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クリニック向けコラム
作成日:2026.02.22
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

クリニック収益改善をインフレで進める3手順|税理士が解説

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クリニック収益改善をインフレで進める3手順|税理士が解説

インフレ時代に「保険診療が苦しい」理由とは

保険診療中心のクリニックがインフレ下で苦しくなる本質は、診療報酬が短期では物価上昇に連動しにくい一方、人件費・医薬品・光熱費は先に上がり、実質利益が削られる点にあります。特に院長が50代以降で、スタッフ採用・定着が課題のクリニックほど、賃上げ圧力と採用難が同時に来て固定費が膨らみやすい構造です。

ここで重要なのは、闇雲な節約ではなく、①数字で現状把握し、②収益源を足し、③コストを削るではなく設計することです。以下の3ステップで、保険診療の枠内でも実行可能な改善策を整理します。

インフレで「実質収入減」になる仕組みを分解する

上がりやすいコストと、上がりにくい収入

保険診療は単価が公定価格(診療報酬)なので、短期の値上げが難しい一方、院内コストは市場価格に連動します。典型的には次の順で圧迫が来ます。

  • 先に上がる:人件費(時給・賞与・求人広告費)、光熱費、医薬品・衛材、外注費(検査・清掃など)
  • 遅れて調整:診療報酬(改定までタイムラグ)
  • すぐには変えにくい:患者数(地域需要・季節要因)、診療時間(院長の稼働上限)

まずは「率」で見る(例)

実際の費用上昇率は地域や契約で異なりますが、意思決定に使うためには「前年差」「売上比率」「1日あたり」を押さえます。

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項目見るべき指標悪化サインの例先に打つ手
人件費売上比率・1人あたり生産性売上が横ばいで人件費比率だけ上昇スタッフ構成の再設計、採用戦略
光熱費月額推移・季節要因補正冬夏だけでなく通年で高止まり契約見直し、設備更新の投資判断
医薬品・衛材患者数あたり原価患者数は同じでも原価が増える在庫回転・仕入先条件の再交渉
外注費診療行為別の単価検査単価・清掃単価が上昇仕様変更、内製化の可否
ここがポイント
「売上が落ちた」よりも先に起きるのが「費用が静かに増えて利益が消える」です。まずは月次で、売上ではなく粗利・営業利益の推移を確認してください。

ステップ1:現状把握 — 月次損益で膨張費用を可視化する

ステップ1のゴールは、院長の感覚ではなく数字でボトルネックを特定することです。ここが曖昧なまま自費導入や採用を増やすと、逆に赤字が拡大します。

Step 1: 月次試算表を「費目別×前年差」で並べる

  • 人件費(給与・賞与・法定福利・採用費)を分解
  • 光熱費・医薬品費・外注費は「患者数あたり」も計算
  • 変動費と固定費を分けて、損益分岐点を把握

Step 2: 診療日数・患者数で割って1日あたりに直す

  • 1日あたり利益が落ちていれば、改善の優先順位が明確になります
  • 「忙しいのに儲からない」場合、単価よりもコスト構造の問題が多いです

Step 3: 改善対象を3つに絞る

  • 例:人件費比率、医薬品費/患者、外注費/検査件数
  • 3つを超えると現場が回りません。まずは集中します

よくある相談(ケース)

当法人(税理士法人 辻総合会計)では、保険診療中心の外来クリニックで「売上は前年同等なのに利益が半減」という相談が増えています。内訳を追うと、採用難で求人広告費が増え、賃上げで人件費が上がり、光熱費が高止まりしているケースが典型です。まずは月次損益の並べ替えだけで、対策の順番が見えてきます。

ステップ2:収益UP — 自費メニュー導入可能性を試算する

次に収益の柱を足します。ポイントは「思いつきで始めない」こと。自費メニューは、採算と院内オペレーションの両方が成立して初めて利益になります。

自費導入の候補(保険中心クリニック向け)

  • 健診・ドック(オプション設計が鍵)
  • 予防接種(在庫・廃棄リスクに注意)
  • 美容・AGA・医療脱毛など(対象法令・広告規制も確認)
  • 書類作成・オンライン相談(運用フロー次第)

ざっくり試算の型(例)

自費は「粗利=売上−直接原価」を先に出し、次に固定費(人件費・時間)を見ます。

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例:自費メニュー月20件の場合のイメージ見落としがちなコスト
健診オプション単価×20件 − 検査原価予約導線、説明時間、再診誘導
ワクチン単価×本数 − 仕入予約キャンセル、在庫廃棄
美容系単価×回数 − 薬剤同意書、クレーム対応、広告費
ここがポイント
「単価が高い」よりも「院長・スタッフの稼働をどれだけ食うか」が採算を左右します。自費の試算は、売上だけでなく時間原価も入れてください。

