
執筆者:辻 勝
会長税理士
診療報酬改定後の分院展開と医療法人化|判断基準

診療報酬改定の個別相談
この記事の内容を、自院の算定・収支に落とし込む相談をする
疑義解釈、届出期限、レセプト運用、収入見込みへの反映を税務・経営面から整理します。
改定後の分院展開は、点数より再現性を見ます
診療報酬改定後に分院展開や医療法人化を検討する場合、点数が上がった項目だけで判断するのは危険です。クリニックにとって重要なのは、本院で成立している診療モデルを分院でも再現できるか、施設基準や人員体制を維持できるか、資金繰りに耐えられるかです。
分院展開と法人化は、診療報酬改定の増収期待ではなく、継続運用できる収益構造で判断する必要があります。辻総合会計グループでは、改定後の収支試算を分院別会計、医療法人化、借入計画と合わせて検討します。

判断する4つの軸
分院展開や法人化は、税負担だけでなく、診療報酬、組織運営、資金繰り、承継まで含めて考えます。
| 判断軸 | 確認内容 | 失敗しやすい点 |
|---|---|---|
| 収益性 | 分院別の売上・利益 | 本院実績を過大に転用する |
| 施設基準 | 届出・人員・記録 | 分院ごとの要件確認漏れ |
| 人材 | 院長代理、看護師、事務長 | 採用難で稼働が遅れる |
| 資金繰り | 内装、機器、運転資金 | 初期赤字を見込まない |
本院で算定できる項目が分院でも当然に算定できるとは限らないため、施設基準と運用体制を分院単位で確認します。
検討手順
Step 1: 本院の利益構造を分解する
まず、本院の売上を診療科、管理料、検査、処置、在宅、自由診療などに分けます。どの収益が院長個人の診療力に依存しているかを見極めます。
Step 2: 分院で再現できる項目を選ぶ
分院で同じ患者層、同じスタッフ、同じ設備、同じ届出がそろうとは限りません。再現できる項目と、分院では難しい項目を分けて収支計画を作ります。
Step 3: 医療法人化の効果を別表で見る
法人化は節税だけでなく、分院展開、退職金、承継、資金調達、役員報酬設計に影響します。法人化の損益と分院投資の損益を混ぜないことが重要です。
Step 4: 資金繰りの谷を確認する
分院開設では、内装工事、医療機器、採用、広告、運転資金が先に出ます。保険診療収入の入金まで時間差があるため、開業後6か月程度の資金繰りを保守的に見ます。
改定後だからこそ注意すべき点
改定後は、収益項目の新設や変更に目が向きやすくなります。しかし、分院展開では新しい算定項目よりも、標準診療の安定、スタッフ教育、返戻抑制、分院別管理の方が重要になる場面が多いです。
辻総合会計グループでは、診療報酬改定の内容を踏まえつつ、分院別損益、医療法人化の税務、借入返済、院長報酬、承継まで一体で検討します。制度変更を投資判断のきっかけにする場合でも、数字は保守的に置くべきです。
分院展開の前に本院の標準化を見る
分院展開を検討する前に、本院の診療、受付、レセプト、会計、人事が標準化されているか確認します。本院が院長の個人技で成り立っている場合、分院では同じ収益を再現しにくくなります。
標準化されているかどうかは、スタッフが変わっても同じ運用ができるか、月次数字が分院別に出せるか、返戻やクレームが特定の担当者に依存していないかで判断します。分院展開の成否は、開設前の標準化でかなり決まります。
本院依存を見抜く質問
院長が不在の日に売上が大きく落ちる、特定スタッフがいないとレセプトが回らない、診療録や説明方法が医師ごとにばらつく場合は、分院展開前に標準化が必要です。診療報酬改定後は運用ルールも変わるため、このばらつきが大きくなりやすい点に注意します。
医療法人化の判断軸
医療法人化は、所得税と法人税の比較だけで判断しません。役員報酬、退職金、社会保険、分院展開、承継、資金調達、内部留保の使い方まで含めて検討します。診療報酬改定で収益構造が変わるタイミングでは、法人化後の利益水準を保守的に置く必要があります。
辻総合会計グループでは、法人化の税務メリットだけでなく、分院別損益、役員報酬設計、借入返済、承継可能性まで見ます。税負担が下がっても、管理コストや社会保険負担が増える場合があります。
法人化と分院の順番
法人化してから分院を出すのか、分院計画を固めてから法人化するのかは、地域、資金、承継方針、院長の年齢、家族構成によって変わります。どちらが常に正しいというものではありません。
投資回収期間を見る
分院開設では、内装、医療機器、採用、広告、運転資金が先行します。診療報酬改定で一部の収益が増えるとしても、初期投資を何年で回収できるかを見なければなりません。
