
執筆者:辻 勝
会長税理士
2040年問題でクリニック経営はどう変わる?|税理士が解説

2040年問題とは何か、クリニックにとって何が問題か
2040年問題とは、少子高齢化と人口減少がさらに進み、地域ごとに医療需要・患者構成・人材供給が大きく変わることで、これまでの診療体制や収益構造が通用しにくくなる問題です。特に開業医にとっては、患者数が増える地域と減る地域の差が広がる一方で、高齢者救急、在宅医療、介護連携への対応が経営課題になります。院長にとっての本質的な問題は、「今の診療圏が2040年にも成り立つか」を早めに見極めることではないでしょうか。
厚生労働省は、2040年頃を見据えた医療提供体制の議論で、入院だけでなく外来・在宅・介護連携・人材確保を含めて地域全体を再設計する方向を示しています。つまり、クリニック経営は「目の前の外来を回す」だけでなく、地域の中でどの機能を担うかを明確にする時代に入ったということです。
当法人でも、開業支援や月次面談の現場でよくある相談として、「患者数は今は足りているが、10年後・15年後に同じ診療モデルで続けられるのか」という声が増えています。2040年問題は遠い話ではなく、今の開業判断・採用判断・設備投資判断に直結する論点です。
2040年の医療はどうなる?地域医療構想と開業医への影響
地域医療構想は「病床再編」だけの話ではなくなる
従来の地域医療構想は病床機能の整理が中心でしたが、今後は外来、在宅医療、介護連携、人材確保まで含めた「新たな地域医療構想」に広がる方向です。厚生労働省の議論でも、2040年に向けては地域差が一段と拡大し、都市部では高齢者救急や在宅の受け皿整備、過疎地域では医療機能の維持そのものが課題になると整理されています。
この変化はクリニックにとって重要です。なぜなら、外来診療所も地域の医療提供体制の一部として、「どの患者層を主に支えるのか」「在宅や介護とどうつながるのか」が問われるからです。今後の開業医は、地域で不足する機能を担えるかどうかで評価される傾向が強まるでしょう。
第8次医療計画との整合が必要になる
現在の医療提供体制は、第8次医療計画の期間内で運営されています。したがって、単に2040年という将来像だけを見るのではなく、まずは足元の都道府県医療計画、外来医療計画、医師確保計画との整合を見る必要があります。
例えば、同じ内科クリニックでも、ある地域では生活習慣病管理やかかりつけ医機能が重視され、別の地域では訪問診療や後方支援病院との連携がより重要になります。「何科で開業するか」よりも「地域で何の役割を持つか」が経営の成否を左右しやすくなります。
人口減少でクリニック経営はどう変わる?都市部と地方の違い
2040年問題を考える際、最も危険なのは「全国平均で判断すること」です。人口減少と高齢化は全国で同時に起きますが、地域ごとのスピードと影響は大きく異なります。厚生労働省も、2040年に向けて地域差が拡大すると明示しています。
都市部は患者が増えるが、求められる診療が変わる
大都市圏では高齢者人口の増加により、一定の医療需要が続く可能性があります。ただし、増えるのは若年層の軽症外来だけではありません。高齢者の慢性疾患、複数疾患併存、認知症、フレイル、独居高齢者への対応など、より継続支援型の医療が求められます。
つまり、都市部では「患者数が多いから安心」ではありません。診療単価、スタッフ負荷、連携の複雑さまで含めると、従来型の回転重視外来だけでは限界が来る可能性があります。
地方は患者減少と人材難が同時に来る
一方で地方や人口減少地域では、患者数の減少に加えて、医療従事者の確保難が深刻になります。受付、看護師、医療事務だけでなく、連携先の病院や介護事業所の体制縮小も経営リスクになります。
この場合の論点は、売上拡大よりも固定費の最適化と機能維持です。診療日数、診療時間、常勤比率、医療機器更新の考え方まで見直す必要があります。現場では、「患者は減ったが、手間のかかる高齢患者は増えた」という構造変化が起こりやすく、単純な売上比較だけでは判断を誤ります。
地域差を踏まえた経営課題の比較
| 項目 | 都市部のクリニック | 地方・人口減少地域のクリニック |
|---|---|---|
| 主な需要変化 | 高齢者外来、在宅、救急後の受け皿増加 | 総患者数の減少、広域対応の必要 |
| 主な経営課題 | 継続支援型医療への転換、人員負荷増 | 人材確保、固定費圧縮、機能維持 |
| 有効な方向性 | かかりつけ機能、訪問診療、介護連携 | 多機能化、効率運営、地域連携強化 |
| 判断ミスの例 | 患者数だけ見て高齢者対応を後回し | 人口減少下で過大投資をしてしまう |
地域医療構想で開業医が持つべき判断軸とは
2040年問題への対応は、漠然と不安になることではなく、判断軸を持つことが重要です。開業や設備投資、採用の意思決定をするとき、次の4軸で考えると整理しやすくなります。
判断軸1 その地域で患者数は維持できるか
最初に見るべきは、総人口ではなく年齢構成の変化です。小児科、整形外科、皮膚科、精神科、内科でも、影響の受け方は異なります。たとえば高齢者比率が上がる地域では、生活習慣病や慢性疾患管理の需要は残りやすい一方、美容や若年層中心の自由診療は診療圏の再点検が必要です。
判断軸2 その地域で不足する機能を担えるか
新たな地域医療構想では、医療機関の役割分担がより明確になります。ここで重要なのは、自院が「なくてもよい診療所」になるのではなく、地域で必要とされる機能を持てるかです。
具体的には、次のような問いが有効です。
- 在宅医療や訪問診療に一部でも関与できるか
- 退院後患者のフォローを受けられるか
- 介護事業所、訪問看護、地域包括支援センターとつながっているか
- かかりつけ医機能報告制度を見据えた体制整備ができるか
判断軸3 人材が採れる体制か
2040年問題は患者数だけでなく、働き手の問題でもあります。看護師や医療事務の採用難は、都市部でも地方でも続く前提で考えた方が安全です。したがって、「今採れているから大丈夫」ではなく、3年後・5年後も回る運営設計が必要です。
院長依存が強すぎるクリニックほど、2040年問題の影響を受けやすい傾向があります。属人的な電話対応、紙中心の業務、予約の非効率、会計待ちなどを放置すると、人材難の時代に運営が維持しにくくなります。
