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クリニック向けコラム
作成日:2026.04.06
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

開業医の離婚と養育費・婚姻費用|収入認定を税理士が解説

11分で読めます
開業医の離婚と養育費・婚姻費用|収入認定を税理士が解説

開業医の離婚で養育費・婚姻費用が問題になる理由

開業医の離婚で難しくなりやすいのは、給与所得者と違って収入の見え方が複雑だからです。養育費や婚姻費用は「高収入だから高額になる」と単純に決まるわけではなく、個人開業か医療法人か、役員報酬なのか事業所得なのか、経費や減価償却の扱いをどう見るかで結論が変わります。特に、別居中の生活費である婚姻費用は早期に金額調整が必要になりやすく、開業医にとっては経営と家計の線引きが核心になりやすい論点です。

裁判所の算定表は今も実務の出発点として広く使われていますが、算定表はあくまで標準的な目安です。開業医のように収入構造が複雑なケースでは、確定申告書や決算書の中身を見て、実態収入に近づける補正が問題になります。税理士法人 辻総合会計でも、離婚そのものの法的判断は弁護士領域である一方、開業医の収入資料の読み解きや、事業と生活費の切り分けでご相談を受けることがあります。

ここがポイント
本記事は一般的な整理です。実際の養育費・婚姻費用は、子の人数や年齢、同居の有無、地域差、医療法人の内部留保、住宅ローン、学費などの事情により変動します。最終的な金額判断は、弁護士・家庭裁判所・調停実務に基づいて個別に確認してください。

開業医の養育費・婚姻費用とは

養育費とは、離婚後に子を監護する親に対して、もう一方の親が分担する子の生活費・教育費です。これに対し婚姻費用とは、別居中に夫婦と未成熟子の生活を維持するための費用で、離婚成立前に問題になることが多い支払です。開業医の離婚では、まず婚姻費用が先に争点となり、その後に養育費へ移る流れが少なくありません。

開業医 婚姻費用の特徴

婚姻費用は別居後すぐに請求されることが多く、毎月の資金繰りに直結します。個人クリニックの場合、事業口座から生活費を出しているケースもあるため、家計支出と事業支出が混在しやすい点に注意が必要です。帳簿上の利益だけでなく、実際に家計へ流れている金額も見直し対象になり得ます。

医師 養育費 相場はどう考えるか

「医師だから月額いくら」といった一律の相場はありません。裁判所実務では、子の人数・年齢と、義務者・権利者双方の年収をもとに算定表を参照します。つまり、医師の肩書より収入認定の中身が重要です。開業医で年商が大きく見えても、必要経費が多い、借入返済負担が重い、法人と個人に収益が分散しているなどの事情があれば、単純な売上ベースでは見ません。

開業医の収入認定はどう見られるか

裁判所の算定表では、給与所得者と自営業者で見る欄が分かれています。給与所得者は源泉徴収票の支払金額を基礎にし、自営業者は確定申告書の「課税される所得金額」を基礎にしつつ、基礎控除、青色申告控除、支払がされていない専従者給与など、実際には支出されていない費用を加算して年収を考えるという整理が示されています。これは開業医の収入認定で非常に重要な出発点です。

個人開業医は「自営業者」欄が基本

個人でクリニックを経営している場合、基本は自営業者として扱われます。この場合、申告所得がそのまま採用されるとは限りません。たとえば、節税目的の経費計上が多い、減価償却費が大きい、家事按分に議論がある、自宅兼診療所で費用区分が曖昧といった事情があると、実態に即した補正が問題になります。

医療法人の理事長は「給与」欄が起点になりやすい

医療法人化している場合、院長個人は役員報酬を受ける給与所得者として整理されることが多く、まずは給与欄が起点になります。ただし、法人からの役員貸付、家賃設定、生命保険、退職金準備、法人負担の私的費用がある場合は、単に額面給与だけでは実力収入を捉えきれないこともあります。逆に、法人に利益が残っていても、直ちに個人が自由に使えるお金でない部分は慎重に区別すべきです。

