
執筆者:辻 勝
会長税理士
診療報酬改定後の融資相談|銀行へ説明すべき数字

診療報酬改定の個別相談
この記事の内容を、自院の算定・収支に落とし込む相談をする
疑義解釈、届出期限、レセプト運用、収入見込みへの反映を税務・経営面から整理します。
改定後の融資相談では、制度説明より数字説明が重要です
診療報酬改定後にクリニックが融資や借換を相談する場合、金融機関は制度の細部よりも、売上、利益、返済余力、資金繰りを見ます。院長にとって問題になるのは、改定による増収見込みをどのように説明し、返戻や人件費増のリスクをどう織り込むかです。
金融機関向けの説明は、診療報酬の点数表ではなく、事業計画と資金繰り表に翻訳する必要があります。辻総合会計グループでは、改定後の数字を融資相談、借換、設備投資判断に使える形へ整理する支援を行っています。

銀行に説明すべき5つの数字
金融機関へ説明する際は、改定項目そのものより、収益と返済余力への影響を数字で示します。
| 数字 | 説明する内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 改定前売上 | 基準となる収益力 | 季節要因を補足する |
| 改定後売上見込み | 点数・患者数の変化 | 楽観だけにしない |
| 返戻・査定見込み | 入金ズレのリスク | 実績があれば示す |
| 人件費増 | 賃上げ・採用影響 | 利益率への影響を見る |
| 返済余力 | 借入返済可能額 | 税引後・生活費後で見る |
増収見込みだけを強調すると、金融機関からは保守性が弱いと見られることがあります。悪化シナリオも併記する方が説明しやすくなります。
説明資料を作る手順
Step 1: 改定前の基準月を決める
まず、改定前の月次売上、患者数、利益、人件費率を整理します。前年同月と直近平均を併記すると、季節変動の説明がしやすくなります。
Step 2: 改定後の影響を3パターンで置く
標準、保守、改善の3パターンで売上と利益を置きます。保守シナリオでは、返戻や算定開始遅れ、人件費増も入れておきます。なお、3パターンや3か月後の見直しは、金融機関説明のための経営管理上の目安であり、診療報酬上の要件ではありません。
Step 3: 資金繰り表に接続する
融資相談では損益計算書だけでは不十分です。保険請求から入金までの時間差、賞与、納税、設備投資、借入返済を含めた資金繰り表を用意します。
Step 4: 借入目的を明確にする
運転資金なのか、設備投資なのか、借換なのかで説明は変わります。借入目的と返済原資を同じ資料で示すと、金融機関との対話が進みやすくなります。
税理士が関与する意味
税理士が金融機関の審査を保証することはできません。しかし、月次試算、資金繰り表、返済計画、改定影響の説明資料を整えることはできます。特に診療報酬改定後は、院長の感覚と会計数字にズレが出やすいため、第三者が数字を整える意義があります。
辻総合会計グループでは、診療報酬改定による収益変化を、資金繰り、借換、設備投資、人件費計画へつなげて確認します。金融機関へ説明する前に、自院の数字を院長自身が理解できる状態にすることが大切です。
金融機関が知りたいのは「返せるか」です
金融機関との面談で、診療報酬改定の専門的な内容を長く説明しても、審査上の評価につながりにくいことがあります。金融機関が最も知りたいのは、改定後も安定して返済できるか、資金使途が明確か、保守的な計画になっているかです。
そのため、説明資料では制度名を並べるより、売上、利益、返済余力、資金残高、返戻リスクを数字で示します。銀行説明では、制度資料を事業計画に翻訳することが重要です。
面談前に整える資料
金融機関へ持参する資料は、決算書、直近試算表、資金繰り表、借入返済予定表、改定後の収支シミュレーション、設備投資の見積書です。可能であれば、改定前後の患者数、患者単価、返戻額も添付します。
3つのシナリオで説明する
融資相談では、標準シナリオだけでなく、保守シナリオと改善シナリオを用意します。標準シナリオでは現時点の見込みを置き、保守シナリオでは患者数減少、返戻増、人件費増を入れます。改善シナリオでは、院内運用が安定した場合の収益を示します。
金融機関は、楽観的な計画よりも、悪化した場合にどう対応するかを見ています。保守シナリオでも返済できることを示せれば、説明の説得力は高まります。
DSCRに近い考え方
専門用語を使う必要はありませんが、年間返済額に対して、税引後利益と減価償却費などでどの程度返済原資があるかを見る視点は重要です。院長自身も、毎月いくらまでなら返済できるかを把握しておく必要があります。
