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クリニック向けコラム
作成日:2025.01.19
更新日:2026.01.02
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

【クリニック税務調査】調査の流れと対策|税理士が解説

11分で読めます
【クリニック税務調査】調査の流れと対策|税理士が解説

クリニックの税務調査とは

クリニックの税務調査とは、税務署等が申告内容の妥当性を確認するために行う調査です。ポイントは、調査そのものは「怖いイベント」ではなく、申告の裏付け(証憑と説明)を求められるプロセスだという点です。

調査対象は、個人開業医(所得税・消費税)だけでなく、医療法人(法人税・法人消費税・源泉所得税)も含みます。特に医院は、保険診療(入金・レセプト)と自由診療(現金・カード)が混在しやすく、会計処理の設計次第で疑義が生じやすい業種です。

「個人開業医」と「医療法人」で見られ方が違う

税務調査の観点は共通しますが、税目と資料の切り口が変わります。

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区分主な税目重点的に見られやすい資料つまずきやすい論点
個人開業医所得税・消費税現金出納帳、売上管理表、レセプト・入金明細、クレカ明細現金売上の計上漏れ、家事関連費、消費税の課税区分
医療法人法人税・法人消費税・源泉所得税総勘定元帳、請求書・契約書、給与台帳、源泉徴収簿交際費・役員関連、外注費の実在性、源泉徴収漏れ
ここがポイント
「税務調査=脱税の疑い」と決めつける必要はありません。多くは申告内容の確認です。とはいえ、説明資料が不足すると調査が長引きやすいため、平時から“説明可能な帳簿”を作ることが最大の対策になります。

税務調査の流れ

クリニックの税務調査は、概ね「事前通知→事前準備→実地調査→調査後対応」の順に進みます。院長が把握しておくべき論点は、事前通知で何を聞かれ、何を用意するかです。

Step 1: 事前通知(連絡)を受ける

税務署から電話等で、調査日程、対象税目、対象期間、必要書類などの連絡が入ります。ここで「当日までに何を出すか」「誰が対応するか(院長・事務長・経理・税理士)」を決めます。

Step 2: 事前準備(資料の整備と論点整理)

準備の中心は「提示できる状態に揃える」ことです。おすすめの整理単位は、(1)売上、(2)人件費・外注費、(3)経費、(4)消費税、(5)資金の動き(現金・口座)の5カテゴリです。

Step 3: 実地調査(当日)

当日は、帳簿・証憑の確認に加え、院長へのヒアリング(売上の流れ、レジ運用、自由診療の入金方法、スタッフ体制など)が行われます。論点は「数字そのもの」より「運用との整合性」です。

Step 4: 調査後の指摘と是正(修正申告等)

調査官の説明を受け、修正申告が必要な場合は内容を精査して対応します。争点がある場合は、事実関係と法令解釈を切り分け、根拠資料を追加提出して調整します。

無予告・反面調査はあるのか

一般には事前通知がありますが、例外的に通知が省略されるケースもあります。また、必要に応じて取引先等への確認(いわゆる反面調査)が行われることもあります。医院側としては「隠す」より「整合性を説明できる」状態を維持する方が、結果としてリスクが下がります。

開業医の税務調査の「確率」をどう考えるか

「税務調査に入られる確率は何%か」という質問は多いのですが、実務上は“確率”より“選定される要因”を理解した方が有効です。国税庁は毎年、所得税・消費税や法人税等の調査状況(件数、追徴税額など)を公表しており、近年はAI・データ分析も活用されています。

ここから読み取れる重要点は次の2つです。

  • 税務調査はランダムではなく、「資料情報+申告内容の分析」で優先度が付く
  • 医院は現金・自由診療・消費税区分・源泉徴収など、着眼点が多い業種に該当しやすい

クリニックで選定されやすい典型パターン

「確率」ではなく、次のような“形”が揃うと選定されやすくなります。

  • 自由診療・物販・サブスク等の新規売上が増えたのに、帳簿設計(科目・証憑)が追いついていない
  • 現金比率が高いのに、日計表・締め・入金のルールが弱い
  • 外注費(広告、制作、業務委託)が増加しているが、契約書や成果物が残っていない
  • 消費税の課税・非課税・不課税が混在しているのに、区分経理の根拠が曖昧
  • 給与・謝金・講演料等の支払が増え、源泉徴収の判定が属人的

指摘されやすい論点と対策ポイント

税務調査で差がつくのは、「誤りがあるか」以上に「誤りが疑われない運用になっているか」です。税理士法人 辻総合会計でも、医院の調査立会いで頻出する論点は概ね固定化しています。

1) 売上(保険診療・自由診療・現金)

最重要は現金売上です。自由診療がある場合、レセプト連動の保険診療よりも「現場運用と帳簿のズレ」が起きやすくなります。

  • 対策:日計表(レジ締め)と入金(現金実査・銀行入金)の突合をルール化
  • 対策:カード・QR決済は「決済明細→入金明細→売上計上」を紐付けて保管
  • 対策:自由診療はメニュー別の売上管理(単価×件数)を残す

2) 経費(私的混入・交際費・福利厚生)

医院は車両・通信・会食などが混ざりやすく、家事関連費の按分根拠が弱いと指摘されがちです。

  • 対策:按分ルール(面積・時間・走行距離等)を文書化し、毎期同じ基準で運用
  • 対策:交際費は「誰と・何の目的で・業務関連性」をメモで補強
  • 対策:役員・院長個人の支出を法人・事業経費に載せない(混在は長期的に不利)

3) 外注費(実在性・成果物)

