税理士法人 辻総合会計グループ
無料相談
医療経営ブログに戻る
クリニック向けコラム
作成日:2026.04.06
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

退職金の税金を開業医向けに解説|退職所得控除の計算

10分で読めます
退職金の税金を開業医向けに解説|退職所得控除の計算

開業医が退職金を受け取るときの税金の基本

開業医が退職金を受け取るときの税金は、受け取り方と制度によって大きく変わります。特に個人開業の先生にとっては、勤務医のように勤務先から退職金が支払われるケースとは異なり、小規模企業共済の共済金や法人成り後の役員退職金をどう受け取るかが重要です。開業医にとって何が問題かというと、同じ「老後資金」でも、一時金で受け取るか年金で受け取るかで税負担が変わり、手取り額に差が出る点にあります。

当法人でも、クリニックの院長先生から「小規模企業共済は一括受取が有利ですか」「退職所得控除は何年で計算しますか」といった相談を数多く受けます。結論からいうと、退職所得控除を使える一時金は税負担が軽くなりやすい一方、年金受取は毎年の所得状況によって有利不利が分かれます。まずは制度の土台を押さえましょう。

退職所得控除とは何か

退職所得控除とは、退職金に対して認められる特別な控除です。退職金は長年の事業活動や勤務の成果をまとめて受け取る性質があるため、給与や事業所得よりも税負担が重くなりすぎないよう配慮された仕組みです。国税庁では、退職所得の金額を「収入金額から退職所得控除額を差し引き、その残額の2分の1」とする原則を示しています。

退職所得控除の計算式

退職所得控除額は、勤続年数またはこれに準ずる年数で計算します。

  • 20年以下の場合
    40万円 × 勤続年数
    ただし80万円未満なら80万円

  • 20年超の場合
    800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

そして、退職所得の金額は次の式です。

  • (退職金収入 - 退職所得控除額)× 1/2

この「2分の1課税」があるため、退職所得は他の所得区分より税務上かなり優遇されやすいのが特徴です。

退職所得控除は勤続年数でどう変わるか

ロングテールキーワードの「退職所得控除 勤続年数」で検索されることが多い論点ですが、1年未満の端数は切り上げて1年として扱います。たとえば19年4か月であれば20年、20年1か月であれば21年です。年数の認定で控除額が変わるため、役員退職金や共済金の受取時は、開始時期と終了時期の確認が欠かせません。

←横にスクロールできます→
勤続年数退職所得控除額退職金1,500万円を受け取った場合の退職所得金額
10年400万円(1,500万円 - 400万円)×1/2 = 550万円
20年800万円(1,500万円 - 800万円)×1/2 = 350万円
30年1,500万円(1,500万円 - 1,500万円)×1/2 = 0円

同じ1,500万円でも、勤続年数が長いほど課税対象は小さくなります。開業医の先生が法人成り後に役員退職金を設計するときは、在任期間の積み上げが税負担に直結します。

ここがポイント
障害が直接の原因で退職した場合は、通常の退職所得控除額に100万円を加算できる取扱いがあります。一般的な退職と計算が異なるため、該当する場合は個別確認が必要です。

開業医の退職金と小規模企業共済の税金の違い

開業医の「退職金」といっても、税務上は複数のルートがあります。典型的なのは、法人成り後に医療法人から受け取る役員退職金と、個人事業時代から積み立ててきた小規模企業共済です。

医療法人の役員退職金

医療法人の理事長や役員が退任時に受け取る退職金は、原則として退職所得として扱われます。したがって、退職所得控除と2分の1課税の適用が検討できます。ただし、金額が不相当に高額だと法人側で損金算入が否認されるリスクがあるため、功績倍率や在任年数、最終報酬月額などを基礎にした設計が重要です。

小規模企業共済の一時金

個人開業医が活用しやすいのが小規模企業共済です。掛金は支払時に小規模企業共済等掛金控除の対象となり、受取時には受取方法で課税関係が変わります。一般に、一時金で受け取る共済金は退職所得として扱われる場面が多いため、税負担を抑えやすいのが特徴です。

