
執筆者:辻 光明
代表税理士
創業融資の自己資金はいくら必要?|税理士が解説

創業融資の自己資金は「必ず○万円」と決まっているわけではありません。結論としては、自己資金の額そのものよりも「どう貯めたか」「事業計画と整合しているか」が審査を左右します。とはいえ目安がないと準備が進まないため、本記事では“現実的に通りやすい水準”と、審査通過に直結する具体策を整理します。特に、これから創業する方にとっては「資金が足りない不安」と「計画の作り込み」が同時に課題になりやすい点に注意が必要です。
創業融資の自己資金はいくら必要?目安と考え方
自己資金は「必須要件」より「審査評価」の材料
日本政策金融公庫の創業支援(Q&A)では、自己資金は重要な要素の一つである一方、創業計画全体がしっかりしているかが重要とされています。目安として、公庫の調査では「創業資金総額に占める自己資金割合は平均2割程度」と示されています。
実務上の目安(割合)と見られ方
自己資金割合は、事業の特性(初期投資の重さ、粗利率、回収サイト、在庫の有無)で“妥当水準”が変わります。以下は、面談で説明しやすい一般的な整理です。
| 自己資金割合(目安) | 審査上の印象 | こう説明できると強いポイント |
|---|---|---|
| 0〜10% | 返済余力・準備状況の説明が必須 | 事前受注、契約書、確度の高い売上根拠、運転資金の圧縮策 |
| 20%前後 | 標準的。計画の整合が取れているかが焦点 | 自己資金の蓄積経緯、資金使途の明細、固定費の抑制 |
| 30%超 | 資金面の不安が小さくなりやすい | 追加投資計画、資金繰り安全余裕(月商の何か月分など) |
自己資金が少ないと不利になる理由
「返済原資」と「資金繰り耐性」を見られる
創業初期は想定どおりに売上が立たない期間が発生しがちです。その間も返済は始まるため、審査では返済原資(利益・キャッシュフロー)と、赤字でも持ちこたえる余力(運転資金の厚み)が重視されます。
「準備の質」を示すシグナルになる
自己資金は、単なるお金ではなく「計画的に準備してきたか」を示す材料です。通帳に一定期間の積立履歴があると、事業の準備姿勢が説明しやすくなります。逆に、直前に大きな入金があると“見せ金(見せかけの自己資金)”を疑われやすく、追加資料の提出や説明が必要になりがちです。
事業計画との整合が崩れると一気に弱くなる
自己資金が少ない場合にありがちな失敗は、「設備はフルスペックで揃える」「広告費を厚く積む」など、計画と資金が釣り合っていない状態です。審査では“夢”より“回る計画”が評価されます。
自己資金の作り方・証明方法
通帳で説明できる形にするのが基本
自己資金は「ある」と言うだけでは足りず、“出どころ”が説明できることが重要です。原則は、本人名義の口座に蓄積され、入出金の理由が追える状態です。審査面談での説明負担を減らすためにも、自己資金の「履歴」を整えておきましょう。
Step 1: 自己資金の範囲を整理する
- 生活費口座と分けた「事業準備口座」を作る(可能なら)
- 使える自己資金(現金・預金)と、使えない資金(資本金払込目的など制度上対象外になる可能性)を切り分ける
※日本政策金融公庫は事業資金(設備・運転)を融資対象とし、資本金払込は対象外である旨を示しています。
Step 2: 6か月〜1年程度の積立・移動履歴を整える
- 給与から毎月一定額を移す(定額の積立は説明しやすい)
- 臨時収入(退職金・贈与等)がある場合は、根拠資料(明細、契約書、贈与契約書等)を残す
Step 3: 「見せ金」疑義をつぶす資料を準備する
- 直前の大口入金は、入金理由と資金の帰属を説明できるようにする
- 借入で作った自己資金に見えないよう、借入契約や返済義務の有無を明確化する
(説明が難しい形は、審査上のストレスが増えます)
審査通過のポイントは「自己資金+事業計画+面談」の三位一体
1) 売上の根拠を「言い切れる」形にする
創業計画の売上は、願望ではなく“根拠の積み上げ”が必要です。例えば以下のように、説明可能な要素に分解します。
- 客単価:メニュー表、見積書、近隣相場
- 客数:席数・回転数、商圏、導線、予約見込み
