
執筆者:辻 勝
会長税理士
ベースアップ評価料の法人通算とは|複数クリニック対応を解説

ベースアップ評価料の法人通算は可能か
ベースアップ評価料の法人通算は、2026年改定で一定の条件のもと可能になりました。複数の診療所や病院を持つ医療法人にとっての問題は、「本院と分院を別々に計算し続けるのか、それとも法人全体で扱えるのか」が見えにくいことではないでしょうか。結論からいうと、同一の給与体系に基づく複数の保険医療機関を有する法人では、区分計算に必要な賃金改善算定基礎額の算出や、中間報告書・実績報告書の作成を法人内で通算して行えるよう整理されました。
もっとも、ここで注意したいのは、法人通算が認められたからといって、すべての手続が完全に1本化されると即断しないことです。制度上明示されているのは、あくまで通算してよい範囲です。実務では、保険医療機関コード、施設基準の届出、提出先の地方厚生局の管轄を切り分けて確認する必要があります。
税理士の立場からみると、この改定は分院展開している医療法人にとって大きな前進です。従来は各院ごとの人数や賃金総額のブレが大きく、評価区分の判定や報告作業が煩雑でした。2026年改定では、その煩雑さを一定程度緩和しつつ、継続的な賃上げの実行と検証を制度的に求める設計に変わっています。
ベースアップ評価料 医療法人 通算の制度改正ポイント
2026年改定で押さえるべきポイントは、大きく3つあります。1つ目は、ベースアップ評価料の対象職員が広がったことです。事務職員に加え、一定の医師等まで対象が拡大され、法人本部や分院を含めた人件費設計への影響が大きくなりました。
2つ目は、届出時の取扱いが簡素化されたことです。従来必要だった賃金改善計画書は、2026年改定後は新規届出時点では不要となり、各評価料に必要な情報を入力した届出書添付書類での手続が基本になります。複数院を運営する法人にとって、これは準備負担の軽減につながります。
3つ目が、今回のテーマである法人通算です。厚生労働省の説明資料では、同一法人内の複数医療機関の通算が新設され、同一の給与体系に基づく複数の保険医療機関について、区分計算に必要な「賃金改善算定基礎額」の算出や、「賃金改善中間報告書」「賃金改善実績報告書」の作成を通算して行えるとされています。
分院 ベースアップ評価料をまとめて届出できるのか
本部や事務長が最も気にするのは、「分院をまとめて一括届出できるのか」という点でしょう。実務上の答えは、法人通算イコール完全な一括届出ではない、です。
制度改正で認められたのは、同一給与体系のもとで法人内の複数保険医療機関を通算して、賃金改善算定基礎額の算出や報告書作成を行えることです。一方で、施設基準の届出そのものは、保険医療機関としての届出であり、実際の提出先は地方厚生局の管轄に従います。そのため、本院と分院が別の都道府県にある場合や、そもそも給与体系が院ごとに異なる場合には、法人内で一括管理したくても、そのまま一本化できるとは限りません。
実務では、次の比較で整理すると誤解が少なくなります。
| 項目 | 法人通算できるもの | 個別確認が必要なもの |
|---|---|---|
| 区分計算 | 賃金改善算定基礎額の算出 | 各院の算定実績の把握方法 |
| 報告書 | 中間報告書・実績報告書の作成 | 提出先・提出形式 |
| 届出 | 必要情報の整理は法人本部で集約しやすい | 施設基準届出の受理単位、管轄 |
| 要件判定 | 同一給与体系かの確認 | 分院ごとの差異の洗い出し |
つまり、医療法人本部としては「法人通算で計算・管理する部分」と「院単位で確認・提出する部分」を分けることが重要です。ここを混同すると、届出漏れや区分誤りが生じやすくなります。
ベースアップ評価料 法人 複数医療機関で確認したい要件
法人通算を使いたい場合、まず確認すべきなのは同一の給与体系です。厚生労働省資料では、この文言が法人通算の前提として置かれています。したがって、就業規則や給与規程が法人共通でも、分院ごとに手当体系、昇給ルール、職種区分、非常勤の時給設計が実質的に異なる場合は、安易に通算前提で進めるのは危険です。
確認事項は次のとおりです。
同一給与体系かどうかの確認
- 基本給表が本院・分院で共通か
- 役職手当、資格手当、皆勤手当などの設計が共通か
- 非常勤職員の時給テーブルや賞与ルールが共通か
- ベアの反映方法が共通か
対象職員の範囲の確認
