
執筆者:安田 駆流
採用・労務コンサルタント
クリニック給与計算の基本|総支給額から手取りまでの確認手順【2026年版】

結論:給与計算は「勤怠確定→総支給額→控除→手取り」の順番で固定する
クリニックの給与計算は、総支給額から社会保険料、源泉所得税、住民税などを差し引いて、最終的な手取り(差引支給額)を確定する月次業務です。重要なのは、計算式を覚えることよりも、毎月同じ順番で確認できる状態を作ることです。
特に診療所では、常勤スタッフ、パート、時給制、固定残業なしの残業代、通勤手当、入退職、扶養変更が同じ月に混ざりやすくなります。給与計算を安定させるには、締日前後に見る項目を表にして、誰が確認しても同じ結果になるようにしておく必要があります。
給与計算で使う3つの金額
まず、給与明細で混同しやすい3つの金額を分けます。
| 金額 | 意味 | クリニックで確認する資料 |
|---|---|---|
| 総支給額 | 基本給、時給、残業代、手当など支給項目の合計 | 雇用契約書、シフト、勤怠、手当一覧 |
| 控除合計 | 社会保険料、所得税、住民税、社内控除など天引き項目の合計 | 保険料額表、源泉徴収税額表、住民税通知、控除申請 |
| 差引支給額 | 総支給額から控除を差し引いた振込額 | 給与明細、振込データ |
「総支給額が合っているか」と「控除が合っているか」は、見る資料が違います。支給額は勤怠・契約、控除は料額表・税額表・通知書を根拠に確認します。
月次の確認手順
1. 締日までの勤怠を確定する
最初に確認するのは、出勤日、欠勤、有給、残業、休日勤務、深夜時間、遅刻早退です。タイムカードや勤怠システムの打刻だけでなく、休憩控除やシフト変更の反映漏れを確認します。
クリニックでは、受付終了後の残業、月末のレセプト対応、急なスタッフ交代が給与に影響しやすいです。締日後に勤怠修正が出ると、給与計算全体が差し戻しになります。
2. 支給項目を確定する
次に、基本給、時給、残業代、役職手当、資格手当、通勤手当などを整理します。通勤手当は税務上の非課税限度額の確認が必要になるため、「支給しているから全額同じ扱い」とは考えない方が安全です。
3. 社会保険料を確認する
健康保険・厚生年金保険は、標準報酬月額や保険料額表に基づいて控除します。日本年金機構は令和8年度版の厚生年金保険料額表を公開しており、2026年4月以降の料額表確認も必要です。
パート・アルバイトについても、2024年10月から従業員数51~100人の企業等で社会保険の適用が広がっています。週所定労働時間、月額賃金、雇用見込み、学生区分などを、給与計算前に労務側で確認しておく必要があります。
4. 源泉所得税を確認する
源泉所得税は、社会保険料等控除後の給与額と扶養親族等の数をもとに、国税庁の源泉徴収税額表で確認します。2026年支払分では、令和8年分の給与所得の源泉徴収税額表を確認します。
甲欄・乙欄は、扶養控除等申告書の提出有無で扱いが変わります。入職時に申告書が未回収のまま給与計算を始めると、後で税額修正や従業員説明が必要になります。
5. 住民税を確認する
住民税は、市区町村から届く特別徴収税額通知に基づいて控除します。通常は6月から翌年5月までの月割額で控除しますが、入退職、転職、税額変更通知があると月額が変わります。
6. 振込前に差引支給額を確認する
最後に、給与明細の差引支給額と振込データが一致しているかを確認します。支給日前に見るべきなのは、個別の計算式だけではありません。前月から大きく変わった人がいないか、控除額が0円や二重控除になっていないか、退職者が振込データに残っていないかも確認します。
締日前後のチェックリスト
| タイミング | 確認項目 | 見落とすと起きること |
|---|---|---|
| 締日前 | 入退職、扶養変更、住所変更、通勤経路変更 | 控除や住民税、通勤手当の修正漏れ |
| 締日直後 | 打刻漏れ、休憩、残業、休日勤務 | 残業代や欠勤控除の誤り |
| 計算後 | 社会保険料、源泉所得税、住民税 | 手取り差異、年末調整時の過不足 |
| 支給前 | 明細、振込データ、退職者・休職者 | 誤振込、明細説明の混乱 |
| 支給後 | 前月差異、問い合わせ内容、修正履歴 | 同じミスの再発 |
この表を毎月使うと、給与計算を「担当者の記憶」から「院内の手順」に変えられます。
クリニックでミスが出やすいポイント
パートの社会保険加入判定
週20時間以上30時間未満、月額8.8万円以上、2か月を超える雇用見込み、学生ではないなど、短時間労働者の要件を確認します。給与計算担当だけで判断せず、雇用契約やシフト設計と合わせて見る必要があります。
通勤手当と課税区分
通勤手当は、一定の範囲で非課税となる扱いがあります。支給額を給与計算ソフトに入れるだけでなく、課税・非課税の区分が合っているかを確認します。
住民税の異動
退職、転職、税額変更通知があると、特別徴収の控除額が変わります。退職者の住民税を普通徴収に切り替えるのか、一括徴収するのかは、退職時期や本人説明にも関係します。
前月との差異説明
スタッフから一番聞かれるのは「手取りがなぜ変わったのか」です。残業時間、社会保険料、住民税、扶養変更、欠勤控除など、前月との差異理由をメモしておくと説明が速くなります。
外注や無料お試しを使う前に整理する資料
給与計算を外部に任せる場合でも、院内で整理すべき資料は残ります。次の4点が揃っていないと、外注しても確認往復が増えます。
| 資料 | 内容 | 確認者 |
|---|---|---|
| 勤怠データ | 出勤、休憩、残業、欠勤、有給 | 事務長・現場責任者 |
| 従業員情報 | 氏名、住所、扶養、雇用形態、通勤手当 | 院長・経理担当 |
| 前月給与資料 | 前月明細、控除額、差異理由 | 経理担当 |
| 変更一覧 | 入退職、手当変更、住民税通知、社保変更 | 労務担当・外部専門家 |
給与計算代行の1カ月無料お試しを使う場合も、まずはこの4点を出せるかで判断すると、継続時の運用イメージが見えやすくなります。
FAQ
Q: 総支給額と手取りはどう違いますか?
Q: 給与計算で最初に確認すべき資料は何ですか?
Q: パートでも社会保険料の控除が必要ですか?
Q: 源泉所得税は毎月同じ金額ですか?
Q: 給与計算を外注すれば院内確認は不要になりますか?
参考資料
- 厚生労働省「賃金の支払方法に関する法律上の定めについて」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei05.html
- 国税庁「給与所得の源泉徴収税額表(令和8年分)」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2026/data/01-07.pdf
- 日本年金機構「保険料額表(令和2年9月分~)」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/ryogaku/ryogakuhyo/20200825.html
- 厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」 https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/
この記事を書いた人

安田 駆流
採用・労務コンサルタント
社会保険労務士
税理士法人 辻総合会計グループの社会保険労務士。採用後トラブルの予防、就業規則、雇用契約、勤怠・給与計算まわりの労務実務を支援している。
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