- 成約率:既存人脈、事前受注、テスト販売実績
2) 固定費を抑え、損益分岐点を下げる
自己資金が少ないほど、赤字期間の耐性が弱く見えます。家賃、人件費、リース料など固定費を抑え、損益分岐点売上を下げる設計は、審査で非常に効きます。
3) 資金使途を「明細」で示す
「設備 〇〇万円」「運転 〇〇万円」だけでは弱く、見積書・契約書と紐づいた資金使途が必要です。特に運転資金は、何か月分の固定費・仕入・人件費なのかを明示すると説得力が上がります。
4) 面談では“数字の一貫性”を最優先する
面談で評価が上がるのは、流暢さよりも「計画の数字に一貫性があること」です。売上が未達でも回る資金繰り、返済開始後の資金残、最悪ケースの対応(コストカット順序)まで話せると強いです。
なお、日本政策金融公庫の創業期向け融資として「新規開業・スタートアップ支援資金」等があり、設備・運転の上限や返済期間など制度の枠組みが示されています。制度の前提に沿った資金設計(過大投資を避ける等)は、計画の納得感につながります。
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自己資金が足りない場合の代替策と注意点
代替策1:投資額を“段階投資”に落とす
最初から完璧な設備・内装を狙わず、開業後のキャッシュで増設する設計にすると、必要資金が下がり自己資金割合が上がります。審査面談でも説明しやすい打ち手です。
代替策2:運転資金を厚めに見積もる代わりに固定費を落とす
運転資金を積むほど融資希望額が増えます。そこで、家賃交渉・採用計画の見直し・外注活用などで固定費を圧縮し、「少ない資金でも回る」構造にします。
代替策3:認定支援機関等の支援を入れ、計画の信頼性を上げる
新規開業・スタートアップ支援資金の説明では、認定経営革新等支援機関(税理士等)の指導・助言を受けている場合に特別利率の対象となる要件が示されています。第三者関与は、計画の妥当性を補強する材料にもなります。
よくある質問
Q: 自己資金が少ない(またはゼロ)でも創業融資は通りますか?
A:
不可能ではありませんが、自己資金以外の裏付け(受注・契約・経験、固定費の低さ、資金繰り計画の堅牢性)がより厳しく見られます。特に運転資金の根拠と、売上の再現性を示す資料が重要です。Q: 親からの援助(贈与)は自己資金になりますか?
A:
なり得ます。ただし、贈与であること(返済義務がないこと)を説明できる資料が必要です。直前の大口入金は見せ金を疑われやすいため、時期と証憑を整えたうえで、入金理由を明確に説明できるようにしてください。Q: 事業計画書で一番見られるポイントは何ですか?
A:
「売上の根拠」「資金使途の明細」「資金繰り(返済開始後も回るか)」の3点です。数字の整合性が取れていると、自己資金が平均より少なくても前向きに評価される余地が広がります。まとめ
- 創業融資の自己資金は“固定の最低額”ではなく、計画全体の整合と準備状況で評価される
- 公庫の調査では自己資金割合の平均は2割程度が目安とされる
- 通帳の積立履歴と資金の出どころ説明が、審査・面談の負担を大きく減らす
- 審査通過は「自己資金+事業計画+面談」の三位一体で決まる
- 自己資金が足りない場合は、段階投資・固定費圧縮・第三者支援で計画の信頼性を高める
参照ソース
- 日本政策金融公庫「Q&A │ START 政策金融公庫の創業支援」: https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/faq/
- 日本政策金融公庫「創業融資のご案内」: https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/sogyoyushi.html
- 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」: https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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