
執筆者:辻 勝
会長税理士
金利上昇とクリニック返済額|2026年の融資対策を解説

金利上昇2026でクリニックの返済額はいくら増える?
金利上昇局面では、クリニック開業医にとって問題になるのは「借入額が大きいため、わずかな金利差でも返済負担が無視できない」点です。結論からいうと、借入額5,000万円〜1.5億円規模のクリニックでは、金利が0.1%動くだけでも総返済額に数十万円から100万円超の差が生じます。さらに0.5%、1.0%と上がると、毎月返済額だけでなく、運転資金の安全余力まで圧迫されやすくなります。
特に開業直後のクリニックは、患者数が計画どおりに立ち上がらない時期があり、家賃・人件費・医療機器リース・広告費が先行しがちです。つまり、開業医・開業予定の医師にとって、2026年の金利上昇は「利益の話」ではなく、資金繰りの耐久力の話だと捉える必要があります。
当法人でも、医療機関の資金計画を確認する際は、表面上の金利だけでなく「月次返済額がいくら増えるか」「増額後も3〜6か月分の運転資金を確保できるか」を重視しています。金利上昇局面では、借りる前の判断より、借りた後の守り方が重要です。
開業融資の金利上昇影響シミュレーション
まずは、変動金利0.9%を起点に、返済期間15年・元利均等返済で試算してみます。ここでは、クリニック開業でよくある借入規模を想定しています。
0.1%の金利差で返済額はいくら増える?
| 借入額 | 金利0.9%の毎月返済額 | 金利1.0%の毎月返済額 | 月額増加 | 総返済額の増加 |
|---|---|---|---|---|
| 5,000万円 | 約29.7万円 | 約29.9万円 | 約0.22万円 | 約39万円 |
| 1億円 | 約59.4万円 | 約59.8万円 | 約0.44万円 | 約79万円 |
| 1.5億円 | 約89.1万円 | 約89.8万円 | 約0.66万円 | 約118万円 |
この表だけを見ると、0.1%差は小さく見えるかもしれません。ただ、医療機器更新や採用コストが重なる年には、月2万〜6万円の差でも資金繰り感覚は変わります。金利差は単独で見るのではなく、人件費増加や診療報酬改定の影響と合算して見るのが実務的です。
0.5%上がると影響は一気に重くなる
同じ条件で0.9%から1.4%に上昇すると、影響は次のようになります。
| 借入額 | 金利0.9%の毎月返済額 | 金利1.4%の毎月返済額 | 月額増加 | 総返済額の増加 |
|---|---|---|---|---|
| 5,000万円 | 約29.7万円 | 約30.8万円 | 約1.1万円 | 約199万円 |
| 1億円 | 約59.4万円 | 約61.6万円 | 約2.2万円 | 約399万円 |
| 1.5億円 | 約89.1万円 | 約92.4万円 | 約3.3万円 | 約598万円 |
眼科や整形外科のように設備投資が大きく、借入額が1億円超になりやすい診療科では、0.5%の上昇で総返済額が数百万円単位で増える計算です。だからこそ、「変動のほうが今は低いから得」と単純に判断しないことが重要です。
クリニックの変動金利と固定金利はどっちがよい?
