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クリニック向けコラム
作成日:2026.04.06
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

医療法人の不動産所有は得か|個人所有と税務比較

10分で読めます
医療法人の不動産所有は得か|個人所有と税務比較

医療法人で不動産を持つべきか

医療法人で不動産を持つべきかという問いに対する結論は、「法人所有が常に有利」「個人所有が常に安全」という単純な話ではない、という点です。クリニックを経営する院長にとって本当の論点は、目先の節税額ではなく、家賃の流れ、将来の売却、相続、承継まで含めて整合的に設計できるかどうかです。

特に医療法人では、診療所建物や土地を法人に持たせると管理はしやすくなる一方、将来の組織再編や売却の柔軟性が落ちることがあります。逆に個人所有にして医療法人へ貸す形は、資産形成や相続対策と相性がよい反面、賃料設定や借地権の扱いを誤ると税務リスクが生じます。

税理士法人 辻総合会計でも、医療法人化を検討する段階で「土地建物は誰が持つべきか」という相談は非常に多くあります。結論は、開業時・法人成り時・承継前では最適解が変わる、ということです。

医療法人 不動産とは何か

医療法人が不動産を持つ意味

医療法人が不動産を持つとは、診療所の土地や建物を医療法人名義で取得し、法人の資産として保有することを指します。自院の診療に使う建物や敷地を法人が直接持つ形であり、会計上は法人の固定資産、税務上は法人の減価償却資産として扱います。

この形のメリットは、事業と不動産の管理主体が一致することです。建物の修繕、借入、減価償却、固定資産税相当コストの把握が法人内で完結しやすく、金融機関から見ても資金使途が明確になりやすい傾向があります。

医療法人は何でも不動産を持てるわけではない

一方で、医療法人は本来、病院や診療所の開設を目的とする法人です。そのため、不動産投資会社のように本業外で自由に収益不動産を増やす発想とは相性がよくありません。実務上は、自院運営に必要な土地建物の保有か、附帯業務の範囲に収まるかを丁寧に確認する必要があります。

ここがポイント
「節税になりそうだから、とりあえず医療法人で不動産を買う」という進め方は危険です。医療法人は一般事業法人とは異なり、事業目的と業務範囲の確認が先になります。

法人 個人 不動産 どっちが有利か

個人所有のメリット

個人所有の代表例は、院長個人または資産管理会社以外の個人が土地建物を持ち、医療法人へ賃貸する形です。この場合の強みは、事業と資産を分けられることにあります。医療法人の経営が変わっても、不動産そのものは個人資産として残り、相続や贈与の設計もしやすくなります。

また、将来の承継局面では、診療事業は医療法人で引き継ぎ、不動産は親族内で別管理とする設計も可能です。院長引退後に賃料収入を確保したい場合にも、個人所有は使いやすい選択肢です。

医療法人所有のメリット

医療法人所有のメリットは、設備投資と不動産投資を一体で管理できることです。建物の減価償却費、借入返済、修繕計画を法人の損益計画に組み込みやすく、事業実態と会計が一致しやすくなります。

ただし、法人所有にすると、その不動産を将来個人へ戻す、あるいは第三者へ移す際に、法人税や譲渡益課税の論点が出ます。したがって、取得時点では合理的でも、出口で不利になることがあります。

比較表で見る判断軸

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項目医療法人所有個人所有
日常管理法人で一元管理しやすい賃貸契約管理が必要
減価償却法人で計上個人の不動産所得で計上
賃料収入発生しない個人に賃料収入が入る
相続対策法人内に資産が残る個人資産として承継設計しやすい
売却の柔軟性法人都合で制約を受けやすい個人判断で動かしやすい
税務論点法人税、低額譲渡、役員利用不動産所得、相当賃料、借地権

不動産 法人 個人 税金の違い

保有中の税金の違い

個人所有で医療法人へ貸す場合、個人側には不動産所得が発生します。家賃収入から固定資産税、損害保険料、修繕費、減価償却費、借入利息などを差し引いて課税所得を計算するため、所得水準によっては高い累進税率がかかることがあります。

一方、医療法人所有であれば、その建物に関する収益や費用は法人損益に含まれます。法人税率は個人の最高税率より低く見えることがありますが、実際には法人住民税や法人事業税も含めて考える必要があり、単純比較はできません。「税率だけで選ぶ」のは典型的な失敗パターンです。

売却時の税金の違い

個人が土地建物を売却する場合は、所有期間5年超なら長期譲渡所得の分離課税となり、一般に給与所得や事業所得とは切り離して計算されます。これに対し、法人が売却した場合の利益は法人所得に合算され、他の事業利益と一体で課税されます。

つまり、将来売却益が大きく出る可能性がある不動産では、個人所有のほうが有利になる場面があります。特に土地値上がりを見込むエリアでは、取得時の節税より売却時課税の差のほうが重要になることがあります。

