
執筆者:辻 勝
会長税理士
税理士変更の追加請求を防ぐ契約書の見方|税理士の解説

税理士変更の追加請求とは:原因は契約範囲のズレです
税理士変更で発生する追加請求とは、当初想定していた顧問料とは別に「決算料の加算」「過年度修正」「資料整理代行」「引継ぎ対応費」などが後から上乗せされる状態です。特にクリニックは、保険・自由診療の混在、レセプト入金ズレ、スタッフ給与・源泉・社保など論点が多く、業務範囲のズレが起きやすい業種です。
問題の本質は、「顧問料に含まれる業務」と「別料金の業務」の線引きが、契約書と運用で一致していないことにあります。税理士法人 辻総合会計でも、変更直後に「聞いていない追加費用が出た」という相談は少なくありません。以下では、追加請求が起きる典型原因と、契約書での回避策を整理します。
追加請求が起きやすい5つの原因
1) 業務範囲が「会計入力まで」か「月次監査・レビュー込み」か曖昧
「月次顧問」といっても、実態は幅があります。記帳代行(入力)だけなのか、試算表のレビュー、医業収益の計上基準チェック、消費税区分の確認まで含むのかで工数が違います。ここが曖昧だと、後から「レビューは別料金」「消費税判定はオプション」となりやすいです。
2) 決算・申告は別契約、または基本料+加算方式
追加請求で多いのが「決算料・申告料の加算」です。契約書上、決算は別契約だったり、一定の仕訳数・資料量・論点数を超えると加算、という形になっていることがあります。変更時は過去データの整備も絡み、加算条件に該当しやすくなります。
3) 期中変更による「過年度・当期の修正」発生
税理士変更は引継ぎして終わりではなく、次の税理士が「当期の帳簿を整える」必要があります。前任の処理にズレがあると、修正仕訳・科目更正・消費税区分の訂正、場合によっては修正申告/更正の請求などが必要になります。これらは多くの契約で「スポット業務」扱いです。
4) 引継ぎ資料の未回収(データ・証憑・設定情報)
追加請求を誘発する最大要因は、資料が揃わないまま走り出すことです。会計データのバックアップ、勘定科目体系、消費税設定、固定資産台帳、給与ソフト設定、年末調整資料、届出書控えが欠けると、復元・再構築の工数が発生します。
5) 「対応スコープ外」の相談が増える(資金繰り・融資・人事労務など)
院長は税務だけでなく経営の相談もしたくなりますが、顧問契約が税務中心だと、融資資料作成、資金繰り表、就業規則や社保手続の実務などは別料金になりやすい領域です。契約書の相談対応の定義がポイントです。
契約書のどこを見るべきか:必須チェックポイント10
税理士との契約は、民法上の委任契約として整理されるのが一般的です。したがって、契約条項は「委任の範囲」「報酬」「解除」「資料提供義務」などが核になります(民法の考え方も参考になります)。
以下の10項目を、契約書(顧問契約書・業務委託契約書・見積書・業務範囲表)で確認してください。
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- 業務範囲(Scope):月次で何をするか(入力、監査、レビュー、消費税判定、経営資料作成)
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- 例外業務(除外項目):年末調整、法定調書、償却資産申告、社会保険/労働保険、補助金などの扱い
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- 決算・申告の位置づけ:顧問料に含むか、別契約か、基本料+加算か
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- 加算条件:仕訳数、資料未提出、特殊論点、面談回数超過、訪問回数などの条件
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- 期中開始・期中変更の取扱い:過去月の遡及、当期開始残高の整合、前任データの検証範囲
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- 連絡・相談の手段と回数:面談頻度、チャット/電話、レスポンスSLAの有無
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- 資料提供義務と期限:誰がいつ何を出すか、未提出時の免責や追加料金
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- 引継ぎ条項:前任への照会、データ受領、引継ぎ会議の回数、費用負担
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- 解約条項:解除の通知期限、違約金・最低契約期間、前払いの精算
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- 免責・留保:税務判断の前提、推計処理、資料不備時の責任分界
