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クリニック向けコラム
作成日:2025.03.16
更新日:2026.01.02
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

出資持分あり医療法人と持分なし医療法人の違いと承継・税務ポイント

8分で読めます
出資持分あり医療法人と持分なし医療法人の違いと承継・税務ポイント

導入:結論(出資持分あり/なしの本質)

出資持分ありの医療法人とは、社員(出資者)が法人財産に対して「持分」を持ち、退社時の払戻しや解散時の残余財産分配を受け得る医療法人(主として平成19年4月1日以前設立の経過措置医療法人)です。
一方、出資持分なし医療法人(持分の定めのない医療法人)は、社員に財産権がなく、残余財産は社員に分配できない仕組みです。
違いは「法律上の所有・分配のルール」であり、承継・相続税・ガバナンス設計に直結します。

そもそも「出資持分」とは何か

出資持分あり医療法人(経過措置医療法人)のイメージ

医療法人の「社員」は株式会社の株主と似た立場ですが、医療法人は剰余金の配当を目的としない点が異なります。
それでも出資持分ありの場合、社員が法人財産に対する持分(持分割合)を持ち、次の局面で金銭的請求権が問題になります。

  • 退社(社員の資格喪失)時:定款等に基づき、出資額に応じた払戻しが論点
  • 解散時:残余財産が持分割合に応じて社員へ分配され得る

この「将来受け取れる可能性のある価値」が、相続税評価(持分評価)や承継時の対立(誰がどれだけ権利を持つか)を生みます。

出資持分なし医療法人(持分の定めのない医療法人)のイメージ

持分なし医療法人では、社員は議決権等の「法人運営上の地位」を持つ一方、法人財産に対する持分はありません。
退社時の払戻しや解散時の分配を前提にしないため、承継を「財産の取り分」ではなく「運営の引継ぎ」として設計しやすいのが特徴です。

ここがポイント
持分なしは「誰も財産を受け取れない」制度設計です。 理事長(院長)の貢献は、役員報酬や退職金、職務の対価(賃貸借等)など別の形で適正に回収・整理する設計が重要になります。

比較で分かる:財産・承継・運営の違い

最も重要な違いを、実務で揉めやすい観点に絞って整理します。

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項目出資持分あり医療法人出資持分なし医療法人
新規設立原則として現在は不可(経過措置が中心)原則としてこれが標準
社員の財産権持分がある(将来の払戻し・分配が論点)持分がない(財産権なし)
解散時の残余財産社員へ分配され得る社員へ分配不可(定款で帰属先を限定)
相続・贈与の論点持分評価が相続税の課税対象になりやすい原則、持分評価の問題は生じない
ガバナンス持分割合=発言力になりやすい社員構成・議決設計が中心
後継者問題「持分の承継」と「院長承継」が絡む「院長承継」に集中しやすい

実務で差が出るポイント1:相続税の重さ

出資持分ありでは、内部留保や不動産を多く保有するほど持分評価が膨らみ、理事長個人の相続税負担が急増し得ます。
特に、家族内承継で「持分は家族が相続するが、運営は後継医師へ」という形になると、権利と経営が分離して紛争リスクが高まります。

実務で差が出るポイント2:資金調達と出口設計

持分なしでは、創業者が出資持分の払戻しで回収する発想が使えません。
そのため、役員報酬・退職金・不動産賃料などの設計が、創業者のライフプランとセットで重要になります。
ここを曖昧にしたまま持分なしへ移行すると、心理的ギャップが生じやすい点に注意が必要です。

税務と承継:認定医療法人制度まで含めて考える

「認定医療法人制度」とは(要点)

出資持分ありの医療法人が持分なしへ移行する際、一定の要件を満たして厚生労働大臣の認定(認定移行計画)を受けると、相続税について納税猶予・免除や税額控除の特例が用意されています。
厚生労働省の案内では、制度期限は令和8年12月31日(2026年12月31日)までとされています。
国税庁の解説ページも、令和7年4月1日現在の法令等として要件・効果を整理しています。

