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中小企業向けコラム
作成日:2026.02.27
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士

小売業の社会保険適用拡大対策|税理士が解説

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小売業の社会保険適用拡大対策|税理士が解説

小売業・スーパーの社会保険適用拡大とは、一定の条件を満たすパート・アルバイトが健康保険・厚生年金の加入対象に広がる制度変更です。パート比率が高い企業ほど、人件費(事業主負担)の増加だけでなく、シフト設計・採用・定着・店長運用まで連鎖的に影響します。2026年に向けては「対象者を正確に把握し、就業調整を減らしつつ、現場が回る運用に落とす」ことが核心ではないでしょうか。

小売業の社会保険適用拡大とは

社会保険の加入対象は、正社員だけでなく短時間労働者にも拡大されています。直近では、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が「51〜100人」の企業等で働くパート・アルバイトが2024年10月から新たに適用対象となりました(対象企業等の範囲は段階的に拡大)。
また、短時間労働者の加入要件(典型)は「週の所定労働時間20時間以上」「所定内賃金 月額8.8万円以上」「2か月超の雇用見込み」「学生でない」等で整理されます。契約上20時間未満でも実労働が2か月連続で週20時間以上となり、その後も継続見込みがある場合は3か月目から加入対象になる取扱いが示されています。
こうした基本構造は、厚生労働省の特設サイトおよび日本年金機構の案内で確認できます。

2026に向けて注意すべき「拡大の方向性」

制度は「企業規模要件を縮小・撤廃」し、あわせて「賃金要件(いわゆる年収106万円の壁として意識された月額8.8万円以上)を撤廃」する方向性が示されています。賃金要件の撤廃は、法律公布から3年以内に最低賃金の動向を見極めて判断する旨が説明されています。
つまり2026時点では、「今すでに対象となる層」への対応に加え、将来の対象拡大を見越した人員ポートフォリオ設計が重要になります。

スーパーのパートが対象になる条件を整理する

小売業・スーパーで混乱が起きやすいのは「対象者の抽出基準」です。現場では週20時間だけが独り歩きしがちですが、要件は複合です。

まず押さえるべき加入要件(実務で使う形)

  • 勤務先が特定適用事業所等に該当(例:被保険者数が51人以上となる見込み 等)
  • パート・アルバイト本人が、主に次の全条件に該当
    • 週の所定労働時間が20時間以上(30時間未満を想定して説明されることが多い)
    • 所定内賃金が月額8.8万円以上
    • 2か月を超える雇用の見込みがある
    • 学生ではない(一定の例外あり)
ここがポイント
「週20時間」は契約上の所定労働時間が基準で、臨時の残業時間は含まれません。一方で、契約上20時間未満でも実労働が2か月連続で週20時間以上となり、その後も続く見込みがある場合は3か月目から加入対象となる取扱いが示されています。店長が繁忙期に追加シフトを積み上げる運用がある企業ほど、ここが実務上の落とし穴になります。

小売の人件費はどれくらい増える?2026の見立て方

社会保険適用拡大で増えるコストは、主に「事業主負担分の保険料」と「事務運用(給与計算・入退社・算定/月変等)」です。小売業では人件費の中で固定費化する部分が増えるため、店舗別P/Lや部門別粗利で吸収できるかが論点になります。

コスト把握の考え方(ざっくりを正しくする)

  • 影響人数:対象者(加入者)が何人増えるか
  • 影響単価:対象者の標準報酬月額に対する事業主負担(健康保険・厚生年金等)の増分
  • 二次影響:就業調整(時間抑制)による人手不足、採用難、時給改定、教育コスト

なお、保険料率は加入する健康保険(協会けんぽ等)や都道府県等で異なり、年度で改定もあり得ます。したがって、経営判断では「精緻な一点計算」よりも「店舗・雇用区分別のレンジ」で把握し、打ち手とセットで意思決定するのが現実的です。

比較表:企業が取り得る運用と影響

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運用パターン会社側の狙いメリット主なリスク
対象者を社会保険加入に寄せる(20時間以上を標準化)供給力確保、定着人手の安定、採用で訴求しやすい事業主負担が増える、短期の粗利圧迫
20時間未満に抑えるシフト設計保険料負担の抑制直近のコスト増を抑えやすい人手不足、追加採用・教育コスト増、サービス品質低下
役割で分ける(基幹パートは加入、補助は短時間)最適配置店舗運営を守りつつコスト制御役割設計と評価制度がないと不公平感が出る

