
執筆者:辻 光明
代表税理士
経理効率化ツール5選|中小企業の導入手順まで税理士が解説

経理業務の効率化とは|中小企業で起きがちなムダ
経理業務の効率化とは、仕訳・請求書処理・支払・証憑保存などの「定型作業」を、ツールとルールで標準化し、作業時間とミスを減らすことです。中小企業では担当者が少なく、属人化や月末月初の負荷集中が起こりやすいのではないでしょうか。結果として、月次決算の早期化が進まず、資金繰り判断も遅れがちになります。
当法人(税理士法人 辻総合会計)では中小企業の記帳・月次支援を30年以上行い、現場でよくある非効率は「データが散らばっている」ことに起因すると感じています。会計ソフト、請求書、領収書、銀行、稟議が別々だと、転記と確認が増えます。まずは業務を分解し、どこをツールでつなぐかを決めるのが近道です。
経理効率化に効く5つのツール|役割と選び方
ここでいう「ツール」は特定メーカーに限らず、機能カテゴリとして整理します。中小企業は全部を一度に変えるより、効果が出やすい順に導入する方が失敗しにくいです。
ツール1:クラウド会計(仕訳の自動化・共有の前提)
クラウド会計は、会計データをチームで共有し、銀行・カード等の明細連携で仕訳入力を減らす土台です。税理士・社外の経理代行とも同じ画面で確認でき、修正のやり取りが短縮されます。選ぶ際は、(1)明細連携の対応範囲、(2)部門・補助の粒度、(3)権限設定、(4)データ出力(CSV等)を確認します。
導入効果が出るポイントは、勘定科目の設計とルール化です。「摘要の粒度」「消費税区分の決め方」「例外処理」を先に決めると、後工程のチェックが軽くなります。会計が“箱”なら、次のツールが“流し込み”の配管になります。
ツール2:請求書の発行・受取の電子化(インボイス対応の中心)
請求書の発行・受取ツールは、見積→請求→入金消込までの流れを整えます。インボイス制度では、適格請求書の記載・保存が重要になるため、インボイス制度の要件に沿った様式管理ができるかが判断軸です。取引先が紙運用の場合でも、PDF発行・メール送付から始めるだけで、印刷・封入・郵送の工数が減ります。
受取側は「どこに届くか」がばらばらだと効率化しません。まずは受領チャネルを集約(専用メール、アップロード、共有フォルダ等)し、会計・保存とつなぐ設計を優先します。
ツール3:経費精算(領収書回収・承認フローを短縮)
経費精算ツールの狙いは、領収書回収と承認を早く・正しく回すことです。従業員立替が多い会社ほど、申請遅れが資金管理と消費税処理の両方に影響します。スマホ撮影、規程に沿った自動チェック、承認経路の見える化により、承認フローの停滞が減ります。
注意点は「交通費・日当・交際費」のルールが曖昧だと、ツールを入れても差戻しが増えることです。導入前に、上限、証憑要否、例外(少額の取扱い)を規程に落とし込みましょう。
ツール4:支払管理・銀行連携(入出金・振込の手作業を削減)
支払管理ツールは、支払予定の集約、振込データ作成、支払実行の統制を強化します。特に振込件数が多い場合、手入力はミスと再作業の温床です。銀行連携があると、入出金の突合が進み、未払・未収の管理も精度が上がります。
経理担当者が少ない会社ほど、「支払の承認」と「実行(振込)」を分け、ログが残る運用が望ましいです。内部統制は大企業だけの話ではなく、トラブルを未然に防ぐ保険になります。
ツール5:電子帳簿保存・文書管理(証憑保管のコストを下げる)
最後に効いてくるのが、証憑の保存ルールとツールです。電子帳簿保存法では、電子取引で受け取った請求書PDF等について、一定要件のもとで電子データの保存が求められます。つまり「紙に印刷してファイル」だけでは足りないケースがあり、電子取引データの保存を前提に設計する必要があります。
スキャナ保存(紙領収書をスキャンして保存)も含め、検索性・改ざん防止・運用手順がポイントです。ツール選定では、検索項目(取引先名・日付・金額等)、タイムスタンプや訂正削除履歴、アクセス権限、バックアップを確認しましょう。
ツール同士の違い|会計ソフトだけでは足りない理由
経理効率化は「会計ソフトを入れれば終わり」ではありません。会計は最終集計であり、前工程(請求、経費、支払、保存)が整っていないと入力・確認が残ります。役割分担を整理すると、投資の優先順位が見えます。
| ツール種別 | 主な対象業務 | 効果が出やすい会社 | 導入難易度 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| クラウド会計 | 仕訳、月次、共有 | 明細が多い、外部連携したい | 中 | 科目設計・権限管理 |
| 請求書電子化 | 発行、受取、入金消込 | 取引先が多い、郵送が多い | 低〜中 | インボイス要件・保存 |
| 経費精算 | 立替、旅費、交際費 | 従業員数が増えてきた | 中 | 規程整備が先 |
