
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニックスタッフが辞める理由5選|離職防止の仕組み

クリニックのスタッフが辞める理由とは
クリニックのスタッフが辞める主な理由は、給与水準そのものだけでなく、評価の不透明さ、人間関係、業務負荷、将来像の見えにくさが重なることにあります。特に院長にとっては、採用難の時代に離職が続くと診療体制が不安定になり、患者対応や売上にも影響します。小規模な医院ほど一人の退職インパクトが大きいため、「辞める人の問題」として片づけず、仕組みで防ぐ視点が重要です。
厚生労働省は令和5年10月26日告示の「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」で、離職防止と定着促進を重要課題として位置づけています。つまり、いま必要なのは気合いや我慢ではなく、定着しやすい職場設計です。
クリニックスタッフが辞める理由5選
1. 給与への不満が強い
「忙しさに見合っていない」「昇給の基準が分からない」という不満は、退職理由として非常に多いものです。単に月給が低いかどうかではなく、近隣相場との比較、賞与の決め方、昇給の納得感まで含めて判断されます。
厚生労働省の看護職員処遇改善では、一定の役割を担う医療機関を対象に、収入を1%程度、月額4,000円相当引き上げる考え方が示されました。これは裏を返せば、医療現場で処遇改善がなお課題であることを示しています。クリニックでも、相場より少し低い水準そのものより、説明できない給与の決め方が離職につながります。
2. 評価制度が曖昧で不公平感がある
院長の主観だけで「頑張っている人」と「そうでない人」が決まる職場では、不満が蓄積しやすくなります。特に看護師や医療事務は、患者対応、正確性、協調性、改善提案など成果が見えにくい業務が多く、評価項目の言語化がないと不公平感が生まれます。
たとえば「よく気が利く」という評価は抽象的ですが、「予約変更時の患者説明を自力で完結できる」「返戻や算定漏れを月◯件以下に抑える」といった行動基準に置き換えると、納得度は大きく変わります。
3. 人間関係と院内コミュニケーションに疲れる
クリニックは少人数運営のため、1人との相性の悪さが職場全体のストレスになりやすい構造です。院長、看護師長、ベテラン事務の発言力が強すぎると、新人や中堅が萎縮し、相談できずに辞めてしまいます。
4. 業務量・シフト負担が偏っている
休憩が取りにくい、急な残業が多い、特定の人に雑務が集中する、といった状態は離職を招きます。厚生労働省も医療従事者の勤務環境改善を支援しており、PDCAで職場環境を見直す仕組みを示しています。つまり、忙しいこと自体よりも、忙しさが放置されていることが問題です。
特に発熱外来、ワクチン、健診、訪問診療などを兼ねる医院では、繁忙期と通常期で負荷が大きく変動します。人員配置や予約枠の設計を見直さないままでは、現場にしわ寄せが出ます。
5. キャリアの見通しが立たない
「この先も同じ仕事を続けるだけ」「成長しても待遇が変わらない」と感じると、スタッフは転職市場に目を向けます。看護師は病院、訪問看護、企業、健診など選択肢が広く、医療事務も他院へ移りやすい職種です。
小さなクリニックでも、教育担当、レセプト責任者、後輩指導、患者満足向上の担当など役割設計は可能です。役割の昇格が見えるだけでも、定着率は変わります。
クリニックスタッフ定着のために必要な給与・評価の仕組み
離職防止で重要なのは、「高い給与」だけではなく「説明できる給与」と「再現性のある評価」です。実務では次の3点をそろえると効果が出やすくなります。
| 項目 | 離職しやすい医院 | 定着しやすい医院 |
|---|---|---|
| 給与 | 院長判断で都度決定 | テーブルと昇給基準がある |
| 評価 | 印象評価が中心 | 行動基準が明文化されている |
| 面談 | 問題発生時だけ実施 | 定期面談で不満を早期把握 |
給与テーブルは「相場」と「役割」で決める
給与テーブルは、地域相場、職種、経験年数、担当業務を基準に作るのが基本です。看護師、准看護師、医療事務、管理職候補を分け、等級ごとに下限・上限を設定すると運用しやすくなります。
昇給も「毎年なんとなく5,000円」ではなく、評価結果、勤続、役割拡大を反映する設計にすべきです。賞与についても、固定色が強いのか、業績連動を入れるのかを明示しておくと不信感を防げます。
評価制度はシンプルな3区分から始める
最初から複雑な人事制度を作る必要はありません。クリニックでは、次の3軸だけでも十分機能します。
- 業務遂行力:正確性、スピード、ミス防止
- 協働姿勢:報連相、他職種連携、患者対応
- 成長行動:学習、改善提案、後輩支援
各項目を5段階評価にし、「何をすれば1段階上がるか」を文章で定義すると、属人的な評価から抜け出しやすくなります。
人事評価の作り方|医院で実行しやすい手順
Step 1: 退職者の共通点を洗い出す
過去2〜3年の退職者について、職種、勤続年数、退職理由、繁忙期との関係を整理します。感覚ではなく、実際の傾向を見ることが出発点です。
Step 2: 職種ごとの期待役割を明文化する
看護師、医療事務、リーダー候補ごとに「できていてほしいこと」を3〜5個ずつ定義します。抽象語ではなく行動で書くことが重要です。
Step 3: 給与テーブルと昇給ルールを決める
最低賃金や地域相場だけでなく、採用競争力も踏まえて水準を決めます。昇給のタイミング、評価反映幅、賞与の考え方を一枚で説明できる形にします。
Step 4: 半年ごとの面談を仕組み化する
面談は査定の場ではなく、離職予防の場です。業務量、人間関係、希望する働き方を確認し、改善策を記録します。
Step 5: 毎年見直す
制度は作って終わりではありません。採用市場や医院の成長段階に応じて毎年修正します。厚生労働省が示す勤務環境改善も、継続的な見直しを前提としています。
看護師が辞める理由とクリニック特有の注意点
看護師が辞める理由としては、給与だけでなく、業務範囲の広さ、患者対応ストレス、院長との距離感、休みの取りにくさが挙げられます。病院より夜勤がない点はクリニックの強みですが、その一方で少人数ゆえの代替要員不足があります。
また、厚生労働省は医療現場の暴力・ハラスメント対策を離職防止の観点から重視しています。患者や家族からの暴言対応を個人任せにせず、院内ルールとして整備することが必要です。安心して働ける職場は、給与と同じくらい強い定着要因になります。
よくある質問
Q: クリニックの離職率はどのくらいなら高いと考えるべきですか?
Q: 給与を上げれば離職は防げますか?
Q: 小規模医院でも人事評価制度は必要ですか?
まとめ
- クリニックスタッフが辞める理由は、給与だけでなく評価、人間関係、業務負荷、将来不安が重なって起こる
- 離職防止には、説明できる給与テーブルと行動基準に基づく評価制度が有効
- 小規模医院ほど一人の退職影響が大きく、属人的運営から仕組み運営への転換が重要
- 看護師の定着には、処遇改善だけでなく、勤務環境やハラスメント対策も欠かせない
- 個別の制度設計は医院の規模や診療科により異なるため、実態に合わせた見直しが必要
参照ソース
- 厚生労働省「看護職員確保対策」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000095525.html
- 厚生労働省「医療従事者の勤務環境の改善について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/quality/index.html
- 厚生労働省「看護職員等処遇改善事業」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000095525_00005.html
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」: https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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