
執筆者:辻 光明
代表税理士
採用基準の作り方|中小企業が最初に決める5項目

結論:中小企業の採用基準は「よい人」ではなく5項目で先に決める
中小企業の採用基準は、面接で会ってから考えるものではありません。求人票を出す前に、任せる業務、必須条件、入社後に教えられる範囲、面接で確認する質問、入社後30日で見る行動を先に決めます。
採用基準があいまいなまま面接をすると、話しやすい人、経験が多く見える人、条件が合いそうな人を感覚で選びがちです。その結果、入社後に「思っていた仕事と違う」「教える前提がずれていた」「評価の仕方が人によって違う」というミスマッチが起きます。
| 最初に決める項目 | 決める内容 | 面接での使い方 |
|---|---|---|
| 任せる業務 | 何を初月から任せ、何を後で教えるか | 過去経験を職務場面に置き換えて聞く |
| 必須条件 | 入社時点で必要な経験・資格・勤務条件 | 求人票と書類選考で確認する |
| 教えられる範囲 | 入社後に教育できる仕事とできない仕事 | 未経験可の線引きを明確にする |
| 面接質問 | 基準ごとに聞く質問 | 面接官ごとの判断ぶれを減らす |
| 30日フォロー | 入社後に再確認する行動 | 採用判断と定着支援をつなげる |
厚生労働省は、公正な採用選考について、応募者の基本的人権を尊重し、適性・能力に基づく基準で行うことを示しています。採用基準を作る目的は、応募者を狭くふるい落とすことではなく、職務に関係する基準を明確にし、面接と採用記録を一貫させることです。

1. 任せる業務を「初日・30日・90日」に分ける
採用基準の最初は、人物像ではなく業務です。入社初日から任せる業務、30日以内に任せたい業務、90日後に期待する業務を分けます。
| 期間 | 決めること | 採用基準への落とし込み |
|---|---|---|
| 初日 | すぐ任せる作業、使うシステム、相談先 | 必須経験や最低限のPCスキル |
| 30日 | 一人で進めてほしい作業 | 学習姿勢、確認行動、報連相 |
| 90日 | 改善提案や顧客対応まで期待するか | 主体性、判断範囲、チーム連携 |
たとえば事務職でも、「入力だけ」なのか「顧客対応も含む」のかで基準は変わります。営業職でも、「新規開拓」なのか「既存顧客フォロー」なのかで見るべき行動は違います。
2. 必須条件と歓迎条件を分ける
求人票でよくある失敗は、必須条件と歓迎条件が混ざることです。必須条件を増やしすぎると応募が減り、歓迎条件を必須のように面接で扱うと判断がぶれます。
| 区分 | 例 | 判断のしかた |
|---|---|---|
| 必須条件 | 勤務時間、通勤条件、資格が法令上必要な業務 | 満たさない場合は採用困難 |
| 入社後に教えられる条件 | 社内システム、業界用語、手順 | 学習姿勢と確認行動を見る |
| 歓迎条件 | 類似業務経験、特定ソフト経験、マネジメント経験 | 加点要素として扱う |
| 不要な条件 | 職務に関係しない属性や私生活情報 | 採用基準に入れない |
厚生労働省は、応募書類や面接で就職差別につながるおそれのある事項を含めないことを示しています。採用基準は、職務遂行に必要な適性・能力に関係するものに絞ります。
3. 教えられる範囲を決める
「未経験可」と書く場合でも、すべてを教えられるとは限りません。中小企業では教育担当者が限られるため、教えられる範囲と、入社時点で持っていてほしい力を分けます。
| 項目 | 入社後に教えやすい | 入社前に確認したい |
|---|---|---|
| 業務手順 | 社内ルール、チェックリスト、システム操作 | 手順を守る姿勢 |
| 業界知識 | 用語、取引先の特徴、社内資料 | 分からないことを質問できるか |
| 対人対応 | 自社の言い回し、報告ルール | 相手に合わせた説明経験 |
| 数字管理 | 管理表の入力方法 | 数字や期限を確認する習慣 |
未経験採用では、経験の有無よりも、学び方、質問の仕方、メモの取り方、確認行動を見ます。
4. 面接質問を基準ごとに作る
採用基準は、面接質問に変換して初めて使えます。「責任感がありますか」「コミュニケーションは得意ですか」と聞くより、過去の行動を職務場面に置き換えて聞きます。
| 採用基準 | 避けたい質問 | 使いやすい質問 |
|---|---|---|
| 確認行動 | 細かい作業は得意ですか | 書類や入力内容のミスを防ぐために何をしていましたか |
| 報連相 | 相談できますか | 判断に迷った時、誰に何を伝えて相談しましたか |
