
執筆者:辻 勝
会長税理士
開業医の新NISA活用法|余剰資金運用を解説

開業医が新NISAを使うべき理由
開業医の新NISA活用法とは、診療収入から生まれた余剰資金のうち、すぐに使わないお金を非課税で長期運用する仕組みです。とくに開業医は、設備投資や納税資金、賞与原資を確保しながら個人資産も増やす必要があり、事業資金と家計資産の切り分けが課題ではないでしょうか。新NISAはその課題に対し、運用益が非課税になる制度として有力ですが、使い方を誤ると資金繰りを圧迫するため、順番とルールの理解が重要です。
2024年以降のNISAは恒久化され、つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能になりました。年間投資枠は合計360万円、非課税保有限度額は1,800万円、うち成長投資枠は1,200万円が上限です。開業医にとっては、利益が出た年に一括で投資しやすくなった一方で、運転資金を投資に回しすぎない管理がこれまで以上に重要になっています。
当法人でも、診療所経営が安定してきた院長先生から「法人に残すお金と個人で運用するお金をどう分けるべきか」という相談をよく受けます。結論として、新NISAは有効ですが、まずは月次資金繰り、納税見込額、更新予定の医療機器資金を可視化し、そのうえで余剰資金の範囲内で使うのが基本です。
開業医NISAとは何か。制度の基本を整理
医師の新NISA投資で押さえるべき制度概要
新NISAは、日本居住者でその年の1月1日時点で18歳以上の人が利用できる少額投資非課税制度です。売却益や配当・分配金が非課税になる点が最大の特徴で、非課税保有期間は無期限です。口座は1人1口座のみで、金融機関の変更は年単位で可能です。
つみたて投資枠は年間120万円、成長投資枠は年間240万円で、合計年間360万円まで投資できます。総枠は1,800万円で、そのうち成長投資枠だけで使えるのは1,200万円までです。勤務医よりも収入変動が大きい開業医は、毎月の定額積立だけでなく、利益が確定した段階で成長投資枠を使う設計とも相性があります。
開業医の資産運用でNISAが向く理由
開業医は、給与所得者に比べて可処分所得が大きくなる年がある一方、設備更新や人件費上昇の影響も受けやすい職業です。そのため、全額を預金で持つだけではインフレに弱く、逆に積極投資へ寄せすぎると資金繰りが不安定になります。新NISAは、この中間にある「長期で使わない個人資産」を置く器として使いやすい制度です。
特に、医療法人から役員報酬を受けている院長や、個人開業で事業所得が安定している医師は、家計口座に移した後の資金を計画的に積み立てることで、退職金制度が乏しい個人資産部分を補完しやすくなります。節税商品というより、非課税で資産形成する制度として理解するのが正確です。
開業医の新NISAと他の資産運用の違い
開業医NISAと預金・特定口座の違い
新NISAと預金、特定口座を比べると、最大の違いは税制と価格変動リスクです。預金は元本変動がほぼない一方、増えにくい資産です。特定口座は投資対象の自由度が高い反面、通常は利益に約20%の税負担が生じます。新NISAは対象商品に一定の制限がある代わりに、制度の範囲内なら運用益が非課税です。
| 項目 | 新NISA | 預金・特定口座 |
|---|---|---|
| 利益への課税 | 非課税 | 預金利息・売却益等に課税 |
| 元本変動 | あり | 預金は小さい、特定口座はあり |
| 年間上限 | あり | 原則なし |
| 商品制限 | あり | 比較的広い |
| 開業医との相性 | 長期余剰資金向き | 短期資金・自由運用向き |
開業医の資産運用では、短期資金を預金で持ち、中長期資金をNISAや特定口座で分ける考え方が現実的です。特に賞与原資、納税資金、借入返済予定資金は値動きのある商品に入れないほうが安全です。
医師新NISA投資とiDeCoの違い
医師からよくある相談が、「新NISAとiDeCoはどちらを優先すべきか」です。iDeCoは掛金が所得控除になる一方、原則60歳まで引き出しに制限があります。新NISAは所得控除はありませんが、売却して現金化しやすい点が特徴です。
開業医は、生活費よりもむしろ事業上の突発資金需要に備える必要があります。そのため、流動性を重視するなら新NISA、老後資金専用で所得控除を重視するならiDeCoという整理が基本です。実務では、生活防衛資金と事業予備資金を確保したうえで、まず新NISAを一定額、余力があればiDeCoも組み合わせる形が多く見られます。
医師新NISAの始め方と資金配分の手順
医師新NISA始め方の基本ステップ
開業医が新NISAを始めるときは、商品選びより先に資金区分を決めることが重要です。いきなり満額を目指すより、診療所のキャッシュフローに無理がない範囲を確定させるほうが失敗を防げます。
Step 1: 事業資金と個人資金を分ける
