
執筆者:辻 光明
代表税理士
荷主物流コスト2026|CLO設置と中長期計画実務を税理士が解説

荷主の物流コスト管理は「2026年の制度対応」が起点です
荷主の物流コスト管理は、単なる運賃交渉ではなく、社内横断で物流のムダ(荷待ち・荷役・積載)を削り、輸送能力制約に適応する経営課題です。2026年は、一定規模以上の荷主に「CLO(物流統括管理者)の選任」「中長期計画の作成」などが制度上も明確化され、コスト管理のやり方が変わります。物流部門だけでは完結せず、調達・生産・販売・在庫・経理が連動しないと数字が締まりません。
税理士の立場からは、物流コストを「販管費の一科目」で終わらせず、KPIと投資回収(DX・設備・標準化)まで含めて管理設計することが重要だと考えます。特定荷主に該当する可能性がある企業は、早めに社内の棚卸しを始めておくとスムーズです(基準重量や期限は後述)。
2026年に荷主が押さえるべき「義務」と「努力義務」
物流効率化に関する枠組みでは、すべての荷主に取組が求められる一方、一定規模以上の「特定荷主」には追加で手続が課されます。国土交通省の整理では、対策を講じない場合に輸送能力不足が拡大し得るとの推計も示されており、制度対応はコスト最適化と供給継続の両面で意味があります。https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn1_000029.html
荷主の努力義務(全荷主が対象)の代表例
「判断基準」に沿って、概ね次の3テーマが中心になります(現場の改善がそのままコストに効きます)。
- 積載効率の向上(リードタイム確保、繁閑差の平準化、発注・発送量の適正化 など)
- 荷待ち時間の短縮(予約受付、分散納品、受発注前倒し など)
- 荷役等時間の短縮(パレット化、検品の効率化、標準化、バース環境整備 など) https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/sippers/judgment-criteria/
特定荷主の追加対応(2026年の実務ポイント)
特定荷主に指定されると、CLOの選任、中長期計画の作成・提出、定期報告が実務として発生します。加えて、制度上の期限が明確に設定されるため、経理・総務・法務も巻き込んだプロジェクト化が必要になります。https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/specified-sippers_ver.1.0.pdf
荷主CLO(物流統括管理者)とは:税務・経理が知っておくべき役割
CLOは物流部長ではなく、経営判断に参画する管理的地位から、物流の持続可能性と効率化を統括する役割です。業務には、中長期計画、定期報告、社内部門連携、投資計画、取引先との調整などが含まれます。https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/clo/
税理士目線で重要なのは、CLOが「物流コストの見える化」と「投資・費用配分の意思決定」を握れる体制にすることです。物流は原価にも販管費にも混在しがちで、KPIがないと頑張ったのに数字が落ちない状態になります。
物流コスト管理のKPI(最低限ここから)
- 1出荷(または1件)あたり物流費(運賃+付帯+倉庫+荷役)
- 荷待ち時間(平均・95%タイル)
- 荷役等時間(積込・降ろし・検品を分解)
- 積載率/実車率(便単位で追う)
- リードタイム(受注〜出荷、出荷〜納品)
- クレーム・再配達・返品コスト(品質とコストを統合)
「コスト」だけを追うと現場が疲弊し、供給継続リスクが上がります。時間・品質・安全とセットでKPIを設計してください。
中長期計画の作成実務:2026年版の骨子と作り方
中長期計画は、単なる目標宣言ではなく、現状把握→課題特定→施策→効果測定までを一貫させる設計図です。特定荷主は、取引先との協議や施設整備など長期対応も含めた計画が求められ、2026年は提出期限が10月末と整理されています。https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/specified-sippers_ver.1.0.pdf
「計画に書くべきこと」をコスト管理に落とす
- 現状:輸送・倉庫・荷役のコスト構造(固定/変動、主要ルート、繁閑差)
- ボトルネック:荷待ち、バース制約、検品負荷、リードタイム不足、返品ルール等
- 施策:予約受付、納品日集約、パレット標準化、事前出荷情報、共同配送、モーダルシフト等
- 投資:WMS/TMS、予約システム、バース改修、器具(パレット等)
- 効果:コスト削減だけでなく、時間短縮・輸送能力確保・安全面の改善を数値化
実務フロー:荷主の制度対応をコスト管理プロジェクトにする手順
ここからは、特定荷主を想定した現実的な進め方です(特定荷主に該当しない場合も、前半はそのまま使えます)。
Step 1: 取扱貨物重量と物流費の現状を確定する
