
執筆者:辻 勝
会長税理士
医師の不動産投資は節税になる?損益試算を税理士が解説

医師の不動産投資は本当に節税になるのか
医師の不動産投資は、税額を一時的に下げる効果が出る場合はありますが、それ自体が利益を生むわけではありません。特に勤務医や開業医のように本業所得が高い方ほど、「節税できた」という感覚が先行しやすい一方で、実際には手元資金が減っているケースも少なくありません。高所得の医師にとって何が問題かというと、税金だけを見て投資判断すると、空室・金利上昇・修繕・売却損まで含めた総損益を見誤りやすい点です。
当法人でも、医師の不動産投資相談では「営業担当から節税になると聞いたが、本当に得なのか」というご相談が多くあります。結論からいえば、不動産投資の本質は賃貸事業であり、節税は副次的な効果です。税務だけでなく、融資条件、物件価格、出口戦略まで含めて判断することが重要です。
医師の不動産投資が節税になる仕組みとは
不動産投資で節税といわれる理由は、不動産所得の赤字を給与所得や事業所得と損益通算できる場合があるからです。家賃収入から必要経費を差し引いて赤字になれば、その赤字分だけ課税所得が下がり、結果として所得税・住民税が軽くなります。
不動産所得に入る主な経費
不動産所得では、次のような費用が必要経費になります。
- 固定資産税
- 火災保険料
- 管理委託料
- 修繕費
- 借入金利息の一部
- 減価償却費
このうち、医師の方が誤解しやすいのが減価償却費です。減価償却は、建物取得価額を耐用年数に応じて年ごとに費用化する会計・税務上の処理であり、計上した年に現金が出ていかない点が特徴です。そのため、会計上は赤字でも、資金繰り上は黒字という状況が起こります。
ただし損益通算できない赤字もある
不動産所得の赤字なら何でも通算できるわけではありません。たとえば、土地取得のための借入金利子に相当する部分や、別荘など生活に通常必要でない資産の貸付けに係る損失は、損益通算の対象外です。つまり、帳簿上の赤字イコールそのまま節税ではありません。
開業医・勤務医が押さえる不動産投資のメリットと限界
開業医、不動産投資のメリットとしてよく挙げられるのは、次の3点です。
- 本業以外の収入源を持てる
- 相続対策として現預金偏重を避けやすい
- 初年度から数年間は税負担が軽く見えることがある
一方で、実務では限界も明確です。節税だけを目的にすると、利回りの低い新築区分マンションや、家賃下落リスクの高いワンルーム投資をつかんでしまうことがあります。医師は多忙で管理に時間を割きにくいため、管理会社任せになり、収支の悪化に気づくのが遅れやすい傾向があります。
| 比較項目 | メリットとして見えやすい点 | 実際に確認すべき点 |
|---|---|---|
| 節税 | 所得税・住民税が下がる | 手残りが増えるとは限らない |
| 融資 | 属性が高く借入しやすい | 借入しやすさと投資妙味は別 |
| 減価償却 | 初期は赤字化しやすい | 将来は効果が薄れ、売却時に戻ることがある |
| 管理 | 管理委託で手間を省ける | 管理費、修繕、空室で収益が圧迫される |
医師ワンルーム投資の損益を試算するとどうなるか
ここでは、よくある相談に近い形で簡易試算をしてみます。なお、個別事情で税率や融資条件は変わるため、あくまで考え方の整理です。
試算例
- 物件価格:3,000万円
- うち建物割合:1,800万円
- 年間家賃収入:120万円
- 管理費・修繕積立金・固定資産税など:45万円
- 借入利息:35万円
- 年間減価償却費:60万円
この場合の不動産所得は、120万円−45万円−35万円−60万円=20万円の赤字です。
仮に本業の高い所得に対する実効税率を約43%とすると、税負担の軽減効果は20万円×43%で約8.6万円です。一見すると得に見えますが、現金の動きは別です。減価償却費60万円は現金支出ではない一方、元本返済は経費になりません。たとえば年間元本返済が70万円なら、実際のキャッシュフローは次のようになります。
- 家賃収入:120万円
- 実際に出る経費等:45万円
- 利息支払:35万円
- 元本返済:70万円
- 税負担軽減:約8.6万円
このとき手残りは、120万円−45万円−35万円−70万円+8.6万円=マイナス21.4万円です。つまり、税金は減っていても現金は減っています。不動産投資 節税 本当かという問いに対する答えは、「税額は下がることがあっても、手残りが増えるとは限らない」が実務的な結論です。
不動産投資の節税で失敗しやすい注意点とリスク
1. 土地の借入利息まで全額通算できると誤解する
土地取得に係る負債利子は、赤字であっても他所得との損益通算に制限があります。営業資料だけで判断すると、想定していた節税効果が出ないことがあります。
2. 減価償却が終わった後の収支を見ていない
中古物件では当初の減価償却が大きく出ることがありますが、その効果は永続しません。減価償却費が小さくなると、税額が増え、キャッシュフローも悪化しやすくなります。
3. 売却時の税負担を織り込んでいない
減価償却を多く取った物件は、売却時に帳簿価額が下がっているため、譲渡益が出やすくなります。保有中に得た節税メリットの一部を、売却時課税で返す構造になることもあります。
4. サブリースや家賃保証を過信する
「家賃保証」と聞くと安全に見えますが、実際には賃料減額や条件変更の可能性があります。契約書の確認を怠ると、予定収入が崩れ、節税以前に投資自体が赤字化します。
医師が不動産投資を検討するときの判断手順
節税目的だけで決めないためには、税額ではなく総損益で判断することが重要です。
Step 1: 本業所得と税率を確認する
勤務医か開業医か、役員報酬か事業所得かで、節税効果の見え方は変わります。まずは現在の課税所得を把握します。
Step 2: 税引前キャッシュフローを出す
家賃、空室率、管理費、修繕、固定資産税、保険、利息、元本返済まで入れて、税金を考える前の手残りを確認します。
Step 3: 税効果を分けて試算する
減価償却による赤字、通算可能な赤字、通算不可の部分を分けて計算します。ここを混ぜると判断を誤ります。
Step 4: 5年後と売却時まで見る
購入初年度だけでなく、5年後、10年後、売却時の収支と税負担まで確認します。医師の不動産投資は、出口設計まで見て初めて評価できます。
よくある質問
Q: 医師は属性が高いので、不動産投資に向いていますか?
Q: ワンルーム投資は節税目的ならありですか?
Q: 開業医は個人名義と法人名義のどちらで買うべきですか?
まとめ
- 医師の不動産投資は、税額を下げることがあっても、それだけで得とは限らない
- 節税の中心は不動産所得の赤字と損益通算、特に減価償却の効果にある
- ただし土地取得利子など、損益通算できない赤字もある
- ワンルーム投資は節税が見えやすい一方、手残りがマイナスになる例も多い
- 投資判断は税金ではなく、空室・修繕・金利・売却まで含めた総損益で行うべき
参照ソース
- 国税庁「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm
- 国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1391.htm
- 国税庁「No.2250 損益通算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2250.htm
- 国税庁「No.2260 所得税の税率」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
- 国土交通省「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」関連資料: https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00004.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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