投資回収期間は、売上ではなく営業利益とキャッシュフローで見ることが重要です。減価償却費、借入返済、税金、社会保険料まで含めると、見かけの利益と資金残高はずれます。
撤退条件も決めておく
分院展開では、成功条件だけでなく撤退条件も決めておくべきです。何か月連続で赤字なら見直すのか、患者数が何人を下回ったら広告や診療体制を変えるのか、院長が事前に決めておくと判断が遅れにくくなります。
改定後の資料更新
分院計画や法人化シミュレーションは、一度作って終わりではありません。改定後の初回請求、初回入金、3か月実績、半年実績で更新します。最初の計画と実績の差を確認し、設備投資や採用を前倒しするか、延期するかを判断します。
分院計画で先に決めるべきKPI
分院計画では、開設後に見るKPIを先に決めます。患者数、患者単価、紹介件数、予約稼働率、人件費率、広告費、返戻額、資金残高などです。開設してから指標を作ると、計画と実績の差を追いにくくなります。
分院は開設前から撤退条件と改善条件を決めることで、判断の遅れを防げます。例えば、院内管理上の一例として、6か月連続で患者数が計画比70%を下回る場合に広告施策を見直す、12か月経っても営業利益が黒字化しない場合に診療体制や人員配置を再設計する、といった基準を自院で決めます。
法人化後の管理コスト
医療法人化すると、会計、税務、社会保険、役員報酬、議事録、行政手続きなどの管理コストが増えます。税負担だけを見て法人化を判断すると、実務負担を見落とします。
辻総合会計グループでは、法人化と分院展開を検討する際、税負担、資金繰り、管理コスト、承継方針を同じ表で比較します。
実務で迷ったときの判断基準
実務で迷ったときは、制度上の可否、院内での再現性、経営数字への影響を分けて確認します。制度上できることでも、記録や説明が追いつかない場合は、すぐに全件へ広げない方がよいことがあります。反対に、収益影響が小さく見える項目でも、返戻や個別指導リスクを下げる意味で優先すべき場合があります。
院長が最終判断をする際は、医師、医療事務、看護師、経理、税理士がそれぞれ見ている論点を1枚にまとめます。辻総合会計グループでは、こうした論点整理を通じて、制度対応を単なる事務作業ではなく、収支改善とリスク管理の両方につながる取り組みとして扱います。
院内共有時に残しておきたい資料
この記事の内容を院内で使う場合は、判断の根拠を後から確認できるようにします。参照した公式資料、院内で決めた運用、担当者、確認日、次回見直し予定を残しておくと、担当者が変わっても同じ前提で確認できます。特に診療報酬改定直後は、追加資料や訂正が出ることがあるため、資料の版管理が重要です。
また、院内共有では専門用語を減らし、受付、医療事務、看護師、医師、経理がそれぞれ何をするかに分けて伝えます。制度説明だけでなく、月次数字へどう影響するかまで共有すると、改定対応が現場任せになりにくくなります。
よくある質問
Q: 改定で増収が見込めるなら分院を出すべきですか?
Q: 法人化と分院展開は同時に進められますか?
Q: 分院別会計は必要ですか?
まとめ
- 分院展開は点数ではなく再現性と資金繰りで判断する
- 施設基準は分院単位で確認する
- 法人化の効果と分院投資の効果を分けて見る
- 改定後の増収期待は保守シナリオで検証する
参照ソース
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
- 厚生労働省「個別改定項目について(令和8年2月13日)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf
- 厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001678310.pdf
- 厚生労働省「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱い」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001698339.pdf
- 厚生労働省「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱い」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001697759.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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