
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニック人事評価の作り方|税理士が解説

クリニックの人事評価とは何か
クリニックの人事評価制度とは、スタッフの役割・行動・成果を一定の基準で見える化し、育成や処遇に反映する仕組みです。院長や事務長にとっての問題は、「頑張っている人を適切に評価できない」「不公平感から退職が出る」ことではないでしょうか。人事評価は給与を決めるだけの制度ではなく、定着率と組織力を高める経営の仕組みです。
特に診療所では、受付、医療事務、看護師、看護助手など職種が混在し、院長との距離も近いため、感覚的な評価が不満につながりやすい傾向があります。厚生労働省も、病院・診療所における勤務環境改善を、継続的な計画・実施・評価・見直しで進める仕組みとして整理しています。評価制度は、そのPDCAの一部として捉えると設計しやすくなります。
当法人でも、医療機関の労務・会計支援の現場で、「昇給理由が曖昧」「ベテランと若手の基準が違う」「教育しても定着しない」という相談をよく受けます。制度づくりの出発点は、厳しい査定ではなく、期待する行動を言語化することです。
医院の評価制度が必要な理由と定着率への効果
医院で人事評価が必要になる最大の理由は、離職防止と育成の両立です。厚生労働省は、看護職員確保の支援策の中で、雇用管理の改善が定着促進・離職防止に重要だと示しています。小規模なクリニックほど、1人の退職が受付体制や診療補助体制に与える影響は大きく、採用コストも無視できません。
また、2026年時点でも、厚生労働省の「人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)」では、人事評価制度や職場活性化制度の導入、離職率低下への取組が助成対象として位置付けられています。つまり、人事評価制度は国の雇用管理改善策としても認識されているわけです。
制度がない医院では、次のような問題が起きやすくなります。
| 項目 | 評価制度がない場合 | 評価制度がある場合 |
|---|---|---|
| 昇給判断 | 院長の感覚に依存しやすい | 基準に沿って説明しやすい |
| 新人育成 | 教える人によって差が出る | 到達目標を共有できる |
| 不満の把握 | 退職意向が出るまで見えにくい | 面談で早期に把握しやすい |
| 定着率 | 不公平感が離職要因になりやすい | 納得感を高めやすい |
評価制度の効果は、単に「点数を付けること」ではありません。スタッフが「何を期待されているか」を理解し、できている点と改善点を把握できることに価値があります。特に医療機関では、接遇、正確性、報連相、感染対策、レセプト精度など、日常業務の質が患者満足や収益にも直結します。
クリニック人事評価の作り方
評価項目は「成果・行動・能力」の3区分で考える
人事評価の作り方で失敗しにくいのは、評価項目を3区分にする方法です。
- 成果評価:受付件数、請求精度、返戻削減、残業抑制など
- 行動評価:患者対応、チーム連携、報連相、改善提案など
- 能力評価:知識、業務理解、指導力、問題対応力など
厚生労働省の職業能力評価基準でも、知識、技術・技能に加え、成果につながる職務行動例を整理しています。クリニックでもこれを応用し、職種別に必要能力を定義すると、評価が属人的になりにくくなります。
職種別に評価シートを分ける
受付事務と看護師では、求める役割が異なります。共通項目だけで運用すると、現場では「自分の仕事を見てもらえていない」という不満が出やすくなります。そこで、共通項目と職種別項目を分けます。
- 共通項目:勤務態度、協調性、患者対応、報連相
- 受付・医療事務:会計精度、電話応対、予約調整、レセプト理解
- 看護職:処置補助、患者説明、観察力、感染対策
- リーダー層:後輩指導、改善提案、部門調整
全員を同じ物差しで測るのではなく、共通基準と職種基準を併用するのが実務的です。
評価段階は3段階か5段階に絞る
小規模医院では、7段階以上の細かい評価は運用負担が大きくなります。まずは3段階または5段階で十分です。例えば5段階なら、「期待を大きく上回る」「期待を上回る」「期待通り」「要改善」「要支援」とすると、面談でも説明しやすくなります。
人事評価制度を医院に導入する手順
制度導入は、一気に完成形を目指すより、試行期間を設ける方が成功しやすいです。
Step 1: 現状の不満を洗い出す
退職理由、昇給時の質問、主任クラスの悩みを整理します。「何を解決したい制度か」を明確にしないと、評価表だけ作って終わります。
Step 2: 等級と役割を決める
一般職、中堅職、リーダー職など、2〜4段階で十分です。等級ごとに「何ができれば次の段階か」を決めます。
