
執筆者:辻 勝
会長税理士
医師のiDeCo活用術2026|掛金上限と節税を税理士解説

医師が2026年にiDeCoを活用するべき理由
医師のiDeCo活用は、老後資金づくりと所得控除を同時に進められる制度です。特に2026年12月以降は掛金上限の引上げが予定されており、勤務医・開業医のどちらにとっても活用余地が広がります。問題は、医師は勤務形態によって加入区分が異なり、使える上限額や節税効果の見え方が変わる点ではないでしょうか。
当法人でも、クリニック経営者からは「開業医はどこまで掛けられるのか」、勤務医からは「病院の制度があってもiDeCoは使うべきか」という相談をよく受けます。結論からいえば、2026年は制度改正を踏まえて掛金設計を見直す好機です。ただし、節税だけで判断せず、受取時課税や資金拘束も踏まえて設計することが重要です。
医師のiDeCoとは何か
iDeCoは個人型確定拠出年金です。国民年金や厚生年金に上乗せして、自分で掛金を拠出し、自分で商品を選んで運用し、原則60歳以降に受け取る私的年金制度です。
医師にとっての実務上のポイントは、次の3つです。
- 掛金が全額、小規模企業共済等掛金控除の対象になる
- 運用益は通常の金融商品と異なり非課税で再投資される
- 受取時は一時金なら退職所得、年金なら公的年金等に係る雑所得として扱われる
「積立時・運用時・受取時」で税務の見え方が違うため、年収が高い医師ほど、単なる貯蓄ではなく税務を含めて検討する価値があります。
開業医と勤務医で違うiDeCo上限
開業医iDeCo上限はどうなるか
開業医でも、個人事業で診療所を運営している院長と、医療法人の役員として厚生年金に加入している院長では扱いが変わります。
- 個人開業医: 原則として国民年金第1号被保険者
- 医療法人の理事長・院長: 厚生年金に加入する第2号被保険者となることが多い
2026年12月からの上限イメージを整理すると、次のとおりです。
| 区分 | 想定される医師像 | 2026年12月以降の掛金上限の考え方 |
|---|---|---|
| 第1号加入者 | 個人開業医、フリーランス医師 | iDeCoと国民年金基金等の合計で月額7.5万円 |
| 第2号加入者(企業年金なし) | 一般的な勤務医、医療法人役員 | iDeCo・iDeCo+合計で月額6.2万円 |
| 第2号加入者(企業年金あり) | 病院の企業年金制度がある勤務医 | iDeCoと企業年金等の合計で月額6.2万円 |
個人開業医は月額7.5万円まで視野に入る一方、医療法人化している院長は厚生年金区分になるため、同じ「開業医」でも上限の見え方が異なります。ここは誤解が多い論点です。
勤務医iDeCoメリットは何か
勤務医は「病院に退職金制度や企業年金があるから不要」と考えがちですが、2026年以降は見直す価値があります。特に企業年金がない勤務先なら、上限が月額6.2万円まで拡大する方向で整理されており、これまでより老後資金を厚くできます。
また、2024年12月からは、個人口座から掛金を拠出する場合に事業主証明書が不要となり、加入手続も簡素化されています。忙しい勤務医にとっては、制度の使い勝手が改善している点も見逃せません。
iDeCoの節税効果を医師目線で考える
iDeCo医師節税効果の基本
iDeCoの掛金は、その年に支払った全額が所得控除になります。したがって、課税所得が高い医師ほど節税効果が大きくなります。
たとえば、年間24万円を拠出し、所得税率20%・住民税率10%なら、単純計算で年間7.2万円の税負担軽減です。年間60万円拠出できる設計であれば、税率帯によっては節税インパクトがさらに大きくなります。
ただし、ここで実務上の注意があります。医師はふるさと納税、生命保険料控除、住宅ローン控除、医療費控除など他の制度も併用していることが多く、iDeCoだけを切り出して判断すると最適解を外すことがあります。
節税だけでなくキャッシュフローも確認する
開業医は、利益が出た年ほどiDeCoを増額したくなります。しかし、納税資金、設備更新、採用コスト、分院展開資金などが必要な局面では、流動性を犠牲にし過ぎないことが重要です。
一方、勤務医は給与収入が比較的安定しているため、毎月の定額積立と相性が良いケースが多くあります。ボーナス偏重ではなく、月次ベースで継続できる掛金を設定する方が制度メリットを活かしやすいでしょう。
2026年改正で押さえるべきポイントと注意点
