
執筆者:辻 光明
代表税理士
株の損失繰越を確定申告で使う手順|税理士が解説

株の損失繰越(繰越控除)とは、株式の売却などで出た損失を、翌年以降3年間にわたり繰り越し、将来の利益や配当等と相殺できる制度です。問題になりやすいのは「その年に損が出たのに申告しなかった」「翌年は取引がなく申告を止めてしまった」などで、繰越の権利が途切れるケースです。本記事では、株の損失繰越の対象・計算・手続(e-Tax含む)を税理士法人 辻総合会計の実務目線で解説します。
株の損失繰越(繰越控除)とは:3年間の相殺ルール
株(上場株式等)の譲渡で生じた損失は、確定申告により、その年の上場株式等の配当等(申告分離課税を選択したもの等)と損益通算でき、通算しても控除しきれない損失は翌年以後3年間、繰越控除できます。
- まず当年:譲渡益や(条件を満たす)配当等と損益通算
- 余った損失:翌年以後3年間、利益・配当等から順次控除
対象になる取引・ならない取引(まずここでミスが出ます)
制度の中心は「上場株式等」です。注意点として、次のようなケースは対象外・制限があります。
- 一般株式等(非上場株など)と上場株式等は区分が異なり、相互に控除できない(上場の繰越損失を一般株式等の利益から引けない等)
- いわゆる相対取引など、制度の対象外の取引態様では損益通算・繰越控除ができない
- NISA口座(非課税口座)内の売却損は損益通算・繰越控除ができない
この「どの区分の損益か」を最初に整理すると、申告の迷いが大きく減ります。
株の損失繰越の計算:どれだけ戻る?の考え方
株の損失繰越は「税額が直接戻る制度」ではなく、「将来の課税対象となる利益を減らす制度」です。結果として、将来の税負担(約20.315%)を軽くできます。
具体例:損失30万円を翌年の利益と相殺(損失繰越3年 計算)
- 2026年:上場株式等の譲渡損失 30万円
- 2027年:上場株式等の譲渡益 20万円
- 2028年:上場株式等の譲渡益 15万円
この場合、
- 2027年:20万円を相殺し、課税対象の譲渡益は0円。繰越残は10万円
- 2028年:残10万円を相殺し、課税対象は5万円
「損失が出た年に申告しておけば、利益が出た年に自動的に救われる」わけではなく、連続申告で繰越の権利を維持するのが核心です。
比較表:損失繰越をする場合/しない場合
| 項目 | 損失繰越をする | 損失繰越をしない |
|---|---|---|
| 損失年の対応 | 確定申告して繰越の権利を作る | 申告しないと原則、将来相殺できない |
| 翌年以後 | 利益・配当等と相殺できる(最長3年) | 利益が出ると通常どおり課税 |
| 申告の継続 | 原則、連続して申告が必要(取引なしでも) | 不要 |
| 実務の注意点 | 付表・明細書、区分管理が重要 | そもそも節税余地が減る |
株 損失 繰越 やり方:確定申告(e-Tax)での手順
ここからは実務の手順です。特定口座(源泉徴収あり)でも、損失繰越をしたい場合は申告が必要になるケースが多いです。特定口座年間取引報告書を手元に用意して進めるのが基本です。
Step 1: 取引区分を確認する(上場株式等か、NISAか等)
- 取引口座(特定口座/一般口座/NISA)を確認
- 上場株式等の譲渡損失か、一般株式等かを確認
- 配当も相殺したい場合、申告分離課税を選ぶか検討(配当の受け取り方法・源泉徴収の状況で最適が変わります)
Step 2: 必要書類をそろえる(付表と明細書が要点)
損益通算・繰越控除の適用には、確定申告書に加え、次の書類(付表・明細書)の添付が必要になります。
- 「確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」
- 「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」
Step 3: e-Tax(確定申告書等作成コーナー)で入力する
作成コーナーでは、申告する所得の選択等で「株式等の譲渡(売却)、配当、利子」を選び、金融・証券税制の画面から株式の譲渡所得を入力します。画面案内に沿って入力すると、必要な付表や明細書が自動作成される設計です。
Step 4: 翌年以後も連続して申告して繰越を維持する
ここが最重要です。翌年以後、利益が出なかった年や取引がなかった年でも、繰越を続けるために申告が必要になります。途中で申告を止めると、残っている繰越損失を使えなくなるリスクがあります。
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よくある落とし穴:株 損失 確定申告で失敗しないチェックポイント
特定口座(源泉徴収あり)でも申告すべき場面がある
源泉徴収あり特定口座は「申告不要」を選べる仕組みがありますが、損失繰越をしたい場合や、口座をまたいで損益通算したい場合、配当と通算したい場合などは申告を検討します。申告不要のままだと、繰越に必要な「損失が生じた年の申告」ができません。
配当との損益通算は「申告の選択」で結果が変わる
上場株式等の配当等と損益通算するには、配当側で申告分離課税を選択するなど条件があります。配当の受け取り方法(総合課税・申告分離・申告不要)で有利不利が変わるため、年の状況(所得、他の控除、住民税など)も含めて判断します。
NISAの損失は相殺・繰越できない
NISAは非課税メリットが大きい一方で、損失が出ても税務上はなかったものとして扱われ、損益通算・繰越控除ができません。制度上の仕様なので、申告でどうにかすることはできません。
よくある質問
Q: 株の損失繰越は、損した年に申告しないとどうなりますか?
Q: 翌年に取引がない(利益も損もない)場合でも申告が必要ですか?
Q: 複数の証券会社口座がある場合、損益通算できますか?
Q: NISA口座の売却損を、課税口座の利益と相殺できますか?
まとめ
- 株の損失繰越は、上場株式等の譲渡損失を最長3年間繰り越して利益・配当等と相殺できる制度
- 損失が出た年に確定申告し、翌年以後も申告を継続して繰越を維持するのが要点
- 必要書類は付表(繰越控除用)と譲渡所得等の計算明細書。e-Taxでは入力により自動作成される
- NISAの損失は対象外、一般株式等と上場株式等は区分が異なり相互に控除できない
- 配当との損益通算は申告方法の選択で結果が変わるため、年ごとに検討が必要
参照ソース
- 国税庁「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1474.htm
- 国税庁「確定申告書等様式コーナー(株式等譲渡益課税関係)」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/denshi-sonota/kabushikijoto/2105/01.htm
- e-Tax「作成コーナーで『株式等の譲渡所得』を入力したい(FAQ)」: https://www.e-tax.nta.go.jp/toiawase/faq/nyuryoku/03.htm
- 国税庁「確定申告書等作成コーナー(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除)」: https://www.keisan.nta.go.jp/r7yokuaru/cat2/cat21/cat219/kabushikijototokurei/sochiho37_12_2.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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