
執筆者:辻 勝
会長税理士
個別指導の持参書類|クリニック院長の月次点検と実務準備手順

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記事で扱った制度や実務上の確認点を、個別の状況に合わせて整理します。
個別指導の持参書類は月次で準備する
個別指導は、通知が届いてから資料を集めるイベントではありません。クリニックでは、診療録、レセプト、返戻・査定履歴、院内ルール、事前提出書類を月次で点検し、保険診療の記録と請求根拠を説明できる状態にしておくことが重要です。
この記事は、保険診療の個別指導に備えたい診療所院長と事務長に向けて、2026年5月11日時点の公式情報に基づき、持参書類と月次点検の考え方を整理します。税務調査とは違い、個別指導では診療内容と診療報酬請求の整合性が中心になります。

まず理解したい指導と監査の違い
厚生労働省は、保険診療における指導・監査の資料、確認事項リスト、指摘事項、実施状況を公表しています。指導は保険診療の質的向上と適正化を目的とし、監査は不正または著しい不当が疑われる場合の事実確認と措置が中心です。
返還リスクは経営数字に直結する
令和6年度の公表資料では、個別指導が2,494件、新規個別指導が5,989件実施され、保険医療機関等から返還を求めた額は約48億5千万円とされています。返還が確定すると、過年度収入、資金繰り、税務処理、スタッフ対応に影響します。
| 区分 | 院内で見る資料 | 経営上の意味 |
|---|---|---|
| 診療録 | 診療内容、医学管理、説明記録 | 算定根拠を説明できるか |
| レセプト | 請求項目、摘要、返戻・査定 | 過大請求や反復ミスを防ぐ |
| 事前提出書類 | 現況、連絡票、業務手順 | 院内体制を整理して示す |
| 改善記録 | 指摘候補、再発防止策 | 返還・再指導リスクを下げる |
個別指導対策は、過去分を急いで整える作業ではなく、普段の記録品質を上げる月次管理として考える方が実務的です。
持参書類と事前提出書類の整理
地方厚生局の案内を確認する
事前提出書類は、地方厚生局ごとに案内ページや様式が用意されています。近畿厚生局では、実施通知を受け取った保険医療機関等に対し、医科、歯科、薬局の区分に応じた現況資料の作成を案内しています。自院の所在地を管轄する厚生局の最新資料を確認してください。
持参資料は診療録だけではない
実際の確認では、診療録、処方、検査、画像、指導内容、レセプト、返戻・査定、施設基準、届出控え、院内掲示、研修記録が関連します。すべてを同じ粒度で見るのではなく、繰り返し査定されている項目、算定件数が多い項目、高点数項目から優先します。
月次点検の手順
Step 1: 返戻・査定履歴を一覧化する
月ごとに、項目名、患者数、金額、原因、再請求の有無を整理します。毎月同じ項目で返戻されている場合は、レセコン設定や診療録記載のルールを見直します。
Step 2: 診療録とレセプトを突合する
対象患者を数件抽出し、診療録に算定根拠があるか、説明・指導・検査・処方の流れが請求内容と合っているかを確認します。医学的判断そのものではなく、説明できる記録があるかを見ます。
Step 3: 確認事項リストで弱点を探す
厚生労働省の保険診療確認事項リストを使い、自院で該当しやすい項目をチェックします。すべてを一度に見るより、月ごとに重点項目を決めると継続しやすくなります。
Step 4: 返還可能性を資金繰りに置く
返還が起きた場合に、いつ、どのくらいの資金が必要になるかを粗く見積もります。税理士法人 辻総合会計グループでは、個別指導の行政対応そのものではなく、返還金、月次損益、税務処理、資金繰りへの影響を整理します。
税務調査と混同しない
個別指導と税務調査は、見られる資料も目的も異なります。税務調査は会計・税務処理を確認しますが、個別指導は保険診療の取扱いと請求の適正性を確認します。ただし、返還や過年度収入の修正が生じると、会計処理・税務処理にも波及します。
院長が持つべき管理表
管理表には、確認月、診療科目、算定項目、対象患者数、返戻件数、査定金額、診療録確認結果、担当者、改善策、次回確認日を入れます。「指摘されそう」ではなく、どの資料で説明できるかを列にすると、院内で共有しやすくなります。
スタッフ任せにしない
医療事務が請求を担っていても、最終的な診療内容と院内方針は院長が把握する必要があります。月次会議で5分でも返戻・査定履歴を見るだけで、繰り返しミスを早期に見つけやすくなります。
よくある失敗
通知後にだけ資料を集める
通知後は時間が限られます。診療録の確認、対象患者の抽出、持参書類の整理、スタッフへのヒアリングを一度に行うと、通常業務に支障が出ます。月次点検で小さく回しておくことが現実的です。
指摘事項を会計資料に反映しない
返還見込みがある場合、資金繰り、未収・返還、税務処理への影響を早めに整理します。保険診療の判断と会計処理は役割が違いますが、経営上は同じ院内リスクとして管理する必要があります。
厚生局の管轄差を見落とす
事前提出資料、提出方法、問い合わせ先は管轄厚生局で確認します。全国共通の厚労省資料だけでは、実際の提出期限やファイル形式を見落とすことがあります。
通知前から作る月次レビュー表
月次レビュー表は、個別指導のためだけに作るものではありません。返戻・査定の反復、診療録記載の不足、施設基準の証跡漏れを早めに見つけるための経営管理表です。項目は多くしすぎず、毎月続けられる形にします。
最初の列には、確認月、診療科、対象項目、返戻件数、査定金額、対象患者数を入れます。次に、診療録確認結果、請求担当者のメモ、院長確認日、改善策、次回確認日を入れます。金額が小さくても、同じ指摘が続く項目は優先して見直します。
確認対象は、全患者ではなく抽出で構いません。高点数項目、返戻が多い項目、新しく算定を始めた項目、施設基準と関係する項目を中心にします。抽出結果を院内会議で共有すると、医師、看護師、医療事務が同じ原因を見やすくなります。
また、月次レビュー表は資金繰り表ともつなげます。返還が見込まれる場合、いつ支払う可能性があるか、会計上どの期に影響するか、税務上の処理をどう確認するかを早めに整理します。これにより、個別指導が発生したときも、院長が経営判断をしやすくなります。
月次レビューを続けるコツは、完璧な監査資料を作ろうとしないことです。まずは返戻・査定が多い上位5項目だけを見ます。次に、診療録記載が弱い項目、新しく算定を始めた項目、職員によって運用が分かれる項目へ広げます。
個別指導の準備は、医療事務の作業だけに見えますが、経営面では収入の確実性を高める作業です。診療録と請求の整合性が高まれば、返戻対応の時間が減り、入金の見通しも安定します。院長が月次数字を見るときに、売上高だけでなく返戻・査定の傾向も一緒に見ることが重要です。
よくある質問
Q: 個別指導と監査は同じですか?
Q: 持参書類は通知が来てから準備すればよいですか?
Q: 税理士は個別指導対応を代行できますか?
まとめ
- 個別指導は通知後の一時対応ではなく、診療録とレセプトを月次で確認する仕組みが重要
- 令和6年度の実施状況では、返還金額が約48億5千万円と公表されている
- 持参書類は管轄厚生局の案内を確認し、診療録・請求・施設基準・返戻履歴を結び付ける
- 辻総合会計グループでは、返還金、資金繰り、税務処理、月次管理への影響整理を支援する
参照ソース
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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