
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニックの個別指導とは?流れと持参書類|税理士が解説

クリニックの個別指導とは
クリニックの個別指導とは、厚生労働省・地方厚生局等が保険医療機関に対して行う保険診療の確認手続きです。院長や事務長にとっての問題は、「なぜ自院が選ばれたのか」と「当日までに何を準備すべきか」が分かりにくい点ではないでしょうか。
個別指導は、ただちに不正を意味するものではありません。高点数や情報提供、過去の指導後の改善確認など、一定の基準に基づいて実施されます。実務では、通知書を受け取った時点で慌ててしまう院長が少なくありませんが、早めに資料を整理すれば対応可能です。
当法人でも、保険診療を行う医療機関から「個別指導の通知が来たが、監査と同じですか」「カルテはどこまで持っていけばよいですか」といった相談を受けます。個別指導は監査とは位置づけが異なり、まずは保険診療のルールに沿って請求・記録が行われているかを確認する場です。まずは制度の全体像を落ち着いて把握することが重要です。
個別指導に選ばれる基準とは
個別指導はどのような場合に選定されるか
厚生労働省が公表している資料では、個別指導は主に次のような場合に実施されます。
- 診療報酬請求等に関する情報提供があった場合
- 以前の個別指導後も改善が十分でない場合
- 集団的個別指導を受けた後、翌年度もなお高点数に該当する場合
- その他、指導が必要と判断された場合
ここで押さえたいのは、個別指導の選定理由は一つとは限らないという点です。高点数だけでなく、届出事項と算定実務の整合性、レセプト内容、カルテ記載の不備、返戻や査定の傾向などが複合的に見られることがあります。
高点数だけで必ず個別指導になるのか
高点数は重要な選定要素ですが、高点数であれば必ず即座に個別指導になるわけではありません。一般に、まずは集団的個別指導の対象となり、その後も翌年度の実績で高点数に該当する場合に個別指導へ進む流れが示されています。
厚生労働省の資料では、集団的個別指導は平均点数が都道府県平均の一定割合を超え、かつ類型区分ごとの上位概ね8%の範囲を対象とする考え方が示されています。一方、個別指導はその後の経過も踏まえて行われ、実施件数は類型区分ごとに全体の4%程度とされています。
| 項目 | 集団的個別指導 | 個別指導 |
|---|---|---|
| 目的 | 高点数傾向の保険医療機関への集団的な確認 | 個別面談方式で具体的な診療・請求内容を確認 |
| 主な対象 | 類型区分ごとの高点数機関 | 高点数継続、情報提供、改善不十分等 |
| 実施形式 | 一定の場所に集めて講義形式等 | 個別面談方式 |
| 実務上の重み | 注意喚起・ルール確認 | より具体的な記録・請求内容の確認 |
個別指導の流れはどう進むか
通知書の受領から事前提出まで
個別指導の流れは、通常、地方厚生局等からの実施通知で始まります。通知書には実施日時、場所、対象、事前提出期限、提出先、当日に準備すべき資料などが記載されます。最初にやるべきことは、院長だけで抱え込まず、事務長、レセプト担当、顧問税理士や必要に応じて社労士と共有することです。
近年の地方厚生局の案内では、事前提出書類として「保険医療機関の現況」「連絡票」を求める例が多く、局によっては「診療業務及び診療報酬請求事務の手順についての流れ図」まで指定されています。ここは通知書に従うのが原則です。
当日の流れ
当日の進行は案件によって差がありますが、一般に次の順序で進みます。
Step 1: 受付・出席者確認
通知書記載の時間までに到着し、出席者や持参資料を確認します。院長本人の出席が求められることが多く、事務担当者のみで完結する前提は危険です。
Step 2: 指導担当者からの説明
個別指導の趣旨、対象期間、確認方法などの説明があります。ここで過度に身構える必要はありませんが、曖昧な回答は避け、確認のうえ回答する姿勢が重要です。
Step 3: 診療録・レセプト等の確認
対象患者の診療録、レセプト、処方、検査、画像、同意書や計画書など、算定根拠が分かる資料をもとに確認が進みます。診療行為と請求内容、記録の整合性が見られます。
Step 4: 質疑応答・指摘事項の確認
記載漏れ、算定要件の理解違い、届出と運用の不一致などについて質疑があります。その場で説明できるものと、後日整理が必要なものを切り分けて対応します。
Step 5: 結果の受領と改善対応
当日または後日、指摘事項や改善を求められる事項が示されます。返還や自主点検が必要となるケースもあるため、終了後のフォローが実は最重要です。
個別指導と監査の違い
個別指導と監査は同じではありません。個別指導は保険診療の適正化を目的とする確認手続きであり、直ちに処分前提の場ではありません。一方、監査は明らかな不正や著しい不当の疑いが強い場合に移行しうる、より重い手続きです。
