
執筆者:安田 駆流
社会保険労務士
ベースアップ評価料未届出|診療所の2026年届出実務手順

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ベースアップ評価料未届出の診療所が最初に見ること
ベースアップ評価料を未届出の診療所は、まず「対象外かどうか」ではなく、令和8年度の届出区分、様式、提出時期、賃金改善の対象職員を同じ表で確認する必要があります。2026年6月以降に算定する場合、これまで届け出ていた医療機関を含めて5月中の届出確認が重要です。
この記事は、届出を後回しにしていた無床診療所・有床診療所の院長、事務長、給与担当者に向けて、2026年5月11日時点の公式情報に基づき、今から何を確認すべきかを整理するものです。ベースアップ評価料は、収入増と賃金改善を結び付けて説明できる状態にしておくことが核心です。

2026年届出で確認する基本項目
令和8年度のベースアップ評価料では、医療機関の種類によって届け出る評価料や必要様式が異なります。厚生労働省の特設ページでは、無床診療所、有床診療所、病院などの区分別に、届出種類・様式・スケジュールの確認が案内されています。
未届出か再届出かを分ける
「まだ届け出ていない診療所」と「過去に届け出たが令和8年度改定後に再確認が必要な診療所」では、院内で見る資料が違います。過去のExcel様式、令和6年度改定時の控え、令和7年度算定分の実績報告書をそのまま使うと、年度違いの様式を参照するリスクがあります。
院内の確認表に入れる列
| 確認項目 | 見る資料 | 経営上の意味 |
|---|---|---|
| 届出区分 | 無床・有床・病院等の早見表 | 算定できる評価料を誤らない |
| 対象職員 | 給与台帳、雇用契約、勤務実績 | 賃金改善額と固定費増を把握する |
| 提出時期 | 厚労省・所管厚生局の案内 | 算定開始月と入金見込みを合わせる |
| 報告準備 | 中間報告・実績報告の様式 | 後日の説明資料を届出時から残す |
届出作業は医療事務だけの仕事ではありません。給与担当、経理担当、院長が同じ表を見て、評価料収入と賃金改善の差額を月次で確認する必要があります。
未届出診療所の実務手順
Step 1: 自院の区分を確認する
無床診療所か有床診療所か、外来・在宅ベースアップ評価料のどの区分を検討するかを確認します。歯科、訪問看護、薬局とは様式や案内が異なるため、医科診療所の資料に絞って確認します。
Step 2: 令和8年度の様式を取得する
古い届出ファイルを複製して使う前に、厚生労働省の特設ページと所管厚生局の案内を確認します。ファイル名には医療機関コードや届出名称を入れるなど、厚生局ごとの提出ルールにも注意します。
Step 3: 給与台帳を対象職員別に整理する
基本給、手当、賞与、非常勤職員の勤務実績、賃上げ実施月を一覧化します。賃上げを基本給で行うのか、手当で行うのかにより、翌月以降の固定費と説明資料が変わります。
Step 4: 算定収入と人件費増を月次試算に入れる
評価料収入だけを売上に足すと、賃金改善の原資不足を見落とします。対象患者数、点数、請求月、入金月、人件費増、社会保険料への影響を同じ表で確認します。
Step 5: 報告に使う証跡を保存する
届出控え、給与改定の決裁、対象職員一覧、レセプト請求額、入金資料を保存します。後日の中間報告・実績報告で「どの収入をどの賃金改善に充てたか」を説明できる状態にします。
賃上げ原資と資金繰りの見方
ベースアップ評価料は、診療報酬上の収入と給与計算がつながる制度です。算定できる点数が増えても、賃金改善の実施月、入金月、賞与支給月がずれると資金繰りに差が出ます。
収入と支出の月ズレを見る
診療報酬は請求から入金まで時間差があります。一方で給与は毎月支給されます。評価料収入を見込んで先に賃上げする場合、数か月分の運転資金が必要になることがあります。
対象職員の範囲を曖昧にしない
対象職員の範囲、常勤・非常勤、職種、家族従業員、兼務者の扱いは、制度資料と給与実態の両方から確認します。税理士法人 辻総合会計グループでは、算定判断そのものではなく、給与台帳、月次人件費率、賃上げ促進税制との関係を整理し、院長が数字で判断できる資料化を支援します。
よくあるつまずき
旧様式を使ってしまう
令和8年度改定前の様式と令和8年度改定後の様式は分けて確認します。厚生労働省ページでも、過去年度の届出様式や実績報告書は別項目として案内されています。院内フォルダに古いExcelが残っている場合は、最新版と混同しない命名ルールが必要です。
点数増だけを事業計画に入れる
売上増を見込むだけでは不十分です。人件費増、社会保険料、給与計算の作業、報告書作成、レセコン設定を含めると、利益への影響は単純ではありません。評価料収入と賃金改善額の差額を月次で見える化しておくと、資金繰りの判断がしやすくなります。
提出先の案内を見落とす
提出方法やメール件名、ファイル名、提出期間は地方厚生局の案内も確認します。全国共通の制度資料だけでなく、自院の所在地を管轄する厚生局ページを見ることが重要です。
提出前に院長が確認するチェックリスト
提出前レビューでは、制度資料、給与台帳、レセプト請求、資金繰りの4つを分けて確認します。制度資料では、令和8年度用のページを見ているか、旧様式を参照していないか、所管厚生局の案内と矛盾していないかを見ます。
給与台帳では、対象職員の範囲、賃金改善の方法、基本給・手当・賞与の内訳、社会保険料への影響を確認します。ここが曖昧なまま届出を進めると、後日の中間報告・実績報告で説明しにくくなります。
レセプト請求では、評価料の算定開始月、対象患者数の見込み、レセコン設定、請求担当者の確認日を残します。資金繰りでは、入金時期と給与支給時期のズレを見ます。特に小規模診療所では、数か月分の人件費増が先行するだけでも運転資金に影響します。
院長が最後に見るべきなのは、「届出できるか」だけではありません。届出後に、給与、請求、報告、税務が同じ前提で動くかどうかです。提出前チェックを1枚にまとめておくと、翌年度の実績報告や次回改定時にも再利用できます。
加えて、届出後の院内運用日を決めておくことも大切です。毎月のレセプト締め後に評価料収入を集計し、給与支給後に賃金改善額を更新し、月次試算表の完成時に人件費率を確認する流れにすると、制度対応が経理・給与・請求のどこかで止まりにくくなります。
小規模診療所では、院長が制度資料を読み、事務長が届出を作り、給与担当が台帳を持つという分断が起こりやすいです。誰か一人の記憶に頼るのではなく、届出前提、確認日、保存先、未決事項を1つの表に残すことが、後日の問い合わせや報告準備の負担を下げます。
よくある質問
Q: 今からでもベースアップ評価料の届出は検討できますか?
Q: 賃上げ原資が不足しそうな場合はどう見ればよいですか?
Q: 税理士に届出判断を任せられますか?
まとめ
- 未届出診療所は、令和8年度の届出区分、様式、提出時期を最初に確認する
- 古い様式や過年度の実績報告書と混同しないよう、ファイル名と保存場所を分ける
- 評価料収入、賃金改善額、社会保険料、入金時期を月次で見る
- 辻総合会計グループでは、給与台帳、資金繰り、月次人件費率への反映を支援する
参照ソース
この記事を書いた人

安田 駆流
社会保険労務士
社会保険労務士
税理士法人 辻総合会計グループの社会保険労務士。就業規則、雇用契約、勤怠・給与計算まわりの労務実務を担当し、クリニック・中小企業の職場ルール整備を支援する。
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