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クリニック向けコラム
作成日:2025.10.19
更新日:2026.01.02
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

【失敗しない】クリニック開業税務の5つの注意点

9分で読めます
【失敗しない】クリニック開業税務の5つの注意点

結論:開業時の税務は「期限・選択・区分・設計・運用」の5点です

クリニック開業の税務は、届出の期限と消費税の選択、そして支出の経費区分を誤ると、節税以前に「取り返しがつかない状態」になりがちです。特に院長(開業医)にとっての課題は、診療準備で多忙な中でも、税務の初期設定を正しく行い、開業後の記帳・給与処理を滞りなく回すことにあります。

税理士法人 辻総合会計でも、開業時のご相談で多いのは「届出漏れ」「インボイス対応の判断」「医療機器・内装の扱い」「開業費の範囲」「人を雇った後の源泉・年末調整」の5類型です。本記事では、開業前後に注意すべき税務ポイントを実務ベースで解説します。

クリニック開業の税務ポイントとは何か

クリニック開業は「設備投資が大きい」「初年度の売上が読みにくい」「スタッフ雇用が早い」ため、一般の個人事業より税務の判断が前倒しになります。加えて、医業は自由診療・物販・健診・産業医契約など、収入の性質が混在しやすく、消費税やインボイスの影響が読みにくい点も特徴です。

ここがポイント
開業時の税務は「節税テクニック」よりも、最初の設計ミスを防ぐことが最大の費用対効果になります。特に届出期限は後から修正できないものがあるため、開業日から逆算した管理が重要です。

開業時に注意すべき5つの税務ポイント

ポイント1:開業届と青色申告は「提出期限」を最優先で管理する

開業後の初動で最も多いのが、開業届や青色申告関連の提出遅れです。開業届は「事業開始等の事実があった日から1か月以内」、青色申告承認申請は「原則3月15日まで/年の途中で開業した場合は開業日から2か月以内」が原則です。

期限を外すと、青色申告特別控除や損失の繰越など、初年度の資金繰りに効く制度の入口を失いかねません。開業日(診療開始日)と、契約・支出の開始日がズレるケースもあるため、「いつ事業を開始したと整理するか」を税理士と確認し、書面上の整合性を取っておくと安全です。

ポイント2:消費税・インボイスは「免税のまま」か「課税を選ぶ」かを早期に決める

医業収入(保険診療)は非課税が中心ですが、自由診療・物販・健診等の課税売上が一定規模になると、消費税の影響が現実問題になります。ここで論点になるのが次の2つです。

  • インボイス(適格請求書)を求められる取引があるか(例:企業健診、産業医契約、テナント・医療モールとの精算、課税取引のBtoB)
  • 開業時の設備投資が大きく、仕入税額控除のメリットが見込めるか

課税事業者を選択する届出は、原則として「適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで」に提出が必要です。開業時の投資額が大きい場合、消費税の扱いを誤ると、資金繰りに数百万円単位の差が出ることもあります。

比較:免税のまま vs 課税(課税事業者選択・インボイス登録)

←横にスクロールできます→
観点免税(原則)課税(選択・登録)
価格・手間事務負担が比較的軽い申告・経理が重くなる
取引先要請BtoC中心なら影響小BtoBで要請が出やすい
設備投資消費税分がコスト化しやすい仕入税額控除で回収余地
途中変更将来課税になると対応が後追い初期から運用を固めやすい
ここがポイント
「インボイス登録=必須」と決め打ちすると、事務負担だけが増えることがあります。課税売上の見込み、取引先の性質、投資規模を並べて判断するのが現実的です。

ポイント3:医療機器・内装・広告は「経費」か「資産」かの線引きが重要

開業時は、レントゲン・超音波・内視鏡などの医療機器、内装工事、看板・Web制作など、支出が短期間に集中します。ここで重要なのが、支出を「一括経費」にできるのか、それとも「資産計上して減価償却」になるのかの判断です。

  • 医療機器:原則として固定資産(減価償却)。リースでも会計・税務上の整理が必要
  • 内装工事:工事内容により建物附属設備等として資産計上になることが多い
  • 広告宣伝:内容により当期費用になる一方、長期に効果が及ぶ制作物は要検討

実務でよくある失敗は、「支払ったから全部経費」「とりあえず開業費」に寄せてしまい、後から税務調査や申告の整合性で苦しくなるパターンです。開業前に、支出予定を一覧化し、税務上の区分を先に設計しておくと手戻りが激減します。