低額譲渡とみなし課税の注意点

法人成りの際に、院長個人の土地建物を医療法人へ移すケースでは、価格設定を安くしすぎると問題になります。法人への譲渡価額が時価の2分の1を下回ると、個人側では時価で譲渡したものとして譲渡所得が計算される扱いがあり、想定外の税負担につながります。

そのため、「身内間だから安く移す」は危険です。鑑定評価や固定資産税評価額、公示価格、近隣事例などを踏まえ、根拠ある時価設定が必要です。

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医療法人 不動産 メリットと注意点

土地を個人、建物を法人にする方法

医療機関では、土地は院長個人、建物は医療法人という分け方が実務上よく検討されます。この方法は、土地を個人資産として残しつつ、建物や内装は法人の事業資産として管理できる点でバランスが取りやすい形です。

ただし、土地を無償または著しく低い地代で貸すと、借地権や認定課税の論点が出ます。法人へ土地を使わせるなら、契約書、地代設定、改定ルールまで整えておくことが必要です。

役員社宅として使う場合

医療法人が建物を取得し、院長に住居として使わせる場合は役員社宅の論点も出ます。適正な賃貸料相当額を受け取っていれば給与課税を避けやすい一方、豪華社宅や低額貸付とみなされると経済的利益として課税される可能性があります。

診療所併用住宅では、事業部分と私用部分の区分も重要です。面積按分が曖昧だと、減価償却費や水道光熱費、固定資産税の配分で否認されやすくなります。

ここがポイント
自宅兼クリニックは、建物全体をどちらか一方に寄せて考えないことが重要です。用途区分、面積按分、賃貸借契約の有無を先に固めると、後の税務調査対応が楽になります。

失敗しない決め方と手順

どんなケースで個人所有が向くか

個人所有が向くのは、将来の相続や親族承継を重視するケース、院長引退後も賃料収入を残したいケース、第三者承継に備えて不動産を事業と切り離したいケースです。特に土地は値上がり益や相続の設計に直結するため、安易に法人へ入れないほうがよいことがあります。

どんなケースで法人所有が向くか

法人所有が向くのは、借入を法人主体で組みたいケース、建物修繕や建替えを法人主導で進めたいケース、将来も長く同じ法人で診療継続する見込みが高いケースです。分院展開や設備更新を重視するなら、資産を法人に集約する合理性があります。

判断の進め方

Step 1: 不動産を土地・建物・自宅部分に分ける

まず、土地、建物、附属設備、院長自宅部分を分けて整理します。何を誰が持つのかを曖昧にしたままでは比較できません。

Step 2: 5年後と10年後の出口を想定する

建替え、承継、売却、引退後の賃料収入など、出口を先に描きます。取得時だけ見て決めると、あとで組み替えコストが大きくなります。

Step 3: 家賃・地代・時価を文書化する

個人と医療法人の間で貸し借りがあるなら、賃貸借契約、賃料改定ルール、敷金の有無、固定資産税負担の取り決めを文書で残します。

Step 4: 税務と医療法の両面で確認する

税務上有利でも、医療法人の業務範囲や運営面で無理があれば採用しないことが重要です。税務と制度の両輪で判断してください。

よくある質問

Q: 医療法人で土地や建物を持てば、必ず節税になりますか? ▼
いいえ、必ずではありません。保有中の減価償却や経費計上では有利に見えても、将来の売却益課税や承継時の柔軟性まで考えると、個人所有のほうが有利なことがあります。
Q: 土地だけ個人所有、建物だけ医療法人所有でも問題ありませんか? ▼
実務上はよくある形です。ただし、土地の使用条件、地代の設定、借地権の論点、建物の修繕負担などを契約で明確にしておく必要があります。
Q: 個人名義の不動産を後から医療法人へ移してもよいですか? ▼
可能ですが、時価評価、譲渡所得、登録免許税、不動産取得税、金融機関対応などを確認する必要があります。特に低額譲渡は想定外の課税を招きやすいため注意が必要です。

まとめ

  • 医療法人で不動産を持つべきかは、節税額ではなく保有中と出口の両方で判断する
  • 個人所有は相続・承継・引退後収入の設計がしやすい
  • 医療法人所有は事業管理を一元化しやすいが、将来の組み替えが重くなることがある
  • 土地個人・建物法人は有力な折衷案だが、賃料や借地権の設計が不可欠
  • 個別の状況により最適解は異なるため、取得前に税務と医療法の両面から検討することが重要

参照ソース

  • 厚生労働省「医療法人の業務範囲」: https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000547146.pdf
  • 国税庁「No.5759 法人税の税率」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
  • 国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
  • 国税庁「No.5732 相当の地代及び相当の地代の改訂」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5732.htm
  • 国税庁「No.2600 役員に社宅などを貸したとき」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2600.htm
  • 国税庁「No.3217 時価より低い価額で売ったとき」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3217.htm

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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