月次試算表、預金残高、借入返済予定、予定納税・消費税納税見込額を確認し、事業で使うお金を先に確保します。医療機器更新や内装改修の予定がある場合は、その分も見込んでおきます。
Step 2: 生活防衛資金を確保する
家計側でも、少なくとも生活費数か月分は預金で残します。開業医は収入が高くても支出規模が大きくなりやすいため、家計の固定費も棚卸しが必要です。
Step 3: つみたて投資枠を先に設計する
毎月一定額を自動積立に設定し、長期・分散投資の土台を作ります。年間120万円の範囲で、月5万円から10万円程度で始める院長先生も多いです。
Step 4: 成長投資枠は余剰利益の範囲で使う
決算見込みや納税見込みが固まった後に、成長投資枠を追加で使います。利益が出た年でも、翌年の設備投資予定があるなら無理に満額投資しない判断が大切です。
Step 5: 年1回は資産配分を見直す
値上がりした資産だけに偏るとリスクが増えるため、毎年1回は配分を確認します。新NISAは非課税でも、価格変動リスク自体がなくなるわけではありません。
開業医に向く配分イメージ
たとえば、診療所経営が安定していて、個人側で年間240万円から360万円を回せる院長なら、つみたて投資枠で投資信託を毎月積み立て、成長投資枠は年後半に余剰資金を見ながら追加する方法が考えられます。逆に、開業後間もない時期や分院展開を考えている時期は、満額投資より預金厚めのほうが合理的です。
当法人の実務感覚では、開業医の資産運用で大切なのは利回り予想よりも「いつ使うお金か」を明確にすることです。3年以内に使う予定のあるお金は預金や安全性の高い手段、10年以上先の老後・教育・承継準備資金はNISAというように、時間軸で分けると判断しやすくなります。
開業医が新NISAで失敗しやすい注意点とリスク
開業医資産運用で最も多い失敗は資金繰りの混同
最も多いのは、事業の余剰資金と見込んでいたお金が、実は納税資金や運転資金だったというケースです。医療収入は比較的安定していても、診療報酬改定、人件費上昇、医療材料費の変動で手元資金は大きく変わります。投資額は利益ではなく、現金残高と将来支出で決めるのが鉄則です。
また、個人事業の開業医と医療法人経営者では資金の見方も異なります。法人資金と個人資金は法律上も税務上も別であり、法人口座にある資金をそのまま個人のNISA原資と考えるのは危険です。役員報酬や事業主貸として適切に個人へ移した後、その範囲で運用を考える必要があります。
医師新NISA投資の税務上の注意点
NISAは利益が非課税になる一方で、損失が出ても特定口座や一般口座の利益との損益通算はできず、繰越控除もできません。この点は特定口座との大きな違いです。値動きの大きい商品をNISAで買えば、非課税メリットだけでなく、損失面の不利も受けます。
さらに、配当金については受取方法によっては非課税扱いにならない場合があります。株式数比例配分方式の設定など、証券会社での受取設定も確認が必要です。制度を使っていても設定を誤ると想定したメリットを受けにくくなるため、口座開設時の確認は軽視できません。
よくある質問
Q: 開業医は新NISAを満額まで使ったほうがよいですか?
Q: 医師の新NISAは投資信託と個別株のどちらから始めるべきですか?
Q: 法人のお金をそのまま新NISAに回せますか?
Q: 新NISAだけで老後資金対策は十分ですか?
まとめ
- 新NISAは、開業医が診療収入の余剰資金を非課税で長期運用するための有力な制度
- 年間投資枠は合計360万円、総枠は1,800万円で、つみたて投資枠と成長投資枠を併用できる
- 開業医は制度理解より先に、納税資金・運転資金・設備更新資金との切り分けが必要
- 損失通算ができないため、価格変動の大きい商品へ偏りすぎない設計が重要
- 新NISAは単独で考えず、iDeCoや退職金設計を含めた総合的な資産形成で判断すべき
参照ソース
- 金融庁「NISA特設ウェブサイト」: https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/index.html
- 金融庁「NISAを知る」: https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/know/index.html
- 金融庁「つみたて投資枠対象商品」: https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/products/
- 国税庁「No.1535 NISA制度」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1535.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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