開業医が見落としやすい収入認定の論点

開業医では、税務上の所得と家事事件での生活保持義務を前提とした収入認定が一致しないことがあります。特に次のような点は資料整理が重要です。

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論点実務上の見られ方注意点
申告所得が低いそのまま採用されないことがある青色申告控除や未払専従者給与の加算を検討
法人化している役員報酬が起点法人負担の私的支出との切り分けが必要
減価償却が大きい現金流出を伴わない費用として補正論点になりやすい会計上の費用と生活実態を分けて説明
借入返済が多い原則として全額控除とは限らない設備投資か家計費かを区分
学会費・接待費等必要経費性が争点になることがある診療に不可欠か私的支出かの整理が必要

税理士の立場から見ると、離婚時に有利不利を作るために数字を動かすという発想ではなく、説明できる資料を整えることが最も重要です。確定申告書、決算書、総勘定元帳、役員報酬の議事録、借入返済予定表などを時系列で出せる状態にしておくと、調停でも見通しが立ちやすくなります。

医師 養育費 算定表の使い方

裁判所の算定表は、子の人数と年齢、義務者と権利者の年収を交差させて、標準的な養育費・婚姻費用の月額をみる仕組みです。養育費は1万円または2万円単位の幅、婚姻費用も1万円から2万円の幅で示されます。子が複数いる場合は、年齢区分ごとの指数で按分する考え方が示されています。

算定表の基本ルール

  • 0歳から14歳と15歳から19歳で表が分かれる
  • 子の人数ごとに表が分かれる
  • 支払う側を縦軸、受ける側を横軸で見る
  • 給与所得者と自営業者で使う欄が異なる
  • 表の金額は標準ケースの目安であり、特別事情があれば修正される

Step 1: まず収入区分を決める

個人開業医なら自営業者欄、勤務医や医療法人からの役員報酬中心なら給与欄が起点です。給与と事業所得が混在する場合は、資料を整理して実態に近い年収把握を行います。

Step 2: 子の人数と年齢で表を選ぶ

子が1人か2人か、14歳以下か15歳以上かで表番号が変わります。年齢区分が変わると金額帯も変わりやすいため、進学時期が近いケースでは将来の見直しも視野に入ります。

Step 3: 義務者と権利者の年収を交差させる

義務者と権利者の収入を交差させ、該当するレンジを読み取ります。ここで出てくるのは「標準額の幅」であり、最終的にはその幅の中で合意するか、事情修正を主張するかを検討します。

Step 4: 特別事情があるか確認する

私立学校の学費、重い医療費、遠距離交流に伴う交通費、障害・疾病、再婚後の扶養事情などがあれば、算定表どおりでは不公平となることがあります。開業医では、クリニックの資金繰り悪化をそのまま家計事情と同一視できるかも慎重に見られます。

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2026年施行の法改正で何が変わるか

2026年4月1日施行の民法等改正では、離婚後の子の養育に関するルールが見直され、養育費の履行確保が強化されました。実務上の注目点は、法定養育費と先取特権の制度です。これにより、取り決めがない場合でも一定額の法定養育費を請求できる仕組みが入り、一定額については債務名義がなくても差押え等の保全がしやすくなる方向へ制度整備が進みました。

法定養育費の考え方

法務省の公表資料では、法定養育費の額は子1人につき月額2万円を基準とする省令が2026年4月1日に施行されます。これは本来の個別具体的な養育費を置き換えるものではなく、取り決めがない場合の最低限の出発点として理解するのが適切です。開業医のように高所得または収入構造が複雑なケースでは、実際の合意額・審判額はこれを上回ることが通常です。

先取特権の制度

同じく法務省資料では、先取特権が付与される額は子1人につき月額8万円を基準とする省令が施行されます。これは未払い養育費の回収可能性を高める制度であり、支払う側にとっては「後でまとめて考える」姿勢が通用しにくくなる改正です。開業医の場合、収入管理が複雑であるほど、早い段階で文書化しておく意義が大きくなります。

