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クリニック向けコラム
作成日:2026.02.22
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

クリニック廃業vs承継売却の手取り比較2026

9分で読めます
クリニック廃業vs承継売却の手取り比較

結論:多くのケースで「売却(承継)」が手取り有利になりやすいが、税金と清算コストで逆転も起こる

クリニックの出口は大きく「廃業(閉院・解散)」か「承継・売却」です。結論から言うと、患者・スタッフ・設備・賃貸借を引き継げるなら、売却(承継)のほうが手取りが増えやすい傾向があります。一方で、消費税(みなし譲渡等)や退職金・役員報酬の設計、医療法人なら解散・清算コストが重なると、廃業のほうが結果的に残ることもあります。

税理士法人 辻総合会計では、クリニックの開業・運営・承継を含め30年以上の支援実績があり、よくある相談は「売却額の相場」よりも「税引後にいくら残るか」の一点に集約されます。本記事では、比較のための試算フレームを提示します(最終結論は個別事情で変わります)。

クリニック廃業とは:手続と「お金が出ていく」ポイントを先に押さえる

廃業の定義(個人/医療法人で違う)

  • 個人開業(院長=個人事業):診療所を閉め、事業を廃止する
  • 医療法人:解散→清算(残余財産の処理)まで行う

保険医療機関の廃止等は、地方厚生(支)局への届出が必要です(実務上の入口)。

廃業で発生しやすいコスト

  • 原状回復(内装撤去、看板、配管等)
  • リース・保守契約の解約精算
  • スタッフの退職関連費用(有休・退職金・社保手続)
  • 産廃・カルテ等の保管/廃棄コスト
  • 税務(消費税・所得税/法人税)と専門家費用
ここがポイント
「廃業=ゼロで終われる」と思われがちですが、実務では閉めるための支出がまとまって出ます。特に賃貸物件の原状回復は見積もりで大きく振れるため、早めに試算に入れるのが重要です。

承継・売却とは:どこを売るかで税金が変わる(資産譲渡/事業譲渡の発想)

よくある売却スキーム(クリニック実務)

  • 事業譲渡(資産譲渡):医療機器、内装、備品、在庫、予約/導線、スタッフ体制などをまとめて引継ぐ
  • 医療法人の承継:社員持分(持分ありの場合)や役員・運営体制の引継ぎ等、法的枠組みを踏まえて設計

売却で論点になるのは「有形資産」と「無形資産(営業権・のれん)」の配分です。配分は税金(特に消費税と所得税/法人税)に直結します。

税務の基本(超重要)

  • 個人の場合、譲渡所得の対象となる資産がある(権利・機械器具等の譲渡の考え方)
  • 消費税の課税事業者が事業を廃止する場合、みなし譲渡が生じ得る(時価で課税標準に含める論点)

【比較表】廃業 vs 売却:手取りに効く項目チェック

←横にスクロールできます→
比較項目廃業(閉院・解散)売却(承継・事業譲渡)
入口の現金収入基本なし(資産を処分するなら売却益のみ)売却対価が入る(有形+営業権)
大口支出原状回復・解約精算・廃棄費用が出やすい引継ぎ条件次第で圧縮(原状回復の範囲が小さくなることも)
税金事業廃止に伴う消費税(みなし譲渡等)に注意資産/営業権の譲渡に課税(配分設計が重要)
スタッフ対応退職対応が中心雇用承継で摩擦が減ることがある
リスク売れ残り資産・想定外の解約精算譲渡契約(表明保証・競業避止等)によるリスク
向いている状況赤字・集患低下・設備老朽化、引継ぎ困難集患・スタッフ・導線が維持、後継候補がいる

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税理士の試算例:廃業と売却で「税引後手取り」を並べる方法(シンプル版)

ここでは計算の型を示します。数字は例であり、実際は個別事情(課税事業者か、医療法人の形態、リース残、原状回復の範囲)で変わります。

前提(例)

  • 売却(事業譲渡)の提示:総額 2,500万円
    • 有形資産(機器・内装等):1,200万円
    • 営業権(のれん):1,300万円
  • 廃業の場合の支出見込:原状回復等 800万円、解約精算 200万円、廃棄等 100万円(合計 1,100万円)
  • 課税事業者(消費税の論点あり)

