
執筆者:辻 光明
代表税理士
ペーパーレス化の進め方【2026年版】|電帳法対応を税理士が解説

紙をなくして業務を効率化するには、「スキャンして保存」だけでは足りません。結論として、ペーパーレス化は業務フローの再設計と電帳法(電子帳簿保存法)対応を同時に進めると、手戻りを最小化できます。中小企業では「現場の運用が続かない」「検索できず監査で困る」ことが典型的なつまずきです。本記事では、2026年時点で押さえるべき電帳法のポイントと、現実的な進め方を税理士目線で整理します。
ペーパーレス化とは?中小企業で成果が出る範囲の決め方
ペーパーレス化とは、紙の作成・回覧・保管をやめ、データ中心で業務を回すことです。目的は「保管コスト削減」よりも、検索・共有・承認の時間を減らすことにあります。
中小企業で成果が出やすい順は、次の通りです。
- 請求書(受領・発行)と支払管理
- 経費精算(領収書・交通費)
- 契約書・稟議(承認フロー)
- 人事労務(入退社・年末調整の添付書類)
ポイントは、いきなり全社一斉にやらず「取引量が多い」「探す頻度が高い」領域から着手することです。ここが曖昧だと、紙とデータが二重管理になり、むしろ工数が増えます。
電帳法対応の全体像(電子取引・スキャナ保存・電子帳簿)
電帳法対応は大きく3領域に分かれます。ペーパーレス化の設計では、どれに該当するかを最初に仕分けします。
- 電子取引:メール添付PDF、ECの領収書、クラウド請求書など「電子で授受した取引情報」
- スキャナ保存:紙で受け取った書類(領収書・請求書など)をスキャンして保存
- 電子帳簿等保存:会計ソフト等で作成した帳簿を電子データのまま保存
ここで誤解が多いのは、電子取引の扱いです。電子で受け取った請求書を「印刷して紙で保存」する運用は、原則として電帳法の保存要件を満たしません。つまり、ペーパーレス化は任意でも、電子取引データの保存は実質的に必須業務として設計する必要があります。
ペーパーレス化の進め方(中小企業向けロードマップ)
ここからは、導入時に手戻りが少ない標準手順です。社内規模が30名程度までの企業でも、そのまま適用しやすい形にしています。
Step 1: 紙が発生する業務を棚卸し(2週間)
- どの部署で、何の紙が、月何枚出るか
- 「探す」「回覧する」「押印する」工程がどこにあるか
- 電子で受領しているのに印刷している帳票がないか(電子取引の見落とし)
Step 2: 電帳法の区分けと保存ルールを決める(1〜2週間)
- 電子取引:保存場所、ファイル名ルール、検索項目(例:取引先名・日付・金額)
- スキャナ保存:スキャン担当、期限(いつまでにスキャンするか)、原本の扱い
- 例外処理:やむを得ず電子化できないケースの扱い(取引先都合など)
Step 3: ツール選定(2〜4週間)
選び方の軸は「現場が続くか」です。機能が過剰でも入力が面倒だと定着しません。
- 受領請求書:メール取り込み、OCR、仕訳連携、承認フロー
- スキャナ保存:スマホ撮影の品質、訂正削除履歴、タイムスタンプ連携の要否
- 検索:取引先・金額・日付で絞り込みできるか(後述の可視性)
Step 4: まず1業務で試験運用(1〜2か月)
- 対象は「経費精算」か「受領請求書」がおすすめ(発生頻度が高く改善が見えやすい)
- 監査の観点で、検索〜提示までの動線をテストする
- 「紙に戻る瞬間」を観察してルールを修正する(例:承認が遅い、添付が面倒)
Step 5: 社内規程・権限・監査ログを整備(運用定着)
ペーパーレス化で最後に効いてくるのが内部統制です。最小限でも次は整備しましょう。
- 訂正・削除の権限(誰が変更できるか)
- 証憑の差し替え・再提出の履歴が残る運用
- 退職・異動時の権限剥奪と引継ぎ手順
業務別:ペーパーレス化の実務ポイント(電帳法とセット)
受領請求書(電子取引が中心)
メール添付PDFやクラウド請求書は電子取引に該当しやすい領域です。重要なのは「保存→検索→提示」がワンストップで回ることです。
- 取引先名・取引日・金額のいずれかで検索できる状態にする
- 添付PDFのまま保存し、後から探せない状態を避ける(フォルダ乱立は危険)
- 支払・仕訳・承認と証憑が紐づくように設計する