上限引上げの見方
2026年12月からは、第1号加入者・第2号加入者の上限が広がる方向です。特に企業年金のない第2号加入者は、従来より大きく拠出できる見込みで、勤務医には追い風といえます。
一方で、企業年金がある勤務医は「iDeCo単独でいくら掛けられるか」ではなく、企業年金等との合計枠で考える必要があります。勤務先の制度内容を確認せずに上限いっぱいを前提にすると、想定より拠出できないことがあります。
60歳以降の活用も論点になる
2026年制度では、一定の要件のもとで60歳以上70歳未満の継続加入枠も新設されます。医師は60歳以降も就業を続けるケースが多いため、将来の積立継続という観点でも相性がある制度です。
医師がiDeCoを始める方法と運用のポイント
Step 1: 自分の加入区分を確認する
まず確認すべきは、自分が第1号なのか第2号なのかです。個人開業医なのか、医療法人役員なのか、勤務先に企業年金があるのかで上限が変わります。
Step 2: 掛金を「継続可能額」で決める
節税効果だけで上限まで設定するのではなく、3年後も無理なく続けられる額を基準にします。開業医なら季節変動や設備投資も見込み、勤務医なら住宅費や教育費を織り込んで決めるのが基本です。
Step 3: 商品配分をシンプルにする
医師は本業が多忙なため、頻繁な売買を前提にしない方が実務的です。低コストのインデックス型商品を軸に、値動き許容度に応じて債券や定期預金を組み合わせる設計が現実的です。
Step 4: 受取出口まで先に考える
iDeCoは積立時の節税だけでなく、受取時課税の設計が重要です。一時金受取なら退職所得、年金受取なら公的年金等に係る雑所得として扱われるため、勤務先退職金や小規模企業共済との受取時期が重なると税負担が変わることがあります。
当法人では、勤務医の退職金見込みや、開業医の小規模企業共済・法人化後の役員退職金まで含めて出口設計を確認することを勧めています。iDeCoは「入る時」より「受け取る時」の設計差が税額差につながりやすいからです。
iDeCoと他制度の違い
| 制度 | 主な目的 | 掛金の所得控除 | 原則引出し | 医師との相性 |
|---|---|---|---|---|
| iDeCo | 老後資産形成 | あり | 60歳まで不可 | 高所得の勤務医・開業医に有効 |
| NISA | 資産運用 | なし | いつでも可能 | 流動性重視なら使いやすい |
| 小規模企業共済 | 退職金準備 | あり | 一定要件で可 | 個人開業医と相性が良い |
医師の実務では、iDeCoかNISAかの二者択一ではなく、節税重視ならiDeCo、流動性重視ならNISA、退職金準備なら小規模企業共済という組み合わせで考えることが多くなります。
よくある質問
Q: 勤務医でもiDeCoに入るメリットはありますか?
Q: 開業医のiDeCo上限は一律ですか?
Q: iDeCoは受取時も非課税ですか?
まとめ
- 医師のiDeCoは、老後資産形成と所得控除を両立しやすい制度
- 2026年12月以降は、勤務医・開業医とも掛金上限の拡大が重要論点
- 「開業医」でも個人事業か医療法人役員かで加入区分が変わる
- 節税効果は大きいが、60歳まで引き出せないため資金繰り配慮が必要
- 受取時課税まで含めて、小規模企業共済や退職金制度と一体で設計するのが実務的
参照ソース
- 厚生労働省「確定拠出年金の拠出限度額」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/taishousha.html
- 政府広報オンライン「iDeCoがより活用しやすく!2024年12月法改正のポイントをわかりやすく解説」: https://www.gov-online.go.jp/article/202412/entry-6825.html
- 国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
- 国税庁「高齢者と税(年金と税)」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/03_1.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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