小規模企業共済の年金受取

一方で、分割や年金形式で受け取ると、雑所得として課税される取扱いになります。毎年の年金収入として課税されるため、他の公的年金や不動産所得などと合算した結果、想定より税負担が増えることがあります。受取時の税額だけでなく、毎年の住民税や国民健康保険料への影響まで見ておく必要があります。

退職金は一時金と年金のどっちが有利か

「退職金 一時金 年金 どっち」で迷う開業医は多いですが、税務だけでみれば一時金が有利になることが多いです。理由は、退職所得控除と2分の1課税が使える余地があるからです。ただし、資金繰りや老後生活費の平準化という観点では年金受取に合理性があるケースもあります。

←横にスクロールできます→
受取方法主な所得区分税務上の特徴向いているケース
一時金退職所得退職所得控除と2分の1課税を使いやすい他の所得が多く、税負担を抑えたい
年金雑所得毎年課税。所得状況次第で税率が上がる毎年の生活費を安定させたい
併用退職所得+雑所得税負担と資金需要のバランスを取りやすいまとまった資金も毎年収入も欲しい

一時金が有利になりやすい人

  • 開業後の利益が大きく、現役時代の所得税率が高い人
  • 退職所得控除を十分に使える人
  • 老後直後にまとまった返済や投資計画がある人

年金が向く人

  • 一度に大金を持つより毎年安定収入が欲しい人
  • 退職後の他所得が少なく、雑所得でも税率が高くなりにくい人
  • 資金を計画的に取り崩したい人

当法人の実務でも、税額だけをみると一時金が有利でも、老後のキャッシュフローまで含めると年金受取が適するケースはあります。税金だけで決めず、手取りの総額と資金の使い方をセットで考えることが重要です。

顧問先400社 医療機関専門の税務サポート

開業医が退職金の税金で失敗しない手順

受取直前になって検討すると、選択肢が限られます。少なくとも受取予定の1年前には試算を始めたいところです。

Step 1: 受取制度を整理する

まず、医療法人の役員退職金なのか、小規模企業共済なのか、iDeCo等の老齢給付なのかを整理します。制度ごとに所得区分と必要書類が違います。

Step 2: 勤続年数・加入年数を確認する

退職所得控除の計算では年数が重要です。法人成りの時期、役員就任日、共済加入日などを確認し、控除額を試算します。

Step 3: 一時金・年金・併用の税額を比較する

受取総額だけでなく、受取年ごとの所得税、住民税、社会保険負担も比較します。ここで初めて「どっちが得か」を判断できます。

Step 4: 申告書類を整える

退職所得申告書の提出が必要な場面では、提出の有無で源泉徴収税額が変わることがあります。小規模企業共済や退職金支給元から送付される書類を事前に確認しましょう。

Step 5: 退職年以外の所得も合わせて見る

不動産所得、配当所得、年金収入、役員報酬の残額などを合算すると、住民税や保険料に影響します。単年度だけでなく、受取後3年程度の資金計画で判断するのが安全です。

ここがポイント
個人開業医が法人成りしている場合、個人時代の共済と法人役員としての退職金が別ルートで存在することがあります。受取年を分散できるかどうかで手取りが変わるため、同一年に重ねる前提で即決しないことが重要です。

申告時の注意点と税理士に相談したい場面

退職金の税金は優遇されている一方で、論点が細かく、誤ると手取り差が大きくなります。よくある注意点は次のとおりです。

  • 退職所得控除の年数判定を誤る
  • 一時金と年金の比較を税率だけで判断する
  • 住民税や国民健康保険料への影響を見落とす
  • 役員退職金の相当額を超えて法人側リスクを作る
  • 共済金の受取時期を他の所得と重ねてしまう