- 年度単位で取扱貨物重量を算定(基準重量の判断に必要)
- 物流費を「運賃/付帯(待機・荷役)/倉庫/資材(パレット等)/システム」に分解
- 主要ルートと取引条件(リードタイム、納品指定、検品、返品)を棚卸し
Step 2: 特定荷主の該当性を判定し、届出の段取りを作る
- 前年度の取扱貨物重量が基準重量(9万トン)を超えると届出が必要と整理されています
- 初めて超えた年度の翌年度「5月末」が届出期限の目安として示されています https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/specified-sippers_ver.1.0.pdf
Step 3: CLO(物流統括管理者)を選任し、権限設計をする
- 役員等の経営幹部クラスから選任(社内部門を動かすため)
- KPIの定義と、月次でのレビュー(経理が数値を締める運用)をセットで設計
Step 4: 中長期計画を作成し、施策を投資と回収で並べる
- 施策ごとに、コスト効果/時間効果/品質影響/取引先調整難易度を整理
- すぐ効く施策(予約・納品分散・検品合理化)と、時間がかかる施策(標準化・設備投資)を分ける
Step 5: 定期報告のためのデータ収集を仕組み化する
- 荷待ち・荷役・積載の実績を取る(現場ヒアリングだけでなく、システム・伝票データも活用)
- 取引先との協議状況、施設制約、業種特性など数字の背景も記録しておく https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/specified-sippers_ver.1.0.pdf
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比較表:全荷主と特定荷主で何が増えるか
| 区分 | 全ての荷主(努力義務) | 特定荷主(追加対応) |
|---|---|---|
| 目的 | 荷待ち・荷役・積載の改善を進める | 改善を計画化し、報告で実効性を担保 |
| 体制 | 物流部門中心でも着手可能 | CLO選任で社内横断の統括が前提 |
| 主要アウトプット | 取組の実施(判断基準に沿う) | 届出、CLO選任届、中長期計画、定期報告 |
| コスト管理 | 施策単位の削減が中心 | 施策×投資×KPIのガバナンスが中心 |
| 期限意識 | 自主改善が中心 | 届出・計画・報告の期限管理が必須 |
税理士としての実務アドバイス:物流コストを利益に変える設計
税理士法人 辻総合会計では、クリニック領域を中心に30年以上、現場オペレーションと数字をつなぐ管理会計を支援してきました。物流領域でも本質は同じで、「現場の時間」を「会計の数字」に翻訳するところから成果が出ます。
- 物流費の増減要因を説明できる科目設計(付帯費用を埋もれさせない)
- 取引条件変更(納品条件・検品・返品)を、売上・粗利・CSと一体で判断
- DX投資は「人手不足」「輸送能力制約」への対応として、回収期間だけでなく代替可能性も評価
- 税務上も、システム費・器具費・改修費の扱い、補助金等の論点が出やすい(個別に整理が必要)
よくある質問
Q: うちは特定荷主に該当しますか?
Q: CLOは物流部門の責任者でないとダメですか?
Q: 中長期計画は作って提出で終わりますか?
Q: 物流コストを下げると現場が回らなくなるのが不安です。
まとめ
- 2026年は荷主の物流コスト管理が「制度対応(CLO・中長期計画)」を起点に再設計される
- 全荷主は判断基準に沿って、積載・荷待ち・荷役の改善に取り組む
- 特定荷主は基準重量(9万トン)等の判定・届出に加え、CLO選任と中長期計画、定期報告が実務化する
- 物流費は分解してKPI化し、施策を投資と回収で並べると成果が出やすい
- 経理・購買・営業を巻き込んだ社内横断体制が、コストと輸送継続の両面で効く
参照ソース
- 国土交通省「物流効率化法について」: https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn1_000029.html
- 国土交通省「物流効率化法」理解促進ポータル(CLO・判断基準): https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/clo/ 、https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/sippers/judgment-criteria/
- 経済産業省「特定荷主の物流効率化法への対応の手引き(PDF)」: https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/specified-sippers_ver.1.0.pdf
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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