
執筆者:辻 勝
会長税理士
個別指導の通知が届いたら準備は何をする?|税理士が解説

個別指導の通知が届いたら、まず「慌てて修正」ではなく準備計画を立てる
個別指導の通知が届いたら、院長や事務長にとっての問題は、何をいつまでに準備すべきかが見えにくい点ではないでしょうか。結論からいうと、個別指導は通知を受けた直後の初動で結果が大きく変わります。通知書の内容確認、事前提出書類の作成、対象期間の診療録や請求資料の整備、院内説明の統一を順番に進めることが重要です。
個別指導は、単に「返戻や査定が多かったから呼ばれる場」ではなく、保険診療や診療報酬請求がルールどおりに行われているかを確認する手続きです。したがって、通知が届いた段階で最優先なのは、資料を揃えることと、記録と請求の整合性を点検することです。
当法人でも、通知直後に慌ててレセプトや診療録を個別に見直し始め、かえって全体像が分からなくなるケースをよく見ます。重要なのは、その場しのぎの修正ではなく、通知書に記載された内容を基準に準備工程を整理することです。特に個別指導の直前追記や不自然な訂正は、説明負担を増やす原因になりやすいため注意が必要です。
個別指導とは何か、通知が届くと何が起こるのか
個別指導とは、厚生労働省や地方厚生局、都道府県が保険医療機関等に対して行う面接懇談方式の指導です。一定の場所に集めて行う場合と、保険医療機関で行う場合があり、保険診療の内容や請求の適否を確認します。
個別指導の通知が届くと、通常は実施日、提出期限、事前提出書類、持参書類、対象となる診療年月や患者が示されます。ここで最も大切なのは、通知書に書かれた提出期限と対象範囲を起点に準備を始めることです。地方厚生局の案内でも、実施通知を受け取った保険医療機関等は、現況や連絡票などの事前提出書類を通知書記載の期限までに提出するよう案内されています。
個別指導と監査の違い
個別指導は、あくまで指導の枠組みであり、直ちに不正認定を前提とするものではありません。一方で、明らかな不正や著しい不当が疑われる場合には、監査に移行することがあります。この違いを理解せず、「全部を隠さず出せばよい」あるいは「何とか言い逃れればよい」と極端に考えると、対応を誤ります。
実務上は、事実を正確に整理し、請求根拠と診療録の整合性を丁寧に説明できる状態にすることが最善です。個別指導は対立の場ではなく、説明責任を果たす場と考えた方が準備しやすくなります。
通知書で最初に確認する項目
通知書が届いたら、少なくとも次の項目は当日中に確認したいところです。
- 実施日時
- 実施場所
- 事前提出書類の種類
- 提出期限
- 持参書類
- 対象診療年月
- 抽出患者や対象レセプトの有無
- 出席予定者
この初期確認を怠ると、提出物の漏れや担当者の認識ズレが生じやすくなります。院長だけで抱え込まず、事務長、レセプト担当、顧問税理士や必要に応じて社労士とも共有し、役割分担を決めることが重要です。
個別指導の通知が届いたら準備するもの一覧
個別指導の事前準備は、書類集めだけでは足りません。大きく分けると、「事前提出書類」「当日持参資料」「院内説明資料」の3つに整理すると進めやすくなります。
事前提出書類
地方厚生局の案内では、個別指導の通知を受けた医療機関等に対し、現況、概要、連絡票、診療業務や請求事務の手順に関する資料などの提出が求められています。地域により様式差はありますが、診療所でよく出てくるのは次のような資料です。
- 保険医療機関の現況
- 保険医療機関の概要
- 連絡票
- 診療業務及び診療報酬請求事務の手順の流れ図
- 必要に応じて追加指定された資料
特に流れ図は形式的に見えて、実際には「誰がカルテ入力し、誰が算定確認し、誰が請求確定するか」を示す資料です。ここが実態とずれていると、院内統制が弱い印象を与えやすくなります。
当日持参書類
通知書に従うのが原則ですが、一般的には次のような資料を整理します。
- 対象患者の診療録
- レセプト控え
- 処方箋控え
- 検査結果
- 同意書、説明文書
- 各種届出書類
- 施設基準の届出関係資料
- 勤務表や配置資料
- 自費と保険の区分が分かる資料
- 会計資料や徴収記録
ここで重要なのは、請求した点数の根拠資料が一つの流れで追える状態にすることです。診療録、検査結果、説明記録、レセプトが別々に保管されていると、当日の確認に時間がかかり、説明の一貫性も崩れやすくなります。
院内で準備しておく説明事項
書類が揃っていても、院内の説明がバラバラだと印象が悪くなります。院長、看護師長、医事課責任者など、当日発言する可能性がある人については、少なくとも以下を共有しておくと安心です。
- 算定の判断基準
- 例外対応時の運用
- 返戻や査定が出た後の見直し方法
- レセプトチェック体制
- 同意書や説明文書の保管方法
個別指導対策は何をする?当日までの進め方をステップで解説
通知が届いた後は、期限逆算で進めるのが基本です。院長の感覚だけで進めると抜け漏れが出やすいため、手順を固定した方が安全です。
Step 1: 通知書の内容を分解する
まず実施日、提出期限、対象期間、対象患者、提出資料、持参資料を一覧化します。通知書の記載事項を表に落とすだけで、やるべきことが可視化されます。最初の1日でこの整理を終えるのが理想です。
Step 2: 事前提出書類を先に片付ける
現況、連絡票、概要などの事前提出資料は、通知書記載の期限に遅れないことが最優先です。診療録の精査より先に、提出義務のある定型資料を確実に出しましょう。提出漏れは、その後の説明に余計な負担を生みます。
Step 3: 対象レセプトと診療録を突合する
請求した内容と診療録記載が一致しているかを確認します。よくあるのは、算定要件を満たす診療行為自体は行っていても、診療録への記載が不足しているケースです。個別指導では「実施したはず」ではなく「記録で確認できるか」が重視されます。