したがって、個別指導の段階で誠実に記録の整備と説明を行うことが、不要な疑義を広げないうえで重要です。
個別指導の持参書類と事前提出書類
事前提出書類
地方厚生局の公表例では、個別指導・新規個別指導の事前提出書類として、次のような書類が案内されています。
- 保険医療機関の現況
- 連絡票
- 診療業務及び診療報酬請求事務の手順についての流れ図
- 通知書で指定された補足資料
局ごとに様式や名称が少し異なるため、「前年の資料を流用する」のではなく、その年度・その局の様式を使うことが大切です。
当日に持参することが多い書類
実務上、通知書で個別に指定されることが多いのは次の資料です。
- 対象患者の診療録
- 対象レセプトの控え
- 処方箋、検査結果、画像所見、看護記録など関連資料
- 各種同意書、計画書、指導記録
- 届出に関する資料
- 院内の運用マニュアルや業務フロー
- 算定の根拠を説明できる帳票類
とくに「請求はしているが、記録が残っていない」「スタッフは理解しているが、手順が文書化されていない」という状態は危険です。持参書類は単なる物理的な準備ではなく、算定根拠を一貫して説明できるかの確認作業だと考えるべきです。
個別指導でよくある指摘と事前対策
よくある指摘事項
厚生労働省や地方厚生局が公表する指摘事項では、次のような論点が繰り返し見られます。
- 診療録の記載が不十分
- 算定要件を満たす記録が残っていない
- 届出施設基準と実際の運用が一致していない
- 医師の署名・確認が不十分
- 同意書、計画書、説明記録の保存が不十分
- レセプト記載とカルテ記載の整合性が弱い
匿名化した相談事例でも、「診療自体はしていたが、カルテの記載が薄く、算定根拠の説明が後追いになった」というケースは少なくありません。保険診療は、実際に行った医療だけでなく、それを裏づける記録がセットで求められます。
事前対策の進め方
Step 1: 通知書を読み込み、対象期間・対象患者を特定する
まずはどの期間、どの患者、どの算定項目が見られるのかを把握します。
Step 2: カルテとレセプトを突合する
請求した内容と診療録の記載が一致しているかを確認します。ここでズレがあれば優先して整理します。
Step 3: 届出資料・院内運用を確認する
施設基準の届出内容と、スタッフ配置、算定フロー、記録方法が一致しているか点検します。
Step 4: 想定問答を準備する
なぜ算定したのか、どの記録が根拠か、誰がどの手順で確認しているかを説明できるようにします。
Step 5: 外部専門家にレビューを依頼する
税理士、必要に応じて医療法務やレセプト実務に詳しい専門家を交え、第三者の視点で確認します。
よくある質問
Q: 個別指導に選ばれたら、不正請求を疑われているのでしょうか。
Q: 個別指導の持参書類は何を用意すればよいですか。
Q: 個別指導は院長本人が出席しなければなりませんか。
Q: 個別指導のあと、返還が必要になることはありますか。
まとめ
- クリニックの個別指導は、保険診療の適正化のために行われる確認手続き
- 選定基準は高点数だけでなく、情報提供や改善状況など複数ある
- 当日は診療録、レセプト、同意書、計画書など算定根拠資料の整合性が見られる
- 事前提出書類は「保険医療機関の現況」「連絡票」等が多いが、通知書の指定が最優先
- 個別指導は通知を受け取った直後の初動と、終了後の改善対応まで含めて準備することが重要
参照ソース
- 厚生労働省「保険診療における指導・監査」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/shidou_kansa.html
- 厚生労働省「指導・監査の流れ」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/dl/shidou_kansa_08.pdf
- 近畿厚生局「集団的個別指導及び個別指導の選定の概要について」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/gyomu/gyomu/hoken_kikan/documents/syuuko_sentei.pdf
- 関東信越厚生局「個別指導・新規個別指導に係る事前提出書類について」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/iryo_shido/kobetsu.html
- 東海北陸厚生局「個別指導・新規個別指導に係る事前提出書類について」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tokaihokuriku/newpage_00550.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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