
執筆者:辻 勝
会長税理士
内科の訪問診療戦略|収益設計と集患・運用の実務を税理士が解説

内科の訪問診療戦略の結論
内科の訪問診療戦略とは、「誰に・何を・どの体制で提供し、収益と品質を両立させるか」を先に設計することです。院長にとっての課題は、外来の延長で始めると24時間対応・人員不足・請求ミスが同時多発し、採算と評判の両方を崩しやすい点にあります。まずは対象患者像と提供範囲を絞り、段階的に拡張するのが現実的です。
税理士法人 辻総合会計では、訪問診療を立ち上げたクリニックの損益・資金繰り・人員計画の相談を受ける中で、成功パターンは「医療の設計」と同じ熱量で「経営の設計」を行っている点に共通すると考えています。
訪問診療とは?外来・往診との違い
訪問診療は、患者宅等へ計画的に定期訪問して診療を行う形態です。混同しやすいのが「往診(臨時の呼び出し)」と「訪問看護(看護師の訪問)」です。院内の説明や地域連携でも、この整理ができていると話が早くなります。
訪問診療・往診・外来の比較
| 項目 | 外来 | 訪問診療(在宅) | 往診(臨時) |
|---|---|---|---|
| 需要の発生 | 患者が来院 | 医療側が計画して訪問 | 急変等で呼ばれる |
| 収益の特徴 | 単価×回転率 | 継続管理+訪問回数 | 不確実(負荷が読めない) |
| オペレーション | 院内完結 | 移動・連携・記録が必須 | 夜間・休日対応が論点 |
| 成功の鍵 | 待ち時間・導線 | 対象患者の絞り込みと連携 | 24時間体制の設計 |
内科が相性の良い領域
内科の強みは、慢性疾患管理、ポリファーマシー調整、急性増悪の予防、在宅での意思決定支援です。差別化は「何でも診る」より、よく診る疾患群と提供範囲を明示した方が伝わります(例:心不全・COPD・糖尿病合併・認知症の内科管理など)。
訪問診療の市場性とターゲット設計
戦略の起点は「患者像(ペルソナ)」と「連携の入口」を定義することです。典型的な入口は、(1)退院支援(病院からの紹介)、(2)居宅(ケアマネ経由)、(3)施設(サ高住・GH等)です。
ターゲットを3層に分ける
- コア層:定期訪問で状態が安定しやすい慢性期(訪問ルートの基盤)
- 成長層:医療依存度が高く、連携が濃い層(収益は出やすいが負荷も高い)
- 要注意層:夜間対応が多い、家族合意が不十分、転居が多い等(トラブル源になりやすい)
最初は「コア層中心+成長層を少数」の設計にすると、チームが崩れにくいです。初期から難易度の高い患者が増えると、院長の負担が跳ね上がり、外来も同時に荒れます。
提供エリアと移動設計
訪問診療は移動がボトルネックです。まずは「片道15〜20分圏内」を仮の上限にし、曜日・時間帯でルートを固定します。移動が長いと、医師の稼働だけでなく、看護師・事務・車両費も効いてきます。ここを最初に決めると、後の採用と請求が設計しやすくなります。
収益モデルと損益分岐点の考え方
訪問診療の収益は、単純な「訪問件数」だけで決まりません。経営で見るべきは、(1)医師稼働(訪問に使える時間)、(2)1患者あたりの管理負荷、(3)連携業務(電話・カンファ・書類)の時間、(4)請求の正確性です。
損益分岐点は「患者数」ではなく「稼働の設計」で決まる
訪問診療の損益分岐点は、次の変数で大きく動きます。
- 固定費:医師・看護師・事務の人件費、車両・保険、ICT、事務所費
- 変動費:ガソリン、消耗品、委託(夜間対応やコール)、外注レセ
- 供給力:医師1名あたりの訪問枠(移動を含む)、週あたりの稼働日数
目安として、訪問ルートが安定するまでは「1日あたりの訪問枠を詰め過ぎない」方が結果的に利益が残ります。理由は、記録・連携・請求の手戻りが減り、未収や返戻のコストが下がるからです。請求精度は利益率そのものと捉えてください。
体制モデルの比較(自院完結型 vs 連携型)
| 項目 | 自院完結型(内製比率高) | 連携型(外部連携活用) |
|---|---|---|
| 強み | 品質統一、院内判断が速い | 立ち上げが速い、負荷分散 |
| 弱み | 採用難の影響が直撃 | 連携調整コストが増える |
| 向くケース | 医師・看護師を確保できる | 外来中心で段階参入したい |
| 経営の論点 | 人件費配分とKPI管理 | 委託費と責任分界の明確化 |
どちらが正解というより、地域資源(訪看・薬局・病院)と採用環境に合わせ、最初は連携型で入り、徐々に内製化する設計が取りやすい印象です。
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立ち上げ手順(体制・運用・請求)
