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クリニック向けコラム
作成日:2026.04.06
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

クリニックのフィッシング対策|スタッフ教育の実務

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クリニックのフィッシング対策|スタッフ教育の実務

クリニックのフィッシング対策とは

クリニックのフィッシング対策とは、不審メールを開かない運用、添付ファイルやリンクの確認手順、感染を前提にした初動体制を院内で標準化することです。特に受付や医療事務が日常的にメールを扱う医療機関では、1通のメールが電子カルテ、予約、請求、院内ネットワークに影響を広げるおそれがあります。院長や事務長にとっての課題は、設備投資だけでなく、スタッフが迷わず動ける教育体制を作る点にあります。

Emotetは、実在する相手との過去のやり取りを装った返信メール型の攻撃で拡散することがあり、見た目だけで真偽を判定しにくいのが特徴です。厚生労働省は、医療機関がサイバー攻撃やその疑いを受けた場合には、必要な連絡や対応を速やかに行うことを示しており、平時からの訓練が前提になっています。税理士法人 辻総合会計にも、近年は「請求書メールを開いてしまった」「委託先を装うメールが届いた」という相談が増えています。

Emotet・フィッシングメールとは何か

Emotetとは

Emotetは、メールアカウントやメールデータの窃取に加え、他のマルウェア感染の足掛かりにも悪用されるウイルスです。IPAは、攻撃者が過去のメールの件名や本文、送信者名を流用し、あたかも本物の返信のように見せる手口があると案内しています。つまり、差出人名が知っている相手でも安全とは限りません。

フィッシングメールとの違い

フィッシングは、偽サイトへ誘導してIDやパスワードを入力させる手口全般を指します。一方でEmotetは、添付ファイルの開封や不正なマクロ、有害ファイルの実行を通じて端末感染を狙う色合いが強い攻撃です。もっとも、現場の実務では両者を厳密に分けるより、「リンクを押さない」「添付をすぐ開かない」という共通ルールで教育した方が浸透しやすいでしょう。

クリニックが狙われやすい理由

医療機関は、患者情報、診療情報、保険情報、委託先とのメール履歴など、攻撃者にとって価値の高い情報を保有しています。さらに、小規模なクリニックでは専任の情報システム担当者がいないことも多く、受付・看護師・事務長が通常業務の合間に対応しているため、攻撃メールを業務連絡と誤認しやすい傾向があります。

ここがポイント
厚生労働省の医療情報システム安全管理ガイドライン第6.0版では、医療機関向けのチェックリスト、確認用Excel、e-learningなどが公表されています。小規模医療機関でも、まずは公開チェックリストを使って現状確認を始めるのが実務的です。

スタッフ セキュリティ教育で教えるべきポイント

教育の目的は「知識」より「行動統一」

セキュリティ教育で重要なのは、専門用語を覚えることではありません。重要なのは、怪しいメールを受けたときに、誰が、どこへ、どう報告するかを全員が同じように動けることです。教育内容は、受付、看護師、医療事務、院長、外部ベンダー窓口で分けて設計すると効果的です。

最低限教えるべき5項目

  • 送信者名だけで本物と判断しない
  • メール本文のリンクは直接押さない
  • 添付ファイルを開く前に電話や別経路で確認する
  • ID・パスワード・認証コードをメール経由で入力しない
  • 少しでも不審なら自己判断せず報告する

警察庁は、メールやSMS中のリンクは偽装可能で、見た目だけで真偽判断するのは難しいと案内しています。そのため、「見分け方」教育よりも「リンクを踏まない運用」に寄せる方が実務的です。

医療機関で使いやすい教育例文

現場では、次のような短いルール文が有効です。

  • 請求書、紹介状、検査結果のメールでも、添付をすぐ開かない
  • 返信メールに見えても、内容に違和感があれば報告する
  • URLからログインせず、ブックマーク済みの公式画面から入る
  • パスワード再設定や認証コード入力を急かす文面は要注意

教育資料は長文より1枚物の方が残ります。月1回の朝礼で3分、年2回の訓練で15分というように、短く反復する設計が向いています。

フィッシング 対策 医療で必要な院内ルール

ルールがないと「気づいても動けない」

多くの事故は、知識不足だけでなく報告先不明で拡大します。受付担当が「忙しいから後で確認しよう」と保留した結果、別の端末で同様メールが開かれるケースは珍しくありません。したがって、院内ルールは次の3点に絞るのが有効です。

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項目最低限のルール実務上のポイント
メール受信不審メールは開封・返信・転送しないスクリーンショット保存後に報告
URL・添付リンクは押さない、添付は即開かない別経路確認を標準化する
報告受付から事務長・院長・委託先へ即連絡連絡先一覧を紙でも保管する

ブックマーク運用を徹底する

警察庁は、メールやSMSのリンクからアクセスせず、公式サイトをブックマークやお気に入りに登録して利用するよう案内しています。クリニックでは、電子カルテ、レセプト、Web予約、オンライン資格確認、会計システムなど、日常的に使う外部サービスほどブックマーク運用に統一すべきです。

