
執筆者:辻 勝
会長税理士
【失敗しない】クリニック開業税務の5つの注意点

結論:開業時の税務は「期限・選択・区分・設計・運用」の5点です
クリニック開業の税務は、届出の期限と消費税の選択、そして支出の経費区分を誤ると、節税以前に「取り返しがつかない状態」になりがちです。特に院長(開業医)にとっての課題は、診療準備で多忙な中でも、税務の初期設定を正しく行い、開業後の記帳・給与処理を滞りなく回すことにあります。
税理士法人 辻総合会計でも、開業時のご相談で多いのは「届出漏れ」「インボイス対応の判断」「医療機器・内装の扱い」「開業費の範囲」「人を雇った後の源泉・年末調整」の5類型です。本記事では、開業前後に注意すべき税務ポイントを実務ベースで解説します。
クリニック開業の税務ポイントとは何か
クリニック開業は「設備投資が大きい」「初年度の売上が読みにくい」「スタッフ雇用が早い」ため、一般の個人事業より税務の判断が前倒しになります。加えて、医業は自由診療・物販・健診・産業医契約など、収入の性質が混在しやすく、消費税やインボイスの影響が読みにくい点も特徴です。
開業時に注意すべき5つの税務ポイント
ポイント1:開業届と青色申告は「提出期限」を最優先で管理する
開業後の初動で最も多いのが、開業届や青色申告関連の提出遅れです。開業届は「事業開始等の事実があった日から1か月以内」、青色申告承認申請は「原則3月15日まで/年の途中で開業した場合は開業日から2か月以内」が原則です。
期限を外すと、青色申告特別控除や損失の繰越など、初年度の資金繰りに効く制度の入口を失いかねません。開業日(診療開始日)と、契約・支出の開始日がズレるケースもあるため、「いつ事業を開始したと整理するか」を税理士と確認し、書面上の整合性を取っておくと安全です。
ポイント2:消費税・インボイスは「免税のまま」か「課税を選ぶ」かを早期に決める
医業収入(保険診療)は非課税が中心ですが、自由診療・物販・健診等の課税売上が一定規模になると、消費税の影響が現実問題になります。ここで論点になるのが次の2つです。
- インボイス(適格請求書)を求められる取引があるか(例:企業健診、産業医契約、テナント・医療モールとの精算、課税取引のBtoB)
- 開業時の設備投資が大きく、仕入税額控除のメリットが見込めるか
課税事業者を選択する届出は、原則として「適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで」に提出が必要です。開業時の投資額が大きい場合、消費税の扱いを誤ると、資金繰りに数百万円単位の差が出ることもあります。
比較:免税のまま vs 課税(課税事業者選択・インボイス登録)
| 観点 | 免税(原則) | 課税(選択・登録) |
|---|---|---|
| 価格・手間 | 事務負担が比較的軽い | 申告・経理が重くなる |
| 取引先要請 | BtoC中心なら影響小 | BtoBで要請が出やすい |
| 設備投資 | 消費税分がコスト化しやすい | 仕入税額控除で回収余地 |
| 途中変更 | 将来課税になると対応が後追い | 初期から運用を固めやすい |
ポイント3:医療機器・内装・広告は「経費」か「資産」かの線引きが重要
開業時は、レントゲン・超音波・内視鏡などの医療機器、内装工事、看板・Web制作など、支出が短期間に集中します。ここで重要なのが、支出を「一括経費」にできるのか、それとも「資産計上して減価償却」になるのかの判断です。
- 医療機器:原則として固定資産(減価償却)。リースでも会計・税務上の整理が必要
- 内装工事:工事内容により建物附属設備等として資産計上になることが多い
- 広告宣伝:内容により当期費用になる一方、長期に効果が及ぶ制作物は要検討
実務でよくある失敗は、「支払ったから全部経費」「とりあえず開業費」に寄せてしまい、後から税務調査や申告の整合性で苦しくなるパターンです。開業前に、支出予定を一覧化し、税務上の区分を先に設計しておくと手戻りが激減します。
ポイント4:開業費・借入金・役員性のある支出を「事業の設計図」で管理する
開業準備で発生する支出には、いわゆる開業費(繰延資産として任意償却できる類型)になり得るものがあります。一方で、開業費に「入れてはいけない」ものも混ざりやすいのが注意点です(個人的支出、資産計上すべきもの等)。
