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クリニック向けコラム
作成日:2026.02.22
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

クリニック事業承継の税務戦略10選【令和8年度以降】|税理士が解説

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クリニック事業承継の税務戦略10選【令和8年度以降】|税理士が解説

クリニックの事業承継で最も重要なのは、「誰が、何を、どのスキームで引き継ぐか」を先に決め、税金(相続・贈与・譲渡・退職金)を一体で設計することです。特に令和8年度(2026年度)以降は、制度期限(2026年3月31日)や、承継形態(個人/医療法人/第三者M&A)によって手残りが大きく変わります。本記事では、院長が押さえるべき税務戦略10選を、比較表と実務の順番で整理します。

当法人(税理士法人 辻総合会計)では30年以上にわたり医療機関の税務・承継支援に携わり、よくある失敗として「法人化の判断が遅れて持分・評価が肥大化」「M&Aで税金を見落として手取りが想定より減る」「廃院時の資産整理が甘く追加課税」などを見てきました。先に全体像を押さえ、必要に応じて個別設計に落とし込みましょう。

個人クリニック承継 vs 医療法人承継の税負担の違い

承継の出発点は、「課税対象が事業そのものなのか、法人の持分(出資)なのか」を分けることです。個人は原則として事業用資産の移転(相続・贈与・譲渡)で課税関係が動き、医療法人は持分の有無、役員報酬・退職金・賃料など出口設計が核心になります。

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比較項目個人クリニック(個人事業)医療法人(社団)
承継の対象診療所の事業用資産・負債、営業権(実態)出資持分(持分ありの場合)/ 役員交代・資産契約(持分なしの場合)
主な税目相続税/贈与税、譲渡所得(第三者譲渡の場合)相続税/贈与税(持分あり)、所得税(役員報酬・退職金)、法人税(のれん等)
争点資産評価・引継ぎの段取り持分評価、退職金設計、認定制度・定款整備
よくある落とし穴生前贈与の時期、建物・医療機器の評価、未収金/未払金整理持分が高騰、退職金の税務否認リスク、第三者承継で二重課税感
ここがポイント
「医療法人=節税」とは限りません。持分あり医療法人は相続税評価が課題になりやすく、持分なし医療法人は財産権がない代わりに役員報酬・退職金・賃貸借の設計が収益と税負担を左右します。制度のどこにリスクがあるかを先に特定してください。

2026年3月31日締切の「事業承継税制(特例措置)」はクリニックに使えるか

「事業承継税制(特例)」は、原則として中小企業の非上場株式等の贈与税・相続税を一定要件で納税猶予する制度です。重要なのは、特例承継計画の提出期限が2026年3月31日である点です(都道府県への提出・確認が必要)。

ただし、クリニックの実務では「医療法人(社団)でも使えるケース」と「制度の前提(非上場会社株式等)に乗らない・実益が薄いケース」が混在します。医療法人の持分や運営形態、株主(社員)構成、後継者の要件、都道府県の認可実務など、税だけでなく許認可も絡みます。

実務の結論としては、次の3点を同時にチェックします。

  • 承継対象が「株式等」に該当するか(医療法人の形態・持分の定め)
  • 後継者要件・継続要件を満たせるか(5年の事業継続など)
  • 期限(2026年3月31日)までに計画提出を間に合わせられるか

M&A(第三者承継)で発生する税金の全体像

第三者承継(M&A)は、後継者不在でも成立する一方、税金が複線化します。大枠は「売り手(院長側)の課税」と「法人・事業側の課税」に分けます。

戦略1:譲渡スキームを先に固定(資産譲渡か、持分譲渡か)

  • 個人クリニックの譲渡は、実務上「資産譲渡(事業譲渡)」が中心になり、資産ごとに譲渡所得の計算が必要になります。
  • 医療法人(持分あり等)の場合、持分(株式等)の譲渡は、原則として申告分離課税(一般株式等)として整理されます(税率や損益通算の扱いは国税庁の整理に従う)。

戦略2:のれん(営業権)を税務と交渉の両面で管理する

のれんは、買い手が「将来収益」として評価し、売り手は「手取り最大化」を望みます。ただし、対価配分を誤ると、課税所得の種類や消費税の論点が絡むことがあります。基本は、資産一覧・契約・レセプト動線・スタッフ雇用の引継ぎ範囲を明確にし、対価配分の合理性を担保します。

戦略3:院長退職金を使うなら適正額と手続きが命

医療法人の院長交代では、退職金が税務上の主要レバーになります。退職所得の計算は原則「(収入-退職所得控除)×1/2」で、給与より有利になり得ますが、過大な退職金は損金否認・役員賞与認定などのリスクがあります。退職金規程、議事録、算定根拠(最終報酬月額・勤続年数・功績倍率等)をセットで整備します。

子への承継で失敗するパターン:贈与タイミングと評価額の落とし穴

親族内承継は「争族」と「税務否認」の両方を避ける設計が必要です。特に次が典型的な失敗パターンです。

戦略4:生前贈与は評価が上がる前に、目的と証拠を残す

院長の高齢化が進むと、売上増・設備更新・土地価格の上昇で評価が上がり、贈与のコストが跳ね上がることがあります。贈与は「いつ・何を・どの根拠で」が重要で、特に医療法人の出資・持分が絡む場合は、評価方法や定款・社員構成が評価に影響します。

戦略5:持分あり医療法人は持分評価の肥大化が最大リスク

持分あり医療法人は、出資者が将来の払戻し等に関する権利を持つ形で、相続税評価が問題化しやすい類型です。評価が高いまま相続を迎えると、納税資金や分割でもめやすくなります。早期に「移行(持分なし)」「退職金」「資産の整理」など複数策を比較し、期限付き制度の有無も含めて判断します。

