
執筆者:辻 光明
代表税理士
基礎控除引き上げでパート人件費はどう変わる?2026配置計画|税理士が解説

結論:税の「壁」は上がるが、企業のコスト判断は「社保」が主戦場になる
2026年の配置計画で押さえるべき要点は、「基礎控除引き上げ等で、所得税・扶養判定のラインが上がり、パートの就業調整が緩みやすい一方、企業にとっての追加コストは社会保険加入ラインで一気に増える」という点です。財務省・国税庁の資料では、物価上昇への対応として基礎控除や給与所得控除の見直しが示されています。結果として、手取りの感覚が変わり、シフト希望が動きやすくなります。
一方で、企業側の人件費は「時給×時間」だけでなく、社会保険料の会社負担、事務負担、雇用安定施策(助成金活用含む)を踏まえた設計が必要です。税理士法人 辻総合会計では、クリニック・中小企業での人件費設計や年末調整実務の相談を多く受けており、2026年は「壁の再設計」を前提にした配置計画が有効だと考えています。
基礎控除引き上げとは:2026年に何が変わるのか(所得税の基本)
所得税は「収入」から各種控除を差し引いて課税所得を計算します。ここで重要なのが、誰でも基本的に使える基礎控除と、給与所得者の必要経費に相当する給与所得控除です。
国税庁の解説では、合計所得金額に応じた基礎控除額が見直され、低〜中所得層で控除額が増える枠組みが示されています。また給与所得控除も、低い収入帯の最低保障額が引き上げられています。これらはパート・アルバイトの「税がかかり始めるタイミング」や、「扶養に入れるかどうか」の判定に直結します。
企業への影響:パート人件費は増える?減る?(税と社保を分けて考える)
結論として、企業の人件費が増えるかどうかは「税」ではなく「社保」の壁を超える配置になるかで決まります。
- 税の壁(扶養・所得税)は、従業員本人の手取りや世帯の税負担に影響しやすい
- 社保の壁(106万円・130万円等)は、従業員本人の手取りに加え、会社負担(保険料)を発生させやすい
つまり、基礎控除引き上げ等で「税の壁」が上がるほど、従業員が働く時間を増やしやすくなり、結果として「社保の壁」に到達する人が増える可能性があります。ここが、2026年の配置計画で人件費がブレる最大要因です。
ざっくり比較:2026年に意識されやすい壁の整理(給与収入のみのイメージ)
| 論点 | 従来の典型ライン(目安) | 2026年に意識が移りやすい方向性 | 企業コストへの直撃度 |
|---|---|---|---|
| 税法上の扶養(所得要件) | 「103万円」付近が定番 | 扶養ラインが上方に動きやすい(就業調整が緩む) | 低(主に世帯税) |
| 所得税が発生し始める目安 | 「103万円」付近が定番 | 控除拡大で課税最低限が上がる方向 | 低(企業負担なし) |
| 社保(短時間労働者の適用) | 「106万円」などが意識されがち | 要件見直し・適用拡大で就業調整の論点が社保へ寄る | 高(会社負担あり) |
| 社保(扶養から外れる) | 「130万円」付近が定番 | 判定・運用の見直しで働き方相談が増えやすい | 中〜高 |
※壁は「収入だけ」で決まらず、週所定労働時間・勤務先規模・賃金要件など複数要件が絡みます。最終判断は個別要件で行います。
会社負担が増えるポイント:社会保険料の会社負担
短時間労働者が厚生年金・健康保険の加入対象になると、企業は保険料の会社負担が発生します。一般に、会社負担は賃金の概ね15%前後(制度・加入している健康保険等により変動)となることが多く、時給を上げずに勤務時間を増やすだけでも、企業側の総人件費が増えます。
そのため、2026年は「税の壁が上がって働けるようになった」こと自体は追い風でも、配置計画としては「社保加入に伴うコストと、戦力化メリットが釣り合うか」を明確にしておく必要があります。
扶養・パートシフトはどう変わる?(就業調整が起きるポイントの移動)
パートのシフト調整は、これまで「103万円を超えないように」が典型でした。しかし、基礎控除・給与所得控除の見直しで、税負担の立ち上がりが緩やかになれば、従業員側は「少し増やしても手取りが落ちにくい」と感じやすくなります。
すると、現場では次のような変化が起きやすいです。
- 年末に急に休む従業員が減り、繁忙期の穴埋めがしやすくなる
- 「月〇万円まで」ではなく「週〇時間まで」で相談されるケースが増える
- 一部の人は税の壁を気にしなくなり、結果的に社保ラインで再び調整が起きる
ここで経営者がやるべきことは、「税の壁が上がったからシフトを増やせる」という単純化ではなく、社保加入ゾーンの人材をどう位置づけるか(主戦力にするのか、扶養内中心で回すのか)を先に決めることです。
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2026年の配置計画:経営者がやるべき実務ステップ(チェックリスト)
Step 1: パートを3群に分類する(壁別に管理)
- A群:扶養内を強く希望(世帯事情で調整が必要)
- B群:税の壁は超えられるが社保加入は避けたい
- C群:社保加入も含めて就業拡大可能(戦力候補)
分類の軸を「年収」だけにせず、週所定労働時間、繁忙期対応可否、スキル(レセプト・会計・接遇等)で棚卸しします。
Step 2: B群・C群について会社負担込みで追加1時間の採算を出す
- 追加1時間あたりの売上・生産性(現場KPI)
- 社保加入で増える会社負担(概算で試算)
- 教育コスト(戦力化までの期間)
ここで「社保加入でも採算が合うポジション(受付リーダー、レセプト補助、会計補助など)」を明確にします。
Step 3: シフト設計を年収上限から週時間・月時間へ移行する
2026年は、従業員の相談が「年収」より「働き方(週〇時間)」に寄りやすくなります。就業規則・雇用契約書(労働条件通知書)の整備、シフト管理ルール(希望の取り方、繁忙期の優先順位)を見直します。
Step 4: コミュニケーション設計(面談テンプレを作る)
「壁」を理由にした就業調整は、制度理解と感情(手取り不安)が混ざります。面談では次の順番が有効です。
- 本人の希望(扶養内か、社保加入可か)
- 会社の期待(任せたい役割、繁忙期の稼働)
- 手取りの概算(税・社保の変化は増減を両面提示)
- 合意した働き方を文書化(雇用契約・シフト方針)
よくある質問
Q: 基礎控除引き上げで、パートの「103万円の壁」はなくなりますか?
Q: 会社の人件費が増えるのは、時給アップが原因ですか?
Q: 106万円・130万円の壁は、2026年もそのままですか?
Q: 2026年の配置計画で、最初に見るべき指標は何ですか?
まとめ
- 2026年は基礎控除・給与所得控除の見直しで、税の壁による就業調整が緩みやすい
- 企業の総人件費は「税」よりも社会保険加入で増減が決まりやすい
- 配置計画は、パートをA/B/C群に分け、社保加入ゾーンを戦力ポジションとして設計するとブレにくい
- シフト管理は「年収上限」だけでなく「週・月の時間」へ移行すると運用が安定する
- 個別の最適解は、従業員属性(扶養・世帯・稼働)と業態KPIで変わるため試算が重要
参照ソース
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」: https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_gaiyou.pdf
- 国税庁「No.1199 基礎控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1199.htm
- 国税庁「No.1410 給与所得控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm
- 厚生労働省「『年収の壁』への対応」: https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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