| 学習姿勢 | 覚えるのは早いですか | 未経験の作業を覚えた時、どのようにメモや復習をしましたか |
| 対人対応 | 人と話すのは好きですか | 急いでいる相手や不安な相手に対応した経験はありますか |
| 改善姿勢 | 主体性はありますか | 作業のやり方を見直した経験はありますか |
適性検査を使う場合も、結果を合否判定に直結させるのではなく、面接で確認する質問に変換します。
5. 採用記録と30日フォローに残す
採用基準は、採用した後にも使います。面接で気になった点を、入社後30日の確認項目に変えると、早期離職や認識違いを減らしやすくなります。
| 面接で見えたこと | 採用記録の書き方 | 30日フォロー |
|---|---|---|
| 確認行動に不安がある | 入力確認の手順説明と復唱経験を確認 | チェックリスト運用を1週目に確認 |
| 報連相はできそう | 判断に迷った時の相談経験あり | 相談先と報告タイミングを初日に共有 |
| 学習量に不安がある | 未経験業務のメモ作成経験を確認 | 1週間ごとに学習範囲を区切る |
| 対人対応は経験あり | クレーム一次対応の経験あり | 対応後の共有ルールを決める |
採用記録は、印象ではなく職務に関係する行動で残します。不採用理由にする場合も、採用後の教育項目にする場合も、同じ基準で説明できるようにします。
採用基準シートの最小フォーマット
最初は、次のような簡単な表で十分です。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 募集職種 | 事務、営業、受付、経理補助など |
| 初日から任せる業務 | 入力、受付、電話一次対応、資料整理 |
| 30日以内に任せる業務 | 顧客連絡、月次資料整理、会計補助 |
| 必須条件 | 勤務時間、PC基本操作、必要資格 |
| 教えられること | 社内システム、業界用語、手順 |
| 面接で聞く質問 | 確認行動、報連相、学習姿勢の質問 |
| 30日フォロー | 1週目、2週目、30日面談の確認項目 |
辻総合会計グループでは、採用を人件費や求人広告費だけの問題ではなく、教育負担、給与設計、業務分担、バックオフィス体制まで含めて整理します。中小企業で採用基準が属人的になっている場合は、求人票、面接質問、適性検査、採用記録、入社後フォローを一つの流れにすることが重要です。
公正採用と個人情報の注意点
採用基準を作るときは、職務に関係する適性・能力に絞ります。家庭環境、思想信条、病歴など、職務遂行に必要な適性・能力と関係しない事項を採用判断に使わないようにします。
個人情報保護委員会は、病歴などの要配慮個人情報について、不当な差別や偏見その他の不利益が生じないよう、取扱いに特に配慮を要する個人情報として説明しています。ストレス耐性や健康面を推測するのではなく、職務場面での報連相、確認行動、優先順位、相談の仕方を確認します。
FAQ
Q: 採用基準は何項目くらい作ればよいですか?
Q: 適性検査は採用基準に入れてよいですか?
Q: 未経験者を採用するときの基準はどう作りますか?
Q: 面接官が複数いる場合はどうすればよいですか?
Q: 採用基準に入れてはいけないことはありますか?
参考資料
- 厚生労働省「公正な採用選考の基本」 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/basic.html
- 厚生労働省「事業主の皆様へ 採用選考の具体的な方法」 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/methods.html
- 厚生労働省「公正な採用選考に関するよくある質問」 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/question.html
- 厚生労働省「採用・選考時のルール」 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/saiyou_senkou_rule.html
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
- 個人情報保護委員会「要配慮個人情報とは」 https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq4-q011
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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