
執筆者:辻 勝
会長税理士
開業規制エリアの対策|機能要請と代替戦略を解説

開業規制エリアとは何か
開業規制エリアとは、一般に「どこでも自由に診療所を出せるわけではなく、地域の医療需要との整合を求められる区域」を指します。とくに都市部で新規開業を考える医師にとって問題になるのは、外来医師過多区域に指定された、または指定候補になっている地域で、従来のように立地だけで判断すると、開業前の届出や協議対応で計画がずれやすい点です。
2026年は、この論点が「単なるお願い」から一段進みました。厚生労働省は2026年3月27日、外来医師過多区域の候補区域一覧を公表し、さらに新規開業希望者に対して、開業6か月前の届出、協議の場への参加、不足する医療機能の提供要請などを可能にする制度運用を示しています。つまり、開業規制エリアは「完全な開業禁止」ではない一方、地域医療との整合を示せない計画は進めにくくなったと理解すべきです。
税理士法人 辻総合会計でも、近年は「駅前で出したいが規制に触れないか」「分院より承継の方が安全か」といった相談が増えています。現場感覚としては、物件探しより前に、医療計画・二次医療圏・不足機能の確認を済ませた案件の方が、開業後の収支も安定しやすい傾向があります。
医師偏在による開業規制とは
開業規制エリアの正式な考え方
制度上の中心概念は、外来医師過多区域です。厚生労働省の外来医療制度では、都道府県が医療計画の中で外来医療計画を定め、外来医療機能の偏在や不足への対応を進めることになっています。2026年時点では、国が候補区域を示し、最終的な指定は都道府県が行う仕組みです。したがって、「一覧に載っているから即開業不可」でもなく、「候補だから無視してよい」でもありません。
厚労省の公表資料では、候補区域の基準は次の2つです。
| 基準項目 | 内容 |
|---|---|
| 外来医師偏在指標 | 全国平均値+標準偏差の1.5倍以上 |
| 診療所密度 | 可住地面積あたり診療所数が上位10%以上 |
この2条件に該当する二次医療圏が、2026年3月時点で国の示す候補区域となっています。
2026年時点の開業規制区域一覧の見方
厚生労働省が2026年3月27日に公表した候補区域は9か所です。
| 都道府県 | 二次医療圏 | 主な該当市区町村 |
|---|---|---|
| 東京都 | 区中央部 | 千代田区、中央区、港区、文京区、台東区 |
| 東京都 | 区西部 | 新宿区、中野区、杉並区 |
| 東京都 | 区西南部 | 目黒区、世田谷区、渋谷区 |
| 東京都 | 区南部 | 品川区、大田区 |
| 東京都 | 区西北部 | 豊島区、北区、板橋区、練馬区 |
| 京都府 | 京都・乙訓 | 京都市、向日市、長岡京市、大山崎町 |
| 大阪府 | 大阪市 | 大阪市 |
| 兵庫県 | 神戸 | 神戸市 |
| 福岡県 | 福岡・糸島 | 福岡市、糸島市 |
ただし、この一覧は「国が示す候補区域」であり、資料上も、都道府県は候補二次医療圏の全部ではなく、市区町村や地区単位で指定することもあり得るとされています。したがって、検索で「開業規制 区域 一覧」を確認した後に、本当に必要なのは、都道府県の医療計画上の指定範囲と、実際に開業したい住所がそこに含まれるかの照合です。
開業規制エリアで求められる機能要請への対応
何を求められるのか
厚生労働省の2026年資料では、外来医師過多区域の新規開業希望者に対し、都道府県が開業6か月前に提供予定の医療機能等の届出を求め、協議の場への参加や、地域で不足する医療、または医師不足地域での医療提供を要請できると示しています。要するに、都市部の人気エリアで一般外来を追加するだけではなく、地域に足りない役割をどこまで担うかが問われる制度です。
想定される論点は、例えば次のようなものです。
- 在宅医療や訪問診療を担えるか
- 夜間・休日・時間外の対応に一定程度協力できるか
- 産業医、学校医、予防接種、健診など地域機能を担えるか
- 連携先病院や介護事業所との役割分担をどう組むか
- 医師不足地域への非常勤派遣や応援に関与できるか
ここで重要なのは、「求められた機能を全部やる」ことではありません。重要なのは、自院の診療方針、人的体制、物件条件、資金計画に照らし、どの機能なら継続的に提供できるかを整理し、数値と運営体制で説明することです。
要請にどう答えるか
Step 1: 二次医療圏単位で不足機能を確認する
まず都道府県の外来医療計画や地域資料を読み、当該圏域で不足している機能を確認します。一般内科が多い地域でも、在宅、発熱後の継続管理、生活習慣病の長期フォロー、連携医療などは不足していることがあります。
Step 2: 提供可能機能を3つ以内に絞る
届出や協議の場では、何でもできますと答えるより、継続提供できる機能を絞った方が信頼されます。たとえば「平日午後は訪問診療枠を設定」「予防接種と健診を地域住民向けに拡充」など、運営に落ちる内容が望ましいです。
Step 3: 収支計画に反映する
機能要請への対応は、善意だけでは続きません。訪問診療なら車両・人員・移動時間、夜間当番なら人件費、連携強化なら事務負担が増えます。損益分岐点まで含めて事前に設計する必要があります。
Step 4: 協議で「できること・できないこと」を明確化する
無理な約束は、開業後の赤字や人材離職につながります。現場では、最初に広く受けすぎて後から縮小するより、最初から限定的でも実行可能な体制を示す方が、行政・地域医師会との関係は安定しやすいです。
開業規制対策として有効な代替戦略
