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クリニック向けコラム
作成日:2026.02.22
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

開業医 節税NG5選と税務調査対策

9分で読めます
開業医 節税NG5選と税務調査対策|税理士が解説

開業医の節税NGとは?結論:根拠と実態がない支出が危ない

開業医の「節税」は、やり方を間違えると経費否認や追徴課税につながります。特に開業3〜10年目は、売上が伸びて支出も増え、税務署から見ても「お金の流れが変わりやすい時期」です。

本記事では、税理士法人 辻総合会計が現場でよく見る「やってはいけない」5パターンを、税務調査での見られ方(証拠のポイント)まで含めて整理します。最後に「調査の連絡が来たときの初動」もステップでまとめます。

ここがポイント
本記事は一般的な解説です。実際の判定は、診療形態(外来・在宅)、車両・自宅の利用状況、家族の従事実態、法人の定款・議事録などにより異なります。

NGパターン①:自家用車を全額経費にする(家事按分なし)

「訪問診療があるから車は全部経費」として、車両費(ガソリン・保険・リース・駐車場等)を全額計上するケースは要注意です。プライベート利用が混在する場合は、家事関連費(家事按分)として合理的に区分し、説明できる状態にしておく必要があります。

税務調査での典型的な指摘

  • 走行距離・利用実態が説明できない(記録がない)
  • 自宅→クリニック通勤分が混ざっている
  • 車両が複数あるのに按分基準がない

守り方(証拠の作り方)

  • 月次で「業務利用の走行記録」(訪問先、走行距離)を残す
  • 駐車場契約・ETC明細・訪問予定表など、第三者証憑と突合できる形にする
  • 按分基準は固定(例:業務走行距離÷総走行距離)にして年度でブレさせない

NGパターン②:家族への高額給与(実態が薄い/専従要件を満たさない)

配偶者や親族を受付・経理として雇うこと自体は一般的ですが、「給与額が高い」「勤務実態の証拠がない」「他の仕事と両立しているのに専従扱い」などは、否認や修正のリスクが上がります。

個人開業(所得税)での落とし穴:専従者要件

青色事業専従者給与は、届出・専ら従事などの要件があります。要件を外すと、その給与を必要経費にできない論点が出ます。

医療法人での落とし穴:役員給与・親族給与の説明責任

法人の場合、役員給与はルール外だと損金不算入になり得ます。加えて、たとえルールに沿っていても、不相当に高額と判断される部分は損金にできない点が重要です。

守り方(最低限そろえる書類)

  • 雇用契約書(職務内容・勤務時間・時給/月給根拠)
  • タイムカード/勤怠ログ、業務日報、業務マニュアル
  • 給与規程(または同等資料)と支給根拠(院内の他職種比較)

NGパターン③:医療法人化のタイミングを誤る(移行直後の所得分散の罠)

医療法人化は節税だけでなく、資金繰り・人件費設計・承継まで絡む経営判断です。ところが「税金が高いから急いで法人化」→「直後に役員報酬を過大に設定」→「実態・手続きが追い付かない」という流れでリスクが出ます。

よくある誤り

  • 役員報酬を毎月変える(定期同額要件に抵触しやすい)
  • 個人と法人の費用負担が混線(車・自宅・通信など)
  • 移行年度の利益設計が甘く、納税資金が不足する

法人化は「節税」より先に「設計」が必要

法人化は、都道府県の認可・届出等の実務も伴います。税務だけでなく、制度・運用の整合性を先に作らないと、調査時に説明が崩れます。

NGパターン④:退職金の上乗せ設定ミス(功績倍率・相当額の論点)

医療法人で院長(理事長等)に役員退職金を支給する場合、金額が大きくなりやすい一方で、調査では「相当額か」が焦点になりやすい領域です。社内資料が薄いまま高額支給すると、損金算入できない部分が出る可能性があります。

税務調査で見られるポイント

  • 在任期間・職務内容・貢献度(功績)の説明があるか
  • 直前報酬・ベースアップ等から見て不自然でないか
  • 株主総会(社員総会)議事録・退職慰労金規程が整っているか
ここがポイント
退職金は「出せば節税」ではなく、「規程・議事録・算定根拠」で説明できて初めて武器になります。出口設計(退職金・賃料・報酬)は医療法人の税務で特に重要です。

NGパターン⑤:名義預金・名義株の放置(相続税調査でまとめて追徴)