経費精算(スキャナ保存が中心)
領収書をスマホ撮影で集める場合、運用面の勝負どころは「撮影品質」と「提出期限」です。
- 撮影の最低基準(斜め禁止、四隅、影、解像度)を周知
- 期限を決める(例:発生日から7日以内にアップロード)
- 差し戻しの基準を統一する(現場の不満を減らす)
契約書・稟議(承認フローの再設計)
契約書は電子契約に寄せるほど、印刷・押印・郵送が減ります。一方で、取引先対応や社内規程が追いつかないと停滞します。
- 電子契約にできる契約類型を決める(まずは取引基本・業務委託など)
- 反社チェック・稟議・最終版管理の責任者を明確化
- 最新版がどれか分からない問題を、格納ルールで潰す
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紙運用とペーパーレスの比較(コストと統制)
導入効果は「紙代」より「探す時間」「回覧待ち」「保管・廃棄」の削減に出ます。中小企業で現実的な比較を表にします。
| 項目 | 紙中心運用 | ペーパーレス運用 |
|---|---|---|
| 証憑の検索 | キャビネット・ファイルを手探し | 取引先・日付・金額で検索 |
| 承認スピード | 回覧・押印待ちが発生 | ワークフローで即時回付 |
| 保管スペース | 書庫・倉庫が必要 | クラウド/サーバで集約 |
| 監査・税務調査対応 | 提示に時間がかかる | 画面提示・出力が容易 |
| リスク | 紛失・劣化・持ち出し | 権限設計・ログ管理が重要 |
ペーパーレス化は「便利になる」一方で、データの訂正・削除やアクセス権限を曖昧にすると統制が弱くなります。だからこそ、最小限の規程と権限管理をセットで設計することが重要です。
よくある失敗パターンと回避策(電帳法で詰まりやすい点)
-
失敗1:とりあえず共有フォルダに保存して検索できない
回避策:保存時にメタデータ入力 or 自動取り込みで検索できる仕組みにする -
失敗2:電子取引を印刷保存していた(後から気づく)
回避策:メール・EC・取引先ポータルなど「電子で受け取る入口」を洗い出す -
失敗3:スキャンが現場任せで品質がバラバラ
回避策:撮影基準と差し戻し基準を統一し、期限を設ける -
失敗4:権限が強すぎて誰でも編集できる
回避策:訂正削除の権限、履歴、承認ログを残す設計にする
税務の観点では、「真実性(改ざん防止)」と「可視性(見読・検索)」が満たせるかが核心です。ペーパーレス化の設計は、この2軸で点検すると精度が上がります。
よくある質問
Q: ペーパーレス化は会計ソフトを入れ替えないと無理ですか?
Q: 電子で受け取った請求書を印刷して保存しても大丈夫ですか?
Q: スキャナ保存を始めると、原本(紙)は捨てていいですか?
Q: 小規模でも社内規程は必要ですか?
まとめ
- ペーパーレス化は「スキャン」ではなく、業務フロー再設計と電帳法対応の同時進行が近道
- まずは電子取引・スキャナ保存・電子帳簿の区分けを行い、保存と検索のルールを決める
- 進め方は「棚卸し→ルール→ツール→試験運用→規程と権限」で手戻りを減らす
- 効果は紙代より、検索・回覧・保管のムダ時間の削減に出る
- 統制面(訂正削除・権限・ログ)を整えるほど、監査・税務調査対応がラクになる
参照ソース
- 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答(Q&A)~令和4年1月1日以後に保存等を開始する方~」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/4-3.htm
- 国税庁「スキャナ保存関係」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/03.htm
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07denshi/index.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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