「クリニック 変動金利 固定金利 どっち」と悩む先生は多いですが、正解は一つではありません。大切なのは、金利の安さではなく、経営の安定性に合うかどうかです。
変動金利が向くケース
変動金利が向くのは、次のようなケースです。
- 自己資金が厚く、返済増加に耐えられる
- 開業後の立ち上がりが見えており、早期繰上返済も視野にある
- 借入期間を短めに設定し、金利上昇の影響期間を抑えられる
開業後すぐに患者数が安定し、自由診療比率も一定程度見込める場合は、変動のメリットを活かしやすいでしょう。ただし、事業性融資では住宅ローンでよく聞く「5年ルール」「125%ルール」のような負担緩和が当然にあるとは限りません。クリニック融資は、住宅ローンと同じ感覚で考えないことが重要です。
固定金利が向くケース
一方で固定金利が向くのは、次のようなケースです。
- 借入額が大きい
- 開業初年度〜2年目の赤字リスクを慎重に見ている
- 人件費や賃料など固定費が高い
- 今後の利上げ局面をストレスにしたくない
固定金利は当初金利が高めでも、返済計画を読みやすいのが利点です。日本政策金融公庫の創業支援や事業資金では、返済期間や条件に応じた固定金利商品が選択肢になります。資金調達では、「最安金利」より「最悪ケースでも回る返済計画」を優先したほうが、結果として安全です。
日銀の利上げ局面で開業医が見るべきポイント
2026年にかけては、金利環境の正常化が進む前提で資金計画を組むほうが無難です。ここで見るべきなのは、単なる政策金利ではなく、実際の借入条件と経営への波及です。
見るべき指標は「金利」より「DSCR感覚」
医療機関の現場では、厳密な財務指標よりも「毎月の返済が無理なく払えるか」で判断されがちです。しかし実務では、返済原資に対して返済額がどの程度安全かを確認する視点が欠かせません。
たとえば、毎月の手元資金余力が20万円しかないクリニックで、金利上昇により返済が月3万円増えると、余力の15%を失うことになります。数字だけ見ると小さくても、採用や修繕が重なれば一気に苦しくなります。
診療科別に影響は異なる
借入負担は診療科で差が出ます。
| 診療科の例 | 借入規模の傾向 | 金利上昇の影響 |
|---|---|---|
| 内科・小児科 | 5,000万円〜8,000万円程度が多い | 月次返済増は比較的小さいが、立ち上がり患者数次第で重くなる |
| 皮膚科・耳鼻科 | 6,000万円〜1億円程度 | 内装・広告費が先行すると運転資金を圧迫しやすい |
| 眼科・整形外科 | 1億円超〜1.5億円以上もある | 医療機器負担が大きく、金利上昇の影響が最も出やすい |
匿名化した相談事例でも、設備投資が大きい診療科ほど「返済額そのもの」より「追加借入のしづらさ」が問題になります。金利上昇局面では、将来の更新投資まで見据えて借入余力を残す発想が必要です。
クリニック開業でできる金利上昇対策
金利上昇に備える方法は、単に借り換えるだけではありません。開業前と開業後で、打つべき手は変わります。
Step 1: まず資金計画を0.5%〜1.0%上振れで作る
現在の提示金利だけで事業計画を作ると、将来の修正が大きくなります。最初から0.5%上昇、できれば1.0%上昇の返済額も並べて確認しましょう。
設備資金だけでなく、運転資金の月商何か月分を確保するかまで決めると、資金ショートのリスクが下がります。
Step 2: 固定・変動の配分を考える
全額を変動にするか、全額を固定にするかではなく、一部を固定で押さえる考え方もあります。特に高額の医療機器や内装資金は固定、短期運転資金は柔軟に、という整理は実務上有効です。
Step 3: 借り換え可能性を早めに確認する
借り換えは「苦しくなってから」では選択肢が狭まります。開業後1〜2年で実績が整ってきた時点で、他行条件や固定化の余地を確認しておくと動きやすくなります。
Step 4: 繰上返済は手元資金を減らしすぎない
繰上返済は利息軽減に有効ですが、医療機器故障・採用難・診療報酬改定の影響に備える現金が減ると本末転倒です。繰上返済より先に、最低限の運転資金を守ることを優先してください。
借り換え・固定化を検討すべきタイミング
借り換えは、次のような場面で検討価値があります。
- 返済実績が積み上がり、信用力が改善した
- 当初の変動金利メリットが薄れた
- 設備更新前に返済条件を安定させたい
- 分院や増床など次の投資計画がある
反対に、開業直後で業績がまだ不安定な時期は、条件変更で有利にならないこともあります。借り換えでは、金利だけでなく、保証料・手数料・抵当権設定費用・事務コストも比較しなければなりません。見かけの金利差だけで動くと、期待したほど効果が出ないことがあります。
よくある質問
Q: 金利が0.1%上がるだけでも本当に気にするべきですか?
Q: 変動金利から固定金利へ借り換えるべきですか?
Q: 開業融資では日本政策金融公庫も選択肢になりますか?
Q: 繰上返済は早いほど有利ですか?
まとめ
- 金利上昇局面では、クリニックは借入額が大きいため0.1%差でも返済総額に影響が出る
- 1億円超の借入では、0.5%上昇で総返済額が数百万円増えることがある
- 変動金利と固定金利は、金利の低さではなく資金繰りの安定性で選ぶべき
- 借り換え、固定化、繰上返済は有効だが、手元資金を減らしすぎない設計が重要
- 個別の借入条件や診療科特性で最適解は異なるため、開業前から複数シナリオで検討することが大切
参照ソース
- 日本政策金融公庫「金利情報 小規模事業者/個人事業主の方【国民生活事業】」: https://www.jfc.go.jp/n/rate/index.html
- 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」: https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html
- 金融庁「Discussion Paper Series DP2025-7」: https://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2025/DP2025-7.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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