
執筆者:辻 光明
代表税理士
運送業の2024年問題2026|人手不足・コスト対策を税理士が解説

運送業の2024年問題(時間外労働の上限規制の適用)とは、ドライバーの残業が「年960時間」上限となることで、輸送能力の不足とコスト上昇が表面化する課題です。2026年(3年目)は「制度に慣れた会社が勝つ」局面に入り、場当たり対応では利益が削られやすくなります。特に中小の運送会社にとっては、人手不足と運賃・燃料・車両・外注費の上昇を同時に受けるため、経営・労務・税務を一体で設計することが重要です。
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、クリニック領域に加え、地域の中小企業の顧問として資金繰り・原価管理・税務調査対応まで支援してきました。以下では、運送業の現場で実装しやすい「経営の打ち手」を税務の視点も交えて整理します。
運送業の2024年問題とは(2026年の位置づけ)
2024年4月から、建設業・ドライバー・医師などを対象に猶予されていた時間外労働の上限規制が適用され、トラックドライバーは時間外労働の上限が年960時間になりました。これにより「稼働時間に依存した運び方」が限界を迎え、輸送能力不足が顕在化します。
国土交通省の推計では、対策が不十分な場合、2024年度に輸送能力が約14%不足し、2030年度には約34%不足する可能性があるとされています。2026年は、その中間地点として「荷主側の対応(運賃・荷待ち削減等)が進んだ企業」と「進まない企業」の差が収益に直結しやすい時期です。
運送業の残業規制(年960時間)で何が変わるか
1) 売上の量より、利益の質が問われる
稼働時間が制約されるため、単純に「便数を増やす」「長距離を回す」で売上を伸ばす戦略が取りにくくなります。結果として、以下が経営の分岐点になります。
- 高収益案件(適正運賃・附帯作業の対価が取れる)に寄せられるか
- 低収益案件(荷待ち長い・無償荷役・帰り荷なし)を減らせるか
- 実走率・積載率・回転率を上げられるか
2) コスト構造が固定化しやすい
人件費(賃上げ圧力)、燃料、保険料、車両・修繕、外注費が上がる一方で、便数が伸びにくいと、利益が急速に圧迫されます。ここで重要なのが原価の見える化と「価格転嫁の根拠づくり」です。
トラック人手不足への実務対策(採用・定着・外注の設計)
採用は「待遇」だけでなく「運び方」をセットで変える
賃上げだけで採用競争に勝つのは難しく、同時に「働きやすさ(拘束時間・休日・荷待ち)」の改善が必要です。具体策は次の通りです。
- ルート・時間帯の見直し(拘束時間を短くする再設計)
- 荷主との合意形成(荷待ち削減、受付予約、バース運用)
- 配車の標準化(属人化を減らす)と運行計画の前倒し
- 教育コストを見込んだ採用(未経験採用を前提に、育成を仕組みに)
外注活用は「利益が残る設計」にする
人が足りない時の外注は有効ですが、多重下請構造に陥ると利益が残らず、品質・安全・労務リスクも増えます。外注は以下の基準で整理します。
- 外注比率の上限(例:売上の◯%まで)
- 外注単価の基準(原価計算に基づく)
- 事故・品質の責任分界(契約書・運送約款の整備)
運送コスト対策の核心は「運賃交渉」と「荷待ち・荷役の有償化」
「標準的な運賃」を交渉の土台にする
国土交通省は、トラック運送業における交渉力の弱さや労働条件改善の必要性等を踏まえ、荷主との交渉の参考となる「標準的な運賃」を示しています。また、標準的運賃の見直しでは、運賃水準の引上げ(平均約8%)や荷役の対価等の加算を盛り込み、適正運賃収受の環境整備を進めています。
交渉のコツは「お願い」ではなく「根拠の提示」です。
- 荷待ち時間(平均、最大、発生頻度)
- 荷役作業(積込・取卸・検品等)の実態と工数
- 高速利用の有無と拘束時間への影響
- 燃料高騰分(サーチャージの取り決め)
荷待ち・荷役は無料サービスから切り離す
2026年に効くのは、荷主の運用を変える提案です。
- 受付予約・バース管理(待ち時間の削減)
- 荷役の分業(荷主側作業の明確化)
- 付帯作業の料金表(作業別の対価を提示)
- 電子書面(運賃・料金の明細)で合意を残す
中小企業の税務・経営相談