追加請求になりやすい業務の比較表:ここを先に合意する
契約交渉では、まず「含まれる」と思い込みやすい業務を棚卸しし、別料金になりやすい領域を先に合意します。
| 項目 | 顧問料に含まれやすい(例) | 別料金になりやすい(例) |
|---|---|---|
| 月次 | 試算表作成、簡易レビュー | 診療報酬の入金ズレ分析、部門別管理の設計 |
| 消費税 | 基本的な区分相談 | 混在(保険+自由診療)での課税判定整理、過年度修正 |
| 決算 | 決算資料の作成、申告書作成(定型) | 論点が多い場合の加算、税務調査対応、修正申告 |
| 給与 | 相談レベルの助言 | 給与計算代行、年末調整・法定調書一式 |
| 引継ぎ | データ受領と簡易確認 | 前任の処理検証、開始残高の再構築、証憑の再整理 |
ポイントは、「別料金になりやすい業務を悪と捉えず、最初に見積りで固定する」ことです。
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回避策:税理士変更前にやるべき段取り(見積りと契約の作法)
追加請求の回避は、契約書を読むだけでは足りません。実務では、見積りの前提条件と引継ぎの段取りで勝負が決まります。
Step 1: 現状の棚卸し(論点と資料を可視化)
- 事業形態(個人/医療法人)、課税事業者か、自由診療の有無
- 会計ソフト、給与ソフト、レセコン/予約システム連携の有無
- 未整理の領収書、未突合の入金、固定資産台帳、役員報酬の期中変更の有無
- 直近申告書一式、届出書控え、消費税の課税区分方針
Step 2: 見積りの前提条件を文章化してもらう
口頭ではなく、見積書・提案書に以下を明記してもらいます。
- 顧問料に含む作業、含まない作業
- 決算料の範囲と加算条件
- 引継ぎ対応の範囲(前任照会、データ検証、開始残高の整合)
- 資料提出遅延・不足時の取扱い
Step 3: 期中変更の場合は「開始残高と消費税設定」を最優先で合意
期中変更の追加請求は、開始残高の不整合と消費税設定のやり直しから生まれます。ここはオプションであることが多いので、必要なら最初からスポット費用として契約に入れます。
Step 4: 契約書の別紙に「業務範囲表(SOW)」を添付する
契約書本文が抽象的でも、別紙のSOW(Statement of Work)が具体的ならトラブルは減ります。面談回数、訪問回数、月次締め日、経営資料の形式などもSOWで固めるのが実務的です。
Step 5: 引継ぎ会議を1回有料で良いので確保する
無料で引継ぎを求めると双方の負担が増え、結局追加請求につながります。前任・新任・院内担当者(経理/事務長)で、データと論点を1回で揃える方が総額は下がります。
ケーススタディ:よくある追加請求の実例と、こう防げた
あるクリニックで、税理士変更後に「決算料が当初見積りより増えた」事例がありました。原因は、(1) 前任の消費税区分が統一されておらず、混在取引の判定整理が必要だった、(2) 固定資産台帳が未整備でリース・内装・医療機器の区分整理が発生した、の2点でした。
この場合、契約前に「自由診療の課税判定整理」「固定資産台帳の再構築」をスポット業務として切り出し、上限金額を設定しておけば、追加請求という驚きは防げました。費用そのものより、予見可能性を高めることが重要です。
よくある質問
Q: 「顧問料一式」と言われました。契約書がなくても大丈夫ですか?
Q: 期中で税理士変更すると追加請求は必ず出ますか?
Q: 前任税理士がデータを渡してくれません。新しい税理士に丸投げで解決できますか?
Q: 追加請求の上限を契約に入れられますか?
まとめ
- 税理士変更の追加請求は、業務範囲のズレと「別料金条件の読み違い」で起きる
- 決算・申告、過年度修正、引継ぎ復元、消費税判定は追加になりやすい領域
- 契約書は「範囲・加算条件・資料提供義務・引継ぎ・解約」を重点確認する
- 見積りは前提条件を文章化し、スポット業務は切り出して上限額を合意する
- 期中変更は開始残高と消費税設定を最優先で固めると総額が安定する
参照ソース
- e-Gov法令検索「民法」: https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
- e-Gov法令検索「税理士法」: https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000237
- e-Gov法令検索「消費者契約法」: https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000061
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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