ポイント4:開業費・借入金・役員性のある支出を「事業の設計図」で管理する

開業準備で発生する支出には、いわゆる開業費(繰延資産として任意償却できる類型)になり得るものがあります。一方で、開業費に「入れてはいけない」ものも混ざりやすいのが注意点です(個人的支出、資産計上すべきもの等)。

また、借入金(設備資金・運転資金)の使途管理も税務と密接です。金融機関提出資料と税務申告の数字が乖離すると、資金繰り説明に余計な時間がかかります。開業初年度は特に、資金繰り表・資産台帳・借入返済表をセットで整備し、資金の流れの説明可能性を確保しておくことが重要です。

ケーススタディ(よくある相談)

医療機器の頭金・内装の追加工事・広告費が同時期に発生し、口座も私用と混在してしまった結果、どこまでが減価償却でどこからが経費か判定できず、決算直前に修正が大量発生。開業直後は「口座分離」と「支出ルール」を先に決めるだけで、この手戻りは大きく減ります。

ポイント5:記帳・給与・源泉は「開業後に回る仕組み」を最初に作る

クリニックは早期にスタッフを雇用することが多く、給与支払・源泉徴収・年末調整・法定調書といった業務がすぐ始まります。ここでつまずくと、院長の時間が奪われ、診療オペレーションにも影響します。

  • 口座・カードを事業専用に分離し、家事関連はルールを決めて按分する
  • レセコン・予約・決済のデータ連携を前提に、記帳フローを設計する
  • 給与計算と源泉の締め日・支払日を固定し、年末調整まで見据える

開業は「税務申告をするための記帳」ではなく、「経営判断をするための数字」を先に整えると、結果として税務も安定します。

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クリニック開業の税務手続きの手順(実務の流れ)

Step 1: 開業日と収入類型を確定する

診療開始日、自由診療・物販・健診等の有無、取引先(法人)の有無を整理します。ここが消費税・インボイス判断の前提になります。

Step 2: 届出の提出期限を逆算してタスク化する

開業届(1か月以内)と青色申告(開業から2か月以内等)を起点に、必要書類をチェックリスト化します。税務署提出はe-Taxも視野に入れます。

Step 3: 設備投資の一覧と資産台帳の設計をする

医療機器・内装・什器備品・IT投資を並べ、資産/経費/開業費の区分と、証憑の揃え方を決めます。

Step 4: 消費税・インボイスの方針を決める

免税のまま進めるのか、課税選択や登録を行うのかを、売上見込みと投資規模で比較し、実行スケジュールに落とします。

Step 5: 記帳・給与の運用を「毎月回る形」に固定する

月次試算表の締め、給与・源泉、請求・入金、支払の運用ルールを固めます。開業後の修正コストを最小化できます。

よくある質問

Q: 開業届は診療開始日より前に出してもよいですか? ▼

A:

事業開始の実態(契約・支出・準備行為を含む)との整合性が重要です。形式的に早く出すより、開業日と実態がズレないよう整理し、期限管理(原則1か月以内)を優先してください。
Q: クリニックでもインボイス登録はした方がよいですか? ▼

A:

一律ではありません。BtoC中心で課税取引が少ない場合は影響が限定的な一方、企業健診や産業医契約などBtoBの課税取引がある場合は要検討です。投資規模と事務負担も含めて比較し、方針を決めるのが実務的です。
Q: 内装工事や医療機器は全部経費にできますか? ▼

A:

原則として資産計上(減価償却)が中心になります。支出内容により扱いが分かれるため、契約書・請求書の内容単位で整理し、資産台帳を作ることを推奨します。

まとめ

  • クリニック開業の税務は「期限・選択・区分・設計・運用」の5点を先に固める
  • 開業届(原則1か月以内)と青色申告(開業から2か月以内等)は最優先で管理する
  • 消費税・インボイスは取引形態と投資規模で判断し、届出期限を逆算する
  • 医療機器・内装・広告は「経費/資産/開業費」の線引きを開業前に設計する
  • 記帳・給与・源泉を「毎月回る仕組み」にして、院長の時間を守る

参照ソース

  • 国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
  • 国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm
  • 国税庁「D1-64 適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/invoice_01.htm

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

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本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

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