戦略6:後継者医師の給与・役員報酬設計を承継前に試算する

承継後のキャッシュフローが崩れると、節税どころか医療の質・採用にも影響します。後継者の手取り、法人の利益、社会保険、借入返済を同じモデルで試算し、「利益の出し方(役員報酬/退職金/賃料/設備投資)」を決めます。

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廃院を選ぶ場合の税務処理と残存資産の整理方法

「承継が難しいので廃院」という判断も合理的なケースがあります。ただし、廃院は税金が消えるのではなく、むしろ精算・売却・除却の処理が集中します。

戦略7:医療機器・内装・車両は除却/売却/廃棄を区分して記録

減価償却資産は、廃棄で損金(必要経費)になり得ますが、証拠(廃棄証明・写真・業者請求書)が弱いと否認リスクがあります。売却した場合は譲渡収入になり、消費税区分も絡みます。

戦略8:不動産(建物・土地)の出口を先に決める(賃貸継続か売却か)

診療所建物が院長個人所有か法人所有かで税務が変わります。個人所有で賃貸している場合は賃料の妥当性、売却なら譲渡所得、法人所有なら法人税・清算まで見据えます。

ここがポイント
廃院は「固定資産税・保険・リース・雇用・借入」など契約の終わらせ方が税務に直結します。税金だけでなく、解約違約金や未払費用の計上時期も含めてスケジュール化してください。

税務戦略10選:院長が押さえる実務チェックリスト

ここまでを踏まえ、令和8年度以降の意思決定に効く10の戦略をまとめます。

  1. 承継形態を3択で整理(親族内/第三者M&A/廃院)し、税目を一覧化する
  2. 個人か医療法人かで「課税対象(資産/持分)」を分解し、比較表で見える化する
  3. 事業承継税制(特例)の対象可能性を検討し、2026年3月31日までに計画提出要否を判断する
  4. M&Aは譲渡スキーム(資産譲渡/持分譲渡)を先に固定し、税務・契約を統一する
  5. のれん(営業権)や対価配分は、合理性の根拠(資料・算定方法)を残す
  6. 退職金は規程・議事録・算定根拠までセットで整備し、過大リスクを管理する
  7. 持分あり医療法人は持分評価の肥大化を早期に検知し、複数策(移行/退職金/資産整理)を比較する
  8. 生前贈与は評価が上がる前に、目的・証拠・資金移動の整合性を確保する
  9. 後継者の役員報酬・社会保険・借入返済を含む資金繰りモデルを作り、承継後5年を耐える設計にする
  10. 廃院の場合は資産の除却/売却、不動産の出口、契約解消を時系列で管理し、税務処理の漏れを防ぐ

実行手順(迷ったらこの順番)

Step 1: 3年分の数字と資産台帳をそろえる
直近3期の決算・確定申告、借入一覧、固定資産台帳、賃貸借契約、役員報酬・退職金規程の有無を整理します。

Step 2: 承継の候補(親族/第三者/廃院)を並べて比較する
税額だけでなく、引継ぎの実現可能性(人・許認可・金融機関)を含めて比較します。

Step 3: 期限付き制度の適用可能性を確認する
事業承継税制(特例)を含め、提出期限・認定手続き・要件充足の見込みを確認します。

Step 4: スキームを固めて必要書類・手続きを逆算する
都道府県手続き、議事録、契約変更、評価資料、退職金規程などを逆算して準備します。

よくある質問

Q: 2026年3月31日の期限は、何を提出する期限ですか? ▼
事業承継税制(法人版・特例措置)を使う前提として、2018年4月1日から2026年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県へ提出し確認を受ける必要があります。適用可否は法人形態や承継対象により異なるため、早めに要件確認が必要です。
Q: クリニックのM&Aで税金はいくらかかりますか? ▼
一概に言えません。個人なら資産ごとの譲渡所得(不動産・医療機器・営業権等)になり、医療法人なら持分(株式等)譲渡や退職金・役員報酬など複数の課税が絡みます。売却対価の配分とスキームで税負担が変わるため、契約前の試算が重要です。
Q: 持分あり医療法人は、必ず持分なしに移行すべきですか? ▼
必ずではありません。持分評価・後継者の意向・退職金余力・地域医療の継続方針などで最適解が変わります。移行には定款変更や申請手続きが必要となるため、税務と許認可の両面で検討します。
Q: 廃院すると税金は減りますか? ▼
減るとは限りません。医療機器等の除却損の計上ができる一方、不動産売却の譲渡所得、契約解消費用、未払費用の整理などが発生します。証拠書類と計上時期の管理が重要です。

まとめ

  • クリニック承継は「誰が、何を、どのスキームで」の設計が税負担を決める
  • 個人承継は資産移転中心、医療法人は持分の有無と出口設計が核心
  • 事業承継税制(特例)は特例承継計画の提出期限が2026年3月31日で、要件確認が急務
  • M&Aは資産譲渡/持分譲渡、のれん配分、退職金の扱いで手残りが変わる
  • 廃院は除却・売却・契約整理が集中するため、時系列で漏れなく処理する

参照ソース

  • 国税庁「事業承継税制特集」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/index.htm
  • 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html
  • 国税庁「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
  • 国税庁「退職金を受け取ったとき(退職所得)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
  • 厚生労働省「持分の定めのない医療法人への移行計画の認定申請について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000205627.html
  • 国税庁「持分の定めのある医療法人が出資額限度法人に移行した場合等(文書回答事例)」: https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/hyoka/040616/01.htm

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

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