ここがポイント
2026年施行の新制度は、支払義務の基本構造を整理しやすくする一方、個別事情に応じた最終額の判断まで自動化するものではありません。算定表、個別事情、合意書や調停調書の整備は引き続き重要です。

開業医が離婚時に準備すべき資料と進め方

開業医の家事事件では、感情的な対立以上に、数字の整理不足が長期化の原因になります。特に婚姻費用は別居直後から請求されることが多いため、月次のキャッシュフローを説明できるかどうかが重要です。当法人でも、医師のお客様から「税務上の利益はあるのに手元資金が苦しい」「法人と個人の区別が説明しづらい」といった相談を受けることがあります。

実務で整理したい資料

  • 直近3年分の確定申告書
  • 青色申告決算書または法人決算書
  • 源泉徴収票、役員報酬関係資料
  • 減価償却明細、借入返済予定表
  • 生命保険料、社宅、車両費など私的利用が争点になりやすい資料
  • 学費、医療費、塾代など子に関する支出資料

進め方のポイント

  • 収入を過少にも過大にも見せず、説明可能性を優先する
  • 事業経費と家計費の混在を解消する
  • 法人と個人の資金移動を一覧化する
  • 弁護士と税理士で役割分担する
  • 合意内容は口約束でなく文書化する

離婚では、節税のための資料作りと、家事事件での収入説明は目的が違います。税務上妥当でも、生活保持義務の観点からは別の見られ方をすることがあります。だからこそ、税務資料をそのまま出すだけでは足りない場合があるのです。開業医の離婚案件では、数字の裏付けを専門家と一緒に読み解くことが結果に直結します。

よくある質問

Q: 開業医の養育費は算定表どおりに決まりますか? ▼
必ずしもそのままではありません。算定表は標準的な目安ですが、開業医は自営業者としての収入認定や、法人化している場合の役員報酬、経費性の判断などで修正が問題になります。まず算定表を出発点にし、その後に個別事情を加味する流れが一般的です。
Q: 婚姻費用と養育費の違いは何ですか? ▼
婚姻費用は別居中の夫婦と未成熟子の生活費で、離婚成立前に問題になります。養育費は離婚後に子の生活・教育のために支払う費用です。開業医のケースでは、別居後すぐに婚姻費用の調整が必要になることが多いため、最初の対応が重要です。
Q: 医療法人の内部留保が多いと養育費も高くなりますか? ▼
自動的に高くなるわけではありません。内部留保が直ちに個人の可処分所得とはいえない場合もあるためです。ただし、法人が実質的に個人の生活費を負担している、あるいは個人への利益移転が容易な事情があれば、実態収入の一部として議論される余地があります。
Q: 2026年の法改正で何を意識すべきですか? ▼
法定養育費と先取特権の制度が施行され、未払いリスクへの対応が強化されます。支払う側・受ける側のどちらでも、離婚や別居の初期段階で金額と支払方法を書面化し、調停や公正証書など執行を見据えた形にしておくことが大切です。

まとめ

  • 開業医の養育費・婚姻費用は、肩書ではなく収入認定の中身で判断される
  • 個人開業医は自営業者欄、医療法人の理事長は給与欄が起点になりやすい
  • 算定表は標準的な目安であり、経費や法人負担、学費などの個別事情で修正されることがある
  • 2026年4月1日施行の法改正で、法定養育費と先取特権の制度が始まる
  • 開業医の離婚では、税務資料を整理し、弁護士と税理士で役割分担して進めることが重要

参照ソース

  • 裁判所「養育費・婚姻費用算定表」: https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/file/ofc31010401.pdf
  • 法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.html
  • 法務省「養育費に関する法務省令の概要」: https://www.moj.go.jp/content/001452582.pdf
  • こども家庭庁「ひとり親家庭等関係」: https://www.cfa.go.jp/policies/hitori-oya/

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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