
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニック給与テーブル設計|賃金相場と昇給ルール

クリニックの給与テーブル設計とは
クリニックの給与テーブルとは、職種・等級・役割ごとに基本給と昇給幅を決める仕組みです。院長にとっての課題は、採用できる水準と人件費を維持できる水準を両立させることではないでしょうか。看護師も医療事務も「相場だけ」で決めると、既存職員との不公平や将来の昇給負担が起きやすくなります。最初に結論をいえば、クリニックの給与設計は「相場確認」「職種別レンジ設定」「昇給ルールの明文化」の3点セットで考えるのが実務的です。
当法人でも、採用時の条件が場当たり的になった結果、後からベテラン職員との逆転現象が起き、見直し相談に至るケースをよく見ます。小規模な医院ほど、一人ひとりの給与決定が組織全体に与える影響は大きく、最初の設計が重要です。
看護師・医療事務の給与相場はどう見るべきか
給与相場を見るときは、全国平均をそのまま使うのではなく、「統計の母集団」と「自院の採用市場」を分けて考える必要があります。厚生労働省系の職業情報提供サイトでは、令和6年賃金構造基本統計調査を加工した全国値として、看護師の賃金は年収519.7万円、一般労働者の時間当たり賃金は2,690円、医療事務は年収481.4万円、一般労働者の時間当たり賃金は2,461円と示されています。
看護師給与相場の見方
看護師は資格職であり、夜勤の有無、採血・点滴・内視鏡補助・訪問対応の有無で相場が変わります。無床クリニックでは病院勤務より年収が低めでも、夜勤なし・休日が安定している点が採用上の訴求になります。したがって、給与テーブルでは「外来一般」「リーダー候補」「専門手技対応」など、役割差を反映させる設計が有効です。
医療事務給与相場の見方
医療事務は、受付だけでなく会計、レセプト、返戻対応、診療報酬改定対応、電話応対、患者案内まで担うことが多い職種です。つまり、同じ「医療事務」でも、単純受付型とレセプト中核型では価値が異なります。給与テーブルでは、レセプト対応力や教育担当を昇給要素に入れると、納得感が出やすくなります。
クリニック給与テーブルの作り方
給与テーブルは、感覚で作るよりも、次の順序で作ると失敗しにくくなります。
Step 1: 採用市場を確認する
自院の診療圏で、同規模のクリニックや近隣病院の求人水準を確認します。最低でも、月給、賞与月数、土曜勤務の有無、残業代の扱いは比較したいところです。
Step 2: 職種ごとのレンジを決める
看護師、医療事務、リーダー候補などに分けて、下限・標準・上限のレンジを設定します。たとえば同じ医療事務でも、未経験採用とレセプト主担当では同額にしない方が運用しやすくなります。
Step 3: 等級を3〜5段階で設計する
小規模クリニックでは複雑な人事制度は不要です。一般的には、初級・中級・上級・主任級程度で十分です。等級ごとに「求める行動」「任せる業務」「基本給レンジ」を連動させます。
Step 4: 昇給ルールを数値化する
昇給を院長判断だけにすると、不公平感が出やすくなります。年1回、1等級内の定期昇給と、役割上昇時の昇格昇給を分けると運用しやすくなります。
クリニックの昇給基準はどう決めるべきか
昇給基準は「勤続年数だけ」で決めないことが重要です。年数のみで上げる制度は、成長実感のある職員には物足りず、逆に成果が伴わない場合でも自動的に人件費が増えていきます。おすすめは、次の3軸です。
| 項目 | 看護師の評価例 | 医療事務の評価例 |
|---|---|---|
| 業務遂行 | 採血、点滴、診療補助を安定実施 | 受付、会計、算定を正確に処理 |
| 役割拡大 | 後輩指導、シフト調整、クレーム一次対応 | レセプト総括、返戻対応、マニュアル整備 |
| 組織貢献 | 患者満足、業務改善、残業削減提案 | 待ち時間短縮、請求精度向上、教育対応 |
昇給額は、物価や最低賃金改定だけでなく、医院の収益力との整合も必要です。令和7年度の地域別最低賃金の全国加重平均は1,121円で、前年度比66円引上げとなっています。パート比率の高いクリニックでは、最低賃金改定が全体の賃金レンジを押し上げるため、毎年の見直し前提で設計すべきです。
看護師・医療事務の給与テーブル例
実務では、次のような考え方が使いやすい設計です。金額そのものより、レンジと昇給条件の連動を重視してください。
看護師の給与テーブル例
- 等級1:外来業務を一通り実施できる段階
- 等級2:採血・点滴・診療補助を安定して担える段階
- 等級3:新人指導や業務改善を任せられる段階
- 等級4:主任相当として教育・調整まで担う段階
昇給ルールは、年1回の定期評価で1号俸上昇、役割拡大時に等級昇格とする形が分かりやすいでしょう。資格職は採用競争が強いため、入口賃金はやや高め、毎年の昇給幅は抑えめにする設計も有効です。
医療事務の給与テーブル例
- 等級1:受付・会計を指示のもとで実施
- 等級2:算定・レセプト補助を自走できる
- 等級3:返戻対応、月次締め、後輩指導ができる
- 等級4:部門の中心として改善提案や教育を担う
医療事務は離職率が高くなりやすいため、単に月給を上げるだけでなく、評価面談、繁忙期の配慮、教育体制を合わせて整える方が定着に結びつきます。当法人でも、昇給の理由が説明できる制度へ見直した医院ほど、不満の表面化が減る傾向があります。
給与テーブル設計でよくある失敗
相場だけで初任給を決める
相場に合わせて採用しても、既存職員との逆転が起きると組織が不安定になります。採用時は必ず既存職員との比較表を作るべきです。
昇給ルールが院長の感覚頼み
「頑張っているから上げる」では、後から説明できません。面談シートやチェック項目を簡単でも良いので残しておくことが重要です。
人件費率を見ない
給与テーブルは採用のためだけの制度ではなく、経営数字に直結します。昇給総額、賞与原資、社会保険料負担まで含めて設計しないと、後年度で苦しくなります。
よくある質問
Q: クリニックの給与テーブルは何段階くらいが適切ですか?
Q: クリニックの昇給基準は毎年同じ額で良いですか?
Q: 医療事務の給与相場はどう確認すれば良いですか?
まとめ
- クリニックの給与テーブルは、相場確認と院内バランスの両方で設計することが重要
- 看護師と医療事務は、資格や担当業務の差を給与レンジに反映させるべき
- 昇給基準は勤続年数だけでなく、業務遂行、役割拡大、組織貢献で判断すると運用しやすい
- 最低賃金改定や社会保険料負担も踏まえ、毎年見直せる制度にすることが大切
- 小規模クリニックでは、複雑な制度より説明可能で続けやすい制度が適している
参照ソース
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」: https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
- 職業情報提供サイト job tag「看護師」: https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/156
- 職業情報提供サイト job tag「医療事務」: https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/443
- 厚生労働省「令和7年度地域別最低賃金の全国一覧」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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