
執筆者:安田 駆流
社会保険労務士
診療科別KPIで見る診療報酬改定後の経営管理

診療報酬改定の個別相談
この記事の内容を、自院の算定・収支に落とし込む相談をする
疑義解釈、届出期限、レセプト運用、収入見込みへの反映を税務・経営面から整理します。
診療科別に見るKPIは同じではありません
診療報酬改定後のクリニック経営では、全診療科に同じKPIを当てはめると判断を誤ります。内科、整形外科、小児科、在宅医療、精神科では、患者単価、再診頻度、検査比率、人件費、記録負担が異なるためです。診療科別KPIは、改定項目と診療モデルを合わせて設計する必要があります。
院長が見るべき数字は、売上総額だけではありません。診療科ごとの患者数、単価、算定項目、返戻、スタッフ配置、予約枠、入金ズレを分けて確認すると、改定後の打ち手が見えやすくなります。辻総合会計グループでは、診療科別の収益構造を月次管理へ落とし込む支援を行っています。

診療科別に見る主なKPI
診療科ごとの経営指標は、診療内容と改定影響に合わせて変えます。
| 診療科・領域 | 主要KPI | 改定後の見方 |
|---|---|---|
| 内科 | 再診数、管理料、検査比率 | 生活習慣病管理と患者説明 |
| 整形外科 | リハ回数、検査、物療稼働 | 計画書・記録・人員配置 |
| 小児科 | 季節変動、処方、予防接種 | 保険外収入とのバランス |
| 在宅医療 | 訪問件数、移動時間、連携 | 施設基準と24時間体制 |
| 精神科 | 予約枠、オンライン対応、記録 | 対面歴・処方制限の確認 |
診療科別KPIは、増収項目を探すためだけでなく、運用負荷を見える化するためにも使うものです。
KPI設計の手順
Step 1: 診療科ごとの売上構成を出す
まず、月次売上を診療科・診療内容・算定項目別に分けます。複数診療科を標榜している場合、全体売上だけでは改善点が見えません。
Step 2: 改定影響がある項目を重ねる
次に、令和8年度改定や疑義解釈で影響がある項目を重ねます。新しい算定項目、要件変更、記録負担、施設基準をKPIに反映します。
Step 3: 人件費と稼働率を見る
増収しても、スタッフ増員や残業増で利益が残らないことがあります。予約枠、看護師配置、リハスタッフ稼働、医療事務の点検時間を合わせて見ます。
Step 4: 院長会議で見る指標を絞る
KPIを増やしすぎると運用されません。院長が毎月見る指標は、経営管理上の目安として5つから8つ程度に絞ると運用しやすくなります。
KPIを経営判断につなげる方法
KPIは見るだけでは意味がありません。例えば、内科で患者単価が上がっても、説明時間が増えて予約枠が詰まるなら、スタッフ配置や診療導線を見直します。整形外科でリハ件数が増えても、人員基準や計画書運用が追いつかないなら、返戻・指導リスクを確認します。
辻総合会計グループでは、診療科別KPIを月次試算、部門別損益、資金繰り、スタッフ配置と合わせて確認します。税理士が医学的判断を行うわけではありませんが、数字の変化を経営判断へ翻訳することは重要です。
KPIを診療科別に分ける理由
同じクリニックでも、診療科や診療内容によって利益の出方は大きく異なります。内科は再診管理や検査、整形外科はリハビリと画像検査、小児科は季節変動、在宅医療は移動時間と連携体制、精神科は予約枠と記録負担が重要になります。
診療科別に分けずに全体平均だけを見ると、好調な部門が不調な部門を隠すことがあります。全体売上が横ばいでも、診療科別には改善点が見えていることは少なくありません。
共通KPIと個別KPI
共通KPIとしては、患者数、患者単価、保険診療収入、人件費率、返戻額があります。個別KPIとしては、内科の管理料算定率、整形外科のリハ稼働率、小児科の予防接種比率、在宅医療の訪問件数、精神科の予約キャンセル率などが考えられます。
ダッシュボードを作る手順
最初から高度なBIツールを使う必要はありません。月次試算表、レセプト集計、予約システム、給与台帳から、毎月同じ項目を表にするだけでも十分です。重要なのは、毎月同じ定義で見ることです。
辻総合会計グループでは、診療科別KPIを作る際、会計科目と診療報酬項目を無理に細かく分けすぎないようにしています。細かすぎる管理は続かず、院長の判断に使われにくくなるためです。
KPIの見直し頻度
改定直後は毎月確認し、3か月程度で一度見直します。安定してきたら、月次では主要指標だけを見て、詳細は四半期ごとに確認する方法もあります。スタッフに入力負担をかけすぎないことも大切です。