開業医は、事業所得・不動産所得・配当所得など複数の所得を持つことが多く、一般的な会社員より試算が複雑です。現場でも、「退職所得控除があるから非課税だと思っていた」「年金受取のほうが平準化できて安心だと思ったら、総額では不利だった」というケースは珍しくありません。税金だけでなく、承継、引退後の生活費、相続まで含めて設計する視点が必要です。

よくある質問

Q: 開業医には退職金がないのですか? ▼
個人開業医には勤務先から支払われる退職金は通常ありません。ただし、小規模企業共済や法人成り後の役員退職金など、実質的に退職金機能を持つ制度を活用できます。
Q: 小規模企業共済を一括で受け取ると必ず退職所得になりますか? ▼
請求事由や年齢などにより取扱いが変わる場合があります。一般に一時金は退職所得扱いとなるケースが多いですが、任意解約の時期などによっては異なるため、請求前の確認が重要です。
Q: 退職所得控除は何年あれば使えますか? ▼
1年未満の端数は切り上げで計算します。20年以下は1年あたり40万円、20年超は20年まで800万円、その後は1年あたり70万円を加算します。最低控除額は80万円です。
Q: 退職金は一時金と年金のどちらを選ぶべきですか? ▼
税負担だけなら一時金が有利になりやすいですが、老後の生活費や他の所得との兼ね合いで年金受取が適することもあります。税額、手取り、資金繰りの3点で比較するのが実務的です。

まとめ

  • 開業医の退職金の税金は、制度と受取方法で大きく変わる
  • 退職所得控除は20年以下なら年40万円、20年超は年70万円加算で計算する
  • 一時金は退職所得として有利になりやすく、年金は雑所得として毎年課税される
  • 小規模企業共済は掛金拠出時の所得控除と受取時課税の両面で設計が重要
  • 受取年の他所得や住民税・保険料まで含めて、事前試算することが重要

参照ソース

  • 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
  • 国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm
  • 国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1600.htm

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

シェア:
医療経営ブログに戻る

お電話でのご相談

050-1808-9643

受付時間 9:15〜18:15(土日祝休業)

Webお問い合わせ

月額顧問料チェッカー

4問で月額顧問料の目安がわかります

おすすめコラム

2026 医療機関サイバーセキュリティチェックリスト

2026 医療機関サイバーセキュリティチェックリスト

診療報酬改定2026 小児科|税理士が解説

診療報酬改定2026 小児科|税理士が解説

クリニック開業減少の理由2026|税理士が解説

クリニック開業減少の理由2026|税理士が解説

人気コラムランキング

1
【失敗しない】クリニック開業税務の5つの注意点

【失敗しない】クリニック開業税務の5つの注意点

2
内科の訪問診療戦略|収益設計と集患・運用の実務を税理士が解説

内科の訪問診療戦略|収益設計と集患・運用の実務を税理士が解説

3
出資持分あり医療法人と持分なし医療法人の違いと承継・税務ポイント

出資持分あり医療法人と持分なし医療法人の違いと承継・税務ポイント

4
医師の講演料は確定申告必要?経費と手順|税理士が解説

医師の講演料は確定申告必要?経費と手順|税理士が解説

5
医師国保と厚生年金の加入判断ポイント|クリニック専門税理士が解説

医師国保と厚生年金の加入判断ポイント|クリニック専門税理士が解説

Service Guide

顧問先400社 医療機関専門の税務サポート

月次の記帳・申告から経営分析・節税提案まで、経営の右腕として伴走します

医療機関専門 顧問先400社
顧問料金シミュレーション
40年以上の医療機関サポート実績
顧問サービスの詳細を見る→
月額顧問料チェッカー →

CONTACT

無料相談のご案内

開業・法人化・承継・経営改善など、どんなご相談でもお気軽にどうぞ。初回相談は無料です。

ご相談だけでも歓迎です。お気軽にお問い合わせください。

050-1808-9643
平日 9:15〜18:15

© 2026 税理士法人 辻総合会計グループ. All rights reserved.

プライバシーポリシー

お電話はこちら

050-1808-9643

050-1808-9643

無料相談する

平日 9:15〜18:15