
執筆者:辻 光明
代表税理士
研究開発税制2026×AI|40%控除を税理士が解説

研究開発税制2026の結論|AI等の「戦略技術領域型」で40%控除が狙える
研究開発税制2026(令和8年度改正)のポイントは、AI・量子・バイオ等の国家戦略分野に資源を集中させるため、戦略技術領域型(控除率40%)が創設された点です。従来の一般型より高い控除率が示され、IT企業・SaaS企業でも「研究開発の設計」と「費用の切り分け」を正しく行えば、税負担の圧縮に直結します。
一方で、控除できる金額には上限や制度上の入口条件があり、特に「何が試験研究費になるのか」「どこまでが製品開発(R&D)で、どこからが運用(Run)なのか」を曖昧にすると、申告時に根拠が弱くなります。
本記事では、研究開発投資が大きいIT企業・SaaS企業に向けて、2026年改正の要点、40%控除の考え方、実務での進め方を税理士の視点で解説します。
研究開発税制とは|法人税から直接差し引く「税額控除」
研究開発税制は、青色申告法人が支出した試験研究費について、一定割合を法人税額から差し引ける制度です。つまり「損金(経費)で利益を減らす」だけでなく、法人税そのものを直接減らす効果があります。
税額控除の基本構造(イメージ)
- 研究開発に該当する費用(試験研究費)を集計
- 制度の区分(一般型・戦略技術領域型・オープンイノベ型等)に当てはめる
- 控除率を掛けて控除額を算出
- 法人税額から控除(ただし上限・繰越のルールあり)
戦略技術領域型とは|AI・量子などで控除率40%(一部50%)へ
2026年改正では、戦略技術領域に係る研究開発について新たに高い控除率を適用する枠組みが提示されています。概要として、AI・量子・バイオ等に係る試験研究費について、原則40%の税額控除(一定の共同・委託研究は50%)が示されています。
また、控除税額には「当期の法人税額の10%を上限」とする枠が設けられ、控除しきれない分は3年間の繰越が可能とされています。
IT企業・SaaS企業で「戦略技術領域」に乗りやすいテーマ例
- 生成AI/機械学習:推論最適化、評価基盤、セキュアなRAG、モデル圧縮、MLOps自動化
- 量子関連:量子アルゴリズムの適用検討、量子耐性暗号、量子インスパイア最適化
- バイオ×AI:創薬支援、医療データ解析、画像診断支援の基盤研究
重要なのは「単なる機能追加」ではなく、仮説検証や不確実性を伴う技術的課題の解決を目的としていることを、資料で説明できる状態にしておくことです。
研究開発税額控除40%の要点|上限・繰越・対象費用を押さえる
ここでは、IT・SaaS企業が実務で詰まりやすい論点を、制度設計の勘所として整理します。
控除上限(法人税額の一定割合)に注意
戦略技術領域型は高い控除率が魅力ですが、控除できる総額には上限があります。特に利益が出ている企業ほどインパクトが出やすい一方、利益が小さい/赤字期は当期控除が効きにくくなります。
そのため、繰越制度(3年)が使える設計か、他の類型(一般型・オープンイノベ型)と組み合わせるかを、税額ベースでシミュレーションすることが重要です。
「試験研究費」になりやすい費用/なりにくい費用(ITあるある)
- なりやすい:研究者の人件費(工数按分が鍵)、実験用クラウド利用料(PoC・検証環境)、プロトタイプ外注、データ生成・評価に係る委託
- なりにくい:本番運用のクラウド費用、保守運用の人件費、営業同行・導入支援、既存機能の軽微改修
SaaSでは「研究(R&D)」と「運用(Run)」が同じクラウド環境上で混在しがちです。検証環境と本番環境の切り分け、タグ設計(プロジェクト別課金)、工数管理がそのまま税務の根拠になります。
海外委託研究の扱い(今後の設計に影響)
国外で行われる委託研究については、税額控除の対象額に一定の制限(年度により割合が異なる設計)が示されています。グローバル開発体制の企業は「海外委託の範囲」と「国内での研究開発」の配置を見直す必要があります。
一般型・戦略技術領域型・大学拠点等強化類型の違い(比較表)
どの類型で申告するかにより、控除率・上限・必要な要件が変わります。大枠の比較は次のイメージです(詳細要件は年度・通達・個別計画の認定内容で変わり得ます)。
| 項目 | 一般型(従来型) | 戦略技術領域型 | 大学拠点等強化類型(戦略枠の一部) |
|---|---|---|---|
| 主な対象 | 幅広い試験研究費 | AI・量子・バイオ等の戦略技術領域 | 認定研究拠点との共同・委託等 |
| 控除率のイメージ | 変動(投資増減等で変動) | 40% | 50% |
