
執筆者:辻 勝
会長税理士
開業医 節税NG5選と税務調査対策

開業医の節税NGとは?結論:根拠と実態がない支出が危ない
開業医の「節税」は、やり方を間違えると経費否認や追徴課税につながります。特に開業3〜10年目は、売上が伸びて支出も増え、税務署から見ても「お金の流れが変わりやすい時期」です。
本記事では、税理士法人 辻総合会計が現場でよく見る「やってはいけない」5パターンを、税務調査での見られ方(証拠のポイント)まで含めて整理します。最後に「調査の連絡が来たときの初動」もステップでまとめます。
NGパターン①:自家用車を全額経費にする(家事按分なし)
「訪問診療があるから車は全部経費」として、車両費(ガソリン・保険・リース・駐車場等)を全額計上するケースは要注意です。プライベート利用が混在する場合は、家事関連費(家事按分)として合理的に区分し、説明できる状態にしておく必要があります。
税務調査での典型的な指摘
- 走行距離・利用実態が説明できない(記録がない)
- 自宅→クリニック通勤分が混ざっている
- 車両が複数あるのに按分基準がない
守り方(証拠の作り方)
- 月次で「業務利用の走行記録」(訪問先、走行距離)を残す
- 駐車場契約・ETC明細・訪問予定表など、第三者証憑と突合できる形にする
- 按分基準は固定(例:業務走行距離÷総走行距離)にして年度でブレさせない
NGパターン②:家族への高額給与(実態が薄い/専従要件を満たさない)
配偶者や親族を受付・経理として雇うこと自体は一般的ですが、「給与額が高い」「勤務実態の証拠がない」「他の仕事と両立しているのに専従扱い」などは、否認や修正のリスクが上がります。
個人開業(所得税)での落とし穴:専従者要件
青色事業専従者給与は、届出・専ら従事などの要件があります。要件を外すと、その給与を必要経費にできない論点が出ます。
医療法人での落とし穴:役員給与・親族給与の説明責任
法人の場合、役員給与はルール外だと損金不算入になり得ます。加えて、たとえルールに沿っていても、不相当に高額と判断される部分は損金にできない点が重要です。
守り方(最低限そろえる書類)
- 雇用契約書(職務内容・勤務時間・時給/月給根拠)
- タイムカード/勤怠ログ、業務日報、業務マニュアル
- 給与規程(または同等資料)と支給根拠(院内の他職種比較)
NGパターン③:医療法人化のタイミングを誤る(移行直後の所得分散の罠)
医療法人化は節税だけでなく、資金繰り・人件費設計・承継まで絡む経営判断です。ところが「税金が高いから急いで法人化」→「直後に役員報酬を過大に設定」→「実態・手続きが追い付かない」という流れでリスクが出ます。
よくある誤り
- 役員報酬を毎月変える(定期同額要件に抵触しやすい)
- 個人と法人の費用負担が混線(車・自宅・通信など)
- 移行年度の利益設計が甘く、納税資金が不足する
法人化は「節税」より先に「設計」が必要
法人化は、都道府県の認可・届出等の実務も伴います。税務だけでなく、制度・運用の整合性を先に作らないと、調査時に説明が崩れます。
NGパターン④:退職金の上乗せ設定ミス(功績倍率・相当額の論点)
医療法人で院長(理事長等)に役員退職金を支給する場合、金額が大きくなりやすい一方で、調査では「相当額か」が焦点になりやすい領域です。社内資料が薄いまま高額支給すると、損金算入できない部分が出る可能性があります。
税務調査で見られるポイント
- 在任期間・職務内容・貢献度(功績)の説明があるか
- 直前報酬・ベースアップ等から見て不自然でないか
- 株主総会(社員総会)議事録・退職慰労金規程が整っているか
NGパターン⑤:名義預金・名義株の放置(相続税調査でまとめて追徴)
節税のつもりで「子ども名義口座に貯めている」「家族名義で運用している」状態は、相続発生時に火を噴きやすい典型です。生前は所得税・法人税の論点に見えても、相続税調査で「名義ではなく実質」で判断され、まとめて指摘されることがあります。
典型例
- 通帳・印鑑を親が管理、入出金も親が決めている
- 贈与契約書がなく、贈与税申告もない
- 口座の原資が親の収入・法人の資金に見える
守り方(最低限の整備)
- 贈与なら、契約書・資金移動の記録・管理主体の移転(通帳・印鑑)をセットで
- 株式・投信なら、購入判断者・原資・管理者を説明できる形にする
- 将来の承継まで見て、資産台帳を作る(「誰の資産か」を明確化)
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40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
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よくある「OKとNG」の境界線(比較表)
| 論点 | NGになりやすい例 | OKに寄せる実務 |
|---|---|---|
| 車両費 | 私用混在なのに全額計上 | 走行記録で按分し、基準を固定 |
| 家族給与 | 実態が薄いのに高額 | 勤怠・職務・根拠資料を整備 |
| 役員報酬 | 月ごとに変動、根拠不明 | 決議・要件に沿って設計し固定 |
| 退職金 | 規程・議事録なしで高額 | 算定根拠、意思決定記録を残す |
| 名義財産 | 管理が親、贈与証拠なし | 契約・管理移転・台帳で実質を作る |
税務調査の連絡が来た時にすること(緊急対応マニュアル)
税務調査は「連絡が来た時点」で勝負が決まりがちです。最初の対応で資料の出し方・説明の軸が固まり、その後の指摘範囲にも影響します。事前通知の考え方も踏まえ、以下の順で動くのが安全です。
Step 1: 連絡内容をメモし、対象期間と税目を特定する
調査対象(例:所得税、法人税、消費税)と年分・事業年度を確認し、口頭のやり取りは必ず記録します。
Step 2: 「争点候補」を先に洗い出す(車・家族給与・交際費・現金)
出しやすい資料から集めるのではなく、否認リスクの高い論点を先に棚卸しします。
Step 3: 証憑を「ストーリーで説明できる束」にする
領収書の山を提出するのではなく、「何のための支出か」を説明できる資料セットにします。
- 例:車両費=走行記録+ETC明細+訪問予定表
- 例:家族給与=雇用契約+勤怠ログ+業務成果物
Step 4: 追加提出は目的を確認してから出す
求められた資料でも、何を確認したいのか(論点)を把握してから提出範囲を整えます。
Step 5: 当日の受け答えは「事実のみ」+「後日回答」を使い分ける
曖昧な記憶で断言すると不利になります。分からないことは持ち帰り、裏付け資料とセットで回答します。
よくある質問
Q: 自家用車は何割まで経費にできますか?
Q: 配偶者に高めの給与を払うのは違法ですか?
Q: 税務調査は断れますか?
Q: 名義預金が心配です。今からできることは?
まとめ
- 開業医の節税は、根拠と実態がないと経費否認のリスクが高い
- 車両費は家事按分の説明資料(走行記録等)がないと指摘されやすい
- 家族給与は「実態・相場・証拠」で守る。専従要件や役員給与ルールに注意
- 医療法人化と退職金は「設計」と「意思決定記録」がないと危険度が上がる
- 名義財産は相続税でまとめて問題化しやすいので、早めの台帳整備が有効
参照ソース
- 国税庁「〔家事関連費(第1号関係)〕」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/07/01.htm
- 国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm
- 国税庁「No.5211 役員に対する給与」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
- 国税庁「第7款 退職給与(法人税基本通達)」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm
- 国税庁「事前通知及び調査(通達)」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/zeimuchosa/120912/03_2.htm
- 厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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