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パート比率が高い企業がやるべき対策ステップ

ポイントは「対象者把握→設計→周知→運用定着」を最短距離で回すことです。2026に向けては、制度理解よりも現場が誤解なく回る仕組みを先に作るほうが成果に直結します。

Step 1: 対象者の棚卸し(契約と実態の両面)

  • 雇用契約の所定労働時間、所定内賃金、雇用見込み、学生区分を一覧化
  • 店舗別に「実労働が20時間を超えやすい人」を抽出(繁忙期の実績で検証)
  • 法人単位で被保険者数を合算して企業規模要件を確認(法人番号同一の全事業所を合算する考え方が示されています)

Step 2: シフト・賃金設計(就業調整を前提にしない)

  • 20時間以上で働く層(基幹パート)に業務を寄せ、教育・権限をセットで付与
  • 20時間未満の層は、欠員対応・短期波動吸収に役割を限定
  • 所定内賃金(月額8.8万円)のラインを跨ぐ人は、時給・手当設計とセットで影響を見える化

Step 3: 従業員コミュニケーション(手取りだけで語らない)

  • 「保険料が増える」だけでなく、厚生年金の上乗せや健康保険の給付(傷病手当金等)を、従業員のライフイベントに沿って説明
  • 配偶者扶養の範囲で働く層には、働き方の選択肢を提示(加入・非加入のいずれもメリット/デメリットを整理)
ここがポイント
社内周知は、店長・SVが説明できる状態が最低条件です。「何時間までなら大丈夫か」という質問に、制度要件(20時間、月8.8万円、2か月超、学生除外)と例外の扱いまで含めて一貫した回答を準備しておかないと、現場判断でシフトが歪み、結果として人手不足を招きやすくなります。

Step 4: 運用の型化(給与計算・手続き・モニタリング)

  • 対象候補者リストを給与システムまたは表計算で管理し、加入・説明の進捗も追跡
  • 月次で「20時間ライン超過」「所定内賃金ライン超過」のアラートを出す
  • 年度の人件費計画は、店舗別・雇用区分別の想定加入率でシナリオ化

よくある質問

Q: スーパーのパートは週20時間を超えたら必ず社会保険ですか? ▼
一般に、短時間労働者の加入は「週20時間以上」だけでなく、「所定内賃金が月額8.8万円以上」「2か月超の雇用見込み」「学生ではない」等の要件を総合して判断します。また、契約上20時間未満でも実労働が2か月連続で週20時間以上となり、その後も継続見込みがある場合は3か月目から加入対象となる取扱いが示されています。詳細は厚生労働省・日本年金機構の案内で確認してください。
Q: 従業員数51人以上かどうかは、店舗ごとに判定しますか? ▼
原則として、法人事業所の場合は同一法人格(法人番号が同一)の全適用事業所の被保険者数を合算して判定する考え方が示されています。複数店舗を運営する小売業は、店舗単位で見誤ると判定を間違えやすい点に注意が必要です。
Q: 2026以降、106万円の壁(8.8万円要件)は必ずなくなりますか? ▼
賃金要件(いわゆる年収106万円の壁として意識されてきた月額8.8万円以上)については、撤廃する方針が示されており、撤廃時期は「法律の公布から3年以内」に最低賃金の動向を見極めて判断すると説明されています。確定した適用時期は公表情報で必ず確認し、企業側は撤廃を前提にした設計を先に進めるのが安全です。

まとめ

  • 小売業・スーパーはパート比率が高く、社会保険適用拡大の影響が店舗運営に直結する
  • 対象者は「週20時間以上」だけでなく、月8.8万円、2か月超、学生区分など複合要件で判断する
  • 2026に向けては、対象者の棚卸しとシフト・賃金設計をセットで進め、就業調整を減らすのが重要
  • コストは単なる保険料増ではなく、採用・定着・教育など二次影響まで含めてシナリオ管理する
  • 公的情報を根拠に、現場(店長・SV)が説明できる周知設計を作る

参照ソース

  • 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00021.html
  • 厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト(対象となる事業所・従業員)」: https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/koujirei/jigyonushi/taisho/
  • 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」: https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.html
  • e-Gov法令検索: https://laws.e-gov.go.jp/

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士

税理士 / 認定経営革新等支援機関

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

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