙期のオペレーション標準化でした。
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小児科クリニック開業の手順と届出の実務
開業は「行政・保険・税務」を並走させる
開業準備は、物件・内装と同時に、保険医療機関の指定やオンライン資格確認の準備、税務の届出を並走させます。抜け漏れが出ると開業月の売上計上や請求に影響するため、工程表に落とします。
Step 1: コンセプトと診療圏調査 提供する価値(発熱対応、予防接種、アレルギー等)と、患者動線・競合の仮説を作り、物件要件(面積・導線・駐車場)を決めます。
Step 2: 資金計画と見積の精緻化 内装・IT・医療機器・採用・広告・運転資金を分けて積み上げ、月次の資金繰り表を作ります。
Step 3: 保険医療機関指定とオンライン資格確認の準備 指定申請とあわせ、診療開始月の月初導入を前提にオンライン資格確認の手続きを確認します。
Step 4: 税務の届出と会計の型を決める 個人の開業届、青色申告の設計、給与支払事務所の届出などを行い、月次試算表を早期に回せる体制を作ります。
Step 5: 開業前後のKPI運用 予約枠稼働、待ち時間、再来率、予防接種枠の消化率を週次で確認し、月次で収益と人件費率を調整します。
税理士が見る「成功ポイント」と「よくある落とし穴」
成功ポイント:資金繰りと人件費率を“先に”管理する
小児科はスタッフ対応が品質に直結しますが、立ち上がりは人件費が先行しやすい領域です。採用は「繁忙期に合わせて増員」ではなく、標準業務の分解と教育計画まで含めて設計することで、利益率が安定します。
落とし穴:売上の性質(保険・自費・補助)を混在させたまま管理する
予防接種や健診は自治体の運用や自費の要素が絡む場合があり、入金サイトも異なります。会計上は、部門別・メニュー別に粗利と工数を把握し、意思決定できる粒度に落とします。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としています。届出や指定申請、税務判断は地域・個別事情により異なりますので、必ず所轄官庁・税務署、または専門家に確認してください。
よくある質問
Q: 小児科開業で立地選びを最短で間違えない方法はありますか?
A:
診療圏は人口統計だけで決めず、通園・通学・買い物動線を現地で確認し、競合を「診療内容+予約導線+感染対策の体験」で比較するのが実務的です。賃料は面積・導線・回転率に直結するため、坪単価だけで判断しないことが重要です。Q: 小児科の損益分岐点はどうやって考えるべきですか?
A:
固定費(家賃・人件費・リース等)を前提に、時間帯別の診療処理能力(1時間あたり何人を診られるか)で把握すると、予約枠設計やスタッフ配置の改善に直結します。冬季のピークに合わせて標準手順を作ると、通年の利益が安定します。Q: 開業時の税務で最初に決めるべきことは何ですか?
A:
事業形態(個人/法人の前提)、青色申告の運用、設備投資の会計処理(資産計上と償却)、給与支払の事務(源泉・年末調整)を開業前に型化することです。後から直すほどコストが上がるため、初期に会計の設計図を作るのが効果的です。まとめ
- 小児科開業は「子育て動線」に合う立地と、感染対策を含む導線設計が成否を分ける
- 設備投資は高額機器より、予約・受付・隔離動線など運用の投資対効果が高い
- 収益設計は患者数だけでなく、時間帯別回転と予防接種・健診の枠設計で安定する
- 指定申請とオンライン資格確認、税務届出は並走させ、工程表で抜け漏れを防ぐ
- 税務は資産区分と運転資金計画が重要で、立ち上がり期の資金繰りが最大リスク
参照ソース
- 国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
- 地方厚生(支)局「オンライン資格確認導入等の手続き」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tokaihokuriku/iryo_shido/shitei-kisai/dounyutoutetuduki.html
- 厚生労働省「医療法施行規則」: https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80092000&dataType=0&pageNo=1
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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