また、借入金(設備資金・運転資金)の使途管理も税務と密接です。金融機関提出資料と税務申告の数字が乖離すると、資金繰り説明に余計な時間がかかります。開業初年度は特に、資金繰り表・資産台帳・借入返済表をセットで整備し、資金の流れの説明可能性を確保しておくことが重要です。
ケーススタディ(よくある相談)
医療機器の頭金・内装の追加工事・広告費が同時期に発生し、口座も私用と混在してしまった結果、どこまでが減価償却でどこからが経費か判定できず、決算直前に修正が大量発生。開業直後は「口座分離」と「支出ルール」を先に決めるだけで、この手戻りは大きく減ります。
ポイント5:記帳・給与・源泉は「開業後に回る仕組み」を最初に作る
クリニックは早期にスタッフを雇用することが多く、給与支払・源泉徴収・年末調整・法定調書といった業務がすぐ始まります。ここでつまずくと、院長の時間が奪われ、診療オペレーションにも影響します。
- 口座・カードを事業専用に分離し、家事関連はルールを決めて按分する
- レセコン・予約・決済のデータ連携を前提に、記帳フローを設計する
- 給与計算と源泉の締め日・支払日を固定し、年末調整まで見据える
開業は「税務申告をするための記帳」ではなく、「経営判断をするための数字」を先に整えると、結果として税務も安定します。
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クリニック開業の税務手続きの手順(実務の流れ)
Step 1: 開業日と収入類型を確定する
診療開始日、自由診療・物販・健診等の有無、取引先(法人)の有無を整理します。ここが消費税・インボイス判断の前提になります。
Step 2: 届出の提出期限を逆算してタスク化する
開業届(1か月以内)と青色申告(開業から2か月以内等)を起点に、必要書類をチェックリスト化します。税務署提出はe-Taxも視野に入れます。
Step 3: 設備投資の一覧と資産台帳の設計をする
医療機器・内装・什器備品・IT投資を並べ、資産/経費/開業費の区分と、証憑の揃え方を決めます。
Step 4: 消費税・インボイスの方針を決める
免税のまま進めるのか、課税選択や登録を行うのかを、売上見込みと投資規模で比較し、実行スケジュールに落とします。
Step 5: 記帳・給与の運用を「毎月回る形」に固定する
月次試算表の締め、給与・源泉、請求・入金、支払の運用ルールを固めます。開業後の修正コストを最小化できます。
よくある質問
Q: 開業届は診療開始日より前に出してもよいですか?
A:
事業開始の実態(契約・支出・準備行為を含む)との整合性が重要です。形式的に早く出すより、開業日と実態がズレないよう整理し、期限管理(原則1か月以内)を優先してください。Q: クリニックでもインボイス登録はした方がよいですか?
A:
一律ではありません。BtoC中心で課税取引が少ない場合は影響が限定的な一方、企業健診や産業医契約などBtoBの課税取引がある場合は要検討です。投資規模と事務負担も含めて比較し、方針を決めるのが実務的です。Q: 内装工事や医療機器は全部経費にできますか?
A:
原則として資産計上(減価償却)が中心になります。支出内容により扱いが分かれるため、契約書・請求書の内容単位で整理し、資産台帳を作ることを推奨します。まとめ
- クリニック開業の税務は「期限・選択・区分・設計・運用」の5点を先に固める
- 開業届(原則1か月以内)と青色申告(開業から2か月以内等)は最優先で管理する
- 消費税・インボイスは取引形態と投資規模で判断し、届出期限を逆算する
- 医療機器・内装・広告は「経費/資産/開業費」の線引きを開業前に設計する
- 記帳・給与・源泉を「毎月回る仕組み」にして、院長の時間を守る
参照ソース
- 国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
- 国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm
- 国税庁「D1-64 適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/invoice_01.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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