Step 4: 指摘されやすい項目を重点点検する
厚生労働省の確認事項リストや主な指摘事項を見ると、診療録記載、傷病名、算定要件の裏付け、施設基準、請求事務などが繰り返し問題になっています。全項目を広く浅く見るより、よく算定する項目を重点的に点検した方が効果的です。
Step 5: 当日の説明担当と回答方針を決める
院長が医学的判断を説明し、事務長が請求フローを説明し、顧問税理士等が資料整理を補助する、といった役割分担を事前に決めます。誰が何を説明するか曖昧だと、同じ質問に異なる回答が出やすくなります。
Step 6: 直前確認を行う
前日までに、持参資料一覧、原本とコピーの有無、診療録の並び順、説明メモの確認を行います。当日は新しい分析を始めず、既に整理した内容を落ち着いて提示できる状態にしておくことが重要です。
個別指導の事前準備で確認されやすいポイントと注意点
個別指導で見られやすいポイントは、診療内容そのものだけではありません。記録、請求、院内ルール、施設基準まで含めた整合性が問われます。
診療録の記載不足
厚生労働省の確認事項リストでも、診療録は保険請求の根拠であり、診療の都度、必要事項を十分に記載することが求められています。症状、所見、治療計画、実施内容の記載が薄いと、算定要件を満たしていても説明しづらくなります。
特に注意したいのは、次のようなケースです。
- 「薬のみ」「do」など簡略記載のみ
- 実施した指導や説明の内容がない
- 傷病名と実施行為の対応が弱い
- 同意取得の記録が見当たらない
- 直前追記と見える訂正が多い
算定要件と証拠資料の不一致
例えば管理料、指導料、在宅関連、リハビリ関連などは、算定要件を満たしたことが分かる記録が必要です。算定の頻度が高い項目ほど、スタッフが慣れで処理してしまい、根拠資料が薄くなることがあります。
施設基準や届出内容とのズレ
届出上の体制と、実際の勤務体制や運用が一致しているかも確認されます。常勤要件、勤務表、掲示、必要書類の保存など、診療録以外の管理面も軽視できません。
個別指導で見られやすい項目の整理
| 項目 | 確認されやすい内容 | 準備のポイント |
|---|---|---|
| 診療録 | 症状、所見、治療計画、実施記録 | 記載不足の有無を対象患者ごとに確認 |
| 傷病名 | 診療内容との整合性、転帰 | レセプト病名とカルテ病名のズレ確認 |
| 管理料・指導料 | 算定要件、説明記録、同意 | 算定根拠資料を一式で揃える |
| 施設基準 | 届出内容、勤務実態、保存書類 | 勤務表や届出控えを整理 |
| 請求事務 | チェック体制、修正履歴、責任分担 | 業務フローを説明できるようにする |
税理士に相談すべき個別指導準備と、事前準備の進め方
個別指導は医療の内容が中心ですが、税理士が関与できる場面も多くあります。特に、書類整理、業務フローの見える化、第三者視点での整合性確認は、顧問税理士が支援しやすい領域です。
税理士が支援しやすいポイント
- 通知書の読み解きと準備スケジュール作成
- 提出資料一覧の作成
- 院内ヒアリングの整理
- 事務フローの文書化
- 算定根拠資料の束ね方の助言
- 自費と保険の区分整理
- 説明資料の順序立て
当法人でも、個別指導の通知が届いた段階で「何から手を付けるべきか分からない」という相談は非常に多くあります。こうした場面では、医療判断そのものではなく、説明できる状態に資料を整える支援が実務上の価値になります。
税理士に早めに共有したい情報
顧問税理士へ相談する場合は、次の資料を早めに共有すると動きやすくなります。
- 個別指導の通知書
- 提出期限一覧
- 事前提出様式
- 対象期間の概要
- 抽出患者の有無
- 普段のレセプトチェック体制
- 気になっている算定項目
個別指導は、個別の状況により準備内容が異なります。したがって、「一般論だけで安心しない」ことが大切です。自院で算定の多い項目、過去に返戻や査定が多かった項目、記録が薄くなりやすい項目を踏まえて、優先順位を付けて対応する必要があります。
よくある質問
Q: 個別指導の通知が届いたら、まず何をすればよいですか?
Q: 個別指導の前にカルテを追記しても大丈夫ですか?
Q: 税理士は個別指導の準備で何を手伝えますか?
Q: 個別指導でよく見られるのはどのような点ですか?
まとめ
- 個別指導の通知が届いたら、最初に通知書の内容を分解して期限管理を行う
- 事前提出書類は通知書記載の期限までに確実に提出する
- 診療録、レセプト、同意書、検査結果などを請求根拠ごとに整理する
- 診療録記載不足や算定要件の裏付け不足は指摘されやすいため重点点検する
- 個別の事情に応じて、院長、事務長、顧問税理士が役割分担して準備することが重要
参照ソース
- 厚生労働省「保険診療における指導・監査」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/shidou_kansa.html
- 厚生労働省「指導・監査の流れ」: https://www.mhlw.go.jp/content/001685602.pdf
- 厚生労働省「保険診療確認事項リスト(医科)」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/dl/shidou_kansa_16.pdf
- 関東信越厚生局「個別指導・新規個別指導に係る事前提出書類について」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/iryo_shido/kobetsu.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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