訪問診療は、医療と事務の「同時立ち上げ」です。後回しにすると、初月から返戻・算定漏れ・クレームが発生しやすくなります。
Step 1: サービス範囲を決める(提供価値の言語化)
- 対象患者(疾患・重症度・受入条件)
- 提供場所(居宅中心か、施設も含むか)
- 緊急対応の方針(院内対応/連携先への橋渡し)
Step 2: 体制を決める(当番・連絡線・バックベッド)
- 24時間対応の運用(当番表、一次受け、折返し基準)
- 連携病院・後方支援の取り決め(紹介・入院ルール)
- 訪看・薬局との情報共有(ICT・定例カンファ)
Step 3: オペレーションを作る(テンプレ・チェックリスト)
- 初回面談〜同意書、家族説明のテンプレ
- 訪問後の記録テンプレ(SOAP等)と連携文書の型
- 予定表(ルート)と緊急差し込みのルール
Step 4: 請求と経営管理を設計する(KPIを3つに絞る)
- KPI例:訪問枠稼働率、返戻率、連携工数(電話・カンファ時間)
- 原価区分:人件費(医師/看護/事務)、車両費、委託費、ICT費
- 月次:患者数ではなく「稼働と品質」の指標で見直す
注意点とリスク管理(24時間対応・連携・品質)
訪問診療は、医療安全と経営リスクが近い領域です。リスクは大きく3つに整理できます。
1) 医療提供体制のリスク(オンコール疲弊)
院長1名に依存すると、3〜6か月で限界が来やすいです。夜間対応を平準化し、連携先(在宅療養支援診療所・病院、訪看)と役割分担を明確にします。「誰が、いつ、何を判断するか」を決めるだけで負荷は大きく下がります。
2) 連携のリスク(紹介が止まる)
紹介が止まる主因は「医療内容」より、連携相手が困る運用です。具体的には、返信が遅い、情報が揃わない、急変時の方針が共有されていない、です。地域の信頼は積み上げ型なので、最初から連携品質(レスポンスと情報整理)をKPIに入れることを推奨します。
3) 請求・記録のリスク(返戻・指摘・未収)
在宅領域は算定要件の理解と記録が不可欠です。請求は「作業」ではなく「品質管理」と捉え、院内でダブルチェック(医師⇄事務)を置くと安定します。外注レセを使う場合も、責任の所在と確認手順を決めておくことが重要です。
よくある質問
Q: 外来が忙しい内科でも、訪問診療は始められますか?
A:
可能です。ただし「週1日だけ」「特定エリアだけ」など、提供範囲を絞って段階参入するのが現実的です。外来のピーク時間帯と訪問ルートを分離し、院内の予約・導線も合わせて見直すと両立しやすくなります。Q: 施設を中心にした方が採算は良いのでしょうか?
A:
一概には言えません。施設は移動効率が良い一方で、同一建物内の患者数や運用条件により管理負荷や収益構造が変わります。開始時は「居宅で運用を固めつつ、施設は条件が合うところから小さく」進めると失敗しにくいです。Q: 24時間対応が不安です。最低限、何から整備すべきですか?
A:
一次受けの窓口、エスカレーション基準、緊急時の連携先(後方病院・訪看)をセットで整備してください。加えて、患者・家族への説明(できること/できないこと)を文書化すると、夜間のトラブルが減ります。まとめ
- 内科の訪問診療は「対象患者像」と「提供範囲」を先に絞ると失敗しにくい
- 収益は訪問件数より、稼働設計・連携工数・請求精度で大きく変わる
- 立ち上げは体制・運用・請求を同時に設計し、手戻りを減らす
- 24時間対応は属人化させず、一次受け・基準・連携先を文書化する
- 地域連携の品質(レスポンスと情報整理)が紹介の継続を左右する
参照ソース
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251538.pdf
- 厚生労働省「かかりつけ医機能の確保に関するガイドライン」: https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001508105.pdf
- e-Gov パブリックコメント関連資料(かかりつけ医機能・在宅医療等): https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000286295
※免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としています。診療報酬の算定や運用設計は個別の状況により異なりますので、最新資料の確認および専門家への相談を前提に判断してください。
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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