
執筆者:辻 勝
会長税理士
ベースアップ評価料未届出の始め方|2026年版を解説

ベースアップ評価料を届け出ていない診療所でも今から始められます
ベースアップ評価料をまだ届け出ていない診療所でも、2026年時点で新規届出は可能です。未届出の院長や事務長にとっての問題は、「今からでも算定できるのか」「いつから収入に反映されるのか」「書類作成がどこまで必要か」が分かりにくいことではないでしょうか。結論からいえば、厚生労働省は未届出の医療機関について今からでも届出でき、届出の翌月から算定できると案内しています。したがって、2024年や2025年に見送っていた診療所でも、2026年に入ってから着手する実益は十分あります。
当法人でも、スタッフ数が少なく、これまで「書類が複雑そう」「賃上げ原資が読めない」という理由で未着手だった診療所からの相談が増えています。実務では、まず外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)から始めるケースが多く、入口をシンプルに設計することが重要です。
ベースアップ評価料未届出とは何か
未届出でも失格ではない
「これまで届け出ていなかったから、もう遅いのでは」と考える診療所は少なくありません。しかし、未届出であること自体は不利ではありません。厚生労働省の特設ページでも、まだベースアップ評価料を届け出ていないすべての医療機関が対象と明記されています。
つまり、未届出の診療所に必要なのは、過去を取り返す作業ではなく、これからの算定開始に向けた準備です。2026年改定では賃上げ対応の見直しも予定されているため、未届出のまま放置するより、今のうちに制度の入口に乗る意義は大きいといえます。
まずは評価料(Ⅰ)から考えるのが基本
小規模診療所では、最初から複雑な区分まで狙うより、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)を中心に検討する方が実務的です。厚生労働省も、評価料(Ⅰ)のみで賃金改善を目指す医療機関でも届出できること、賃金改善率の大小にかかわらず届出できることを案内しています。
今から届出する手順は5ステップ
未届出の診療所が動く場合、手順を分解すると難しくありません。重要なのは、「届出書を作る前に、誰にいくら配分するかの考え方を固める」ことです。
Step 1: 自院が対象になる評価料を確認する
無床の一般的な診療所であれば、まず外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の対象かを確認します。訪問診療を行っているか、歯科か医科か、有床か無床かで使う様式や検討範囲が変わります。
Step 2: 賃金改善の対象職員を整理する
制度上の対象職員と、実際に賃上げ配分を行う職員を整理します。2026年改定では対象職員の範囲拡大が示されており、事務職員や一定の若年医師等まで考慮が広がる方向です。もっとも、経営者・役員等は対象外なので、家族役員が多い診療所は設計を誤りやすい点に注意が必要です。
Step 3: 届出様式を作成する
評価料(Ⅰ)のみを届出する場合は、専用届出様式が用意されています。厚生労働省の案内では、評価料Ⅰ専用届出様式を使う場合、少なくとも「別添シート」「計画書シート」「届出書シート」の記載が必要です。現場では、ここで人件費の現状と今後の改善見込みを整理します。
Step 4: 地方厚生局へ提出する
届出は、所在地を管轄する地方厚生局または厚生支局の都道府県事務所ごとに設定された専用メールアドレスへExcelファイルを提出する方法が基本です。メール利用が難しい場合には、やむを得ない事情があるときに限り書面提出も案内されています。
Step 5: 翌月から算定し、実績報告に備える
新規届出は受理後すぐ当月算定ではなく、原則として届出の翌月から算定です。さらに、各年8月には賃金改善実績報告書の提出が必要になるため、届出して終わりではありません。支給実績の裏付けになる給与台帳や賞与資料は、早い段階から保存体制を整えておく必要があります。
2026年版で押さえるべき点数と考え方
2026年改定で評価水準は見直し予定
厚生労働省の2026年度診療報酬改定説明資料では、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の見直しが示されています。令和8年6月から令和9年5月までの「新たに賃上げを行う施設」の例では、初診時17点、再診時4点、訪問診療時79点または19点という水準が示されています。2027年6月以降は段階的に引き上げる設計です。
未届出だった診療所が2026年から新たに始める場合、実務上は「継続的賃上げ実施施設」ではなく「新たに賃上げを行う施設」としての考え方が出発点になります。この区分の読み違いは、収入見込みの過大評価につながりやすいため注意が必要です。
| 項目 | 従来水準の例 | 2026年度見直し後の例 |
|---|---|---|
| 初診時 | 6点 | 17点 |
| 再診時等 | 2点 | 4点 |
| 訪問診療時(同一建物居住者等以外) | 28点 | 79点 |
| 訪問診療時(それ以外) | 7点 | 19点 |
重要なのは「点数」より「配分可能額」
制度の相談現場では、点数だけを見て届出するか決めてしまうケースがあります。しかし、本当に重要なのは、算定見込額が毎月の賃上げ原資としてどれだけ安定して確保できるかです。患者数の季節変動が大きい診療所、訪問診療の件数が月ごとにぶれやすい診療所では、年間で見た設計が欠かせません。
よくある相談として、「受付2名、看護師3名の小規模診療所で、月額の改善額が読みにくい」というものがあります。この場合、固定的賃上げだけでなく、賞与や手当を含めた実績管理まで見据えて設計すると、制度運用が安定しやすくなります。
ベースアップ評価料の注意点と失敗しやすい論点
届出しただけでは足りない
ベースアップ評価料は、単に届出書を出せばよい制度ではありません。算定収入を実際に賃金改善へつなげる必要があり、未実施や説明不足があると、後から実績報告段階で整合性が取れなくなるおそれがあります。
役員報酬や院長報酬と混同しない
個人診療所や同族色の強い医療法人では、院長や家族役員の処遇改善と混同しがちです。しかし、制度の趣旨は、医療機関に勤務する対象職員の賃金改善です。役員報酬の見直しとは切り分けて考える必要があります。
2026年は旧情報と新情報が混在しやすい
2026年は改定年であり、厚生労働省の特設ページでも、令和6年度改定の情報と令和8年度改定のお知らせが併存しています。そのため、「届出できるか」という入口論点は既存ページで確認しつつ、「何点で算定するか」「対象職員の範囲がどう変わるか」は最新の改定資料で確認する、という二段構えが安全です。
ベースアップ評価料の新規届出でよくある質問
Q: これまで一度も届出していない診療所でも、2026年から始められますか?
Q: 無床の小規模診療所でも届出する意味はありますか?
Q: 2026年改定で点数が変わるなら、今は待った方がよいですか?
Q: 提出後に必要な作業はありますか?
まとめ
- ベースアップ評価料を未届出の診療所でも、今から新規届出は可能
- 原則として届出の翌月から算定開始を見込む
- 小規模診療所は外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)からの検討が実務的
- 提出は管轄の地方厚生局等の専用メールアドレスへの送付が基本
- 2026年は改定年のため、届出可否は特設ページ、点数や対象職員は最新改定資料で二重確認することが重要
参照ソース
- 厚生労働省「ベースアップ評価料等について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71068.html
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要 1.賃上げ・物価対応(賃上げ)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001669200.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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