| 支払管理 | 振込、支払予定、統制 | 振込件数が多い | 中 | 承認と実行の分離 |
| 文書管理・電帳法対応 | 証憑保存、監査対応 | 電子取引が増えた | 中〜高 | 要件・運用手順の徹底 |
中小企業では、まず「請求書電子化」か「銀行連携が強いクラウド会計」から着手すると、体感で効果が出やすい傾向があります。その後、経費精算と支払管理で前工程を整え、最後に保存を固める流れが実務的です。
経理効率化の導入方法/手順|失敗しない進め方
導入を成功させるコツは「機能比較」より「運用設計」です。以下の順で進めると、現場が混乱しにくく、改善効果も検証できます。
Step 1: 現状業務を棚卸しする
請求書の流れ、領収書回収、振込作業、保存方法を図にして、転記・二重入力・確認の回数を数えます。ボトルネックが見えます。
Step 2: 目的とKPIを決める
「月次を10営業日→5営業日にする」「振込作業を月4時間削減」など、数字で目標を置きます。月次決算の早期化を目的にすると、関係者の納得が得やすいです。
Step 3: 1領域から小さく導入する
いきなり全社切替ではなく、請求書発行だけ、経費精算だけなど範囲を限定します。例外処理が多い領域は後回しにします。
Step 4: ルール(入力・承認・保存)を文章化する
誰がどのタイミングで処理し、差戻し基準は何かを明文化します。マニュアルは「画面操作」より「判断基準」を中心に作ると定着します。
Step 5: 税務・法令要件とセキュリティを確認する
電子帳簿保存法、インボイス対応、アクセス権限、バックアップ方針を確認し、監査・税務調査でも説明できる状態にします。
中小企業の税務・経営相談
創業から成長期まで、企業のフェーズに合わせた税務・経営サポートを提供しています。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
注意点・リスク|電子帳簿保存法・インボイス対応・内部統制
効率化のためにデータを集めるほど、保存と権限が重要になります。特に電子取引の保存は、要件を満たさないと「後で修正」が難しくなります。取引先から受領したPDF請求書、ECの領収書メールなどが該当しやすい点に留意してください。
また、インボイス制度では、仕入税額控除の要件として帳簿・請求書等の保存が前提です。請求書の保管場所が分散していると、月次や決算で確認が集中し、結局残業が増えることがあります。ツール導入時点で「保存と検索」を同時に設計することが、最も費用対効果が高いポイントです。
内部統制の観点では、振込や支払の権限が1人に集中しないようにします。最低限、「承認者」「実行者」「確認者」を分け、ログが残る仕組みにすることが望ましいです。中小企業でも、トラブルや不正の予防は経営課題として扱うべきです。
よくある質問
Q: まず最初に導入すべきツールはどれですか?
A:
多くの中小企業では、(1)請求書の発行・受取の電子化、または(2)銀行連携が強いクラウド会計から始めると効果が出やすいです。現状のボトルネック(郵送・転記・振込入力・領収書回収)で優先順位を決めます。Q: 電子帳簿保存法に対応するには、どのレベルまで必要ですか?
A:
最低限、電子取引で授受したデータは、要件に沿って電子データのまま保存できる体制が必要です。保存先の統一、検索性、改ざん防止、運用手順(誰がいつ保存するか)をセットで整備します。Q: ツール導入で経理担当者は減らせますか?
A:
ケースによりますが、単純な「人を減らす」よりも「締めを早くして経営判断を早める」方が成果として実感しやすいです。導入効果が出た後に、業務分担の見直しや外部委託の検討につなげるのが現実的です。まとめ
- 経理効率化は、会計だけでなく請求・経費・支払・保存まで前工程を整えるのが要点
- 導入は「請求書電子化」または「クラウド会計+銀行連携」から小さく始めると失敗しにくい
- 経費精算・支払管理は、承認と実行の分離など統制を意識すると効果が持続する
- 電子取引の保存やインボイス対応は、ツール選定時に要件を確認して運用に落とし込む
- 目的とKPIを決め、ルールを文章化して定着させることが最大の成功要因
参照ソース
- 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm
- 国税庁「電子帳簿保存法の概要」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/02.htm
- 経済産業省 中小企業庁「IT導入補助金(ミラサポplus)」: https://mirasapo-plus.go.jp/subsidy/ithojo/
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
