
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニック移転の手続き一覧|保健所・厚生局対応を解説

クリニック移転の手続きとは
クリニック移転の手続きとは、保健所への医療法上の届出と、厚生局への保険医療機関指定や変更手続きを、開業スケジュールに沿って整理して進めることです。院長にとっての問題は、内装や引っ越しだけでなく、届出の順番を誤ると開院日や保険診療の開始日に影響しやすい点にあります。
特にテナント変更を伴う移転では、旧所在地の手続きと新所在地の手続きを同時並行で進める必要があります。実務では「保健所に相談したつもりで、厚生局の指定申請が間に合わない」「診療日や診療科目の変更を後回しにしてしまう」といった相談が少なくありません。
当法人でも、クリニック開業・移転の相談では、賃貸借契約や内装工事より先に、行政手続きの逆算表を作ることを勧めています。個別の様式名や添付書類は自治体・管轄事務所で差があるため、全国一律と考えず、まずは所管保健所と厚生局の双方を確認するのが基本です。
クリニック移転で必要な届出一覧
クリニック移転手続きは、大きく分けると「保健所」「厚生局」「その他の周辺手続き」の3系統です。最初に全体像を把握しておくと漏れを減らせます。
| 届出先 | 主な内容 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 保健所 | 開設、変更、廃止、管理者、構造設備など | 事前相談が重要 |
| 厚生局 | 保険医療機関の指定申請、届出事項変更、廃止届 | 保険診療開始日に直結 |
| その他 | G-MIS、施設基準、契約、各種名義変更 | 開院後の運営に影響 |
保健所への届出とは
診療所の移転では、まず医療法上の手続きが出発点です。大阪府も、診療所の開設・構造変更等にあたっては、必要に応じて所管保健所へ事前相談し、様式や計画内容、書類作成方法の助言を受けるよう案内しています。
移転時の保健所手続きは、単純な住所変更で済むとは限りません。テナント変更では、旧診療所の廃止関係と、新診療所の開設関係を組み合わせて進める運用が多く、同じ自治体内でも所管課の扱いが異なることがあります。そのため、「まず契約してから相談」ではなく、「契約前後の早い段階で相談」が安全です。
厚生局への届出とは
厚生局側は、保険診療に関する手続きです。所在地変更が「移転」に当たる場合、単なる変更届ではなく、保険医療機関の新たな指定申請が必要になる点が重要です。一方、名称、管理者、診療科目、診療時間、区画変更などは届出事項変更で処理する場面があります。
また、旧所在地での診療を終える場合は、廃止・休止・再開の届出の対象になります。つまり、移転では「新しい場所での指定」「旧い場所の廃止」「付随する変更届」が同時に発生しやすい、と理解しておくと整理しやすくなります。
クリニック移転手続きの流れと手順
ここでは、クリニック引っ越し手続きの進め方を実務順に整理します。
Step 1: 移転先テナントが固まったら保健所へ事前相談する
賃貸借契約書、平面図、診療科目、開院予定日、管理者予定者などを整理し、所管保健所に相談します。工事前に確認できれば、設備基準や導線の修正がしやすくなります。
Step 2: 新旧所在地で必要な医療法上の届出を確認する
新診療所側の開設関係、旧診療所側の廃止関係、管理者や診療時間などの変更事項を洗い出します。ここは自治体ごとの運用差があるため、様式一覧を見ただけで判断しないことが大切です。
Step 3: 厚生局の保険医療機関指定スケジュールを逆算する
地方厚生局は、所在地が移転等で変更したときは指定申請手続きの対象になると案内しています。提出期限は管轄事務所ごとに異なるため、内装完成日ではなく、指定申請の締切から逆算して引っ越し日を決める必要があります。
Step 4: 施設基準の届出を再確認する
移転後に同じ診療報酬を算定できるとは限りません。面積、人員配置、設備要件が変わると、施設基準の届出や変更対応が必要になることがあります。移転後のレイアウト変更が点数算定に影響するケースは見落とされやすい論点です。
Step 5: G-MISや院内掲示・契約関係を更新する
大阪府は医療機関等情報支援システム(G-MIS)による報告が必要と案内しています。加えて、ホームページ、診察券、予約システム、リース契約、医療機器保守、電話・ネット回線、電子カルテ連携先なども同時に更新が必要です。
保健所と厚生局の違い
クリニック移転で混同しやすいのが、保健所と厚生局の役割の違いです。
保健所は「開設・構造・管理」の窓口
保健所は、診療所として開設できるか、構造設備や管理体制が整っているかを確認する立場です。レイアウト、構造変更、管理者、診療所としての届出が中心になります。移転時は医療法上の入口です。
厚生局は「保険診療」の窓口
厚生局は、保険医療機関として指定を受ける手続きや、その後の変更・廃止、施設基準届出を扱います。保健所で問題がなくても、厚生局の指定が間に合わなければ、そのまま保険診療に移れないため注意が必要です。
| 比較項目 | 保健所 | 厚生局 |
|---|---|---|
| 主な根拠 | 医療法関係 | 健康保険法・指定関係 |
| 主な論点 | 開設、構造設備、管理者 | 指定申請、変更届、廃止届、施設基準 |
| 実務上の影響 | 開院可否に関係 | 保険診療開始可否に関係 |
移転届出で注意したいリスクと実務論点
移転届出一覧を早めに作る
移転は「1枚出せば終わる手続き」ではありません。届出先ごとに必要書類、提出期限、添付資料、押印要否、郵送可否が違います。そこで、実務では最初に「移転届出一覧」を作るのが有効です。少なくとも、提出先、様式名、提出期限、担当者、添付資料、提出日、受理確認欄を作って管理すると抜け漏れを減らせます。
旧クリニックの扱いを曖昧にしない
移転では、新しい場所ばかり気にして旧所在地の廃止・契約終了・原状回復・機器撤去が後回しになりがちです。特に保険医療機関コードや施設基準、各種委託契約との関係は、旧院の終了日と新院の開始日を切れ目なく設計する必要があります。
施設基準と人員要件を見直す
移転後に診療時間、従業員体制、機器構成が変わるなら、施設基準の維持要件も再確認が必要です。届出済みだから大丈夫と考えず、変更があった翌月対応になるものがないかを点検しましょう。
よくある質問
Q: クリニック移転は住所変更届だけで済みますか?
Q: 厚生局への届出はいつ出せばよいですか?
Q: テナント変更時に見落としやすいものは何ですか?
まとめ
- クリニック移転では、保健所と厚生局の両方の手続きを並行して進める必要がある
- 保健所は開設・構造設備・管理、厚生局は保険医療機関指定や変更・廃止を担当する
- 所在地変更が移転に当たる場合、厚生局では新たな指定申請が必要になる点が重要
- 診療科目、診療時間、管理者、施設基準、G-MISも合わせて見直す必要がある
- 自治体や管轄事務所で様式・締切が異なるため、事前相談と一覧管理が実務上有効
参照ソース
- 東海北陸厚生局「記載要領(手続きの流れについて)」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tokaihokuriku/iryo_shido/shitei-kisai/tetsudukinagare.html
- 関東信越厚生局「保険医療機関・保険薬局の届出事項変更の届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/ichiran_todoke_henko.html
- 関東信越厚生局「保険医療機関・保険薬局の廃止・休止・再開の届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/ichiran_haishi.html
- 大阪府「診療所にかかる様式」: https://www.pref.osaka.lg.jp/o100020/iryo/byouin/kyoka_cl.html
- 厚生労働省「医療機能情報提供制度について(医療機関向けページ)」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35867.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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