判断軸4 出口戦略まで含めて設計されているか
多くの院長が見落としやすいのが出口です。2040年に向けて承継市場も地域差が強まり、どの地域でも高値で第三者承継できるとは限りません。承継可能性が低い地域で高額投資をすると、回収前に出口で苦しむことがあります。
開業時点から、「10年後に誰が継ぐのか」「居抜きやM&Aが成立しやすい立地か」「医療機器の資産回収は可能か」を見ておくことが重要です。
2040年問題に備える方法と院長の実務対応
2040年問題への備えは、壮大な戦略よりも、実務に落とした行動計画の方が役立ちます。ここでは、院長が今から取り組みやすい手順を整理します。
Step 1: 診療圏を「現在」ではなく「2030年・2040年」で見る
商圏分析をするときは、現在人口だけで判断しないことが重要です。年齢階級別人口、世帯構成、高齢単身世帯の増減、近隣病院の再編予定まで見ます。単に患者が多い地域ではなく、将来も医療需要が維持される地域かを確認します。
Step 2: 自院の患者構成と収益構造を分解する
次に、自院の売上を診療科目別、年齢層別、保険・自費別、初再診別に分解します。2040年問題への耐性は、売上総額よりも構成で決まるからです。高齢患者中心でも、慢性疾患管理が安定していれば強みになりますし、若年層偏重なら見直しが必要です。
Step 3: 連携先を増やし、地域内の役割を明確にする
病院、訪問看護、介護事業所、薬局、ケアマネジャーとの連携は、今後さらに重要になります。紹介・逆紹介の流れがあるか、退院後患者の受け皿になれるか、在宅移行に関われるかで地域内の存在感は変わります。
Step 4: 人手を増やす前に業務を省力化する
採用難が続く前提なら、まずは業務のデジタル化と標準化です。予約、問診、会計、レセプト補助、電話対応、書類管理の見直しは、経営防衛そのものです。当法人でも、記帳や事務フローの見直しと同じで、医療現場でも「人で回す」設計から「仕組みで回す」設計へ移る医院が安定しやすい傾向があります。
Step 5: 投資判断は「回収年数」と「承継可能性」で決める
高額医療機器、増床、分院、改装は、2040年までの地域需要と出口戦略を踏まえて判断すべきです。勢いで投資するのではなく、回収期間、稼働率、採用可能性、承継価値まで見ます。
2040年問題で勝ち残るクリニックと厳しくなるクリニックの違い
2040年問題の時代に安定しやすいのは、規模が大きいクリニックよりも、地域の役割が明確なクリニックです。逆に厳しくなりやすいのは、「今まで通り」の延長線で経営している医院です。
安定しやすいクリニックの特徴
- かかりつけ機能が明確で、継続受診がある
- 在宅、介護、病院連携のどれかに強みがある
- 業務が標準化され、院長不在でも一定程度回る
- 将来人口と承継可能性を踏まえて投資している
厳しくなりやすいクリニックの特徴
- 若年単発患者に依存し、継続率が低い
- 地域連携が弱く、紹介・逆紹介の流れがない
- 採用難なのに紙業務と属人運営が残っている
- 地域需要の将来像を見ずに設備投資をしている
2040年問題は、すべての医院が一律に厳しくなるという意味ではありません。むしろ、地域の将来像に合わせて機能転換できる医院には追い風になる可能性もあります。重要なのは、人口減少を悲観することではなく、自院がどの需要に対応するのかを早めに決めることです。
よくある質問
Q: 2040年問題があるなら、今からクリニック開業はやめた方がよいですか?
Q: 地域医療構想は病院の話で、診療所にはあまり関係ないのでは?
Q: 2040年に向けて、まず何から確認すればよいですか?
Q: 承継を考えている院長も2040年問題を意識すべきですか?
まとめ
- 2040年問題は、人口減少と高齢化によりクリニックの患者構成・人材確保・地域連携が大きく変わる問題
- 新たな地域医療構想では、病床だけでなく外来・在宅・介護連携まで含めた役割が問われる
- 都市部は高齢者需要への対応、地方は患者減少と人材難への対応が主な論点になる
- 院長の判断軸は、将来人口、地域で不足する機能、人材確保、出口戦略の4点が中心
- 今後の経営判断は「今の収益」だけでなく「2040年にも成立する診療モデルか」で見ることが重要
参照ソース
- 厚生労働省「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_436723_00015.html
- 厚生労働省「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する資料」: https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001440677.pdf
- 厚生労働省「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するとりまとめ」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_60080.html
- 厚生労働省「医療計画」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/iryou_keikaku/index.html
- 厚生労働省「かかりつけ医機能報告制度」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000123022_00007.html
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(全国)」: https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp_zenkoku2023.asp
- 内閣府「令和7年版高齢社会白書」: https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/html/zenbun/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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