2026年改定では対象職員の範囲が広がっています。ただし、経営者や役員等は対象外です。法人本部に勤務する事務職員をどこまで評価料の対象職員として整理するかは、勤務実態や所属関係の確認が必要です。名目上本部所属でも、実際には各院業務に従事しているケースでは、整理の仕方で結果が変わります。
継続的賃上げとの関係
2026年度と2027年度では、継続的に賃上げを実施している医療機関に高い評価が設定されています。したがって、単に届出するだけでなく、2026年3月時点との比較や、基本給等の引上げ実績を法人で追える体制を作っておく必要があります。
法人本部が進めるベースアップ評価料の手順
複数院を持つ医療法人では、制度理解よりも「誰が何をいつまでにやるか」を固めるほうが重要です。実務は次の順で進めると整理しやすくなります。
Step 1: 対象院と給与体系を棚卸しする
本院、分院、病院、在宅部門ごとに、同一給与体系に基づくかを確認します。給与規程が同じでも、実運用が違えば通算前提は危うくなります。
Step 2: 対象職員数と月額賃金総額を集計する
外来・在宅ベースアップ評価料や入院ベースアップ評価料の区分計算に必要な数値を、法人本部で集約します。ここで職種区分の統一ができていないと、後の中間報告・実績報告で整合が取れません。
Step 3: 通算できる範囲と個別届出部分を分ける
賃金改善算定基礎額の算出や報告書は法人通算で進めつつ、施設基準の届出受理や提出先は院ごとに確認します。特に複数県にまたがる法人は、地方厚生局の管轄確認を早めに済ませるべきです。
Step 4: 算定開始前月までに届出する
2026年度にベースアップ評価料による賃金改善を行う場合、算定開始前月までに届出が必要です。月末ぎりぎりでは差戻し対応が難しいため、法人本部では2〜3週間前の内部締切を設けるのが安全です。
Step 5: 8月報告を見据えて月次管理する
算定年度の8月には賃金改善中間報告書、翌年度の8月には賃金改善実績報告書の提出が必要です。届出だけ終えて安心すると、報告段階で数字が合わない事態になりがちです。
税理士がみる法人通算の注意点と失敗例
税理士実務では、法人通算が使えるかどうかより、「使った後に説明できるか」が重要です。よくある失敗は次の3つです。
1. 給与体系が同一だと思い込む
規程は共通でも、院長裁量で手当運用が違うケースは珍しくありません。賞与の算定ルールや非常勤の処遇差があると、同一給与体系の説明が弱くなります。
2. 本部職員の扱いが曖昧
総務、経理、採用担当など本部職員を対象職員に含めるかどうかを曖昧にすると、届出時と実績報告時で人数や金額がずれます。職務分掌と勤務実態の証拠を残すことが大切です。
3. 通算と一括届出を混同する
法人通算が可能になったことで、「分院分も全部まとめて1回で終わる」と誤認しやすくなりました。しかし、制度資料上はそこまで広くは読めません。通算できる範囲を限定して理解することが、結果的に安全です。
よくある質問
Q: ベースアップ評価料の法人通算は、2026年改定で新しく認められたのですか?
Q: 分院をまとめて1件の届出にできますか?
Q: 法人通算を使うための一番大事な条件は何ですか?
Q: いつまでに届出すればよいですか?
まとめ
- 2026年改定で、同一給与体系の複数保険医療機関を持つ法人はベースアップ評価料の法人通算が可能になった
- 通算できる中心は、賃金改善算定基礎額の算出と中間報告書・実績報告書の作成である
- 法人通算と、施設基準届出の完全一括化は同じ意味ではない
- 本部は給与体系、対象職員、院別データの整合を事前に確認する必要がある
- 顧問税理士と連携し、届出前だけでなく8月報告まで見据えた運用設計が重要である
参照ソース
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71068.html
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 1.賃上げ対応」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001669200.pdf
- 厚生労働省「ベースアップ評価料等について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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