節税のつもりで「子ども名義口座に貯めている」「家族名義で運用している」状態は、相続発生時に火を噴きやすい典型です。生前は所得税・法人税の論点に見えても、相続税調査で「名義ではなく実質」で判断され、まとめて指摘されることがあります。

典型例

  • 通帳・印鑑を親が管理、入出金も親が決めている
  • 贈与契約書がなく、贈与税申告もない
  • 口座の原資が親の収入・法人の資金に見える

守り方(最低限の整備)

  • 贈与なら、契約書・資金移動の記録・管理主体の移転(通帳・印鑑)をセットで
  • 株式・投信なら、購入判断者・原資・管理者を説明できる形にする
  • 将来の承継まで見て、資産台帳を作る(「誰の資産か」を明確化)

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論点NGになりやすい例OKに寄せる実務
車両費私用混在なのに全額計上走行記録で按分し、基準を固定
家族給与実態が薄いのに高額勤怠・職務・根拠資料を整備
役員報酬月ごとに変動、根拠不明決議・要件に沿って設計し固定
退職金規程・議事録なしで高額算定根拠、意思決定記録を残す
名義財産管理が親、贈与証拠なし契約・管理移転・台帳で実質を作る

税務調査の連絡が来た時にすること(緊急対応マニュアル)

税務調査は「連絡が来た時点」で勝負が決まりがちです。最初の対応で資料の出し方・説明の軸が固まり、その後の指摘範囲にも影響します。事前通知の考え方も踏まえ、以下の順で動くのが安全です。

Step 1: 連絡内容をメモし、対象期間と税目を特定する

調査対象(例:所得税、法人税、消費税)と年分・事業年度を確認し、口頭のやり取りは必ず記録します。

Step 2: 「争点候補」を先に洗い出す(車・家族給与・交際費・現金)

出しやすい資料から集めるのではなく、否認リスクの高い論点を先に棚卸しします。

Step 3: 証憑を「ストーリーで説明できる束」にする

領収書の山を提出するのではなく、「何のための支出か」を説明できる資料セットにします。

  • 例:車両費=走行記録+ETC明細+訪問予定表
  • 例:家族給与=雇用契約+勤怠ログ+業務成果物

Step 4: 追加提出は目的を確認してから出す

求められた資料でも、何を確認したいのか(論点)を把握してから提出範囲を整えます。

Step 5: 当日の受け答えは「事実のみ」+「後日回答」を使い分ける

曖昧な記憶で断言すると不利になります。分からないことは持ち帰り、裏付け資料とセットで回答します。

よくある質問

Q: 自家用車は何割まで経費にできますか? ▼
一律の割合はありません。業務利用部分を合理的に区分できることが重要です。走行記録などで業務利用の根拠を示せる形にし、按分基準を継続して適用するのが基本です。
Q: 配偶者に高めの給与を払うのは違法ですか? ▼
違法と決まるものではありませんが、実態・職務内容・勤務時間・同種業務の相場と比べて合理性が説明できないと否認リスクが上がります。専従者要件や役員給与のルールにも注意が必要です。
Q: 税務調査は断れますか? ▼
任意調査でも正当な理由なく全面的に拒むのは現実的ではありません。重要なのは、事前通知の内容を把握し、提出資料を論点別に整えて、事実に基づいて説明することです。
Q: 名義預金が心配です。今からできることは? ▼
「誰の資産か(実質)」が説明できる状態に整えることが先決です。贈与なら契約・資金移動・管理主体の移転をセットで行い、資産台帳で整理しておくと、将来の相続税調査リスクを下げられます。

まとめ

  • 開業医の節税は、根拠と実態がないと経費否認のリスクが高い
  • 車両費は家事按分の説明資料(走行記録等)がないと指摘されやすい
  • 家族給与は「実態・相場・証拠」で守る。専従要件や役員給与ルールに注意
  • 医療法人化と退職金は「設計」と「意思決定記録」がないと危険度が上がる
  • 名義財産は相続税でまとめて問題化しやすいので、早めの台帳整備が有効

参照ソース

  • 国税庁「〔家事関連費(第1号関係)〕」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/07/01.htm
  • 国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm
  • 国税庁「No.5211 役員に対する給与」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
  • 国税庁「第7款 退職給与(法人税基本通達)」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm
  • 国税庁「事前通知及び調査(通達)」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/zeimuchosa/120912/03_2.htm
  • 厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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