典型的な相談例(匿名ケース)

当法人(税理士法人 辻総合会計)では、医療機関の会計・税務支援を長年行う中で、出資持分の評価高騰と後継者問題が同時に顕在化するケースを多く見てきました。
例えば、先代理事長が持分を実質的に支配し、純資産が増え続けて持分評価が膨らむ一方、後継医師は医療提供体制の維持を最優先したいという場面です。
このとき、家族が「持分=財産」と捉えて運営に関与し始めると、意思決定が遅れ、採用・設備投資に影響が出ることもあります。

持分なし移行を「節税」だけで捉えるのではなく、理事長退任、役員報酬・退職金、理事構成、資産の法人/個人の切り分けまで含めて一体設計すると、承継の安定性が上がります。


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既存法人が取れる選択肢と、移行の進め方

出資持分ありの医療法人が直面する選択肢は、大きく次の3つです。

  • 現状維持(持分ありのまま承継):持分分散・相続税対策が主戦場
  • 持分の集約(後継者や特定者へ):贈与税・みなし贈与・資金手当が課題
  • 持分なしへ移行:認定制度の活用可否、定款変更、持分放棄の手続きが課題

移行検討のステップ(実務の進め方)

Step 1: 現状の棚卸し(税務・法務の両面)

出資者名簿、持分割合、純資産の推移、関連当事者取引(不動産賃貸等)を確認し、持分評価と相続税のボリュームを試算します。

Step 2: 目標像の設計(誰が何を引き継ぐか)

院長職、社員(議決権)、理事構成、退職金規程を整理し、「運営の主導権」と「家族の安心」を両立させる案を作ります。

Step 3: 手続き・スケジュール管理(認定申請〜定款変更)

認定医療法人の申請要件と提出書類を確認し、認定移行計画の期限から逆算して、社員総会決議、持分放棄、定款変更認可、各種報告を進めます。

ここがポイント
相続が既に発生しているケースでは、相続税の申告期限(相続開始から10か月)までに認定取得が必要になる場合があります。 個別の状況により要件・手続きが変わるため、早期の専門家相談が有効です。

よくある質問

Q: 出資持分ありの医療法人は、今から新設できますか? ▼

A:

原則として現在は「持分の定めのない医療法人」が前提です。既に存在する出資持分ありは、主として過去の制度下で設立された経過措置医療法人です。
Q: 持分なしにすると、理事長(院長)の資産形成が不利になりますか? ▼

A:

持分払戻しという出口がなくなる分、役員報酬・退職金・不動産賃料などで適正に回収する設計が重要です。税務上の適正性(損金算入要件等)も含めて検討します。
Q: 認定医療法人制度は、相続税対策として必ず使うべきですか? ▼

A:

使える場合は有力な選択肢ですが、要件・期限・運営面の制約があり、法人の実態や承継方針に合うかを見極める必要があります。制度適用の可否だけでなく、ガバナンス設計とセットで判断します。

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まとめ

  • 出資持分ありは「社員に財産権がある」ため、相続税評価と承継トラブルの火種になりやすい
  • 持分なしは「社員に財産権がない」ため、承継を運営中心に設計しやすい一方、創業者の出口設計が重要
  • 既存の持分ありは、現状維持・集約・持分なし移行の3択で、税務とガバナンスを一体で検討する
  • 認定医療法人制度は、移行と相続税特例を結び付ける制度で、期限と手続き管理がカギ
  • 個別事情で最適解が変わるため、早期の試算と設計が有効

参照ソース

  • 厚生労働省「持分の定めのない医療法人への移行計画の認定申請について(認定医療法人制度)」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000205627.html
  • 国税庁「No.4150 医療法人の持分についての相続税の納税猶予の特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4150.htm
  • 国税庁「No.4177 医療法人の持分についての相続税の税額控除の特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4177.htm

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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