診療科別の改善アクション
KPIは改善アクションとセットで設計します。内科で管理料算定率が低ければ、説明資料や予約導線を見直します。整形外科でリハ稼働率が低ければ、予約枠、スタッフ配置、キャンセル対応を確認します。在宅医療で移動時間が長ければ、訪問エリアやルートを見直します。
KPIは評価表ではなく、次の行動を決めるための道具です。スタッフを責めるために使うと、正確な数字が集まりにくくなります。院内改善の共通言語として使うことが重要です。
赤字部門をどう見るか
診療科別や部門別に見ると、一部が赤字に見えることがあります。ただし、赤字だからすぐやめるとは限りません。集患効果、患者満足、他部門への送客、地域医療上の役割、将来の成長性も考慮します。会計上の赤字と経営上の必要性を分けて判断します。
税理士とKPIを共有する意味
税理士にKPIを共有すると、月次試算だけでは見えない診療現場の変化を会計数字に結び付けやすくなります。患者数が減っているのに売上が維持されている場合、単価上昇なのか、算定項目の変化なのか、保険外収入なのかを確認できます。
診療報酬改定後は、制度変更と現場運用が同時に動きます。診療科別KPIを使えば、どの診療内容で改善が起き、どこで負荷が増えているかを早めに把握できます。
KPIをスタッフ評価と混同しない
診療科別KPIは、スタッフを評価するためだけのものではありません。むしろ、院内の仕組みや診療導線を改善するための共通言語です。数字が悪いから担当者が悪いと捉えると、現場から正確な情報が上がりにくくなります。
例えば、返戻が増えた場合、担当者の入力ミスだけでなく、医師の記録、受付時の確認、レセコン設定、マニュアル未整備が原因かもしれません。KPIは原因を分解するために使うことが大切です。
診療科別KPIを会計に接続する
診療科別KPIを作ったら、月次試算や部門別損益に接続します。患者数や単価が変わっても、利益が増えていなければ、材料費、人件費、外注費、設備費を見ます。逆に利益が出ていても、院長やスタッフの負担が過大であれば、持続可能とは言えません。
辻総合会計グループでは、診療科別の現場指標と会計数字をつなげ、院長が次の投資、採用、診療体制を判断できる状態にすることを重視しています。
実務で迷ったときの判断基準
実務で迷ったときは、制度上の可否、院内での再現性、経営数字への影響を分けて確認します。制度上できることでも、記録や説明が追いつかない場合は、すぐに全件へ広げない方がよいことがあります。反対に、収益影響が小さく見える項目でも、返戻や個別指導リスクを下げる意味で優先すべき場合があります。
院長が最終判断をする際は、医師、医療事務、看護師、経理、税理士がそれぞれ見ている論点を1枚にまとめます。辻総合会計グループでは、こうした論点整理を通じて、制度対応を単なる事務作業ではなく、収支改善とリスク管理の両方につながる取り組みとして扱います。
よくある質問
Q: 小規模クリニックでも診療科別KPIは必要ですか?
Q: KPIは毎月どこまで細かく見るべきですか?
Q: 診療報酬改定後のKPIはいつ見直しますか?
まとめ
- 診療科別KPIは診療モデルごとに変える
- 売上だけでなく、記録負担、人員配置、返戻も見る
- 院長が毎月見る指標は、経営管理上の目安として5つから8つ程度に絞る
- KPIは月次試算と部門別損益につなげる
参照ソース
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
- 厚生労働省「個別改定項目について(令和8年2月13日)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf
- 厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001678310.pdf
- 厚生労働省「2026年度 外来医療、在宅医療、リハビリテーション医療の影響評価に係る調査 実施説明資料」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001684568.pdf
この記事を書いた人

安田 駆流
社会保険労務士
社会保険労務士
税理士法人 辻総合会計グループの社会保険労務士。就業規則、雇用契約、勤怠・給与計算まわりの労務実務を担当し、クリニック・中小企業の職場ルール整備を支援する。
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