自費導入の注意点(リスク管理)

  • 既存患者の導線と混ぜると待ち時間が増え、保険患者の満足度が下がる
  • スタッフ教育が追いつかず、現場の負荷が増える
  • 広告表現・同意書・返金対応など、医療特有のコンプライアンスが必要

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ステップ3:コスト最適化 — ベースアップ加算を活用しつつ人件費を抑える採用戦略

インフレ局面で一番効くのは、コストを削るより設計することです。特に人件費は、単純な賃下げは離職を招き逆効果になりやすいので、採用・配置・業務設計で最適化します。

ベースアップ評価料等を「制度として」活用する

賃上げ支援として、診療報酬上のベースアップ評価料等(医療機関向けの制度案内)が整備されています。制度の要件や届出・算定の可否は医療機関の種別で異なるため、事前に要件確認が必要です。

採用戦略で人件費を抑える3つの考え方

  • フルタイム偏重を見直し、ピーク時間帯に合わせたシフト設計にする
  • 有資格者がやらなくてよい業務を切り出し、職種分担で生産性を上げる
  • 採用単価(求人広告費÷採用人数)をKPI化し、媒体・紹介料を定期見直し

具体策(現場で効くもの)

  • 予約枠設計の見直し:キャンセル率を前提に枠を最適化
  • 業務フローの標準化:問診・会計・レセ周りの属人化を潰す
  • 外注の仕様調整:清掃頻度・検査委託の条件を再交渉

収益改善と節税を同時に進める「医療法人化」の検討タイミング

インフレ対策として利益を回復できても、個人クリニックのままだと所得税・住民税の負担が増え、手残りが伸びにくい局面があります。一定以上の利益が安定してきたら、医療法人化で「役員報酬設計」「退職金」「所得分散」など、手残り最適化の選択肢が増えます。

ただし、医療法人化は節税だけで決めると失敗します。次のような条件が揃っているかを確認してください。

  • 自費や患者数が読みやすく、利益が毎年ある程度安定している
  • 採用・設備投資など、法人の資金計画が必要になってきた
  • 将来の承継(親族・第三者)を含めて出口設計を考えたい
ここがポイント
医療法人化の損得は、利益水準だけでなく「家族構成」「退職金」「将来の承継」で逆転します。個別の状況により最適解が変わるため、シミュレーション前提で検討してください。

よくある質問

Q: インフレで苦しいのですが、まず何から手を付けるべきですか? ▼
まずは月次損益を「費目別×前年差」で並べ、人件費・光熱費・医薬品費など、どの費用が利益を削っているかを特定します。次に改善対象を3つに絞り、1〜2か月で効果検証できる施策から実行します。
Q: 自費メニューは何を選べば失敗しにくいですか? ▼
既存患者のニーズと院内オペレーションに合うものが失敗しにくいです。健診オプションや予防接種は導入しやすい一方、在庫・廃棄や説明時間が利益を圧迫しやすいので、粗利と時間原価を入れた試算が重要です。
Q: ベースアップ評価料等は、算定すると何が変わりますか? ▼
賃上げを行う医療機関を診療報酬で支援する枠組みで、要件を満たす場合に届出・算定を検討できます。医療機関の区分や算定要件は制度案内で確認し、院内の賃金改善計画や運用と整合させて進めるのが実務上のポイントです。
Q: 医療法人化は、どのくらい利益が出たら検討すべきですか? ▼
一律の基準はありませんが、利益がある程度安定し、役員報酬設計・退職金・所得分散などを使って手残り最適化を図りたい段階で検討価値が高まります。家族構成や将来の承継方針で結論が変わるため、税額だけでなく資金繰りを含めて試算してください。

まとめ

  • インフレ下では診療報酬が短期で上がりにくく、人件費・光熱費・医薬品の上昇が先行して利益が削られる
  • ステップ1は月次損益を「費目別×前年差」で可視化し、改善対象を3つに絞る
  • ステップ2は自費メニューを粗利と時間原価で試算し、院内オペレーションに合う形で導入する
  • ステップ3は賃上げ支援制度の活用も検討しつつ、採用・配置・業務設計で人件費を最適化する
  • 利益が安定してきたら、医療法人化で手残り最適化の選択肢が広がるが、個別シミュレーションが必須

参照ソース

  • 厚生労働省「ベースアップ評価料等について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
  • 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html
  • 厚生労働省「令和7年度 医療機関等における賃上げ・物価上昇支援事業について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_69485.html

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

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本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

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