| 控除上限 | 通常枠(制度設計に依存) | 法人税額の10%(別枠の考え方) | 法人税額の10%(別枠の考え方) |
| 繰越 | 枠組みにより異なる | 3年繰越(超過分) | 3年繰越(超過分) |
| IT/SaaSの適合 | 幅広く適用可能 | 先端テーマのR&Dで強い | 産学連携の設計が鍵 |
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IT・SaaS企業が40%控除を取りに行く実務手順(ステップ)
「制度を知っている」だけでは税額控除は取れません。証憑(エビデンス)と集計ルールがすべてです。税理士法人 辻総合会計の実務感として、次の流れが最短距離です。
Step 1: 対象プロジェクトを棚卸し(研究テーマの定義)
- 研究目的(技術的課題)と成果物(プロトタイプ、評価結果)を文章化
- 機能追加ではなく不確実性のある技術課題であることを明確にする
Step 2: 試験研究費の範囲を決め、勘定・タグ設計を行う
- 人件費:職種別に工数ルールを設定(週次・月次)
- 外注費:仕様書・成果物・検収基準を研究目的に紐付け
- クラウド費:検証環境を分離し、プロジェクト別課金(タグ)で集計
Step 3: 類型判定(一般型/戦略技術領域型/オープンイノベ型)
- 戦略技術領域に該当する根拠を整理(計画認定が必要となる設計が想定されるため、早期着手が有効)
- 産学連携がある場合は大学拠点等強化類型の適合も検討
Step 4: 控除額シミュレーション(税額ベース)
- 当期の法人税額との関係で、控除上限に当たりやすいか確認
- 超過見込みがある場合、3年繰越の活用設計を行う
Step 5: 申告書類と裏付資料をパッケージ化
- プロジェクト概要書(目的、方法、結果)
- 工数集計、外注契約、クラウド利用明細(タグ別)
- 研究ノート、チケット、実験ログ等(監査対応できる形に)
ケーススタディ|生成AI機能の開発で研究と実装を分けた例(匿名)
よくある相談として、「生成AIを使った新機能を作ったが、どこまで研究開発税制の対象か分からない」というものがあります。
あるSaaS企業(従業員80名、開発30名)では、生成AI機能の開発を次の2レーンに分離しました。
- 研究レーン:評価指標の設計、プロンプト最適化の実験、RAGの精度改善、幻覚対策の検証
- 実装レーン:UI実装、権限設計、本番監視、障害対応
研究レーンは「技術的不確実性を解消する活動」として文書化し、工数・クラウド費・外注費をタグで集計。実装レーンは対象外として切り分けることで、税務上の説明力を確保しました。
このように、研究とプロダクト実装を最初から分けることが、40%控除を狙ううえで実務的に最も効きます。
よくある質問
Q: AI機能を追加しただけでも、研究開発税制(40%控除)の対象になりますか?
Q: 赤字の年でも、研究開発税制のメリットはありますか?
Q: クラウド費用は試験研究費にできますか?
Q: 戦略技術領域型の適用には何が必要ですか?
まとめ
- 研究開発税制2026は、AI・量子・バイオ等を対象に戦略技術領域型(40%控除)が新設された
- 控除上限(法人税額の一定割合)と、超過分の3年繰越を前提に税額ベースで設計する
- IT・SaaSは「研究(R&D)と運用(Run)」が混ざりやすく、工数・クラウド費・外注費の切り分けが最重要
- 産学連携等では50%の枠組みも示されており、研究体制の組み方が税効果を左右する
- 実務は「プロジェクト定義→集計ルール→証憑パッケージ化」の順で進めると失敗しにくい
参照ソース
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」: https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_gaiyou.htm
- 経済産業省「令和8年度関連資料(研究開発税制の拡充・延長等の説明を含む)」: https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2026/pdf/03.pdf
- 国税庁「No.5441 研究開発税制について(概要)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5441.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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