Step 1: 「廃業」ルートの手取り概算

手取り(廃業) ≒ 処分収入 −(原状回復等の支出)−(税金)

  • もし事業用資産が家事転用等になり「みなし譲渡」が発生するなら、その時価が消費税の課税標準に入り得ます
  • 処分(売却)できる資産が少ないほど、支出先行になりやすい

ポイント
廃業は「お金を作る」より「支出を止める」設計になりがちです。原状回復を見積もり段階で過小評価すると、手取り比較が崩れます。

Step 2: 「売却」ルートの手取り概算

手取り(売却) ≒ 売却対価 −(譲渡に係る税金)−(売却に要する費用)

  • 課税関係は「何を譲渡したか」で変わります(資産の種類・契約の実態が重要)
  • 譲渡所得の考え方(資産の譲渡の範囲)を踏まえて所得税等を検討
  • 交渉実務では「のれんに寄せる」だけでなく、税・消費税・引継ぎの実現性まで含めて配分を設計します

Step 3: 両ルートを同じ土俵にそろえる(税引後キャッシュ)

最後に、次の2つを必ずそろえて比較します。

  • 同じ基準日(いつ閉める/いつ引き渡す)
  • 同じ範囲(リース残・退職金・未収入金回収・敷金精算を含める)
ここがポイント
「売却額が高い=手取りが多い」とは限りません。税金と、売却に必要な整備コスト(書類整備・機器点検・人員調整)まで含めて税引後キャッシュで比較してください。

どちらが得になりやすいか:判断の分岐点(実務の目線)

売却(承継)が有利になりやすい条件

  • 集患が安定し、患者動線・予約枠が機能している
  • スタッフが残れる(雇用承継が可能)
  • 機器や内装がまだ使える(買い手が投資を抑えられる)
  • 立地・賃貸借条件が良く、引継ぎが現実的

廃業が現実的な条件

  • 大幅赤字で、買い手がつきにくい
  • 設備更新が近く、投資負担が重い
  • 賃貸借の引継ぎが不可(定借・用途制限等)
  • 事務・法務の整備が追いつかず、売却コストが過大

医療法人の場合は、解散認可申請などの行政手続が絡み、清算まで見据えた設計が必要です。

よくある質問

Q: クリニック売却の「相場」を先に知りたいのですが? ▼
相場検索より先に、「何が引き継げるか(患者・スタッフ・賃貸借・設備)」でレンジが決まります。相場は結果であり、手取り比較は税引後キャッシュ(売却対価−税金−コスト)で見てください。
Q: 廃業すると消費税が増えることはありますか? ▼
課税事業者の場合、事業用資産が事業用でなくなったときに「みなし譲渡」として課税対象となり得ます(時価を課税標準に含める論点)。 個別資産の性質や非課税取引の該当性などで結論が変わるため、廃業前に棚卸と資産台帳の整理が重要です。
Q: 売却のとき、営業権(のれん)はどう扱われますか? ▼
契約で営業権の対価を明確化することが多いですが、税務上は「実態に即した配分」が必要です。有形資産の評価、引継ぎ範囲、説明可能性(査定資料)までセットで設計します。
Q: 医療法人の解散・清算は、いつから準備すべきですか? ▼
目安は「閉院の6〜12か月前」です。行政手続・債権債務の整理・残余財産の処理・税務申告が連動するため、後ろ倒しにするとコスト増になりがちです。解散認可申請等の手続も確認してください。

まとめ

  • 手取り比較は「売却額」ではなく税引後キャッシュで行う
  • 廃業は原状回復・解約精算など閉めるコストが先行しやすい
  • 売却は有形/無形(営業権)の配分で税負担が変わるため設計が重要
  • 消費税の論点(みなし譲渡等)は廃業・売却どちらでも要注意
  • 医療法人は解散・清算の手続とコストまで含めて早めに試算する

参照ソース

  • 厚生労働省(地方厚生局)「保険医療機関・保険薬局の廃止・休止・再開の届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/ichiran_haishi.html
  • 国税庁「No.6603 個人事業者が事業を廃止した場合」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6603.htm
  • 厚生労働省「解散認可申請(医療法第55条第3項、医療法施行規則第34条)」: https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/tetuduki/toiawasekaisan.pdf

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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