
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニック事業用資産の相続評価|税理士が解説

個人クリニックの事業用資産と相続は「何として評価するか」が核心です
個人クリニックの事業用資産を相続するとき、医療機器や内装は一律に簿価で評価するわけではありません。相続税では、医療機器は一般動産として時価ベースで評価し、内装は建物そのものに含まれるのか、建物附属設備として別にみるのかで扱いが分かれます。院長のご家族や後継者にとっての問題は、帳簿の残高と相続税評価額が一致しないため、申告額を誤りやすい点にあります。税理士法人 辻総合会計でも、閉院か承継かが未確定の段階で、財産の区分整理から着手するケースが少なくありません。
クリニック 事業用資産 相続とは何か
個人事業であるクリニックの相続では、土地・建物・預金だけでなく、診療に使っていた事業用資産も相続財産に含まれます。代表例は、レントゲン装置、超音波診断装置、内視鏡、ベッド、待合室の家具、受付設備、看板、内装造作などです。
相続税の実務では、まず財産を次のように分けて考えます。
| 資産の種類 | 主な例 | 相続税上の見方 |
|---|---|---|
| 不動産 | 土地、建物 | 路線価・固定資産税評価額等を基礎に評価 |
| 一般動産 | 医療機器、什器備品、家具 | 売買実例価額や新品価格から減価して評価 |
| 建物附属設備 | 給排水、空調、電気、衛生設備など | 建物に含めるか、附属設備としてみるかを判定 |
| 権利・債権 | 売掛金、リース保証金など | それぞれの評価ルールで算定 |
ここで重要なのは、会計上の固定資産区分と相続税の評価単位が必ずしも同じではないことです。会計ソフトでは「器具備品」として一括管理していても、相続税では個別の資産ごとに確認が必要になります。
医療機器 相続税 評価はどう考えるか
医療機器の多くは、相続税では一般動産として扱います。財産評価基本通達では、一般動産は原則として売買実例価額や精通者意見価格を参酌して評価し、それが明らかでない場合は、同種同規格の新品小売価額から経過年数に応じた償却費相当額を控除して算定するとされています。
医療機器は簿価ではなく「中古市場を意識した時価」でみる
たとえば超音波診断装置や内視鏡システムは、購入額が高額でも、中古市場や保守契約の有無、メーカー、型式、製造年、稼働状況で価格差が大きくなります。このため、高額医療機器ほど見積書や中古査定を取る意義が大きいといえます。
一方で、古い診察台、ワゴン、応接セット、パソコン周辺機器などは、中古流通価値が極めて低いこともあります。その場合でもゼロと断定せず、使用可能性や処分費用との関係を踏まえて整理する必要があります。
相続後の減価償却はどうなるか
相続税評価と、その後の所得税上の減価償却は別の論点です。相続で取得した減価償却資産は、所得税実務では被相続人が引き続き所有していたものとみなして未償却残額等を引き継ぐ考え方があり、相続税評価額と将来の減価償却計算額が一致しないことがあります。ここは申告書作成時に混同しやすいポイントです。
内装や造作は「建物」か「設備」かで評価が変わる
個人クリニックで特に迷いやすいのが内装です。受付カウンター、間仕切り、待合室造作、処置室の配線、給排水、空調、照明、手洗い設備などは、見た目は一体でも税務上の見方が異なります。
家屋と構造上一体なら建物に含める
国税庁の財産評価基本通達では、電気設備、ガス設備、衛生設備、給排水設備、温湿度調整設備などで、その家屋に取り付けられ構造上一体となっているものは、家屋の価額に含めて評価するとされています。つまり、ビルトインの空調や配管、固定された衛生設備などは、単独の動産ではなく建物側でみる場面があります。
取り外し可能な造作や独立性の高い設備は別管理になりやすい
反対に、移設可能な機器、独立性の高い看板、特定用途の設備、後付けの什器などは、一般動産または附属設備として別に把握することがあります。賃貸テナントのクリニックでは、院長側が負担した内装工事でも、契約内容や原状回復義務によって経済価値の見方が変わるため、工事請負契約書と固定資産台帳の突合が欠かせません。
個人事業 相続 資産の評価額を整理する手順
相続発生後は、感覚で分類せず、資料ベースで評価準備を進めるのが安全です。
Step 1: 固定資産台帳を取得する
減価償却資産の名称、取得年月、取得価額、未償却残額を確認します。まず全体像をつかむための出発点です。
Step 2: 現物確認を行う
既に廃棄した資産、故障中の資産、リース物件、個人利用へ転用した資産を切り分けます。台帳と現物が一致しないことは珍しくありません。
Step 3: 資産区分を分ける
医療機器、家具備品、建物附属設備、建物本体、売掛金などに分けます。ここで内装工事の契約書や図面が役立ちます。
Step 4: 時価資料を集める
高額機器は中古査定、同等品の相場、メーカー情報、専門業者の意見書などを確保します。相場が不明なものは新品価格からの減価方式も検討します。
Step 5: 承継か閉院かを踏まえて税務方針を決める
後継者が事業を引き継ぐ場合は、相続税だけでなく、準確定申告、消費税、減価償却の承継、許認可や保険医療機関の手続も合わせて設計します。
事業用資産 評価額が高いときの対策と注意点
評価額が思ったより高くなるのは、土地建物よりも、むしろ「整理不足」が原因であることが多いです。廃棄済み資産が台帳に残っていたり、価値の低い備品を高く見積もったりすると、不要な税負担につながります。
また、後継者が青色申告事業を承継する場合には、個人版事業承継税制の適用余地が出ることがあります。これは2019年1月1日から2028年12月31日までの相続等を対象とする特例で、一定の認定と要件充足により、事業用資産に係る相続税の納税猶予・免除が認められる制度です。ただし、すべてのクリニックで自動的に使える制度ではなく、事前準備や継続要件の確認が必要です。
当法人でもよくある相談は、「医療機器は古いから価値がないはず」「内装は賃貸物件だからゼロではないか」というものです。しかし、税務ではゼロ評価できるかどうかを資料で説明できることが重要です。個別の状況により結論は異なるため、承継前の棚卸しと専門家確認が欠かせません。
よくある質問
Q: 医療機器は固定資産台帳の未償却残額で申告すればよいですか?
Q: テナントの内装工事は相続財産にならないのでしょうか?
Q: 廃棄予定の古い医療機器でも相続税の対象ですか?
まとめ
- 個人クリニックの事業用資産は、帳簿価額ではなく相続税の評価ルールで整理する必要がある
- 医療機器は一般動産として時価ベースで評価し、高額機器は査定資料の確保が有効
- 内装は建物本体に含むのか、建物附属設備や造作としてみるのかで扱いが分かれる
- 相続後の減価償却と相続税評価は別論点であり、混同しないことが重要
- 承継予定がある場合は、個人版事業承継税制も含めて早めに検討する
参照ソース
- 国税庁「第1節 一般動産」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/06/01.htm
- 国税庁「第3章 家屋及び家屋の上に存する権利(附属設備等の評価)」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/03/01.htm
- 国税庁「個人版事業承継税制」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/kojin.htm
- 国税庁「個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除の特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4153.htm
- 厚生労働省「保険医療機関・保険薬局の廃止・休止・再開の届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/ichiran_haishi.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