メール認証や更新管理も必要

スタッフ教育だけでは防ぎ切れません。送信ドメイン認証、端末やソフトの更新、迷惑メール対策設定、二要素認証も並行して整える必要があります。人の注意力には限界があるため、教育と技術対策を二重化する発想が重要です。

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不審メールを受けたときの方法・手順

Step 1: その場で開かない

件名が「至急」「請求確認」「未払い」「アカウント停止」など不安をあおる内容でも、まず開封・クリック・返信を止めます。特に「返信メールに見える」「過去のやり取りが引用されている」場合はEmotet型を疑います。

Step 2: 画面を保存して報告する

メール本文、送信者、件名、添付名が分かる状態で画面保存し、院内の報告先に連絡します。削除を急ぐより、証跡を残す方が後の確認に役立ちます。

Step 3: 別経路で真偽確認する

送信元として表示された相手に、メール返信ではなく電話や既知の連絡先で確認します。委託業者や取引先にも、緊急時連絡先を普段から一覧化しておくと対応が速くなります。

Step 4: 開いてしまった場合は端末を切り離す

添付を開いた、URLを押した、認証情報を入れた場合は、端末を院内ネットワークやWi-Fiから切り離し、事務長・院長・保守ベンダーへ連絡します。医療情報システムに影響がある、または疑われる場合は、厚生労働省が案内する連絡先への速やかな報告も検討するべきです。

Step 5: 個人情報漏えいのおそれを確認する

個人情報保護委員会は、要配慮個人情報を含む個人データの漏えい等、またはそのおそれがある場合には報告義務が生じると案内しています。患者の診療情報や調剤情報は要配慮個人情報に該当し得るため、感染の有無だけでなく、漏えい可能性の評価が必要です。

ここがポイント
「開いた職員を責める」運用にすると報告が遅れます。初動では犯人探しより、端末隔離、影響範囲確認、外部連絡の順で動くルールにしてください。

スタッフ教育の注意点と実務設計

年1回研修だけでは足りない

セキュリティ教育は、4月の新人研修だけでは定着しません。おすすめは、入職時研修、四半期ごとのミニ研修、年2回の模擬訓練の3段構えです。厚生労働省は、医療機関向けe-learningや教育コンテンツを公開しているため、独自教材がなくても始めやすくなっています。

役職ごとに教える内容を変える

受付には「開かない・報告する」、事務長には「切り離し・外部連絡」、院長には「診療継続判断・患者対応」を重点化します。全員に同じ資料を配るだけでは、実務に落ちません。

訓練は実際の業務文面に近づける

たとえば、次のような題材が有効です。

  • 医療機器保守会社を装う請求書メール
  • 紹介元医療機関を装う検査結果添付メール
  • 採用応募や履歴書を装う添付ファイル
  • 宅配・契約更新・アカウント停止を装う通知

現場では「ありそう」に見える文面ほど開かれやすいため、一般論だけでなく、自院の業務に即した題材に変換してください。税理士法人 辻総合会計でも、規程作成や教育資料整備のご相談では、実際のメール運用に即した想定問答を重視しています。個別のシステム構成や委託状況で最適解は異なるため、自院専用の手順書に落とし込むことが重要です。

よくある質問

Q: Emotetと普通の迷惑メールはどう違いますか? ▼
Emotetは、過去のやり取りを装った返信型メールなど、業務メールに見える形で感染を狙う点が厄介です。単なる宣伝メールより見抜きにくく、添付やリンクを開かせる精度が高いのが特徴です。
Q: クリニックは小規模でも教育をする必要がありますか? ▼
はい。むしろ小規模ほど兼務が多く、専任担当者がいないため、個人判断に依存しやすい傾向があります。厚生労働省は小規模医療機関向けガイダンスやチェックリストも公表しています。
Q: メールの見分け方を覚えれば防げますか? ▼
見分け方だけでは不十分です。警察庁は、リンクの真偽を見た目で判断するのは困難だと案内しています。ブックマーク利用、添付の別経路確認、即時報告の運用まで含めて整える必要があります。

まとめ

  • クリニックのフィッシング対策は、機器導入より先に行動ルールの統一が重要
  • Emotetは返信メール型で見抜きにくく、知っている相手の表示名でも安心できない
  • スタッフ教育は「見分ける」より「開かない・押さない・報告する」に寄せる
  • 開いてしまった場合は端末隔離、影響確認、厚労省等への連絡検討まで初動を定型化する
  • 患者情報は要配慮個人情報に当たり得るため、漏えいのおそれを含めた評価が必要

参照ソース

  • 厚生労働省「医療分野のサイバーセキュリティ対策について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/cyber-security.html
  • 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版(令和5年5月)」: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.html
  • 警察庁「フィッシング対策」: https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/phishing.html
  • 個人情報保護委員会「漏えい等の対応とお役立ち資料」: https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/leakAction/

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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