改定後の借換で注意すること
借換は金利を下げる目的だけでなく、返済期間を整える、短期資金を長期化する、設備投資資金を追加する目的でも検討されます。ただし、借換で一時的に資金繰りが楽になっても、収益構造が改善していなければ問題は先送りになります。
辻総合会計グループでは、借換相談の前に、月次試算と資金繰り表を確認し、診療報酬改定による収益影響を保守的に置くことを重視しています。金融機関に見せるためだけの資料ではなく、院長が経営判断するための資料にすることが大切です。
説明しておきたいリスク
返戻増、患者数減少、採用費増、賞与支給、納税、設備更新は、資金繰りを圧迫します。これらを隠すのではなく、想定リスクとして説明し、対応策を示す方が信頼されやすくなります。
面談後のフォロー
金融機関面談後は、追加資料の依頼が来ることがあります。試算表、資金繰り表、見積書、納税状況、社会保険料の支払状況などをすぐ出せるようにしておきます。改定後の実績が出たら、初回入金後や3か月後に更新資料を提出すると、継続的な関係づくりにもつながります。
金融機関向け資料で避けたいこと
金融機関向け資料では、根拠のない楽観計画を避けます。診療報酬改定で増収が見込める場合でも、対象患者数、算定回数、開始時期、返戻リスクを示さなければ、説得力は弱くなります。また、補助金や新規算定を前提にした投資計画では、入金時期のズレにも注意が必要です。
金融機関は増収の可能性だけでなく、下振れした場合の返済力を見ているため、保守的な計画を併記することが大切です。
院長が自分で説明できる状態にする
資料を税理士や会計事務所が作ったとしても、面談で説明するのは院長です。売上が増える理由、資金使途、返済原資、リスク対応を院長自身が話せるようにしておきます。専門用語を並べるより、月次の数字で説明できる方が伝わりやすくなります。
辻総合会計グループでは、金融機関に見せるためだけではなく、院長が自院の資金繰りを理解するための資料作成を重視しています。
実務で迷ったときの判断基準
実務で迷ったときは、制度上の可否、院内での再現性、経営数字への影響を分けて確認します。制度上できることでも、記録や説明が追いつかない場合は、すぐに全件へ広げない方がよいことがあります。反対に、収益影響が小さく見える項目でも、返戻や個別指導リスクを下げる意味で優先すべき場合があります。
院長が最終判断をする際は、医師、医療事務、看護師、経理、税理士がそれぞれ見ている論点を1枚にまとめます。辻総合会計グループでは、こうした論点整理を通じて、制度対応を単なる事務作業ではなく、収支改善とリスク管理の両方につながる取り組みとして扱います。
院内共有時に残しておきたい資料
この記事の内容を院内で使う場合は、判断の根拠を後から確認できるようにします。参照した公式資料、院内で決めた運用、担当者、確認日、次回見直し予定を残しておくと、担当者が変わっても同じ前提で確認できます。特に診療報酬改定直後は、追加資料や訂正が出ることがあるため、資料の版管理が重要です。
また、院内共有では専門用語を減らし、受付、医療事務、看護師、医師、経理がそれぞれ何をするかに分けて伝えます。制度説明だけでなく、月次数字へどう影響するかまで共有すると、改定対応が現場任せになりにくくなります。
よくある質問
Q: 改定で増収予定なら融資は通りやすくなりますか?
Q: 金融機関には疑義解釈資料も見せるべきですか?
Q: 借換相談はいつ始めるべきですか?
まとめ
- 金融機関には制度説明より、売上・利益・返済余力を説明する
- 標準、保守、改善の3シナリオを用意する
- 損益だけでなく資金繰り表まで作る
- 借入目的と返済原資を明確にする
参照ソース
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
- 厚生労働省「個別改定項目について(令和8年2月13日)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf
- 厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001678310.pdf
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71068.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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