Step 3: 評価項目を10〜15項目に絞る
多すぎると記入負担が重くなります。最初は共通項目6〜8、職種別4〜7程度が現実的です。
Step 4: 面談ルールを先に決める
評価表より重要なのが面談運用です。半期ごとに自己評価、一次評価、面談、最終評価の流れを固定します。
Step 5: 昇給連動は緩やかに始める
最初から評価点数を賃金へ直結させると反発が起きやすいため、初年度は昇給額の一部だけ反映する方法が無難です。
Step 6: 6か月後に見直す
厚生労働省の勤務環境改善マネジメントシステムでも、計画の実施、評価、見直しが重視されています。制度も一度作って終わりではありません。
人事評価と給与・賞与の違い、連動の注意点
「評価制度を作ったら、すぐに給与へ反映しなければならないのか」と聞かれることがありますが、必ずしもそうではありません。むしろ、制度初期は育成目的を前面に出すべきです。給与連動を急ぐと、院長の主観への不信や、同僚間の比較意識が強まりやすくなります。
人事評価と処遇連動の考え方は、次のように整理できます。
- 昇給:半期または年1回、評価結果を一定割合反映
- 賞与:医院業績と個人評価を組み合わせる
- 昇格:評価点だけでなく、役割遂行の実態で判断
- 指導対象:低評価者を責めるのではなく、改善計画を作る
2026年時点で再開されている厚生労働省の助成制度でも、人事評価制度単体ではなく、職場活性化制度や健康づくり制度などと合わせた雇用管理改善が重視されています。つまり、評価制度だけで定着率は上がらず、面談・教育・働きやすさの整備と一体運用することが重要です。
税務の観点では、賞与や昇給原資の設計は人件費計画と連動させる必要があります。患者数が季節変動しやすい診療科では、固定費化しすぎると資金繰りを圧迫するため、制度設計時に年間人件費の上限も確認しておくべきです。
クリニックスタッフ評価で失敗しやすいポイント
よくある失敗は、制度そのものより運用面にあります。
評価項目が抽象的すぎる
「頑張り」「協力的」といった曖昧な言葉だけでは、評価者ごとの差が大きくなります。「患者からの質問に対し、確認のうえ正確に回答できる」「レセプト返戻を減らすために事前確認を行う」など、行動に落とし込みましょう。
面談が年1回だけで終わる
年1回の査定面談だけでは、改善につながりません。半期ごと、できれば四半期ごとに短時間でも振り返りを入れる方が有効です。
ベテラン優遇に見える
長く勤めている人への配慮は必要ですが、勤続年数だけで高評価に見えると若手の離職を招きます。年功ではなく役割基準で説明できる制度にする必要があります。
院長だけで抱え込む
小規模クリニックでは院長が全評価を担いがちですが、主任や事務長の観察も取り入れた方が納得感が上がります。最終決定は院長でも、一次評価は複眼的にするのが望ましいでしょう。
よくある質問
Q: クリニックの人事評価制度は小規模でも必要ですか?
Q: 人事評価は何項目くらいが適切ですか?
Q: 評価結果をすぐ給与に反映しないと意味がありませんか?
Q: 外部のひな形をそのまま使っても大丈夫ですか?
まとめ
- クリニックの人事評価制度は、給与査定よりも定着率向上と育成に主目的を置くべき
- 評価項目は「成果・行動・能力」の3区分で作ると整理しやすい
- 共通項目と職種別項目を分けることで、不公平感を抑えやすい
- 導入初年度は面談運用の定着を優先し、賃金連動は緩やかに始めるのが実務的
- 評価制度は勤務環境改善、教育、職場活性化と一体で運用してこそ効果が出る
参照ソース
- 厚生労働省「医療勤務環境改善マネジメントシステムに関する指針」: https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00009210&dataType=0&pageNo=1
- 厚生労働省「職業能力評価基準」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/ability_skill/syokunou/index.html
- 厚生労働省「人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000199292_00005.html
- 厚生労働省「看護職員の確保」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056419.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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