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対策メニュー比較(どれから着手すべきか)
| 施策 | 期待効果 | 立ち上げ難易度 | 税務・会計のポイント |
|---|---|---|---|
| 原価の見える化(便別・荷主別) | 不採算案件の特定、交渉材料 | 中 | 部門別管理、外注費・燃料・高速代の配賦ルールが重要 |
| 運賃改定・附帯作業の有償化 | 直接的に粗利改善 | 中〜高 | 料金表・契約書整備、消費税区分の確認 |
| 荷待ち削減(予約/バース) | 稼働効率改善、拘束時間減 | 高 | 効果測定のKPI(待機時間、回転率)を月次で管理 |
| 配車・運行のDX(TMS等) | 属人化低減、空車削減 | 中 | IT投資の資産計上/費用処理、補助金の会計処理に注意 |
| 共同配送・中継輸送 | 輸送能力不足の穴埋め | 高 | 収益配分ルール、委託契約の整理が必要 |
2026年に向けた進め方(90日で形にするステップ)
Step 1: 現状を数値化する(最初の2週間)
荷主別・便別で「売上」「走行距離」「拘束時間」「待機・荷役」「高速代」「燃料」「外注」を集計し、粗利を見える化します。儲かっていない原因を特定できないと、運賃交渉もDX投資も空回りします。
Step 2: 運賃・料金の交渉パッケージを作る(次の2〜4週間)
標準的運賃を参照しつつ、荷待ち・荷役・燃料高騰分を「料金表」に落とし込みます。交渉は、値上げ幅の話よりも「何を、どの条件なら、いくらで」を明確にする方が通りやすい傾向があります。
Step 3: 労務コンプライアンスを運び方に落とす(次の4〜8週間)
残業規制に合わせ、運行計画・ルート・中継・高速利用の基準を再設計します。ここで「守れないルール」を作ると現場が疲弊します。守れる運行計画に変えることがポイントです。
Step 4: 投資と税務を同時に最適化する(並行して実施)
車両更新、DX導入、教育費、採用費は、資金繰りと税負担に影響します。補助金・税制優遇の対象になり得る投資は、年度の利益予測と合わせて実行時期を調整します。
よくある質問
Q: 2026年でも「2024年問題」と呼ぶのはなぜですか?
Q: 運賃交渉で使える公的な根拠はありますか?
Q: コスト削減だけで乗り切れますか?
まとめ
- 運送業の2024年問題は、残業規制(年960時間)を起点に「輸送能力不足」と「コスト上昇」が続く構造課題
- 2026年(3年目)は、原価の見える化と運賃・料金の設計で収益格差が広がりやすい
- 人手不足対策は、賃上げだけでなく運び方の再設計(荷待ち削減・配車標準化)が鍵
- 標準的な運賃を土台に、荷待ち・荷役・燃料高騰分を有償化し、交渉を「根拠提示型」に変える
- 投資(車両・DX・教育)と税務を同時に設計し、資金繰りと利益耐性を高める
参照ソース
- 厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html
- 厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/roudoujouken05/index.html
- 国土交通省「物流の適正化・生産性向上に向けた取組(2024年問題の推計等)」: https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000687.html
- 国土交通省「『標準的な運賃』について」: https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk4_000118.html
- 国土交通省「新たなトラックの標準的運賃を告示しました(運賃水準を8%引上げ等)」: https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000294.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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