広告運用、HP制作、SNS、清掃、コンサル等は、実態と証憑が弱いと「架空・名義貸し」を疑われやすい領域です。

  • 対策:契約書、発注書、請求書、成果物(レポート、納品物、作業記録)をセットで保存
  • 対策:支払先の実在確認(法人番号、住所、振込先)と、役員・親族への支払いは合理性説明を準備

4) 源泉徴収(給与・報酬・講師謝金)

医療法人・個人問わず、源泉徴収は“落とし穴”になりやすい分野です。雇用か業務委託かの判断、講演料や原稿料の扱い、年末調整の整合性などが見られます。

  • 対策:支払先ごとに「源泉要否判定シート」を作り、毎回同じ基準で判定
  • 対策:給与台帳・勤怠・雇用契約(または業務委託契約)を揃える

5) 消費税(課税区分・インボイス・電帳法対応)

保険診療は原則として非課税取引ですが、自由診療・物販・予防接種・文書料など、課税取引が混在する医院もあります。ここでの論点は消費税の課税区分と区分経理の根拠です。

  • 対策:メニューごとに課税区分を決め、会計科目と紐付ける
  • 対策:インボイス(適格請求書)の要否がある支払い(外注、広告等)を棚卸し
  • 対策:電子取引データ(PDF請求書、WEB明細等)は電子帳簿保存法の要件を意識して保管

指摘ポイントと予防策の一覧表

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指摘されやすい項目典型例予防策(平時にやること)
現金売上自由診療の入金が日計とズレる日計表・実査・入金の突合、メニュー別管理
家事関連費車両・通信・会食の混在按分根拠の文書化、私費は明確に除外
外注費成果物が残っていない契約書+成果物+支払証跡のセット保存
源泉徴収謝金・委託費の判定ミス判定表の運用、契約形態と実態の一致
消費税区分非課税と課税が混在取引類型ごとの区分経理、科目設計
ここがポイント
調査対応で最も避けたいのは「その場で思い出し説明」する状態です。院長の口頭説明は重要ですが、帳簿・証憑・運用ルールが揃っていれば、説明は短く・強くなります。

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調査後の対応とリスクコントロール

調査で誤りが見つかった場合、一般的には修正申告で是正します。一方、納め過ぎが判明した場合は、更正の請求(原則として法定申告期限から一定期間内)を検討します。重要なのは「調査官の指摘=確定」ではなく、事実関係と根拠を精査することです。

追徴課税(加算税・延滞税)を大きくしない考え方

実務で差が出るのは、調査の終盤です。

  • 事実誤認がないか(取引実態・証憑の不足なのか、計上時期のズレなのか)を切り分ける
  • 調査官の着眼(論点)に対し、根拠資料を追加して説明の精度を上げる
  • 必要なら税理士が同席し、法令解釈と事実認定を整理して調整する

結果として修正申告となる場合でも、根拠の弱い処理を温存するより、再発防止(ルール化・証憑整備)まで含めて“次回の火種”を消すことが重要です。

よくある相談(ケーススタディ)

  • ケース:自由診療の入金は院内レジ、物販は別アプリ、カードは複数会社に分散。月次で突合しておらず、税務調査で「売上計上の網羅性」を問われた。
  • 対応:決済手段ごとに「売上データ→決済明細→入金明細」を1本化し、月次で突合。以後は調査対応の説明が短縮され、経理の属人化も解消した。

医院は診療が最優先です。だからこそ、会計側は「仕組みで守る」設計が有効です。

よくある質問

Q: 税務調査の連絡が来たら、まず何をすべきですか? ▼

A:

まずは事前通知の内容(対象税目・対象期間・当日の要請資料)を整理し、窓口担当者(院長・事務長・経理・税理士)を決めます。そのうえで、売上・現金・外注費・源泉徴収・消費税区分の順に資料を揃えると効率的です。
Q: 税理士の立会いは必要ですか? ▼

A:

必須ではありませんが、論点が複数ある医院(自由診療、物販、外注が多い、医療法人で源泉が多い等)は、立会いのメリットが大きい傾向です。事実関係の整理と、法令解釈の切り分けが早くなります。
Q: 税務調査で指摘されたら必ず修正申告が必要ですか? ▼

A:

いいえ。指摘内容が事実や法令解釈に照らして妥当かを精査し、根拠資料で説明できる場合は修正申告に至らないこともあります。納め過ぎの場合は更正の請求の検討余地もあります。
Q: 普段からできる“最小コスト”の対策は何ですか? ▼

A:

日計表(レジ締め)と入金の月次突合、外注費の契約書・成果物の保存、源泉判定のルール化、消費税区分の科目設計の4点です。この4点だけでも調査対応の難易度は大きく下がります。

まとめ

  • クリニックの税務調査は、帳簿・証憑と運用の整合性を確認するプロセス
  • 事前通知を起点に、売上・外注費・源泉・消費税区分の順で準備すると効率的
  • 「確率」より「選定されやすい要因」(現金、区分経理、外注実在性等)を管理する
  • 調査後は、事実と解釈を切り分け、必要に応じて修正申告・更正の請求を検討
  • 平時のルール化(突合・保存・判定)が最大の対策

参照ソース

  • 国税庁「税務調査手続について(国税通則法第7章の2等)」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/sozokuchosatetsuzuki/index.htm
  • 国税庁「国税通則法関係通達(事前通知等:法第74条の9~)」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/zeimuchosa/120912/03_1.htm
  • 国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要(PDF)」: https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/hojin_chosa/pdf/01.pdf
  • 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(PDF)」: https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/shotoku_shohi/pdf/shotoku_shohi.pdf
  • 国税庁「確定申告を間違えたとき(更正の請求・修正申告)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2026.htm
  • 国税庁「延滞税の割合」: https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/keisan/entai_wariai.htm

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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