代替戦略1 承継開業に切り替える
規制エリアでゼロから新設するより、既存診療所の承継の方が現実的な場合があります。地域に既に根付いた患者基盤、連携先、医療機能を引き継げるため、行政との対話でも「地域機能を維持する開業」と説明しやすいからです。
さらに厚生労働省は、重点医師偏在対策支援区域で承継または開業する診療所について、一定要件を満たせば登録免許税・不動産取得税の軽減措置があると案内しています。規制エリアで無理に駅前物件へ進むより、支援区域で承継案件を探す方が、投資回収の面で優位になることもあります。
代替戦略2 規制エリア隣接地へずらす
二次医療圏や市区町村単位で指定される以上、住所を少しずらすだけで制度上の扱いが変わることがあります。都市部では、駅力だけでなく、道路動線、駐車場、住宅開発、競合数を加味すると、規制エリア外の近接地の方が長期採算は良いケースもあります。
比較の視点は次のとおりです。
| 比較項目 | 規制エリア内 | 隣接エリア |
|---|---|---|
| 行政対応 | 届出・協議対応が重くなりやすい | 相対的に軽い可能性 |
| 競合状況 | 診療所密度が高い傾向 | 差別化しやすい場合がある |
| 家賃・取得費 | 高止まりしやすい | 低下余地がある |
| 集患 | 駅前優位がある | 駐車場・生活導線で逆転することもある |
代替戦略3 不足機能型クリニックへ再設計する
一般外来中心から、在宅、慢性疾患管理、小児の継続管理、健診、予防接種、専門外来連携などへ軸足を移す方法です。規制エリアでも、地域に不足する役割を明確に担う設計なら、協議での説明力が上がります。
代替戦略4 非常勤・複数拠点モデルを検討する
自費や専門外来を都市部で行いながら、別地域で非常勤や連携診療を組み込むモデルです。厚労省の偏在対策は、医師不足地域での医療提供や支え合いの仕組みを重視しているため、単独拠点の収益最大化だけでなく、地域貢献を含めた事業モデルの方が政策との整合を取りやすくなります。
開業規制エリアで失敗しない実務手順
開業前に確認すべき順番
規制エリアで失敗する案件の多くは、物件ありきで進むことです。先に内装契約や融資申込を進めると、後で機能要請や指定範囲の問題が出たときに、撤退コストが大きくなります。
Step 1: 住所の属する二次医療圏を確定する
行政区と二次医療圏は必ずしも一致しません。まず開業予定住所の属する圏域を特定します。
Step 2: 候補区域か、都道府県指定区域かを確認する
厚労省の候補一覧と、都道府県医療計画上の指定内容の双方を確認します。
Step 3: 必要な医療機能の方向性を整理する
在宅、健診、予防接種、時間外、連携外来など、自院が担える機能を決めます。
Step 4: 物件と人員計画を機能に合わせて見直す
例えば訪問診療を入れるなら駐車スペース、訪問体制、看護師確保が必要です。機能を後付けにすると、設計変更コストが大きくなります。
Step 5: 開業6か月前基準を逆算して届出準備をする
資金調達、法人設立、保険医療機関指定、採用スケジュールを、行政協議日程から逆算して組みます。2026年制度では、この前倒し設計が従来以上に重要です。
税理士と一緒に見るべき数字
税理士の立場からは、立地可否だけでなく次の数字を同時に見ます。
- 開業初年度の固定費比率
- 家賃と借入返済の合計負担
- 医療機能追加に伴う人件費増
- 1日患者数の損益分岐点
- 在宅や健診を組み込んだ場合の粗利構成
- 3年後の承継・分院展開余地
規制エリアでは、単価よりも継続性が重要です。見込み患者数が高くても、機能要請対応で人件費が膨らめば利益は残りません。個別の状況により最適解は異なるため、診療圏調査、行政確認、収支試算を同時に進めるのが安全です。
よくある質問
Q: 開業規制エリアではクリニックを開けないのですか?
Q: 開業規制区域一覧はどこで確認できますか?
Q: 規制エリアで最も現実的な対策は何ですか?
Q: まず誰に相談すべきですか?
まとめ
- 開業規制エリアの中心は、2026年に制度強化された外来医師過多区域への対応
- 国の候補区域一覧と、都道府県が実際に指定する区域は同じとは限らない
- 新規開業では、開業6か月前の届出、協議参加、機能要請への対応が重要になる
- 対策としては、承継開業、隣接地への変更、不足機能型への再設計が有効
- 物件選定より前に、行政確認と収支試算を行うことが失敗防止の近道
参照ソース
- 厚生労働省「外来医療」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000123022_00002.html
- 厚生労働省「外来医師過多区域に係る候補区域の公表について(令和8年3月27日)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001681549.pdf
- 厚生労働省「地域医療構想、医師偏在対策等の検討体制について」: https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001512865.pdf
- 厚生労働省「医師確保対策」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kinkyu/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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